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ザ・ブルー・マン/スティーヴ・カーン

ギタリスト、スティーヴ・カーンの78年リーダー作『ザ・ブルー・マン』を取り上げましょう。

録音:1978年
スタジオ:サウンド・メディア、ニューヨーク
エンジニア:ダグ・エプスタイン
プロデューサー:スティーヴ・カーン
カヴァー・アート:フォロン
レーベル:CBS

(g)スティーヴ・カーン、ジェフ・ミロノフ  (el-b)ウィル・リー  (key)ドン・グロルニック、ボブ・ジェームズ  (marimba)マイク・マイニエリ  (ds)スティーヴ・ガッド  (perc)ラルフ・マクドナルド、リック・マロッタ  (tp)ランディ・ブレッカー  (as)デヴィッド・サンボーン  (ts)マイケル・ブレッカー

(1)デイリー・ブルズ  (2)ザ・ブルー・マン  (3)サム・ダウン・タイム  (4)ザ・リトル・ワンズ  (5)デイリー・ヴァレー  (6)アン・アイ・オーヴァー・オータム(フォー・フォロン)

ザ・ブルー・マン/スティーヴ・カーン

 スティーヴ・カーン第2作目のリーダー作、初リーダーアルバム77年『タイトロープ』に引き続き、メンバーには当時のニューヨーク・スタジオ・シーンで活躍していたエキスパートたちを総動員してレコーディングしたアルバムです。

タイトロープ/スティーヴ・カーン

最年長のマイク・マイニエリを筆頭に彼ら全員に音楽的同一性を確認出来、ある種ファミリー的な集団となり、リーダーは違えど同じメンバーでアルバム制作を行いました。
特徴的なのはリーダーの音楽性が何れに於いても確実に表現されている点で、ミュージシャンたちの表現力の多彩さ、柔軟性を感じます。
ヴォーカリストのサポートにも頻繁に登場し、彼らの伴奏無しには70〜80年代ミュージックシーンは有り得なかったと言っても過言では有りません。

本作参加のデヴィッド・サンボーンドン・グロルニックウィル・リースティーヴ・ガッドラルフ・マクドナルド、そしてスティーヴ・カーンらがサポートし、ランディ、マイケル・ブレッカー兄弟が作品のヘッドとなった、彼らの第2作目76年作品『バック・トゥ・バック』は、当時のミュージックシーンを代表する作品です。

バック・トゥ・バック/ザ・ブレッカー・ブラザーズ・バンド

厳密にはヴォーカリストと言うよりも、リーダーはパフォーマーとしての存在ですが、74年8月福島県郡山市で行われたワン・ステップ・フェスティヴァルにヨーコ・オノ&プラスティック・オノ・スーパー・バンドが出演します。
バンドは本作と全くメンバーが被ります。彼女は当時全員が無名で勿論初来日であったカーンはじめ、リック・マロッタ、ガッド、グロルニック、ブレッカー兄弟たちを引き連れてヨーコ・ワールドを熱唱しました。
その時の模様を収録したライヴ盤『レッツ・ハヴ・ア・ドリーム』が2022年にリリースされています。

ヨーコ・オノ&プラスティック・オノ・スーパー・バンド
/レッツ・ハヴ・ア・ドリーム
参加メンバー左からリック・マロッタ、スティーヴ・カーン、ランディ・ブレッカー、
スティーヴ・ガッド、マイケル・ブレッカー、ドン・グロルニック、アンディ・ムゾン

『ザ・ブルー・マン』の音楽スタイルとしてはフュージョンの範疇に属しますが、リーダーほか全員がジャズのテイストを湛えたプレーヤーであるため、随所にインタープレイやジャジーなレスポンスを認める事が出来ます。

そもそもスティーヴの父親が高名な作詞家であるサミー・カーン、実に数多くの楽曲歌詞を手掛けました。ブロードウェイ・ミュージカルに始まるスタンダード・ナンバーの隆盛に彼の存在を欠かす事は出来ません。
彼の作品は枚挙にいとまがありませんが、代表作を何曲か挙げましょう。
ティーチ・ミー・トゥナイト
オンリー・トラスト・ユア・ハート
オール・ザ・ウェイ
デイ・バイ・デイ
アイ・フォール・イン・ラヴ・トゥ・イージリー
ラヴ・イズ・ザ・テンダー・トラップ
ザ・シングス・ウィ・ディド・ラスト・サマー
名曲揃いのラインナップ、これらを幼少期から耳にした息子には計り知れないジャズ的な要素が注入された事でしょう。

サミー・カーンとブロードウェイの役者たち

この事を裏付けるように、スティーヴは子供の頃から父親の作詞のすべてのバージョンを聴くのが大好きだったと発言しており(さぞかし様々なシンガーが父親の詞を歌っていたでしょう)、彼にとって父の音楽は何よりも身近な存在だったと思います。
幼少時にピアノを学び、学生時代にはロックバンドでドラムをプレイし、10代後半からギターに目覚めます。

父親は息子にミュージシャンの道を奨めなかったそうです。実際サミーは幼少時にピアノを始めたかったにも関わらず、母親に「ピアノは女性が弾く楽器」と言われ、好きな楽器を選択出来ずやむなくヴァイオリンを選んだそうです。そのトラウマがあったのか、スティーヴには親としての威厳を以て臨んだように思います。

父親の意思に反した形になりますが、息子はギタリストとして精進すべく作曲と理論の学位を取得してUCLAを卒業し、プロミュージシャンの世界に足を踏み入れ、その後活動場所をニューヨークに移しました。

父親サミー・カーンの苗字の綴りはCahnで、息子スティーヴ・カーンの方はKhanです。反対を押し切った手前もあったでしょう、親の七光を受ける事が無いように、息子は敢えて異なる綴りの姓を名乗ったという話を何かの記事で読んだ事があります。
どこぞの世襲政治家の戒めにもなる話です。

ミュージシャンとの交流や時代背景もあり、スティーヴはフュージョンやスタジオで華々しい活躍を遂げます。彼のギタースタイル、その語法にはロック的な要素を感じますが、育ちにジャズのバックグラウンドを持つプレーヤーとして、本作でジャズテイストを発揮しています。

メンバーの作品も含めたオリジナルをここでは演奏しています。後の作品によってはミュージシャン作曲でスタンダード化したナンバーを取り上げる事がありましたが、それでもオリジナルの比重が高かったように思います。
長年に渡り多くのリーダー作品を発表し続けるうちに、スティーヴは所謂歌モノ、ブロードウェイ・ミュージカル由来のスタンダードナンバーを演奏する機会が多くなります。
この事は自分のルーツに目覚めてスタンダードナンバーを素材として取り上げる事に、魅力を感じるようになったからだと解釈しています。

スティーヴ・カーン

それでは収録曲に触れて行きましょう。
1曲目デイリー・ブルズ、ガッド、リーが繰り出す極上のグルーヴ、キーボードやシンセサイザーのサウンド、アンビエント、パーカッションが加わり、オープニングに相応しい軽快なテンポと相俟って強力なリズム塊が押し寄せ、早速聴き手を夢見心地にいざないます。
ソリッドな音色のギターによるテーマが開始されます。ここでの重厚なサウンドは恐らく後からもう一度ギターを重ねた事により得られています。

テーマはいくつかのパートから成り、部分毎にガッドのドラミングが効果的にカラーリングを施します。ガッドと一心同体のリーのアクティヴなベースワークがドラミングをより浮き上がらせ、サイドギターのジェフ・ミロノフ、パーカッション担当のマクドナルド、マロッタらのプレイが隠し味として機能します。

テーマ奏から引き続いてスティーヴのソロへ、メインにロックをプレイするギタリストでは聴く事の出来ないニュアンスを端々に感じさせます。
ガッドとの丁々発止のやり取りは実にスリリング、互いのプレイを熟知しているふたりならではの世界です。

ギターソロ後のインタールードでは冒頭テーマ時と同様に、パーカッションとベースが超絶技巧なアンサンブルを聴かせ、グロルニックのオルガンソロに続きます。
ここではいつもの彼よりもシンコペーションやグリッサンドを多用した、リズミックでアグレッシヴなプレイを展開し、またガッドは先発スティーヴの時とは打って変わった異なるテイストを、大胆に発揮します。
ガッドはその時々に生じる音楽的ハプニングに定型的には対応せず、サムシングニューを表現するべく自然体で音楽に臨んでいるのです。

ラストテーマでは様々な事象を経た結果でしょう、冒頭のテーマよりも密で深いサウンドを聴かせテンポも幾分速くなっており、クリックを使わずの演奏と判断出来ましたが、リズムの縦線の一糸乱れぬ合い具合、インタープレイ時のポリリズム的なレスポンスの連続にも、グルーヴはタイトにキープされていました。

2曲目タイトル曲ザ・ブルー・マンは一転して抒情的な雰囲気のナンバー、アープ・シンセサイザーのソロからイントロ、そして次第にムードが高まり、ドラマチックにギター奏のテーマに入ります。
たっぷりとしたを取りながら、ギターが緩やかにラインを爪引きます。
ソロが盛り上がり、ヴァンプを経てイントロ部分にダカーポしラストテーマへ。
何処となく東洋、特に中国的なサウンドをイメージさせるナンバーです。

3曲目サム・ダウン・タイムはリーのスラップ・ベースから始まるファンキーなナンバー。ランディ、サンボーン、マイケルの黄金の3管編成から成るホーンセクションが参加、パーカッションも活躍しゴージャスさを表現します。アルトがリードの部分と、3管のアンサンブルとが有機的にワークしています。

ウィル・リー

因みにリーの父親ビルはジャズピアニストで、親子共演でアルバムをリリースしています。ブレッカー兄弟も参加した01年録音リー名義の『バード・ハウス』、全曲チャーリー・パーカーゆかりのナンバーを演奏しています。

バード・ハウス/ウィル・リー

またブレッカー兄弟の父親ボビーは弁護士でしたが、やはりセミプロ並みのジャズピアニスト、息子たちがミュージシャンになるのを心から応援していたそうです。
マイケル曰く「普通父親は子供がミュージシャンになる事に反対するものだけど、僕の父親は「どんどんやれ、応援するぞ」と言うんだ。変わってるだろ?タツヤの父親はどうだった?」のような話をした覚えがあります。

ギターにワウを掛けながらメロディが奏でられ、ホーンセクションを従えてのギターソロを展開します。ダンサブルなサウンドでガッド、リーにはお手の物のグルーヴです。

4曲目ザ・リトル・ワンズ、ランディのオリジナルです。こちらにも3管編成が参加しますが、まさしく正調ブレッカー・ブラザーズ・ホーンセクション・サウンドです。ラインの巧みさと切れ味の鋭さ、自在なダイナミクスが心地良く響く、こちらもダンサブルな佳曲です。ホーンアレンジもランディ自身に違いありません。
前述ブレッカーズの『バック・トゥ・バック』収録のスリック・スタッフのホーンセクションに同傾向のテイストを見出せます。
因みに作曲者のソロはこの曲を含め、アルバムを通してありません。

比較的大きな流れの中にシンコペーションを有するギターメロディと、いかにもランディ作らしいハイパーなハーモニーを奏でるホーンズの、細かい音符を有するメロディの掛け合いが憎いほどスリリングです。
そしてガッドのカラーリングの絶妙さ、楽曲各々のパーツを異なったテイストで引き立てながら、全体像を構築していく様は見事です。

ギターソロ途中でホーンズが16分音符4つ目に鋭く1音ヒットさせた後、ギターの音色が明らかに変わります。ひょっとしたらソロイストがもう一人のギタリスト、ミロノフにチェンジしたのかとも思いましたが、基本的なアプローチやタイム感は同じなので、スティーヴが継続してプレイしています。

この後サンボーンのアルトソロが登場します。音色、バズ音のかかり具合、タイム感、唄い方、ニュアンスの豊富さ、ソロの構成力、いずれも申し分のない素晴らしいプレイ、彼がサイドマンで参加した間奏ソロの中でも、出色のクオリティだと認識しています。

感じるに彼の即興に大胆な意外性はなく、ある種の枠の中での個性の発露ですが、このスタイルのパイオニア然としたプライドと、自然体で臨む脱力感に好感が持てます。ソロは後半部分の方がより洒脱さが表出されています。

デヴィッド・サンボーン

5曲目デイリー・ヴァレー、スティーヴはエレキの他アコースティック・ギターも用いてサウンドの幅を広げます。アコギでのトレモロやマイニエリのマリンバもテーマで効果的に使われて、小品としてコンパクトに演奏を纏めています。

スティーヴはラリー・コリエルとアコースティック・ギター・デュオで77年『トゥ・フォー・ザ・ロード』をリリースしています。

ラリー・コリエル、スティーヴ・カーン/トゥ・フォー・ザ・ロード

6曲目アン・アイ・オーヴァー・オータム(フォー・フォロン)、スティーヴの殆どの作品のカヴァーアートを担当した、ベルギー人画家ジャン・ミシェル・フォロンに捧げられたナンバーです。
スティーヴの音楽とフォロン独自の色彩感を有したユニークな画風が合わさり、スティーヴのアルバムを手にした時点で既に高揚感を抱かせる効果があると、イメージしています。
フォロンは私の大好きな画家のひとり、かのスティーヴ・ジョブスもお気に入りだったそうです。

ジャン・ミシェル・フォロン

重厚なサウンドを放つイントロがこの楽曲の行く末を暗示しています。実際あり得ないような猛烈な展開となるのですが。
その後マイケルのテナーが素晴らしい音色で、ダークにメロディを奏でます。

今までに何度かご紹介していますが、レコーディング時の彼の使用楽器をあらためてもう一度。
楽器本体はアメリカン・セルマー・テナーサックス・マークⅥ、シリアル6万7千番台、リードはラ・ヴォーズ、ミディアム・ハード、マウスピースはオットー・リンク・メタル・ダブルリング・モデル、オープニング6番。
このマウスピースはクラリネット奏者エディ・ダニエルズから譲り受けた逸品、マイケル至高の演奏を収録したブレッカー・ブラザーズのライヴ・アルバム『ヘヴィー・メタル・ビバップ』でも使用しています。

オットー・リンク・メタル・マウスピースは味わい深く付帯音が豊かで、ハスキーな成分が特徴的です。今だに多くのテナー奏者が愛用していますが、本作のようにエレクトリックな楽器編成で音量が大きな場合には、音が埋もれがちになる傾向があります。
ここではスピード感とエッジの効いたサウンド、基本ダークでいて程よいブライトネスも併せ持つ理想のトーン・バランス、マイケルの奏法や楽器本体の特性もあるでしょうが、テナーサックス奏者にとって一つの理想的鳴らし方を提示しています。

マイケル・プレイズ・オットー・リンク・マウスピース

この後80年頃よりボビー・デュコフ・マウスピース、楽器も同じくアメリカン・セルマー・テナーサックス・マークⅥ、シリアル86,351番にスイッチします。
彼が抱えていた喉の問題から、より吹き易い、喉に負担の掛からないセッティングを目指した末の変更、さらに80年代中頃よりマウスピースはマイケルのアイデアを反映させた、全く新しいコンセプトによるデイヴ・ガーデラに移行し、晩年まで使用し続けます。

このオットー・リンク・マウスピースの素晴らしさは、76年11月頃から79年末頃までの彼の数多くの名演奏から伺えます。
本人にこのマウスピースの所在を尋ねたところ、何故そんな事を尋ねるんだという顔をしながら、自宅の(彼曰くの)マウスピーステーブルの上に置いてあると言っていました。かなり摩耗した状態で使い物にはならないそうですが。

マイケル・ブレッカー

閑話休題、曲目解説に戻りましょう。テナーのテーマに呼応するかのようにギターによるメロディも交互に演奏されます。この後に行われる両者バトルのプレヴューと言えましょう。
テーマの合間を縫うように行われるリーのフィルイン、2回目にはスラップ・ベースがプレイされ、絶妙なアクセント付けが行われます。
その後スペイシーなインタールードを経てギターメロディへ、ここでもホーンセクションによるシャープなリフが奏でられ、ムード作りが行われます。
両者のバトルに備えるべく再びインタールードでテンションを落とし、ベースとシンセサイザー、ギターのカッティングがさり気なくも緻密に動き回ります。

8小節ずつのバトルは合計6回行われます。以下×何回目、Ts)とG)で各々のプレイを表記します。

×1 Ts)先発のマイケル、トーンにエグさを含ませつつ大きく唄い、未だ曲のムードの中にステイします。

×1 G)スティーヴも同様に曲中に位置しながら次なる展開を模索するように、テンションの高いフレーズでマイケルに受け渡します。

×2 Ts)いきなりのシーツ・オブ・サウンド的、加えてジョー・ヘンダーソン・テイストのテナーの音塊、フレージングで斬り込みます。最後はアウトするペンタトニック・スケールで、猛烈な浮遊感を聴かせます。この時ガッドは只管ひたすらキープに専念しますが、リーのベースがその分レスポンスを行っています。

×2 G)スネークインするようにスティーヴのギターが参戦します。良く唄うフレージングとタイトなピッキングが印象的で、チャーリー・パーカー的なこぶし回しが聴かれます。

×3 Ts)マイケルの方は早々とプレイに着火しています。32分音符、若しくはそれ以上の連符で応酬しますが、入魂ぶりに凄まじいものを感じさせます。
この人はメロウな楽曲コンセプトではアーバン仕様でお洒落に対応しますが、モーダルやアグレッシヴ、テンポの速いナンバーでは途端にユダヤ的な情念にスイッチが入ります。同じユダヤ系テナーマン、スティーヴ・グロスマン、デイヴ・リーブマン的なカラーとも言えましょう。
最低音域からフラジオ音まで縦横無尽に行き来してのフレージング、フラジオB音まで上昇予定が残念ながら上手くヒット出来ずとも、華麗に纏め上げます。
ガッドはリムショットでの対応を行い、プレイにアクティヴさが認められます。

×3 G)比較的淡々とではありますが、ギターソロも音量が上がり始め、語るべきラインに更なる躍動感を見出す事が出来ます。

×4 Ts)70年代お約束のように用いられたマイケルの特徴的フレーズの嵐、彼のソロでは大変良くプレイされましたが、常に必然性があり、都度の用いられ方が異なるために頻繁ではあるものの、執拗さを感じませんでした。
ここでの人間技の次元を超越した、猛烈なスピード感を湛えた音塊は明らかにリーダーの音楽性を凌駕していますが、スティーヴはそれが狙いの一つであったでしょう。
先ほどのフラジオB音ヒットミスを物ともせず、今回は完璧にクリアーして更に上の音域フラジオD音まで駆使し、その周辺のフラジオ音を多用します。
ガッドに本格的に火が付き、マイケルのフラジオ祭りにまるでお囃子を奏でるかの如き対応ですが、既に笑うしかない程のインパクト!
マイケルとは以降も80年代ステップス、チック・コリアの『スリー・カルテッツ』でとんでも無いインタープレイを繰り広げます。

×4 G)スティーヴはマイケルの猛烈ソロ後で、荒野にペンペン草も生えていない状態に唖然としながらも入魂のチョーキングを聴かせます。リーが率先してフィルを繰り出し、ガッドは一度カームダウンしながらもスネア等皮物を用いて対応します。

×5 Ts)マイケルのソロは既にピークに達してしまった感がありますが、目先を変えて大きくスタンスを取ったかの、アウトした浮遊感のあるラインを選択しました。
周りの音量の大きさ・プラス・本人の入魂ぶりによりかなりの大音量でプレイしています。
低音域から上昇するフレージングにもジョーヘンのテイストを感じ、上がり切って落ち着いたフラジオB音の深いヴィブラートには壮絶ささえ感じ、ギターのチョーキング音のようにも聴こえます。

×5 G)ギターソロに対応するガッドのアプローチ、シンバル系を用いて異なったテイストを聴かせますが、リーのユニークなアプローチの方に耳が行ってしまいます。

×6 Ts)マイケルは再度アグレッシヴなアプローチに挑戦を開始しました。今までは上昇型のフレージングを多用していましたが、急降下爆撃的音域変化の連続プレイ、アウトしつつ再び上昇、凄まじいインパクト!
ですがガッド、リー両者比較的淡々と対応しています。ここではホーンセクションが加わっており、そちらのセクションのアンサンブルを優先したので、レスポンスを回避したと思われます。

×6 G)同様にホーンセクションを従えてギターソロが行われますが、リズム隊、特にガッドは先ほどよりも一層セクションのアンサンブルを優先させてプレイしています。

その後イントロと同じヴァンプを経てラストテーマへ。リピートせずにエンディンに向かいます。ここでホーンセクションとマイケルのテーマ奏を従えてガッドのソロが始まり、次第にホーンセクションの音量が大きくなり、その存在感が際立って行きます。ドラムソロも緩急自在に盛り上がり、追従するベースも躍動的にパッセージを繰り出し、ほど良き所でFineです。

スティーヴ・ガッド

アン・アイ・オーヴァー・オータムは対面同時録音での収録と長年疑わずに聴いていました。マイケルとリズム隊とのインタープレイで巧みな箇所が多々あり、オーヴァーダビングではあり得ない次元の演奏と感じていたからです。
今回本文を書くにあたり何度も聴き直した事で再認識した点、同時に新たな発見がありました。以下のように考えられるので記したいと思います。

◉マイケルのハイテンションに対してスティーヴの淡々としたソロの連続、両者バトルに於けるカンヴァセーションの関連性の希薄さ。

◉バトル6回目でホーンセクションが入る際にベース、ドラムがソロに関係なく管楽器の譜割りにしっかり合わせている点は、この部分をリズム隊のみでベーシック・トラックとして録音したとすれば納得が行きます。

◉スタジオワーク百戦錬磨のガッドならば複数回あるテナーとギターのバトルで、この辺りでマイケルは盛り上がるだろう、トーンダウンするだろう、こんな展開になるだろうと想定して叩くことが、十分に可能です。
仮に対面での演奏ならば、マイケルvsガッドのインタープレイはここでのレヴェルを遥かに超えているでしょう。

◉一方マイケルもガッドやリーのプレイの趣旨を汲みながら、そのテイストに合わせつつ、しかも気持ちを盛り上げてプレイする事が出来るテナー奏者です。
対面、オーヴァーダビングのどちらかとは断言出来ませんが、マイケルのソロに関して後被せの可能性も感じます。





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