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修学旅行前日も、俺は幼馴染に独占される

以前書いた続きです。


今日の陽子は一段と暗い。


先生「えー、では明日からの予定ですが…」


夏休みが明け、夏の暑さが嘘のように涼しくなった十月中旬の日曜日。


なぜこんな日に学校にいるかというと、


高校生活最大のイベントと言っても過言ではない修学旅行が明日からあるからだ。


修学旅行前日に予定の最終確認のため二年生のみ学校に来ていた。


「楽しみだよねー!」

「本当にねー!」


「美人と会えねぇかな」

「ナンパする気かよお前!」


いつも以上に教室は騒がしい。


…というのに


「…陽子?」


誰かが陽子の名前を呼ぶ。


その理由は一つしかない。


「どうしたの?体調悪いの?」


陽子の顔がいつも以上に暗いからだ。


みんなが騒がしい中、陽子は暗い顔をして一人で黙っていたところを女子が話しかけていた。


陽子「あっ……ううん、楽しみ、だね…!」



言葉に詰まらせながら話す陽子は全く楽しみでなさそうだ。


席が離れていても暗い表情で楽しみでなさそうな声の陽子が聞こえた。


理由はまあなんとなくわかるが、行けば楽しくなるだろうと思う。


□□「俺はこの修学旅行で決めるぜ!」


一人考え込んでいたら既に担任の話が終わっており、席を移動して話すやつらがいる中、□□が俺の席にやってきた。


○○「決めるって、いきなりなんだよ」


□□「何ってそんなの果歩ちゃんをゲットするってことしかないじゃん」


しかないって、俺が知るかよ。


○○「そもそもいきなりすぎだろ」


□□「もう待てないんだよ俺だって。果歩ちゃんが欲しい。早く抱きしめたい。もう好きすぎて…」


○○「うるせぇから口閉じろ」


□□「ひどいぞー○○くん!俺の親友だろ?」


そのオーバーリアクションに腹が立つ。


残念だが親友になった覚えはない。


もう面倒くさくなって□□のことを無視していれば、また□□が話し出した。


□□「なあ、明日修学旅行なのになんで陽子ちゃんはあんなに暗いんだ?」


どうやら□□も陽子に気づいていたらしい。


それぐらい分かりやすく暗いのだ。


○○「さあ、なんでだろうな」


□□「…なんだよ、その理由知ってるみたいな言い方は」


理由知ってるみたい、ていうか実際に知っているから仕方ない。


でもそんな陽子の可愛い理由を□□に言うはずないだろ。


ただ、今日の夜は絶対に陽子のわがままが炸裂するのがなんとなく目にみえてわかった。


***


陽子「○○…嫌だよ」


学校からいつものように陽子と帰り、お互い着替えた後


相変わらず表情が暗い陽子と二人、ソファに座るなり俺を見てそう言ってきた。



◯◯「何が嫌なの?」


わかっていても一応理由は聞く。


陽子「…修学旅行……行きたくない」


やっぱり陽子は行きたくないと言い出した。


○○「行ったら絶対楽しいでしょ?藤嶌とか他の女子もいるんだし」


陽子「違うの、それは別にいいの。けど…○○と四日間一緒にいられないとか絶対無理だもん、耐えられない…」


陽子は訴えるような目で俺を見つめてくる。


理由は確かに分かっていた。


けど、いざ本人に直接言われた時の破壊力は凄まじかった。


○○「大丈夫だって。中学の時と違って同じクラスでしょ?」


そう。


中学の時にも修学旅行があったが、陽子は駄々をこねながらも行った。


その結果ちゃんと楽しんでたし、思い出づくりもできていた。


ただ、家に帰った時、俺を見て泣きながら抱きついてきたのだが、それが本当に可愛くて仕方がなかった。


中学の時はお互い別のクラスで、ほとんど会う機会はなかったが、今回は同じクラスで一緒に行動することも多い。


陽子「やだっ、同じクラスでも変わらないもん。○○にぎゅってできないよ…」


陽子「○○、休みたい。修学旅行休みたいよ…」


お願いするように、だがどこか潤んだ瞳で見つめてくるから思わず肯定してしまいそうになる。


いや、陽子と休むのもありかもしれないとさえ思ってしまう。


○○「…ダメ、休んだりしたら。それに陽子が休んでも俺は行くよ?」


もし本当に陽子が休んだら俺も行かないが、そう言わないと陽子はきっと嫌と言い続けるだろう。


陽子「…意地悪…どうして?○○も休まなきゃ意味ない…。○○と離れたくないもん」


そう言って陽子は俺に抱きつく。


いつもより力をいれて俺にひっついてきた。


○○「たった四日間だけじゃん」


陽子「"たった"とか言わないで…!私にとったら死ぬように長い四日間だもん…」


死ぬように長いって、大袈裟すぎだろ。


○○「死なないよ。行ったらすぐ寂しさなんて消えるって」


陽子「消えない…!中学の時も○○、同じこと言ってたけど消えなかった!」


どうやら陽子は記憶力がいいらしい。


正直、そんなこと言ったなんて覚えてない。


○○「俺は陽子と修学旅行行きたいんだけど。陽子は行きたくないんだ?」


陽子「なら二人で旅行行きたい…」


しゅんと落ち込む陽子。


二人で、とか言い方可愛すぎだろ。


いや、二人で旅行もありかもしれない……って、このままじゃ陽子の思い通りになってしまう。


もし修学旅行に行かなければ、△△さんが何かあったのかと心配に思うかもしれないし。


やっぱりなんとしてでも陽子を行かせないといけない。


○○「いつでも二人でなら行けるでしょ?」


陽子「む……」


陽子はふくれっ面をして俺を見つめるけど、可愛いだけで効果はない。


違う意味で効果はあるのだが、そこは我慢しろ俺。


○○「藤嶌とかも絶対陽子が来ないと落ち込むと思うよ?」


陽子「うう……○○のバカ…どうしてそんなに行きたいって言うの…」


行きたい行きたくないの問題じゃない気がするが、あえて何も答えないでおく。


陽子の頭を優しく撫でてやると、ふくれっ面だった陽子が、今度はお願いするような表情に変わった。


陽子「…じゃあ、今日泊まっていい……?」


○○「……えっ?」


今、なんて言った?


予想外の言葉に目を見開き、驚くことしかできない。


陽子「だって明日、朝早いし、バタバタして○○にぎゅってできないだろうし……ダメ…?」


陽子「四日間我慢するから…○○、お願い」


俺にぴたっとひっつき、見上げてくる陽子。


こんなお願いの仕方をされたら、断れないって絶対わかってやってるだろ。


これが確信犯じゃないのなら、逆に困る。


陽子「○○と寝るの…!」


俺の返事を聞く前に陽子は宣言し、俺に抱きついてきた。


ダメだ、これじゃ完全に陽子のペースだ。


仕方ないのかもしれないが、俺と寝るって他の男が聞いたら普通に誤解するだろう。


まじで危険生物だと思う。


陽子「○○返事してよ…」


さっきから一言も発していない俺に対し、陽子が寂しそうな声を上げる。


ここまできてしまっては肯定するしかない。


○○「…泊まっていいから明日はもう駄々こねたらダメだからね?」


陽子「………うん、わかった…約束する…」


俺の言葉に対して、少しの間が空いてから陽子は返事した。


これで明日の朝は大丈夫だろうが、問題は今日だ。


――しかも最悪なことに……


○○「まじかよ…」


陽子「…○○、どうしたの…?」


二人で夜ご飯を食べ終えた後、母親からメッセージが届いていた。


メッセージを読んでみると、今日は飲み会で遅くなるらしい。


こういう日に限ってなんでこんな都合よく…と思ったところで今更だ。


陽子「○○…?」


そんなに怖い顔をしていたのだろうか。


陽子が不安気に俺を見つめてきたから、安心させるように俺は笑顔を作る。


○○「なんでもないよ」


陽子「本当…?なら良かった」


単純な陽子は、すぐ顔を綻ばせる。


陽子「じゃあ一回家に戻るね…!」


泊まる時、陽子は必ず自分の家で風呂を入ったり寝る準備を完璧にしてからまた俺の家にやってくる。


それに明日は修学旅行があるため、荷物をすぐ取り出せるように準備しとかなければならない。


○○「急ぎすぎて修学旅行の忘れ物しないように!」


陽子「だ、大丈夫だもん…!もうしてあるから…!」


それだけ言って陽子は駆け足で俺の家を後にした。


そんなに急がなくていいのに。


と思うが、陽子のことだ。


きっと早く準備して来るに違いない。


なら俺も早く寝る準備をするため、風呂に入ろうと立ち上がった。


***


それからしばらくして、お互い準備が終わり陽子が俺の家にやってきた。


陽子は上機嫌で、なんのためらいもなく俺の部屋に行き、ベッドで横になる。


そんな陽子にもし他の部屋で寝ろとか、俺は布団敷いて寝るって言っても嫌だって言うんだろうな。


今の状況にため息をつきながら、とりあえずもう一つ枕を持ってこようと思った。


陽子「…○○…?どこ行くの…?」


部屋から出て行こうとする俺を見て何を思ったのか、陽子が不安そうな声をだした。


陽子は起き上がり、ベッドから降りようとしていた。


○○「寝てて。すぐ戻るから」


陽子「本当…?」


○○「うん」


陽子は俺の言葉を信じてもう一度、ベッドに横になる。


俺は一度部屋を出て、自分を落ち着かせた後、枕を持って部屋に戻った。


……と、いうのに。


陽子「○○遅いよ…ほら、早く」


陽子は目を輝かせながら俺のスペースを空け、上目遣いで見つめてくる。



すでにやばいが我慢だ。


○○「…陽子、ほら。枕これ使って」


今、陽子は俺が普段使っている枕を使っていたから新しいのを渡した。


陽子は素直に受け取った。


かと思えば……


その枕をベッドの端に立てて置きだした。


○○「…話聞いてた?」


陽子「枕、いらない。これ使う!」


これ、とは俺の枕のことだ。


それだと逆に俺は枕なしで寝ろってことか?


結構ひどいことをする。


○○「じゃあ俺の使っていいからさっき渡したやつ貸して」


陽子「嫌だ」


○○「…は?」


陽子「渡さないもん…」


○○「俺は枕無しで寝ろってこと?まあ、いいけど…」


陽子「ち、違う…!」


なんかもう陽子が何をしたいのかわからない。


俺の枕は使うわ、さっき渡した枕は俺に渡そうとしないわで意図が全く掴めない。


しかも枕なしで寝ると言えば違うと言ってくる始末。


すると陽子が、ようやく自分の意図を俺に伝えた。


陽子「○○も一緒の枕、使うの」


そう言って陽子は俺の服を優しく引っ張ってきた。


わかってた。


陽子のことだ、俺と少しでも近くで寝たいということは。


わかってたはずなのに一瞬そのことが頭から離れ、無意識に手を伸ばしてる自分がいて、慌てて我に返る。


○○「…電気消してくる」


一度安全のために陽子から離れ、服を掴んでいた陽子の手が離れた。


暗くなれば相手が見えにくくなるし、少しは落ち着けるかもしれない。


電気を消せば、暗闇が部屋を包んだ。


目が慣れるまで、少しも見えない。


そんな中、いつものようにベッドまで歩き、横になる。


多分無理だろうけど、最初は陽子に背中を向けてみた。


これで陽子が後ろから抱きついてくれれば、大丈夫だというのに…


陽子はつんつんと俺の背中を突っつく。


陽子「…○○、なんで背中向けるの?嫌だよ、こっち向いて……寂しい…」


今にも泣き出しそうな声を上げる陽子。


俺は諦めて陽子の方を向けば、暗闇の中で陽子の目が少し潤んでいるように見えた。


○○「なんですぐ泣きそうになるんだよ」


陽子「だって…私がわがままばっか言うから…○○怒っちゃったと思ったの…」


どうやら本当に泣きそうになっていたようで、そんな陽子の頭を撫でてやる。


こういう日に限って陽子は俺に抱きつこうとせず、同じ枕を使って、俺と同じ目線で見つめてきた。


暗闇でベッドの中、この近さで耐えれている俺は案外すごいのかもしれない。


好きな人が目の前にいて、よく我慢してると思う。


そんな状況の中で、陽子の頭を撫でていると機嫌を戻したのか、今度はふにゃりと力なく笑う。


陽子「えへへ…幸せだな…」


だからなんでそういうことを今言うんだ。


そんな幸せそうな表情されるくらいなら、抱きついてくれた方がいい。


なのに今日に限って抱きついて来ず、俺と同じ目線にいる。


○○「陽子」


陽子「んー?どうしたの?」


○○「明日早いからもう寝るよ」


陽子「……寝れないから無理だよ…」


寝れない、じゃなくて寝ようとしないだけだと言うのに。


陽子は少しだけ拗ね、俺から目を離そうとしない。


ダメだ、陽子と目を合わせてはいけない。


そう思った俺は目を閉じ、寝る体勢に入った。


…と、いうのに。


陽子「…○○…寝ちゃやだ……寂しい…」


陽子が俺の頬に触れてきた。


そして今度は額に重みを感じる。


陽子が額を合わせてきた。


夜になるとさらに大胆になる。


いつもなら恥ずかしがって、こんなこと絶対しないはずなのに。


陽子「うー…寝ないで…まだ早いよ…」


寝ないと俺にとったら地獄。


けどもしこのまま目を閉じて寝たフリをしたとすれば……


陽子「…○○…お願い、○○……」


ほら、やっぱり。


すぐ陽子は、泣きそうな声を上げる。


こうなれば仕方ない。


○○「……まだ寝ないからとりあえず離れて」


俺がそう言えば、陽子は素直に従い、俺から離れた。


目を開ければ陽子はまた嬉しそうに俺を見つめていた。


本当に単純だな。


コロコロ表情が変わる。


さっきの仕返し、といえば語弊があるが、今度は俺が陽子の頬に触れた。


そっと優しく撫でるように触れると、陽子の頬はだんだんと熱を帯びていく。


そんな陽子は照れるのも早い。


ただ、暗闇のため、はっきりと照れた表情が見えないのは残念だが。


陽子「…○○…」


○○「どうした?」


陽子「明日から、寂しい…」


○○「大丈夫、修学旅行帰ってきたらすぐ甘えていいから」


陽子「ほんと?」


○○「うん」


陽子「…嬉しい、ありがとう……。本当に○○、大好き…」


またふわりと笑って可愛いことを言い出すから、俺は限界寸前だ。


でもここでキスしてしまえば多分終わる。


それぐらい自分でもわかった。


気持ちを抑え、陽子を見つめ返していると、ようやくウトウトし始めた。


陽子「まだ寝たく、ないのに…○○…」


○○「無理して起きる必要はないよ」


陽子「…うー…」


どうしても起きたいようで、目をこするが眠気には負けたらしい。


陽子は諦めてようやく頭の位置をずらし、俺に抱きついてきた。


陽子「…おやすみ、○○…好きー…」


寝る寸前まで俺を苦しめる陽子は、そんなことを知らずに夢の中に入るのだった。





投稿88作目です。
幼馴染独占シリーズは修学旅行編に入ります。
ぜひ感想などお待ちしてます。

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