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あけまして、好きです。

息が白くなる季節もこの時期は学校がお休み。

慌ただしい先月が過ぎてこの時はまったりとした雰囲気になるから少し好き。

いつもは朝起きるのが億劫なわたしも、この日は少し心が弾むはずなんだけど…。

1年に1度しか言わない挨拶を親と交わし、いそいそと受け取るお年玉。

中身を確認して何に使おうかと考えながら、朝から携帯が鳴るたびに反応しては落胆していた。

彼氏の◯◯は昨日から音信不通。

普段は夜更かしだと感じる時間も年越しライブをコタツで温みながらダラダラと観て、気づいたら午前3時を過ぎていた。

日付けが変わるカウントダウンまでしてL○NEを送ったのも無意味になった。

自分だけが一生懸命みたいでなんか悔しい。

結局ふて寝して起きた朝。

手にはしっかり携帯を握りしめていたっぽくて、指が痺れて痛かった。

着信を告げる点滅は◯◯以外のひとたちで埋められていて。

……初夢は正夢というけれど…

時刻は午前6時。

寝起きも夢見も最悪だった。

しばらく枕に顔をうずめて布団の中でゴロゴロしていたが、そのままのそのそと起き上がり、スウェットの状態で居間に降りて先ほどに至る。

コタツの上には仕分けされた年賀状が置かれていた。

普段居ない親も顔を合わせて一緒に駅伝を観ながらコタツから1度も出ずに年賀状を読んでいると、携帯が確認せずとも誰だか分かる馴染みの音で鳴り出した。

先ほどまでのダラダラ感が嘘のように素早く携帯を開いて中を読む。

『いえのまえにいるからでてきて』

なんの捻りもないシンプルな内容なのに、それだけで嬉しくなる。

全部平仮名なのは急いでたからなのか、それとも学力の問題か。

『新年の挨拶とか言ってくれてもええやん!』とか、『なんで何も返してくれなかったん!』とか色々文句を言おうと思ってたのに。

◯◯の顔を見たら色々吹き飛んでにやけてしまって、悔しいのに嬉しくなる。

◯◯「おう」

門に寄りかかるようにして立っていた◯◯は高校3年生にしては低い身長。

普段はコンタクトだけど今日は黒縁メガネだからより幼く見える。

ぐるぐる巻きにしたマフラーから覗く、寒さで染まる赤い頬。

カッコつけたい◯◯にカワイイと言ったら怒るから心に留めておく。

◯◯「つーか好花なんて格好してんだよ!風邪ひくぞ!」

そう言って◯◯のマフラーをぐるぐる巻きにしてくる。

自分だってマフラーだけなのに。

『走ってきたから暑いんだよ。』って。

こういうところがほんまズルい。

マフラーは、◯◯の匂いがした。

◯◯「あけおめ!ほらっ!」

短い挨拶とぶっきらぼうに差し出してきたふやふやの紙を受け取る。

好花「あけましておめでとう・・・って◯◯、これ年賀状?」

◯◯「おう!一番乗りだろ?」

好花「いや、さっきまで他の人の読んでたし」

◯◯「えっ!ウソだろ!一番に好花に渡したかったのに・・・!」

悔しそうに地団駄を踏む◯◯。

◯◯曰く、郵便屋さんのバイクを見て走って抜いてきたらしい。

年賀状を失くすまいと握りしめていたためにふやふやになってしまったようだ。

◯◯の一生懸命さが伝わり、顔が綻ぶ。

◯◯は、『徹夜までしたのに…』とボヤいていた。

決して上手いと言えないイラストはきっと蛇を描いたんだろう。

何度も消した跡が朝日に照らされて映っていた。

好花「◯◯、日付けが変わった時何してた?」

これを仕上げるのに、どのくらいかかったのだろうか。

さっきから緩まりっぱなしの頬は、嬉しさを隠せずにいた。

好花「ゲームのイベントが始まってさ!ガチャ回したらほら見て!SSRが結構当たったんだ!普段はあんまり当たんないのにすごくね!新年早々ついてるよな!」

ちょっと期待した自分に落胆する。

ゲームに負けるとは・・・。

なんとも◯◯らしい。

良かったねーと白い目を向けながら

好花「日付け変わってメール送ったのに・・・」

悲しそうに言ったら、しまった!って顔をして焦り出す◯◯。

◯◯「・・・ごめん。あけましておめでとうは好花に直接言いたかったから・・・」

申し訳なさそうにする◯◯に、少しいじわるしたくなった。

好花「◯◯」

◯◯「ん?」

好花「…別れよう」

◯◯「……は?」

一瞬息が止まったかのような◯◯の驚いた顔。

吐き出された白い息だけがふたりを包んだ。

好花「…って、◯◯に言われる夢見た」

初夢は正夢になる、らしい。

だけど、その顔を見て少し安心した。

◯◯「あのなぁ、新年早々縁起でもねぇこと言うなよ…。マジ焦った」

好花「だって…」

◯◯「オレが言うわけねぇだろ。どんだけ頑張ったと思ってんの」

告ってきたのは◯◯から。

今でも自分の方が好きだと思っているみたいやけど。

わたしだって負けてない。

◯◯「言われるならオレのほうな。考えたくもねぇけど」

だから大丈夫だと不安になってるわたしの気持ちを安心させるかのように強く抱き締めてきた。

好花「…◯◯」

◯◯「家の前だからこれ以上はなしな。」

◯◯「…って自分にいい聞かせてる」

◯◯の本音も聞けて。

◯◯「つーかマジ帰らねぇと・・・。まだ年賀状誰にも書いてねぇんだよ」

◯◯「好花にだけは一番に渡したかったから」

腕の中で◯◯の温もりを感じながら、愛されてるなぁと実感して。


好花「あけまして、好きです。◯◯。」



それでもなかなか離さない◯◯を宥めることになるのはそれから数分後の話。

幸せな年明けになった。



投稿36作目です。
新年最初は日向坂の最推しの松田好花で書きました。
今年もよろしくお願いします。

ぜひ感想などお待ちしてます

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たっつー@妄ツイ
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