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ニューヨーク・リユニオン/マッコイ・タイナー
豪華メンバーを擁したマッコイ・タイナーの1991年録音リーダー作『ニューヨーク・リユニオン』を取り上げましょう。
録音:1991年4月3, 4日
スタジオ:RCA スタジオ A、ニューヨーク
エンジニア:ボブ・カッツ
プロデューサー:デヴィッド・チェスキー
エグゼクティヴ・プロデューサー:ノーマン・チェスキー
レーベル:チェスキー・レコード
(p)マッコイ・タイナー (ts)ジョー・ヘンダーソン (b)ロン・カーター (ds)アル・フォスター
(1)リコーダ・ミー (2)ミス・ビー (3)ホワット・イズ・ディス・シング・コールド・ラヴ (4)マイ・ロマンス (5)アスク・ミー・ナウ (6)ビューティフル・ラヴ (7)ア・クイック・スケッチ (8)ホーム
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マッコイ・タイナー
マッコイ・タイナー・カルテット、名手たちジョー・ヘンダーソン、ロン・カーター、アル・フォスターを迎えた作品です。
録音の素晴らしさ〜奥行きを感じさせ、各楽器の魅力を引き出した音質と音像、セパレーション〜が第一印象です。良い録音状態のアルバムは自ずと内容への期待が高まります。
選曲に工夫が成され、マッコイのオリジナル、ジョーヘンやカーターのナンバー、スタンダード・チューンをバランス良くセレクトし、各奏者のソロもたっぷり、十分過ぎるほどプレイさせています。
ピアノトリオでマイ・ロマンス、マッコイとジョーヘンのデュオでセロニアス・モンクのアスク・ミー・ナウ、カルテットでジョーヘンをフィーチャーしたビューティフル・ラヴ、いずれもが素晴らしい演奏です。
参加ミュージシャン全員がリラックスして演奏に臨んでいる事から、ブルーノート・レーベルの名プロデューサー、アルフレッド・ライオンが制作した全ての作品のように、ミュージシャンに敬意が払われ、創造性をナチュラルに発揮出来るシチュエーション作りが配慮されています。
総じてミュージシャン・サイドに立ったプロデュースですが、実はプロデューサーでありレーベルのオーナーでもあるデヴィッド・チェスキー自身がピアニスト、アレンジャー、コンポーザーです。
チェスキーは20代からバンド活動を行い、1980年にアルバム『ラッシュ・アワー』を米大手レーベル CBSからリリースします。ブレッカー兄弟やボブ・ジェームズをメンバーに迎え、自らホーンセクションを含めた大編成のアレンジ、そしてセルフ・プロデュースも行い、良質のフュージョン作品に仕上げています。
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チェスキーは5歳からピアノのレッスンを受け、コンボからビッグバンドまで幅広くジャズを聴き、ロックやクラシックにも興味を持ちながらミュージシャンとして音楽生活を送り、現在も精力的に演奏活動を行います。マッコイも彼のアイドルのひとりであったに違いありません。
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そのマッコイは62年初リーダー作『インセプション』を皮切りに、生涯に合計70作品以上をリリースします。毎年精力的にアルバムを制作し続け、複数作発表された年もあり、本作が世に出た91年は何と合計6作品がリリースされました。これは最多の年に該当し、それだけ脂の乗った、ミュージシャンとして旬の頃でした。
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とは言えここでのマッコイの演奏はやや手なりが多いのも事実です。定形的ではありますが、抜群のスイング感、テクニカルな打鍵を聴かせます。
自らが築いたマッコイ・タイナーというレッテルが貼られた演奏スタイルを、自身が辿っているのですが、その都度の入魂ぶりが素晴らしいのでフレッシュに響きます。
リーダーの好調ぶりにインスパイアされたのもあるでしょう、サイドマン全員が本領を発揮、特にジョーヘンの絶好調振りには目を見張るものがあります。
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ジョーヘンは63年録音初リーダー作『ページ・ワン』にマッコイを迎え、引き続き翌64年録音の名盤2作『イン・ン・アウト』『インナー・アージ』でも優れたコラボレーション聴かせ、以降サイドマン同士でも多くの作品で共演します。言わば気心の知れた間柄です。
マッコイ60年代の代表的リーダー作67年録音『ザ・リアル・マッコイ』での両者のプレイの素晴らしさ、マッコイの書く楽曲に対するジョーヘンの音楽性の合致度、互いにインスパイアしながら音楽を作り上げて行くクリエイティヴネス。
そしてここでの共演者ロン・カーター、エルヴィン・ジョーンズとも抜群のコンビネーションを聴かせます。
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実はマッコイ、ジョーヘン、その後のレコーディング共演を確認する事が出来ません。ライヴやコンサートでは行われていたのかも知れませんが、本作『ニューヨーク・リユニオン』アルバムで再演するまで約四半世紀を要します。
何らかのぶつかり合いがあり仲違いが生じたのかも知れませんし、蜜月の関係を築いていたミュージシャン同志でも、ふとした事で演奏が遠のくケースがあります。こちらの様に捉えるのが自然です。
この間に両者とも音楽性に磨きがかかり、独自の世界観、表現方法を獲得します。そして育てる意味合いもあったでしょう、サイドマンに若手を起用するのに余念が無かったのも事実です。
マッコイは本作『ニューヨーク・リユニオン』前後からベーシスト、エイヴァリー・シャープ、ドラマー、アーロン・スコットと言う若手と積極的に演奏します。
彼らに加えマイケル・ブレッカーを迎えた95年録音カルテット作品グラミー賞受賞『インフィニティ』、こちらは挙げられるべき名盤です。
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ともあれ、本作タイトルはマッコイ、ジョーヘンに関してのリユニオン(再結成)を指します。
一方カーターはまるでマッコイのお抱えベーシストの如く頻繁にレコーディングに招かれれます。
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フォスターの方は比較的新しい共演仲間、79年録音『ホライゾン』からの関係ですが、以降マッコイのリーダー・アルバム6作品に招かれます。
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カーター、フォスターとジョーヘンのトリオ編成にて、ニューヨークのライブハウス、ヴィレッジ・ヴァンガードで85年11月14~16日ライヴ・レコーディングされた作品『ザ・ステイト・オブ・ザ・テナー Vol.1, 2』も特筆されるべき内容の作品です。80年代に入り、ジャズシーンから遠ざかっていたジョーヘンを引き上げ、再び脚光を浴びるきっかけを作ったアルバムです。
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/ジョー・ヘンダーソン
この作品で濃密なコンビネーションを聴かせたテナー・トリオに、マッコイが加わった形になります。
フォスターの代わりにエルヴィンを配し、アルバム『ザ・リアル・マッコイ』の同窓会もアイデアとしてあったと思います。
神秘の世界にまで到達する前人未踏のポリリズム、グルーヴ、ビート感、別曲にまで昇華せんばかりに施されるカラーリングが冴え渡るミスター・ヘヴィ・サウンズ、エルヴィン・ジョーンズ、彼のドラミングでもリユニオンを聴いて見たかったところですが、今回は変幻自在で柔軟性に長けたフォスター、エルヴィンのダイナミクスよりも小回り、融通の利く彼の起用は、ここでのジョーヘンのプレイに相応しかったと思います。
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エルヴィン・ジョーンズ、リチャード・デイヴィス
もう一作是非とも紹介したいと思います。本作『ニューヨーク・リユニオン』1週間前に、同じくニューヨークでレコーディングされたジョーヘンのテナー・トリオ作品『ザ・スタンダード・ジョー』、こちらにもフォスターが参加し、ベースに名手ルーファス・リードを迎え、フォスターはトリオ編成と言うフォーマット内で最大限にフレキシブルなドラミングを展開し、デフォルトの音量が小さいプレイヤー同士ならではの抜群のコンビネーションを築いています。
晩年のジョーヘンがフォスターをレギュラー・ドラマーに迎えていたのは実に納得の行くところです。
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/ジョー・ヘンダーソン
それでは収録曲について触れて行きましょう。
本作は曲と曲の間が通常のCDよりも長く取られています。楽曲の余韻を保ちつつ、次曲へ臨むべくインターヴァルを取るための、制作サイドの配慮と解釈しています。
1曲目リコーダ・ミーはジョーヘンのオリジナル、前述の初リーダー作『ページ・ワン』に収録されたナンバーです。
ジャズシーンで以前は然程取り上げられませんでしたが、ステップスが『スモーキン・イン・ザ・ピット』で取り上げて以来ミュージシャンの間に流布し、スタンダード・ナンバー化しました。
ステップス・ヴァージョンにイントロ、アウトロが演奏されていないのは、単に参加ベーシスト、エディ・ゴメスがそのパターンを知らなかったからだと言われています。
ベースソロによるイントロから開始されます。オリジナル・ヴァージョンのパターンとは一風変わったライン、グリッサンドが印象的です。ドラムが参加し、リズムに躍動感が加わりテナーのフィルイン、ピアノのバッキングが始まります。
思いの外イントロが長めに演奏された後、テーマがスタートします。ソロの先発はコンポーザーから、コード進行の妙を巧みに利用しつつ意外性のある音使いをスパイス的に用い、彼ならではの節回しをスポンテニアスに交えながらブロウし、次第に熱くストーリーを組み立てます。
リズム隊は比較的静観していますが、寧ろじわじわと盛り上がるジョーヘンを過剰に刺激しないように、敢えて抑え気味にサポートしているようにも感じます。
特にフォスターの繊細なドラミングが、ジョーヘンのフレージングに纏わり付くが如く一体化しており、両者のコンビネーションの良さを示します。
続くマッコイのソロには音楽的なアイデアが数多く込められていますが、何処か醒めた表情を感じさせます。リズムにも今ひとつキレがありません。
ひょっとしたら既にワンテイク収録し、何か支障があったか、若しくはより良いプレイを目指してワンモア・テイクにトライしたのか、既に燃え尽きてしまった直後であったように感じます。
そう考えると先発ジョーヘンのプレイには些かの迷いも無いフレッシュさを見出す事が出来、一貫したクリエイティヴさを感じます。
その後はベース、ドラムソロと行われ、この曲の印象的なセカンドリフがプレイされます。短いドラムソロを内包したこのリフが存在する事で、リコーダ・ミーの楽曲としての価値が向上しました。
ラストテーマが快活に演奏され、オリジナルでは再びイントロのパターンがアウトロに用いられますが、冒頭でイントロをたっぷりと演奏したためか、ここでは割愛され楽曲終わりとなります。
2曲目ミス・ビーはマッコイ作のワルツ・ナンバー、彼の母親であるベアトリスに捧げられました。タイトルは実家の近所の住人が彼女の事をミス・ビーと呼んだ事に由来します。
母親もピアノを多少嗜みましたが、子供の頃にマッコイがピアノ演奏に興味を持つようにと、彼女は息子をいつも勇気付けていました。そんな母親に初めて書いたナンバーになります。
可憐な雰囲気の中にも芯が一筋入ったテイストを感じさせる、恐らく優しくも厳しさを併せ持った母親のイメージなのでしょう、このアルバムのために作られた佳曲です。
短いイントロからジョーヘンによるテーマが演奏されます。ソロの先発はマッコイから、彼だけではなくメンバー全員が1曲目よりもずっと活き活きと演奏しています。この事からも、やはりリコーダ・ミーはセカンド・テイクであったように感じます。
続くジョーヘンのプレイも全く同様で、楽曲のイメージに則りながらも、そこから抜け出そうとするジャズ・スピリットを感じます。フォスターのレスポンスにはジョーヘンの狙いを的確にキャッチし、バックアップしようとする意志が認められます。
そのままラストテーマに繋がります。マッコイのバッキングにもアクティヴさを感じさせ、次第にFade outします。
3曲目ホワット・イズ・ディス・シング・コールド・ラヴは、多くのミュージシャンが取り上げるコール・ポーターの名曲、コード進行がアドリブの素材に相応しいのです。
ここではラテンのリズムで始まり、ジョーヘンの低音域を主体とした、裏メロディを起想させるフィルインが演奏されます。
テーマも引き続きラテンで、サビはスイングのリズムに変わります。このフォーマットで1コーラス目がプレイされ、2コーラス目からスイングに変わります。
先発ジョーヘンは圧倒的なグルーヴ感を有しながらソロを推進させます。特徴的なジョーヘン・フレーズ、トリッキーなリズム・フィギュア、レスター・ヤングに端を発する奇数小節、奇数拍から始まるリズムに纏わり付くかのフレージングの妙、イメージの具体化が実に明確にして斬新、彼の本領発揮の巻です。
続くマッコイのソロ、猛烈な打鍵とリズム感はベース、ドラムスを確実に巻き込みながら強力な音塊となって聴く者を圧倒します。素晴らしい!
その後テナー、ピアノとドラムスの8小節交換が3コーラス行われます。ソロイストの創造性は言わずもがなですが、フォスターの皮ものを中心としたフレージングの説得力には舌を巻いてしまいます。
ラストテーマ、そしてヴァンプを経てFineです。
4曲目マイ・ロマンスはロジャース&ハートのコンビによるナンバー、ここではジョーヘンが加わらずピアノトリオで演奏されます。
穏やかな曲想に合致したテイストでテーマのメロディが打鍵されますが、ソロに入ればマッコイ印の音塊が溢れ出し、比較的短く纏めてベースソロに移行します。
メロディアスなソロはカーターの得意とするところ、引用フレーズも交えながら行われ、再びマッコイのソロが1コーラス聴かれた後ラストテーマに雪崩こみます。アクティヴなカーターのラインがここでも印象的です。
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5曲目アスク・ミー・ナウは本作中白眉の名演奏となった、全編ジョーヘンとマッコイのデュオによるテイクです。
冒頭ジョーヘンのアカペラによるカデンツァソロが行われます。ここでのサックスの録音は他曲と異なります。より音像が明確になり音色に凄みを感じさせ、延々と続く創造的なラインをよりエグく、パッショネイトに聴かせます。
プレイ自体にはいくつかのモチーフを感じます。自身の中でそれらを目一杯膨らませ、音色、音量の大小、ヴィブラート、ニュアンス付けを施し、たっぷりと間|《ま》を置く事で音楽的ストーリーに転化させているように思います。
次第にアスク・ミー・ナウのメロディが現れ、ピアノのバッキングを呼び込むかのラインを吹き始め、マッコイが打鍵開始します。
ほぼインテンポでテーマ奏が開始されます。様々な彩りを添えたプレイにマッコイは一触即発に反応しながら進行しますが、テイストとしてはハードバップ、バップ以前、寧ろラグタイム的なスタイルを感じます。
テナーソロが始まります。しかしこれほどの絶好調振りを表出したジョーヘンを聴いたことがありません。イマジネーション、アイデア、個性の迸りが大洪水の如く押し寄せて来ます!
持ち得る楽器コントロールのテクニックを最大限に、しかし決して過剰にはならず、音楽を行う事を最優先事項とし、熱くなった自分をクールに俯瞰しながらのストーリーテラーを演出、ジョーヘンというジャズ(という範疇にはもはや収まりきれません)・ミュージシャンの底知れぬ表現力を見事に捉えた名演奏になりました。
ここでの具体的な構成:アカペラ・イントロ→ピアノを伴ったテーマ奏→テナーソロ1コーラス→ピアノソロ半コーラス→ラストテーマサビから半コーラス→リタルダンドからカデンツァソロ
最後の一音まで一切の躊躇や中途半端な表現が無く、押し付けがましさや無理矢理は一切排除され、究極ジョーヘンのモノローグとして演奏されます。
一度ライヴ会場で私が彼に話し掛けた事があります。甲高い声で早口、捲し立てられるように返答されたのを覚えていますが、内容はジョークやダジャレばかりでありました。
6曲目ビューティフル・ラヴはヴィクター・ヤング作曲のナンバー、カルテットで演奏されます。こちらはジョーヘンのリアル・ジャズプレーヤーとしての本領を発揮した演奏です。
イントロは無く、アウフタクトからテナーのメロディ奏が始まります。
ジョーヘンの特徴の一つとして、多くのテナーサックス奏者(例えばベン・ウェブスター、スタンリー・タレンタインたち)が音色、サウンドのカラーリングやニュアンス付けに使うサブトーン(シュウシュウ、ガサガサと表現できる音色)を用いず、実音奏法だけで吹き遂げます。
使用しているマウスピース(セルマー社製ハードラバー、ソリスト・モデル)の特性もありますが(本来クラシック用のマウスピースであるため、サブトーンは出し難い)、サブトーン奏法をあえて排除したかのプレイにはある種モノトーンを感じさせますが、本人に宿る魅力的な音色、ニュアンス、ダイナミクスには有り余るものがあり、モノトーンぶりを確実に補っています。
マッコイ、カーター二人のテーマ時バッキングには濃密なテイストを感じます。フォスターはブラシを用いてキープしますが、テナーのピックアップソロ後からスティックに持ち替えます。
ジョーヘンのプレイへの寄り添い感は3者の中でフォスターが最も的確、フレージング、アイデアを1音たりとも聴き逃さずの体勢、それは見事にレスポンスを施します。
マッコイのバッキングはジョーヘンのプレイに対する伴奏というよりも、楽曲を彩るべくの打鍵と感じます。カーターにも同様の事が言えそうです。
ここでのジョーヘンのフレージングにいつもの彼らしからぬ、ハイF#フラジオ音をシンコペーションを伴って何と20小節以上吹き続けます。彼の他の演奏では聴いた事がなく、入魂ぶり、新鮮なアプローチの結実と捉えています。ここでのフォスターの反応、放置にも二人の良き音楽的な関係を見出せます。
その後ピアノソロへ、どれだけ魅力的な打鍵を繰り出してもここでのジョーヘンのソロの後では、こぢんまりと感じてしまいます。
ベースソロ後にラストテーマが演奏され、エンディングにはアレンジが施され、一瞬放送事故かと思わせる、長い間|《ま》がありFineとなります。
7曲目ア・クイック・スケッチはロン・カーターによるナンバー。彼らしい明るいテイストを発揮したユニークなナンバー。7thコードの用い方に個性を感じます。
ソロの先発はマッコイ、ベースのペダル・トーンの上でsus4のサウンドが効果的に響きます。リズミックに、パーカッシヴに打鍵しトリオで一つ山場を設けます。
続いてジョーヘンのソロ、暫しマッコイはピアノを弾く手を休め、復帰してからも通常より間の多いバッキングを行います。ジョーヘンはフローティングなサウンドに対してトライアルを繰り返し、様々なウネウネ・ジョーヘン・フレーズを発します。
その後ラストテーマが演奏され、ベースとドラム二人による音遊びが展開され、次第にFade out、ベース一人が残りFineとなります。
8曲目ホームはマッコイのオリジナル、イーヴン8thのリズムからなる楽曲はいかにもマッコイらしいサウンドです。
ソロに入りミディアム・スイングとイーヴン8thが交互に配されます。マッコイのバッキングが支配的に演奏され、楽曲のコード感を決定付けます。
ソロの先発ジョーヘン、縦横無尽にブロウしますが、前曲と傾向が似ているためでしょうか、せっかくの好演に差異を感じなくなります。
続くマッコイのソロは、コンポーザーとして楽曲の延長上に位置する内容を表現します。カーターのイマジネイティヴなラインも効果的です。
その後ラストテーマへ、フォスターのドラマチックなカラーリングが功を奏し、楽曲のエンディングに向けての良いはなむけとなりました。