経験と流動性がスタートアップを加速する
nouu の白川です。いまは法人として、以前は個人事業主としてあるいは企業に所属しながら様々なお客様や友人・知人とご一緒して感じていたことを言語化してみました。私の出自的に、AI / データ領域での話を前提にしていますが、他の領域でも大きく違いはないのではと想像しています。
かけた時間に対して得られる品質向上は逓減する
こんな図をよく見かけます。
かけた時間に対して得られる品質の向上は逓減していき、品質を 0 から 60 までもっていくのに必要な時間よりも 60 から 80 までもっていくのに必要な時間の方が多くかかる、などと説明されます。
経験による時間短縮
この主張自体には首肯する部分もあるのですが、経験値(↔ グラフの傾き)の差異ももっと意識されるべきだと思っています。
経験値の高低に分けて描いた図が下記のものです。
事業のスタートアップにおいて、スキルや経験(expertise)はカーブの傾きに大きく影響します。
スキルや経験(expertise)が高いと同じ品質を得るのにかかる時間が短くなります。また、同じことですが、同じ時間をかけた場合に得られる品質もスキルや経験が高いほうが高くなります。
これは事業をスタートアップさせる際には重大です。
仮に 60 が市場投入の価値のある品質のラインだとしましょう。スキルや経験があれば、より速く市場に投入することができ、それにより市場からのフィードバックを得て次の改善を仕掛けやすくなります。
また、一定の高い品質(80 としましょう)があると、より進んだ事業戦略を採用できるようになるとしましょう。スキルや経験があるとやはりこのラインに先に到達することができ、より強力な事業戦略を早期に取ることができるようになるかもしれません。
スキルや経験のある人材は市場に出てこない
では、スキルや経験のある人材を獲得すればよいかというと、それも難しいという現実があります。自分が関わる AI / データ領域においても、専門性の高い人材を欲しがる企業は多くありますが、知る限りほとんどの企業は人材の獲得に関してはあまりうまく行っていません。
スキルと経験のある人材は一部の企業に集中し、しかも彼ら彼女らはなかなか流動せず、流動するとしても多くは独立したり知り合いづてで移籍していきます。そのため、ツテのある企業、名前の売れている企業にそのような人材が囲い込まれやすい構造があります。
私もリファラル以外で ML Engineer や Analytics Engineer の採用をする際には非常に難儀しました。正直なところ、リファラルでも難しいです。
それなら副業はどうかと考えますが、高スキル人材は副業も引く手あまたなため、副業はもうお腹いっぱい、という状況です。残念ながら、タイミングよく副業を受諾してくれるような人材もそう多くはありません。
この傾向はもう数年続いているような気がします。
人材の流動性
個人的には、もっと人材の流動性が高まってほしいと思っています。流動性がこれまで以上に増すことで社会・個人が得られるメリットは多くあると思っています。ここではいくつかの観点を紹介します。
同じような技術課題を抱えた企業が世の中にはたくさんある
これまで様々な企業とお付き合いさせていただきましたが、複数の企業で共通・類似した課題を何度も見てきました。人材の流動性がもっとあり、過去の経験を活かせるようになれば、より多くの技術課題を解けるようになるだろうなと感じることもありました。
自分もかつてやったことが活かせる場面にも何度も出くわしています。知見の再利用をビジネスチャンスと捉え、かけた時間ではなく成果に対して対価が払われるようになれば、社会の進展がより加速されるのではと思います。
ナレッジは公開されるがプラクティスは公開されにくい
最近はだいぶ流れが変わってきた感じもありますが、ナレッジに比べプラクティスは外部に公開されにくい傾向があるように思います。私自身の経験では、あたらしいテクノロジーを導入しようとするとき、ナレッジではなくプラクティスが不足していて困ることが多いです。
ナレッジは汎用性が高く、ドキュメントやマニュアルを注意深く読めば書いてあったりしてなんとかなることが多いです。また、基本的には事実情報なので、正しさの確認もしやすいです。
一方、プラクティスはそれが実践されたコンテキストに依存しやすく、基本的には改善されつづけていくものです。そのため、複数の成功例・失敗例からイメージを膨らませ先読みし、自分の取り組む対象で試行錯誤してフィットを確認する必要があります。ここでは経験がものを言います。
プラクティスをわきまえた人材がより流動し、プラクティスが共有されていくことで、社会全体のスタートアップ速度が高められるのではと思います。
掘り起こされず眠っている解決可能な課題が存在する
JTC と言われるような企業に顕著な気がしますが、ビジネスにとって重要なはずなのに掘り起こされずに眠っている課題が多くあるように思います。
それらを発見し掘り起こすには、意思決定に関わる方たちとのコネクションや地道なコミュニケーション、業務に対するディープダイブなども必要なのですが、それを解決可能そうな課題として認知できることもまた必要です。
であればそれが可能なスキルや経験のある人材がそういう会社へ転職し、課題を掘り起こし解決するというのも一つの手ではありますが、それを実践するのは簡単な意思決定ではないと思います。潜在的な課題を抱えた会社が教育に投資し、自社内で課題の解決人材を育成することも有効と思いますが、社会全体でより流動性を高め、課題の発掘現場に感度のある人材が接する機会を増やす事も短期的には重要と思います。それにより現場の面白さが開拓されれば人が集まり、課題解決の場が醸成されていくかもしれません。
できの良くないものよりもできの良いものからのほうが学びが大きい
「できの良い/良くない」という言い方に他意はないのですが、うまく作られたものというのは設計段階から様々な状況を踏まえて作られていることが多く、そこから思考のプロセスを含めて学べることが多いです。
人材が流動し、良いものが流布・共有され導入されやすくなることで、その人材が作成したものに接する人が増え、それを通じてよりよい学びが進むのではと期待します。
他の環境で誰かの真似をすることで学習できる
これは自分の経験でもありますが、自分よりうまくできる人の方法を真似ることで多くの学びを得られます。とくに、思考のプロセスを学ぶためには、ゼロから真似てみることが理想ですが、同じ環境ではそれをする機会を得ることは難しいこともあります。そのため、別の環境で実践してみることは一つの手です。これを気兼ねなくやるためにも、公開して問題のない汎用性の高い情報は日頃から公開できるようにしましょう。私も誰かに説明するときに自分の過去の記事を渡せば済む事が多く、書いておいてよかったと思うことが頻繁にあります。(もちろんビジネスパーソンとしてのマナーは必要です)
最後に
偉そうに語ってみたものの、半分は経験、半分は願望です。法人化したのもありいいタイミングなので言語化してみました。
自分自身もこれまで以上に情報の発信の頻度を上げていければと思っています。