#8 「見つめていたい」スピードスケート髙木美帆
魅力的なアスリートと出会い、取材を始める。一本の番組を作る。その先もずっと取材を続けたいと思う。相手にも伝える。「ぜひ、お願いします」なんて答えが返ってくる。
でもそれが本当に実現することは、そんなに多くはない。
一本の番組を作り上げるとき、短い番組でもそのアスリートの「今の、すべて」を描こうと挑む。時に断片的になってしまうけれど、それでもできるだけ。それがディレクターの性。考えに考えて、時には相手との緊張関係も経て番組は完成する。それは一つのゴールのように思える。
だから難しい。もう一度同じテンションで取材を行うことは。
スピードスケート高木美帆選手の12年間を追いかけた取材者がいた。何本もの番組を作り、さらに取材を続けてきた。特別な関係を、なぜ保てたのだろうか。
追いかけたのがカメラマンだった、からかもしれない。物語を作り上げるのがディレクターだとしたら、カメラマンは記録するのが役割。撮影にも意図はある。しかしまずは価値判断を捨てて見つめることに没頭する。カメラマンはあたかもカメラそのもののように、対象の本質を追いかける「眼」となる。撮影した素材をディレクターに渡す、ディレクターは物語を考え、カメラマンは見つめることを続ける。
そしてディレクターや記者は変わっていったが、カメラマンは関係を保ち続けた。
アスリートを取材する時、ディレクターよりもカメラマンの方が信頼を得る事はよくあること。彼らはカメラマンに自分と同じ「匂い」を感じるのかも知れない。重い機材を背負って動くフィジカルの大変さに共感する。そして技術へのこだわり。アスリートもブレードのわずかな誤差を感知する。高木美帆がカメラを担いでみるシーン。「重!」とはしゃぐ姿に、リスペクトのようなものが伝わる。
15歳のクルクルした笑顔。19歳の物憂げな眼差し。そして今、世界の頂点を極めてなお、さらなる高みに挑む姿。カメラマンの見つめる先で高木美帆は成長し、変化を続ける。
たゆまない変化。それも取材を続けるモチベーションとなったはずだ。高木の本質を掴まえようとするより速く、高木は変わっていく。
目まぐるしく変わる世の中で、変わらないものがあることはいい。12年の取材の積み重ね。カメラマンは追いかけ、スケーターはその先へ行く。変わりゆくものを追いかけて、答えに辿り着けなくても追いかけ続けていくこと。
それは高木美帆にとって「理想の滑り」であり、カメラマンにとっては「理想の滑りを追いかける高木美帆」だったのかもしれない。
誰よりも速く滑るスケーターを、カメラのファインダーで追いかけて。質問をしては、はぐらかされて。ちょっと邪険にされても、すぐに笑顔が浮かぶ。「答え」に辿りつかないからこそ、追いかけ続けることができる。
そしてその過程こそがいつか「変わらないもの」となる。
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