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The Soul Man! / Bobby Timmons

今回はピアニストBobby Timmonsの1966年録音、リリース作品「The Soul Man!」を取り上げたいと思います。

66年1月20日録音Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey Prestige Label
1)Cut Me Loose Charlie 2)Tom Thumb 3)Ein Bahn Strasse (One Way Street) 4)Damned If I Know 5)Tenaj 6)Little Waltz
p)Bobby Timmons ts)Wayne Shorter b)Ron Carter ds)Jimmy Cobb

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35年フィラデルフィア生まれのTimmonsは50年代からサイドマンとして実に様々なミュージシャンと共演作を残し、60年代に入ってからはリーダー作を数多く発表しましたが74年、アルコールとドラッグの過剰摂取に起因する肝硬変で、38歳の若さで生涯を閉じました。時代も良かったのですが50年代〜60年代初頭、全盛期のジャズシーンを全速で突っ走っていたミュージシャンの一人です。
タイトルやジャケットデザインが恥ずかしい位に何とも60年代を反映しています(笑)。参加メンバーを知らずしてしかも未聴での場合、間違いなくソウル、ジャズロック系のアルバムと取り違えてしまう事でしょう。しかし本作の目玉は何と言っても59~61年に共に在籍していたArt Blakey And The Jazz Messengersでの共演者、名テナーサックス奏者Wayne Shorterの参加です。彼の演奏により作品のクオリティ、品位が桁違いに高まりました。Timmonsの他の作品には無い人選です。TimmonsはJazz Messengersに58年から61年まで在籍し、Moanin’, Dat Dereといったオリジナル曲を提供しレコーディング、結果空前のヒットを果たし、それに伴いJazz Mesengersも名門バンドへと転身します。Shorterの方も59年から64年まで在籍しバンドの音楽監督も務め、Jazz Messengersの音楽性を高めるべくやはり自身のオリジナルやアレンジを提供しました。TimmonsはJazz Messengersを離れてから自己の作品をトリオ編成中心に発表、一方ShorterはJazz Messengers脱退直後64年にMiles Davis Quintetに参加しMilesの作品「Miles In Berlin」「Live At The Plugged Nickel」「E. S. P.」を録音、自身のリーダー作としては「Night Dreamer」「JuJu」「Speak No Evil」と言った代表作を立て続けにレコーディングし、彼の第10作目「Adam’s Apple」録音直前(2週間前)が本作のレコーディングです。
「Hey, Wayne, ジャズロック調のオリジナルがあったら今度のレコーディングの時に持って来てくれないかい?」「Oh, yeah, Bobby, 自分のアルバムでレコーディング予定の新曲があるから持っていくよ」みたいなノリの会話があって(爆)、Tom Thumbが収録されたと推測できますが、Shorter自身のリーダー作でTom Thumbは翌67年3月10日録音 3管編成による「Schizophrenia」に収録される事になり、それまではお預けになりました。もしかしたらジャズロックのテイストが強い作品「Adam’s Apple」でTom Thumbを演奏する予定だったとも考えられますが、本作「The Soul Man!」でのレコーディングしたテイクを鑑みて、Shorterは「Tom Thumbはカルテットよりも大きな編成で演奏するのが良さそうな曲なので、今回はレコーディングせずに次作に持ち越そう」と判断したかもしれません。
いずれにせよTom Thumbの収録はこの作品のハイライトの一つではあります。

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Timmons, Shorterの二人はもともと音楽的志向にかなりの違いが感じられますが、Jazz Messengersに在団していた頃はさほど気にならない、と言うかクインテット〜セクステットの編成の大所帯、そしてBlakeyお得意のナイアガラ・ロールに紛れて(笑)その差異が目立つことはありませんでした。でも本作のようにカルテット編成では顕著です。更に6年以上の時の経過がスタイルや演奏レベルの違いをくっきりと明らかなものにしています。意欲的なリーダー作、ジャズ史に残るような名盤を立て続けに発表し、同時にMiles Davisの薫陶を受けて音楽性を磨かれ、一層研ぎ澄まされた表現力を持つようになったShorter、他方その変わらぬスタイルを良しとされ、「Bobby、我々は君のその演奏を聴き続けたいんだ。スタイルが変わることなんて望んでいないよ」とでも周囲から言われていたのか、十年一日の演奏を聴かせるTimmonsとでは差が歴然です。

それでは収録曲を見て行きましょう。1曲目TimmonsのオリジナルCut Me Loose Charlie、Ron Carterの印象的なベースライン、60年前後Miles Band在団中よりもシャープで的確なドラミングを聴かせるJimmy Cobbのシンバルレガートからイントロが始まるのは、8分の6拍子のブルースです。しかしここで聴かれるShorterのテナーサックスの音色は一体何と表現したら良いのでしょうか?猛烈な個性と存在感、誰も成し得ない唯我独尊、しかし本人はいたって自然体で音楽に立ち向かい、気負うところ無く自分のストーリーを語っています。Otto link Metal Mouthpiece 10番、Rico Reed 4番を使用しているとは到底考えられない楽器コントロールの素晴らしさ、マエストロぶりを発揮しています!一方TimmonsはShorterの個性的で、全てがクリエイティヴな演奏に平然と、いつものやり方のバッキングで答えているのは、然るべき対処法の引き出しが無いからでしょう。空疎な瞬間を感じる時もありますが、やむを得ません、寧ろShorterの演奏がくっきりと浮き上がります。
2曲目は前述のShorterオリジナルTom Thumb、可愛らしいひょうきんな曲調のナンバーです。Shorterのソロは曲の持つ雰囲気を確実に踏まえ、ジャズのアドリブの原点である即興、その瞬間での作曲を行なっているが如きです。テナーサックスのザラザラ、加えてこもった成分が特徴的な音色が、何故かユーモラスさを誘います。「Schizophrenia」でのバージョンと聴き比べてみると3管編成でのサウンドの厚みが曲想に大変マッチしていています。James Spauldingのアルトのメロディ奏とテナー、トロンボーンのユニゾンとの対比も面白いです。ワンホーンでの「Adam’s Apple」の編成拡大版が「Schizophrenia」と言えますが、曲作りやサウンドは前作よりも格段に進化しています。Shorterのテナーの音色もShorter色が一層増しています。
3曲目はCarterのオリジナルEin Bahn Strasse (One Way Street)、同じくCarterのオリジナルThird Planeにどこか似たテイストを感じるのは同じ作者だからでしょう。でもShorterのオリジナルに関しては何れもが個性的、一曲づつしっかり顔があり、似た曲風のものを探すのは困難、と言うか存在しません。Shorterのソロは何処からこのラインが出て来るのかと感心させられる、相変わらずのユニークさを発揮しています。Carterのソロもフィーチャーされていますが、いつものテイストの他に珍しくスラップのような技を披露しています。実際Miles BandではCarterのソロは殆どなく、あったとしてもソロ中にスラップを入れようものなら後からMilesに何を言われるか分かりません。うるさいオヤジが不在だとミュージシャンはリラックスしていつもとは違う演奏になるものです。60年代中頃Miles Davis QuintetがVillage Vanguard出演の際、Milesがインフルエンザに罹り欠場、Carterも同じくインフルエンザでトラにGary Peacockが出演し、Herbie Hancock, Tony Williams達とWayne Shorter Quartetという形で一晩演奏、その時の演奏テープを聞いたことがありますがThe Eye Of The Hurricane、Just In Time, Oriental Folk Song, Virgo等を演奏、メンバー全員Milesの呪縛から解き放たれた素晴らしい演奏を聴くことができました(呪縛時はそれはそれで、緊張感漲る演奏で素晴らしいでのすが)。ここまでがレコードのSide Aです。
4曲目はTimmonsのオリジナルDamned If I Know、軽快なアップテンポのスイングで演奏され、Shorterワールド全開の演奏です!感じるのはJimmy Cobbのドラミングのバネ感の素晴らしさ、Tony Williams張りのビートの提示感とでも言いましょうか、Cobb自身もMiles Bandで自分の後任のドラマーの演奏には少なからず影響を受けた事でしょう。この曲ではCarterの無伴奏ソロがフィーチャーされています。
5, 6曲目はCarterのオリジナルTenaj とLittle Waltz、Tenajはやっぱりバンド用語でJanetの逆読みでしょうか?Carterに新しい彼女が出来て名前を捧げたのかも知れませんね(笑)。ワルツのリズムでテーマやソロの途中テンポが無くなり、ルパートになったり、倍テンポでドラムスソロが織り込まれるような構成で工夫されていますが、次曲Little Waltzに何処か雰囲気が似ています。2曲とも同一の作曲者によるワルツ、曲の並びとしてはちょっと避けたかったパターンですね。Little Waltzの方は彼の69年10月録音のリーダ作「Uptown Conversation」で再演されています。

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