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先輩攻略戦 #1
私の一日は、まず、先輩と同じ電車に乗るところからスタートする。
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「〇〇先輩!おはようございます!今日も素敵ですね!」
「……うるさ。」
私を見ると、あからさまに嫌そうな顔をするのは一つ年上の先輩、〇〇○○先輩。
クールで、綺麗な黒髪に、二重の目、透き通った鼻筋、⋯⋯
とにかく、カッコいい〇〇先輩は、私の未来の彼氏になる人。
○○「何気持ち悪い顔してんだよ。」
「ひ、ひどいです…!一応この顔でも結構モテるんですけど!」
……そう。
私、冨里奈央は顔はそこまで悪くないはず。
今は高一の秋。
クラスにも慣れてきて、もう三人に告白された。
○○「で?モテるからなんだよ?」
いつもの不機嫌そうな顔がさらに不機嫌になった。
これは嫉妬ですね〜。
〇〇先輩は意外と嫉妬深い。
奈央「既に三人から告白されちゃいました!」
とちょっと自慢気に言ってみた。
そしたら、案の定〇〇先輩は黙ってしまった。
――〇〇先輩と出会って六ヶ月と十日。
正直に言うと、〇〇先輩は絶対、私を好きになりかけている。
自惚れなんかじゃなくて、事実として。
私は天然で鈍感じゃないから、すぐにわかった。
毎日毎日こんな関係が続いて、〇〇先輩も少しずつ心を開いてくれるようになったんだと思う。
それは素直に嬉しい。
でも問題が一つある。
それは、〇〇先輩は超鈍感なこと。
自分の気持ちの変化に気づいていても、それが何なのかはわかってないし、今も嫉妬ってわかってなくて無性にイライラしてると思っているはず。
だから攻略が難しい。
○○「そのうちの誰かと付き合うのか?」
いつもの低い声がさらに低くなって、私を睨むように見下ろしてきた。
〇〇先輩は背が高い。
それも本当にかっこいい。
奈央「うーん、悩んでます!どうしたらいいと思いますか?三人ともカッコいいんですよね〜。」
そう言ってみるけど本当は全部お断りしている。
なんせ私は先輩一筋だから!
○○「悩んでるならやめとけ。」
奈央「えっ、どうしてですか?」
○○「その三人が可哀想だろ。」
ツンデレな〇〇先輩。
それもまた良い!
奈央「そうですか?三人とも、断ったら悲しい顔してましたよ?」
○○「……っ、ちゃんと断ったのか?」
少しだけ表情を和らげる〇〇先輩。
なんてわかりやすいんでしょう。
奈央「もちろんです!私が好きなのは〇〇先輩だけです!」
○○「……それは気持ち悪い。」
嘘つき。
全然気持ち悪そうな顔してませんよ?
むしろ嬉しそうに見えますね〜。
そういう顔、私にしか見せないでくださいね?
奈央「〇〇先輩!」
○○「なんだよ?」
奈央「大好きです!!」
○○「…あっそ。」
今日もそっけない〇〇先輩だけど、いつか必ず私のことが好きだって言わせてやりますから!
***
奈央「あーっ、今日も〇〇先輩かっこよかったな〜。」
「奈央、またそれ?」
「奈央は飽きたりせぇへんの?」
いまは昼休み
高校で知り合った(小川)彩と(五百城)茉央の三人で仲良く食べていた。
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この二人はいつも〇〇先輩について語る私を受け入れ、聞いてくれる。
奈央「飽きないよ。ずーっと〇〇先輩のこと話せるよ!」
茉央「奈央、あんた、歪んでるわ。〇〇先輩が可哀想やで。」
呆れた様子の茉央は〇〇先輩の良さがわかってない。
奈央「本当にかっこいいんだからね!?」
彩「はいはい、かっこいいのはわかるけどクールで冷たいって有名じゃん。みんな〇〇先輩が好きだけど怖くて近づけないのに、どうして奈央は近づけちゃうのかな?」
奈央「だって怖くないもん。」
彩「じゃあ奈央にだけ優しいのかなぁ。」
彩は私が喜ぶことばかり言ってくれる。
私にだけ優しいって嬉しい。
優しくないけど。
でも確かにそうかもしれない。
私は結構〇〇先輩が好きな人たちに尊敬されている。
『どうして近づけるの?』
『あなた、すごいわね!』
『〇〇くんってやっぱり冷たい?』
〇〇先輩に近づけない分、結構私に聞いてくることが多い。
その中に先輩も混じっているわけだけど。
でも、いじめられたり歪まれたりとかは全然ない。
本当に優しい人ばかりで尊敬されていて、〇〇先輩を語れる仲でもあるから不思議。
ファンクラブものなのかな?
奈央「でもぜんっぜん怖くないよ?むしろ可愛いもん!」
私の前で笑った顔は約半年間、一度も見せたことないけど。
たまに男子の輪の中にいる〇〇先輩は笑う時がある。
とりあえずその笑顔の破壊力がすごいことを最初に説明しておきたい。
目を細めて優しく笑い、どこか幼さもあるから、とんでもないギャップの笑顔は私を殺しにかかってくる。
私の前では笑ってくれないけど!!
茉央「可愛いやて?奈央の目はどうなってんの。」
奈央「茉央は人生損してるよ。今まで何をしてここまで生きてきたの?」
茉央「はぁ…呆れて何も言えんわ…」
茉央はそう言ってたけど、私はもうルンルンだった。
何故かというと実は帰りも一緒に帰ってるから!
終礼が終わったらすぐ門で待ち伏せして〇〇先輩を待つ。
いつも私を見るなりため息をつく〇〇先輩だけど、一緒に帰ってくれるんだ〜♪
この間、少し意地悪して待ち伏せをせずに教室で待ってから学校を出ると、
なんと!〇〇先輩が私を待っていたの!
これはもう私を気にかけてるってことだよね!?
その日から〇〇先輩と行きと帰りは一緒に帰れるんだと確信した。
だから毎日が楽しいの!
お昼が終われば今日は火曜日だからあと二時間、授業を受ければ〇〇先輩に会える。
「冨里って本当にその〇〇って先輩好きなんだな。」
一人、〇〇先輩のことを考えていると私の邪魔をしてきたやつがいた。
奈央「もう!せっかく〇〇先輩のこと考えてたのに!」
そいつは△△▲▲。
私に告白してきた人ではなく、普通に席が近くて仲良くなった男友達。
それに、他校に彼女がいるらしいから、こうしてお互い下心なしで本心で話せる。
だから結構男の本音を聞けたりしてお世話になっている。
私たちの近くの席で男子数人と食べている△△が私の方を向いて笑っていた。
△△「今日も気持ち悪いなぁ、冨里って。」
奈央「△△の惚気のが気持ち悪いから!」
△△は毎日『俺の彼女がどれほど可愛いか……!』と言って私に語ってくる。
そんな△△は容姿は良くて、その上明るくてクラスのムードメーカー的存在の人間だから結構モテる。
だけど△△は彼女がいるから、毎回丁寧にお断りしているらしい。
断るのって結構辛いよね。
好きな人がいたら余計に。
△△とはそういう話でも結構共有できたりする。
まあ△△より〇〇先輩の方が容姿だけじゃなく中身も素敵だけどね!
あー、早く会いたいな〜
放課後にならないかな〜
今この瞬間も〇〇先輩のクラスに行きたいけど、さすがにそれは迷惑だと思って六ヶ月と十日の今日までずっと我慢している。
それに関して私は本当に偉いと思う。
〇〇先輩に笑顔でえらいなって褒めてほしいなー、なんて思いながら私は放課後になるのをただひたすら待っていた。
投稿85作目です。
新長編となります。
ヒロインは私の乃木坂の推しメンである「冨里奈央」です。
ぜひ感想などお待ちしてます。
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