New York Is Now!
今回はOrnette Coleman 1968年作品「New York Is Now!」を取り上げてみましょう。Elvin Jones, Jimmy GarrisonたちJohn Coltrane Quartetのリズム隊を得て、素晴らしいインタープレイを展開しています。
Recorded: April 29 & May 7, 1968
Studio: A&R Studios, New York City
Engineer: Dave Sanders
Label: Blue Note
Producer: Francis Wolff
as)Ornette Coleman ts)Dewey Redman b)Jimmy Garrison ds)Elvin Jones
1)The Garden of Souls 2)Toy Dance 3)Broadway Blues 4)Broadway Blues(Alternate Version) 5)Round Trip 6)We Now Interrupt for a Commercial
本作には同日同じメンバーで録音された兄弟アルバム「Love Call」が存在します。
内容的な遜色や残りテイクを寄せ集めた感はなく、コンセプト的にも明確な区別があるようには判断出来ません。2枚組でリリースされても良かったように思います。
Love Call / Ornette Coleman
58年「Something Else!!!!」で鮮烈なデビューを行い、ジャズシーンに一石を投じたOrnette、名作60年12月録音の「Free Jazz」でひとつのピークを迎えましたが、その後も数々の問題作を発表し60年代のジャズシーンの牽引役を担いました。
Something Else!!!! / Ornette Coleman
Free Jazz / Ornette Coleman
フリージャズの旗手とされる彼のプレイ・スタイルは多くの論議を呼び、シーンでは賛否両論を巻き起こしました。
筆者自身も以前は彼が何を表現したいのか、どのような手法を用いているのか、そしてどのように捉えるべきなのか、皆目見当がつきませんでした。ただ他のプレイヤーと比して訴えかけるもの、説得力には格段の違いを感じていました。
ジャズを長く聴き、演奏者として携わった経験で得た耳を元に、自分なりに分析を試みると、コード進行に対する調性を超越し、例えばアベイラブル・スケール、裏コードや代理コード、テンションといったロジカルな方法論をも排除した(本人に言わせれば異なるのかも知れませんが)、実は真の即興演奏に徹していて、常にフレッシュなラインを構築していたのです。
彼自身は自分のプレイ・スタイルの基本はフレーズを吹く事だ、と述べていますが、あの超個性的な音色とニュアンスで演奏されると、フレーズという概念が吹き飛んでしまいます。
Ornette Coleman
彼の特徴の一つはフリーフォームであっても、タイムのキープ感がずば抜けており、リズムを外したり見失う瞬間は殆ど存在しない事です。
フリー=リズムが無いと解釈されがちですが、Ornetteに関してそれは誤りです。良い例を挙げれば「Free Jazz」でCharlie Haden, Scott LaFaro, Billy Higgins, Ed Blackwellらのダブル・リズムセクションが繰り出す、端正でスインギー、かつディープなリズムに対し、大きくリズムを捉え、見事なタイム感で演奏しています。
後年彼は「ハーモロディクス理論」を唱えました。72年4月録音リーダー作「Skies of America」のライナーノーツに初めて具体的な記述が掲載されており、当作はその手法を用いて演奏されたそうです。
ミュージシャンによる音楽理論としてはGeorge Russellが唱えたLydian Chromatic Concept (LCC)が存在します。
以前Russellの弟子(Russellが認定した師範代でなければ、LCCを教えることは許されないそうです)である米国人から、彼がピアノを弾き、自分もサックスを演奏しながらLCCのレクチャーを受けたことがあります。
「あらゆる音使いの正当性」「どのような音を使っても良い」ことを理論的に解明していたようなのですが、僕の理解力を超えたところで話が進んでいました。
「ハーモロディクス理論」についても自分は勉強不足で、残念ながら補足説明をする事は出来ません。
Skies of America / Ornette Coleman
Ornette出現後に雨後の筍のごとく現れた前衛サックス奏者たちの中には、彼の模倣を行いつつも何処か勘違いし、個性を曲解した音色で、意味があるとは思えない音符を吹き散らし、肝心なリズムを蔑ろにしていました。
しかしOrnetteは言ってみれば自分の演奏に対し常に責任を持ち、音楽の3要素(リズム、メロディ、ハーモニー)を彼なりに遵守していたと考えています。Free Jazzというカテゴリーの中でしっかりと!確実に!
リズムをキープする事に対するこだわり、またメロディという点ではあまりにも独創的ではありますが彼なりの美学を遂行し、ハーモニーに至っては他の追従を許さない境地でサウンドさせています。
そのハーモニーという観点ではCharlie HadenのベースラインがOrnetteのプレイに瞬時にして確実に寄り添い、ジャズ史上あり得ない次元でのインタープレイを行なっていました。
具体的には彼が吹くフレーズに於ける和声や和音を即座にキャチし、ベースラインで対応するのです。意外性を伴ったプレイが頻繁に現れるOrnette、さぞかしアプローチするのに骨が折れた事と思いますし、彼を心から尊敬するHadenにとっては試練であり、修行の場でしょう、しかし究極Hadenにとっては至福の時だったに違いありません!
ごく初期には彼のバンドにピアニストが参加しましたが、以降はピアノレスの編成でプレイし続けました。Ornetteの吹くラインに、より自在性を持たせる事が主眼ですが、コードワークはtoo muchで、彼にとっては束縛になるゆえでしょう。Hadenは彼の良きパートナーとして音楽的に提携し合い、優れた演奏を数多く残しています。
Charlie Haden
本作に於いてHaden的役割を演じるのがElvin Jonesです。多くのセッションで彼のドラミングがバンドを活性化させ、推進力を発揮して演奏のクオリティを高めました。
同時にメロディやリズムを彩るカラーリングを巧みに施すと言う、アーティスティックなプレイを展開し、彼が参加したアルバム全てが名作の域に達していると言って過言ではありません。総じて伴奏者としてElvinのドラミングで右に出る者は存在しないのです。
65年9月録音の作品「Live in Seatlle」を最後にJohn Coltraneの元を離れフリーランスとなり、以降彼との共演はありませんでしたが67年7月17日、わずか40歳で夭逝したColtraneへのトリビュート、ないしはその音楽的継承を果たすべくJimmy Garrison(彼はColtraneバンドに最後まで在籍していました)とのコラボレーションを再開し、Joe Farellを迎え本作と殆ど同じ頃、68年4月同じコードレストリオで「Puttin’ It Together」を録音します。
Puttin’ It Together / Elvin Jones
その後もピアノレス編成が基本でリーダー活動を行い、Dave Liebman, Steve Grossmanたちテナーサックスが2管に増員されたカルテットで、彼の傑作ライブアルバム「Live at the Lighthouse」を72年9月9日(彼の45歳の誕生日です!)録音します。
Elvin Jones Live at the Lighthouse
タイム感、グルーブ感、スイング感、シャープでたっぷりとしたシンバルレガート、一聴Elvinの演奏と即断できる彼のプレイは、フロント奏者との絡み具合に真骨頂を発揮します。
とは言え常に寄り添いつつ演奏を鼓舞するわけではなく、端正なレガートとスネアのアクセントのみに徹し、ビートを繰り出すだけで、無反応の放置的(笑)演奏に終始する場合もあります。
フロント奏者のコンセプトや意向、ソロのラインが醸し出すサウンドから判断しているのかも知れません、ですがこの時のシンプルさにもElvinの美学がふんだんに散りばめられ、3連符を主体としたビートと、他のドラマー誰も持ち合わせない、ずば抜けたポリリズムのセンス、そしてスピード感が堪りません!
ここではLee Konitz作品61年8月録音「Motion」を挙げたいと思います。
Motion / Lee Konitz
本作の聴きどころのひとつはOrnetteとElvinのコラボレーションです。
Garrisonというベスト・パートナーを得たElvinは躊躇という文字を辞書から消し去ったかの如く縦横無尽に、大胆にOrnetteに寄り添い、音楽を構築しています。
それでは演奏内容について触れて行きたいと思います。
1曲目The Garden of Souls、メンバー全員によるゆったりとしたルパートのテーマ奏、Garrisonはアルコでサポートします。ここでは芒洋としてはいますが、しっかりとしたメロディが存在し、Ornetteがコンダクトしながら進行しているように聴き取れます。
その後Ornetteのフレージングに合わせてElvinが徐にミディアムテンポでシンバルレガートをプレイし、アルトソロが始まります。
脱力しつつも気持ちの入ったプレイは、独特のラインを演奏しながら内面に湧き起こる衝動を起爆剤として徐々に展開して行きます。同じサック奏者の観点として、指クセやお決まりの音使いを極力排除して臨んでいると推測できます。そうで無ければマンネリに陥り、自身もインプロビゼーションに入魂できず、演奏のフレッシュさをキープする事は困難です。
Ornette Coleman
Garrisonも次第に演奏に参加しますが、ドラムのフレージングに煽られるかのようにリズム・モジュレーションが行われ、ベースが率先しテンポアップします。Elvin, Garrisonのグルーブ感の素晴らしさと言ったら!引き続きOrnetteのラインに反応するElvin、はたまたその逆もありつつ一つのピークを迎えた後、Ornetteがクールダウンするのに呼応し再び元のテンポに戻ります。
当初からのお約束ごとだったのか、自然発生的なインタープレイか、スリリングです!再びOrnetteが仕掛け、再度テンポがアップします。
この際のGarrisonの弾くラインの見事さ、加えてElvinのバスドラム連打の凄み、Ornetteのフレーズに確実に応えるElvin、そして更なるテンポアップをGarrison仕掛けますが、これは一瞬にしてElvinに却下されたようです(笑)。
落ち着きを取り戻したかのように三位一体がしばらく継続され、その後行われる倍テンポにての演奏、Ornetteのプレイを一音たりとも聴き逃さないリズム隊の真剣さを痛いほど感じます。
それにしてもここで聴くことの出来るOrnetteのフレージングの独特さ!そしてアクセントの位置にもオリジナリティを認める事が出来ます。
Elvinの締めフレーズで一度収束し、ミディアム・スイングでブルージーな音使い、続いて明るい7th的フレージングの最中でGarrisonが弾き始めたラインに、Elvinが更なる速いテンポでレガートを叩き始め、グルーブが安定し始めるとしばしElvinの猛攻、そして再びクールダウンが訪れます。
OrnetteのモチーフをキャッチしたElvinが倍テンポでレガートし、Garrisonがon topでリズムを刻みます。ここで認められるOrnetteのレイドバックしたプレイには、リアル・ジャズマンとしての本質を垣間見ることができます。
音楽の森羅万象が行われたが如き、その後フェルマータし短いドラムソロが行われますが、謎の雄叫びが突如として現れます!Dewey Redmanがそれまで行われたOrnetteワールドを一新すべく、テナーサックスのベルをオンマイクにし、声を交えながらブロウしているのです。
Dewey Redman
あれだけの世界をOrnetteに構築されては、特殊技法や離れ業を駆使しなければ自身の存在感を誇示する事は出来ません(笑)!
自己主張が強いのはミュージシャンの常、そう言えばPat Methenyの名作「80/81」の欧州ツアー時のプライベート録音では、Methenyや相方のテナーサックスMichael Breckerのプレイに負けじとばかりに、Redmanはひとり延々とソロをプレイしていました(汗)!
80/81 / Pat Metheny
ミディアムテンポに乗りながらのソロ、途中Elvinが倍テンポでレガートし始め、Garissonが追従します。
Redmanのフリークトーンに呼応しElvinが連打します。Ornetteとは異なり、フレーズのラインを用いずにフリーフォームを表現しているようです。
ほど良きところ、これ以上は蛇足になりかねないと言う所でラストテーマに入ります。エンディングではGarrisonのアルコが、見事に展開されたインタープレイの世界を名残惜しむように、独奏を続けます。
Jimmy Garrison
2曲目Toy DanceはいかにもOrnetteらしいテーマを有する、どこか楽しげなナンバー。
2管のメロディは本来ユニゾンだと思われますが、微妙にずれたりハーモニー(?)に聴こえたりするのはアレンジなのか、たまたまなのか、ラフに演奏し揺らぎを念頭に置いているのか分かりませんが、寧ろディレイ的な効果から音の厚みを感じさせます。
先発Ornetteは奇想天外でイマジネイティブなフレージングを駆使し、音量の大小も操り、レスポンスを踏まえてリズム隊との会話を楽しんでいるかのようです。
彼の吹く8分音符は的確なタンギングが必ず施され、その結果リズムのメリハリが付けられており、その点では伝統を踏まえたジャジーな奏法と言えます。
続くドラムソロはいつものElvinなのですが、Ornette的なリズムのアクセントを踏襲したフレーズも聴かせていて、継続した流れを感じさせます。 その後のRedmanのテナーソロは極太な音色と付帯音の豊富さで存在感を示しますが、8分音符にあまりタンギングが施されないためにエッジが効かないレガート感が強く、またリズムもOrnetteに比してラッシュし、前のめりな音符の位置からもリズムの提示度合いが希薄です。
この二人の音楽的コンビネーションにはいろいろな捉え方があるように思いますが、Ornetteの「正統派ぶり」を逆に際立たせているとも感じました。
Elvin Jones
3曲目はOrnetteの代表的ナンバーBroadway Blues、本作タイトルともリンクしています。
オーソドックスな中にも斬新な感覚が導入された佳曲、Methenyは前述の「80/81」欧州ツアーでもレパートリーとして取り上げていましたが、そもそも彼の75年録音初リーダー作「Bright Size Life」にて次曲Round Tripとを2曲カップリングした形で演奏しています。
この2曲をデビュー作で取り上げるMethenyはかなりのOrnetteフリークに違い無いでしょう! しかもWeather Report入団直前のJaco Pastoriusをベーシストに迎え、ドラマーがBob Mosesというトリオのメンバーで!
既に凄まじいまでのJacoのプレイが印象的ですが、ここではOrnetteのアーシーなテイストは排除され、洗練されたクリエイティブさを表現しています。
Bright Size Life / Pat Metheny
ごく初期からOrnetteの音楽に心酔していたMethenyは、彼を迎えた85年12月録音作品「Song X」でOrnette愛を結実させています。
彼の音楽に欠かすことの出来ないCharlie Hadenを迎え、そして息子Denardoと名手Jack DeJohnetteのドラムも加えて!
Song X / Pat Metheny
Elvinの得意とするシャッフルのリズムでテーマが演奏されますが、ソロに入るとOrnetteのフレージングの意向を汲んでか、タイムはキープされつつも、様々に変化して行きます。
一体どの様にプレイ前にOrnetteがサジェストして、若しくはディスカッションを行い、演奏に臨んだのかに、とても興味を惹かれます。
曲ごとにリズム隊のアプローチが明確に変化し、明らかに毎曲コンセプトを変えているからです。
Ornetteは情感たっぷりにブロウし、七変化するElvin, Garrisonのプレイに即していますが、ふたりは二人でOrnetteの演奏を瞬時に捉えてアプローチしており、総じて三人は真の即興演奏を繰り広げているのです!
Redmanのプレイは再び前出の「効果音」奏法を交えて、ホンカー・テイストを感じさせる演奏を聴かせています。
暫しの間の後、徐にOrnetteが現れ再びソロを取りますが、Redmanとの説得力の違いを感じます。突然ラストテーマを迎え、Fineとなります。
Ornette Coleman
4曲目には90年CD化された際に追加された、Broadway Bluesの別バージョンが収録されています。
オリジナルバージョンよりも幾分遅いテイクで演奏時間も短く、コンパクトな演奏に仕上がっていますが、フォーマットや構成が同様なので寧ろ凝縮された演奏と言えましょう。
OrnetteやRedmanのプレイの密度、リズム隊のフレッシュさを鑑みるとこちらが最初のテイクで、演奏の出来が良かったのでもうワンテイクプレイしよう、とオリジナルテイクが録音されたと推測しています。
筆者がプロデューサーであればこちらの別テイクを採用したいと思いますが、恐らく冒頭のテーマ・メロディをRedmanが出そびれたり、後半吹き切れていないので、その点が採用基準として考慮されたのではないでしょうか。
Ornette Coleman
5曲目Round Trip、こちらもフロント二人のテーマ奏の微妙な揺れがメロディに幅を持たせています。本作中最も速いテンポのナンバー、リズム隊のコンビネーションの素晴らしさとスピード感、グルーブ感を堪能出来ます。先発Ornetteが比較的短いソロをプレイした後、Redmanがソロを取り、その後サックス奏者達のソロが同時進行で行われますが、その際のElvinの猛攻ぶりと言ったら!疾風怒涛とはこの事を言うのでしょう!程なくラストテーマを迎えます。
Elvin Jones
6曲目We Now Interrupt for a Commercialは本作中最もフリージャズ・テイストの強いナンバー、特にテーマらしいメロディは存在せず、全員同時進行で即興演奏を行います。
途中に突然のブレークがあり、曲名がアナウンスされます。彼にしては珍しくビートが存在しない演奏、他とテイストの異なる楽曲は実はアルバムのクロージングに相応しく、to be continued感を表出していると思います。
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