あの夜の記憶は消えない #毎週ショートショートnote (お題:伝書鳩パーティー)
レース前日。伝書鳩は飼育小屋でパーティを開く。
明日は500キロ以上離れた場所まで連れていかれて、この小屋を目指して飛ぶ。戻って来れるのは、せいぜい4割。
途中で力尽きるのもいれば、道を失って戻れなくなるのもいる。
「楽しい思い出がわしらの帰巣本能を高めて、脱落は少なくなる」
パーティを呼びかけた年長のシロが言う。
そろそろ引退したいと思っているけれど、飼い主が許してくれない。
「でも、全員ではないよね」
不安そうな声を出すトサカは、明日が初めてのレース。
「こうやって皆でいれるのは、今日が最後だってことだろ」
「無理をしないことさ」
いつもは群れから距離を置くクーが、優しい声でトサカに言う。
「一番になろうなんて思ったら、それだけ脱落の可能性は高くなる」
「また、みんなでパーティを開けたらいいよね」
トサカが無理に明るい声で言う。
ああ、いつかの夜もこんな話をしたな。シロは思い出す。
僕らの記憶力は、人より高い。悲しい記憶も消えることはない。
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