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Canyon Lady / Joe Henderson

今回はJoe Henderson1973年録音のリーダー作「Canyon Lady」を取り上げてみましょう。全編ラテンミュージックを演奏した聴き応えのある作品です。

Recorded: October 1-3, 1973 Studio: Fantasy Studio, Berkley Producer: Orrin Keepnews Label: Milestone
ts)Joe Henderson ac-p)Mark Levine b)John Heard ds)Eric Gravatt timbales)Carmelo Garcia congas)Victor Pantoja tb)Julian Priester(1, 3, 4) tp, fgh)Luis Gasca(2, 3, 4) el-p)George Duke(1,2,3) tp)Oscar Brashear(1, 3, 4) tp)John Hunt(1) fl, ts)Hadley Caliman(1, 3) fl)Ray Pizzi(1) fl)Vincent Denham(1) tb)Nicholas Tenbroek(1) congas)Francisco Aguabella(4) arr, cond)Luis Gasca
1)Tres Palabras 2)Las Palmas 3)Canyon Lady 4)All Things Considered

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本作はJoe Henderson30作近くあるリーダー作中異色の一枚で、ティンバレス、コンガ奏者やホーンセクションを擁したラテンならではのグルーヴ、サウンドを大編成によるアレンジでゴージャスに演奏しています。Joe Henはもともとタイム感抜群のプレイヤーですが、ラテンでも同様に素晴らしいリズムを聴かせ、One & OnlyのJoe Henトーン、プレイのスタイルと相俟った新たな境地を展開しています。「彼のグルーヴはラテンにも合致するのだ」と再認識しました。しかもいつになくハードにブロウし、吠えまくりフリーキーなアドリブを聴かせていますが、自分に照らし合わせてもラテンのリズムはテナー吹きを熱くさせるサムシングを持ち合わせていると感じます。2曲オリジナルを提供しているピアニストMark Levineがリズムセクションの要となり、Weather ReportやMcCoy Tynerのバンドでその名を馳せたEric Gravattの素晴らしいドラミングと、ラテンに不可欠なティンバレス、コンガとが合わさり三位一体の緻密なグルーヴを提示、ベーシストJohn Heardとの相性も申し分ないので見事に「本格的な」ラテンアルバムに仕上がりました。50年代ハードバップ・エラからジャズ屋のラテンには雰囲気があり、良いグルーヴの演奏もありましたが、ラテンに精通するのプレイヤーのタイトで鉄壁なリズムには全く敵いません。本作はJoe Henライブラリーの中でもっと知られても良い一枚だと思うのですが、アルバムタイトルから選ばれたのでしょう、妙齢な女性のジャケ写を全面に出したレイアウトと作品自体の関連性がどうにも感じられないので、Joe Henファンは言うに及ばず多くのジャズファンからもスルーされがちな一枚です。名は体を表す、作品タイトルとジャケットの関係性は大切なのです。

それでは演奏に触れて行きましょう。1曲目Tres Palabrasはラテンの名曲の一つでキューバ出身の作曲家Osvaldo Farresによるナンバーです。英語ではWithout Youというタイトルで演奏される事がありますが、他のジャズプレイヤーが取り上げたヴァージョンとして62年録音のKenny BurrellとColeman Hawkinsの共演盤「Bluesy Burrell」、Wes Montgomery66年録音「California Dreaming」、哀愁を帯びた魅力的なメロディラインはNat King Coleをはじめとして多くのシンガーにも取り上げられています。

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アンサンブルをバックに朗々とルパートでメロディを吹き始めるJoe Hen、お馴染みの超個性的な音色ではありますが美しいメロディ奏ではジャンルを問わず常にその真価を発揮します。Antonio Carlos Jobimのボサノバ・ナンバーを取り上げた晩年の傑作「Double Rainbow」や75年作品「Black Miracle」に収録Stevie Wonder作の名曲My Cherie Amor(!)などのメロディアスな曲での印象的なプレイは、聴き手の心を捉えて離しません。71年には、かの伝説的ブラスロック・バンドBlood, Sweat & TearsにオリジナルメンバーFred Lipsiusの後任として数ヶ月間在籍しましたが(レコーディングが残されているなら是非とも聴いてみたいものです!)、この事は彼がジャズだけにとどまらない音楽性を有する証でもあります。

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ボレロで演奏されていたテーマが終わる頃には壮大なアンサンブルが被り始め、合間を縫うようにGeorge DukeのFendrer Rhodesによるフィルインが聴かれます。チャチャのリズムでテナーソロ開始、ティンバレスやコンガのパーカッション群が効果的にリズムを刻んでいる上で、間を活かしながらジワジワと盛り上がりフラジオA音でのトリルまで用いて遂に炸裂、それに到るまでのJoe Henフレーズの積み重ね方の巧みさ!なんと雄弁なストーリー展開でしょうか!ホーンのアンサンブルが加わる事によりアドリブの終息感を匂わせ、その後DukeのRhodesによる華麗なソロ、続くOscar Brashearのブリリアントなトランペットソロ、その後はカットアウトされるが如く、再びボレロでラストテーマが演奏されます。それまでの賑やかさが祭の後の静けさのようにしっとりと奏でられ、リタルダンド、フェルマータの後は再びホーンの豊かな響きが曲を彩り、最後はオクターブ上でのテーマ奏、ホーンアンサンブルは大フォルテシモで迎え、テナーのカデンツァにて大団円を迎えます。
2曲目はJoe HenのナンバーLas Palmas、パーカッションを効果的に用いたリズムのパターンが彼らしいユニークなコンポジションです。Joe HenとトランペットのLuis Gascaの2管編成ですがテーマらしきメロディラインは特に演奏されず、ワンコードの上でトランペット〜テナーのソロが行われ、カラフルなDukeのRhodesでのバッキングが効果的です。その後は3者3様同時進行でソロが行われ、次第にリタルダンドし、Fineです。以上がレコードのSide Aになります。
3曲目はMark Levine作の表題曲Canyon Lady、ラテンのリズムとソリッドなホーンセクションによるシャープなサウンドが効果的に用いられた佳曲です。ホーンアンサンブル時に音の厚みを支えるべく、リズムセクションのグルーヴが変わるのが実に効果的です。ソロに入りベーシックなパターンに多少ルーズさが加わり、Joe Henのアプローチに柔軟に対応し始めます。浮遊感溢れるテナーソロはここでも間を活かしつつ、次第にフリークトーン、オーヴァートーンを交えてとんでも無い次元にワープして行きます。終盤戦の丁度良いところでホーンのアンサンブルが入るのは決してオーバーダビングではなく、コンダクターGascaの采配によるものでしょう。それにしてもJoe Henのタイム感の素晴らしいこと!個性が全面的に表出してオリジナリティをこれでもかと聴かせますが、彼は若い頃から学問として音楽、ジャズを徹底的に学んでいます。ジャズは学ぶものではなく経験する事が何より大切ではあると思いますが、Joe Henはアカデミックに学習した事柄をオリジナリティを掲げつつ、ロジカルに表現する事に長けているプレイヤーの筆頭格だと思います。続くDukeのRhodesソロもテナーソロの延長線上にあるべき事が音楽の統一感を生むと、しっかり意識しているかのようで、ドラマティックにストーリーを繰り出しています。ホーンセクションがここでも良きところで加わりラストテーマに繋げています。メロディを吹いてかつセクションと一緒にしっかりアンサンブルを奏でる、そして何より誰にも描けない深遠なイメージを抱きつつ、とんでもないソロを取るリーダーのJoe Hen、物凄い演奏者だと再認識しました。ラストテーマで一度落ち着いてからもJoe Henは再び吠えまくり、ホーンのアンサンブルが全く的確にバックアップしつつFade Out状態です。
4曲目もLevineのオリジナルAll Things Considered、この曲も実に素晴らしいテイストを表現しています。イントロのテナー、トランペットによるアンサンブルのバウンスしたメロディラインが、この後はスイングナンバーになると匂わせて、真正ラテンである証、ピアノのモントゥーノに受け継いでいます。なんと躍動感に満ちたラテンのグルーヴ、思わず腰が浮いてリズムを取りたくなってしまいます!さらにテナーソロのイマジネイティヴな事と言ったら!もちろんタイム感も完璧でこれはリズムセクションの一員同然、Joe Henはもはやリズム楽器奏者にカテゴライズされて然るべきでしょう!ホーンセクションのシャープさ、Levineのバッキング、ベーシストHeardのアプローチも申し分ありません!アンサンブルに続くティンバレスとコンガによるリズムの饗宴、いや狂宴でしょうか(笑)?凄まじいまでのリズムの応酬、タイムのセンターに向けてパーカッション全員が恐るべき集中力でフォーカスしているのです!2クラーベでテーマに戻ると思いきや何だか微妙な事態に?直後に左チャンネルから一瞬悲鳴らしき声も聞かれました?でも無事にラストテーマに突入、ラテンの名演奏がまた誕生しました。

以上が作品収録曲の全てですが、Joe HenのMilestone Label在籍時のレコーディングをコンプリートに収めた「The Milestone Years」には本レコーディングの未発表テイクである自身のナンバー、In the Beginning, There Was Africa…が追加されています。パーカッション隊3人とテナーだけのフリーインプロヴィゼーション、こちらも凄まじいテンションでの演奏ですが、ほかの収録曲とバランスを欠くためにオクラ入りしたのか、単にレコードの収録時間の関係か、でもこの作品を気に入った方には是非とも聴いてもらいたい演奏です。

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