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Stan Getz And The Oscar Peterson Trio

今回はStan GetzとOscar Peterson Trioの豪華な組み合わせ、1958年リリース「Stan Getz And The Oscar Peterson Trio」を取り上げたいと思います。

Recorded October 10, 1957 at Capitol Studios in Los Angels Verve Label Produced by Norman Granz
ts)Stan Getz p)Oscar Peterson g)Herb Ellis b)Ray Brown
1)I Want To Be Happy 2)Pennies From Heaven 3)Ballad Medley: Bewitched, Bothered And Bewildered / I Don’t Know Why I Just Do / How Long Has This Been Going On / I Can’t Get Started / Polka Dots And Moonbeams 4)I’m Glad There Is You 5)Tour’s End 6)I Was Doing All Right 7)Bronx Blues

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ドラムレスの編成にも関わらず強力なスイング感を押し出すアルバムです。以前にも述べたことがありますが、Oscar PetersonとRay Brownの双生児のように似た超On Topのリズムを、ドラマーEd Thigpenが二人を同時に羽交い締めにして、リズムが前に行き過ぎるのをギリギリ制している構図で成り立っているのがThe Oscar Peterson Trioです。陸上100m競争のスタートラインに着いた走者がスタート合図を待つ直前のエネルギー抑制感と言いましょうか。この作品でのThigpen役がギタリストHerb Ellis、素晴らしいカッティングから繰り出されるタイトなリズムがPeterson, Brownと合わさり鉄壁のスイング感を聴かせています。ここに文句なしのリズム・ヴァーチュオーゾ、Stan Getzのテナーサックス・プレイが加わることで、リズムの縦軸〜横軸がしっかりと組み合わさり、音の空間に恰もつづれ織りの織物が編まれる様相、三つ巴ならぬ四つ巴状態でタイムを聴かせる演奏に仕上がっています。タイムの良いプレイヤーは間違いなく演奏内容も素晴らしいものです。本作の充実ぶりはジャケ写ミュージシャンの笑顔に如実に現れていると言えます。さぞかしメンバー全員レコーディング中に楽しく充実した時間を過ごした事でしょう。

収録曲の内容に触れて行きましょう。1曲目I Want To Be Happy、ここでの演奏に当メンバーでのスイング感のエッセンスが全て凝縮されています。猛烈なリズムの坩堝、その中でもEllisのカッティングを聴くとギターは強力なリズム楽器なのだ、と再認識してしまいます。よく聴けば2, 4拍のアクセント付けの他にさり気なくお茶目な技を沢山披露しています。この業師のリーダー作「Thank You, Charlie Christian」はタイトル通り、尊敬する先輩ギタリストCharlie Christianに捧げられた作品です。本作でのバッキング担当の側面よりも、前面に出てソロイストとしての本領を発揮しています。

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PetersonのトリッキーなイントロからGetzの付帯音まみれの素晴らしい音色でテーマ奏が始まります。う〜ん、何とカッコ良くスイングしてるのでしょう!演奏が始まったばかりなのにこの時点で既に納得してしまいます!この位の速さのアップテンポでリズム、ビートの要がドラムスのトップシンバルやハイハットではなく、フルアコ・ギターのカッティングとは実に見事です!勿論その分野の名手でなければやり遂げる事はできませんが。テーマ部の最後のブレークでのピックアップ以降、ベースがそれまでの2ビートから4ビート〜スイングに移ります。はじめの1コーラスはピアノのバッキングはお休み、Ellisのカッティングが繰り出すビートの独壇場です。2コーラス目途中からピアノのバッキングが始まりサウンドが厚くなりますが、その間ずっと続くGetzのソロのリズミックでメロディアス、巧みなフレージング、その展開に舌を巻いてしまいます!Getzの最後のフレーズを受け継いでPetersonのソロが始まります。ピアノを楽々と弾きこなし、鳴らしているのが手に取るが如く伝わります。ピアノを弾くために生まれて来たかのような恵まれた体格、迸るゴージャスさ、生来のテクニシャン。そして8分音符の滑舌、グルーヴに独自のものがあるスタイルはArt Tatum, Nat King Coleの直系ですが、ワンアンドオンリーなテイストを確立しています。その後再びGetzのソロが始まりますがPetersonのソロにインスパイアされたのか、やり残した諸々を的確に披露し更にスイングしています。ラストテーマは再び2ビートフィールに戻り、エンディングの仕掛けにも工夫がなされ、テナーのHigh F#音(Getzの使用楽器ではフラジオ音です)、メジャ−7thの音で終わっています。
3曲目は5曲連続のバラード・メドレー、参加ミュージシャンが一人ずつフィーチャーされます。メドレ−1曲目はGetzの演奏でBewitched, Bothered, Bewildered、この人はバラードが異常なくらい上手ですね、素晴らしい!フェイザーがかかった如きスモーキーな音色、意表をつくメロディフェイクで1コーラスを歌い切ります。続く2曲目EllisをフィーチャーしたI Don’t Know Why I Just Do、16小節ほどの短い演奏です。そしてPetersonの出番、How Long Has This Been Going Onを饒舌さと切なさを混じえて聴かせてくれます。次はBrownのピチカート演奏によるI Can’t Get Started、とても「言い出しかねて」とは思えないハッキリとした、むしろ「仕切りたがり」屋のメッセージを持ったプレイです(笑)。メドレー最後はGetzの再登場でしっかりと締めています。曲はPolka Dots And Moonbeams、テナーの上の音域を生かしたハスキーな語り口、グリッサンドやハーフタンギングを用いつつ美の世界を徹底的に表現しています。
ここまでがレコードのSide Aになります。
4曲目もバラードI’m Glad There Is You、冒頭EllisとGetzのDuoでメロディが演奏されますが、Getzはここでも信じられない程のイマジネーションでメロディを、更にドラマッチックに奏でています。本当にこの人のバラード演奏はいつも聴き惚れてしまいます!他のプレイヤーとは違う別な特殊成分が鳴っているので、何かがテナーサックス楽器本体の中に施されているのでは、とまで考えてしまうほどの音色です!サビをEllisに任せ、ギターの最後のフレーズをBrownがキャッチして反復、「おっ!」とばかりに一瞬出遅れて途中からGetzも参入(これは二人とも凄い瞬発力です!)し、メロディに戻ってFineです。前曲のバラード・メドレーの番外編ですが、また違ったテイストを聴かせてくれました。
5曲目はGetzのオリジナルTour’s End、スタンダードナンバーSweet Georgia Brownのコード進行に基づいています。リズムセクションの仕掛けが面白いです。この曲でもEllisのギターカッティング、Brownのベースが実にグルーヴしています!テナー、ピアノ、ギターとソロが続きますが、伴奏ではあれほど気持ち良いタイムでのカッティングを聴かせるEllisですが、ソロになると若干タイムが早く、音符も短めに感じます。コンパクトな演奏時間にジャズの醍醐味がぎゅっと詰め込まれた演奏に仕上がっています。
6曲目I Was Doing All Right、Gershwinの古いスタンダードナンバーをGetzが小粋に唄い上げます。A-A-B-A’構成、サビであるBの6~8小節目、コード進行が他よりも細かく動くところで、Getzは敢えて音量を小さくしてメロディを吹いています。複雑なコード進行を聴かせるためなのか、何なのか、これはソロコーラス時のフレージングやラストテーマの同じ箇所でも行われており、元々音量のダイナミクスが半端でないGetzにして、一層さり気ない表現のコンセプトを感じます。テナーソロが1コーラス演奏され、ピアノソロが半コーラス、サビからラストテーマになり、エンディングはイントロに戻ります。力の抜けたGetzの鼻唄感覚の演奏を楽しむ事が出来ます。
ラストの7曲目はGetzのオリジナルBronx Blues、取り敢えず曲のキーだけ決めて演奏を始めた感じのラフなテイクです。特にテーマらしいメロディが無いので録音に際して手慣らしで始めたテイクかも知れません。ギターのソロからベース、ピアノ、テナーと加わって行き、各々の短いソロのトレードを繰り返して行きます。Getzのソロで終わりかと思いきや、もう1 コーラス続いてFine、他の収録曲に比べて緊張感を欠いているように聴こえます。90年CDでリリースされた際に4曲が追加されましたが、Bronx Bluesを収録するよりも、よりクオリティの高いテイクがあったと思います。例えばCD10曲目の Sunday、Ellisのギタータッピングによるバッキングが聴かれますが、これは秘密兵器、飛び道具です!全曲タッピングでは飽きてしまうかもしれませんが、1曲だけ入る事で他の曲との対比になり、スリリングなバラエティに富んだ作品に変化します。Getzのソロの途中から普通のカッティングに戻り、ピアノソロで再びタッピング、Ellisさん器用な方ですね!演奏中のPetersonの唸り声も大きくなっている気がします。という事でこの曲をラストの締めに持ってくるべきだったと感じます。

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