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先輩攻略戦 #5

ただ今、水曜日の夜


〇〇先輩は修学旅行中で、三日目だからもう五日間も会ってないという地獄の日々。


夏休みもこんな感じだった。


本気で地獄の日々。


でもまだ講習とか受けてたから会えてはいた。


今回は話が違う。


いないの!同じ場所に!


今〇〇先輩は沖縄いる。


遠い!!


奈央「…会いたい」


夜の十時を回ったのを確認して、私は三日間スマホとにらめっこするのを繰り返していた。


理由は〇〇先輩に電話をかけるか否か。


だって普通に迷惑じゃない!?


こういうところ、真面目な私。


昼休みも会いに行かないとか徹底してる分、今回も気が引けてしまう。


奈央「〇〇先輩ー」


会いたいです。


土曜日じゃ待ちきれません。


金曜日がいい…。


でも〇〇先輩、疲れてるだろうから言えない。


そんなこと絶対言えない。


せめて〇〇先輩の家知ってたらなぁ………って、ダメだ私!


そんなストーカーのような思考を持ってはダメだ!


もうストーカーもどきかもしれないけど。


奈央「……はぁ」



ため息をついてスマホを持ち、ベッドにダイブする。


結局勇気が出ずに電話できない。


たった一回、画面をタッチするだけなのに。


奈央「死にそうです……」


〇〇先輩不足。


抱きつきたい、あの身体に。


スポーツもできるから、引き締まってるんだろうなー。


抱きつきたい、抱き枕欲しい。


等身大の〇〇先輩の……ってまたこんな考えしてるよ私。


前はもっと純情な恋してたのにな。


一回だけだったけど。


そう、一回だけ。


いつも相手から私のことを好きになられていたけど、初めて私から好きになった相手。


それも絶対叶わない恋。


周りが聞いたら笑われるかもしれないけど、本気で好きだった。


あの時は内気で何もできず、最後に勇気を出そうとしたけど無理だった。


それで終わった恋。


思い出したら、まだなんか複雑な気持ち。


その反動でこんな積極的でちょーっと歪んでしまったのかもしれない。


奈央「……はぁ」


今日も結局ダメか、なんて思って、少し早いけど寝ようとしたその時……


スマホが鳴った。


電話の音。


思わず飛び起きてしまう。


いや、期待するのは良くない。


よくないけど、電話なんて滅多にないから。


恐る恐る、画面を確認してみれば……


奈央「……っ、嘘!?」


“〇〇先輩”と画面に表示されていた。


目を擦る。


いや、夢じゃない。


頬をつねる。


夢じゃない。


なんで!?と思いつつあわてて電話をとった。


奈央「あ、はい!もしもし!冨里です冨里!!〇〇先輩ですか!?」


私は名乗ったというのに返答がない。


もしかして〇〇先輩の友達にからかわれた、とか?


ありえなくもない。


それならそれで恥ずかしいし、悲しい。


なんて思っていたら、電話越しにため息をつくのが聞こえてきた。


それは間違いなく〇〇先輩のもので…


○○『声、でかい。うるさい。スマホから離れて話せ』


そっけない、冷たい声。


でも確かに〇〇先輩の声だ。


奈央「ほ、本物!本物の〇〇先輩ですね!どうしよう、どうしよう、会いたいです!嬉しすぎて今から沖縄行けます!」


○○『来るな、うざいから』


あっけなく拒否されてしまった。


悲しい。


でもそんなことどうだっていい。


奈央「〇〇先輩」


○○『なんだよ』


奈央「どうして電話くれたんですか?もしかして私の声が聞きた…」


○○『切るぞ。じゃあな』


奈央「う、嘘です!冗談です!嫌です!〇〇先輩ー!!」


○○『……はぁ、だからスマホを離して喋れって言ってるだろ』


どうやら切らないでくれるらしい。


嬉しい、優しい。


奈央「ご、ごめんなさい…!」


○○『……どうせお前が俺に気を遣ってんだろうなって思ったから』


電話越しに聞こえたその言葉。


直接聞けなかったのが惜しい。


私の気持ちをわかってくれる〇〇先輩はやっぱり運命の相手だ。


奈央「その通りです!さすが〇〇先輩ですね!好きです!」


○○『……』


はい、無視ですねー。


知ってますよそれぐらい。


奈央「〇〇先輩、今部屋ですか?部屋で電話して大丈夫なんですか?」


電話越しに他の人の声が聞こえない。


もしかして静かにしてくれてるとか?


○○『……いや、騒がれるだろうから抜けてきた。一階にいる』


ぬ、抜けてきた……?


私に電話するためにそこまでしてくれたんですか!?


エレベーターか、階段で一階にわざわざ行ってくれるというその動作を私のためにしてくれたんですね……!


奈央「なんか、すいません。わざわざ」


○○『別に。なんか違和感あったし』


奈央「……違和感?」


○○『お前がいないの。今で五日目だっけ?結構違和感ある』


……きゅーんって、今きゅーんってきました。


ドキドキしてます私の心臓。


違和感?


違います、寂しさですそれ!!


奈央「同じです!私も寂しかったです!」


○○『……あっそ』


あれ、〇〇先輩、私も寂しかったって言葉に俺は違うって否定しなかったよね?


てことはもしかして!?


……いや、違うか。


そんなわけない。


奈央「〇〇先輩に会いたいです、私」


○○『……』


奈央「あれ、〇〇先輩ー?」


また返答がないのはさすがに寂しいぞ?


○○『……なあ』


するとようやくここで口を開いてくれた。


安心安心。


怒ってるわけじゃないんだ。


奈央「はいっ、なんでしょう?」


○○『今の言葉、そのまま返したらお前どうする?』


………はい?


奈央「すいません、理解する時間を少々ください」


今、〇〇先輩はなんとおっしゃいましたか?


今の言葉、そのまま返す……今の言葉、今の言葉……


奈央「………っ、それってもしかして!?」


会いたいって言葉!?


○○『理解する時間とかいらないだろ普通』


奈央「普通じゃないんです私!あの、嬉しいです!そのまま返ってきたら嬉しすぎて死にます!」


○○『……じゃあ、土曜日って言ってたやつ金曜でもいいか?』


奈央「も、も、もちろんです!!いつでもいけます!」


やった!


〇〇先輩に会える日が縮まった!


まさか私と同じことを考えてくれていたなんて……!


○○『金曜だと人も少ないし何かと便利だし』


奈央「そうですね!私たちの邪魔をする人が減りますもんね!」


○○『その思考は気持ち悪い』


これが私ですから!


どうしよう、今すぐ暴れたい。


とにかく暴れたいよ。


人少ないって私のために考慮してくれてるってことでいいよね!?


照れ隠しってことじゃないよね!?


うん、そうしておこう!


○○『……あのさ』


奈央「は、はい…!」


今日はやけに〇〇先輩から話しかけられる。


そんなに寂しかったのかな?


だとしたら超可愛い。


○○『周りの奴らとか、クラスの奴らとかは明日が一番楽しみなんだって言ってんだけどさ』


奈央「は、はい」


何が言いたいんだろう。


〇〇先輩は楽しみじゃないのかな?


○○『俺は明日よりも金曜の方が楽しみかもしれない』


じゃあ、おやすみ。と言って切られた電話。


だけど私はしばらくの間硬直し、スマホを耳から離すことができなかった。


頭が追いつかない。


〇〇先輩の今の言葉にもさっきの言葉にも。


わかったのは、とりあえず私を殺しにかかってるってことぐらい。


『金曜の方が楽しみかもしれない』

『おやすみ』


これ以上に幸せなことって今まであったかな?


もう本当に今ならなんでもできる気がする。


〇〇先輩の言葉を何度も思い返すうちに自然と頬が緩み、ニヤニヤが止まらない。


奈央「〇〇先輩、大好きです…!」


今は電話が切られているため、〇〇先輩には届かないけど、言わずにはいられなかった。


早く金曜日になってほしいと心の中で何度も願いながら、私はそのまま眠りに落ちた。




投稿91作目です。
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