見出し画像

Universal Mind / Richie Beirach & Andy LaVerne

今回はRichie Beirach, Andy LaVerne二人のピアニストによるDuo(1台のピアノによる連弾です!)作品「Universal Mind」を取り上げたいと思います。

p)Richie Beirach, Andy LaVerne Recorded November 1993 SteepleChase Digital Studio, Copenhagen, Denmark Produced by Nils Winther
1)Solar 2)All the Things You Are 3)I Loves You Porgy 4)Haunted Heart 5)Chappaqua 6)Blue in Green 7)Elm The Town Hall Suite: 8)Prologue 9)Story Line 10)Turn Out the Stars 11)Epilogue

画像1

画像2

ピアニスト2人のDuoは昔からよく行われており、素晴らしい演奏者による名演奏が数々残されています。通常2台のピアノを用いて各々パフォーマンスを行いますが、本作は1台のピアノのみを用いた連弾(英語ではfour handsと言います)で、ライブでは時たま行われることもありますが、レコーディング作品として残した例は大変珍しく画期的な事だと思います。奏者どちらがピアノ鍵盤の左側(主に低音域担当)、右側(同じく高音域担当)を担当するか、演奏曲のメロディ、伴奏のシェア具合、アドリブ時伴奏者に音楽的に如何に被らない、交互にソロを取る場合は一瞬にして鍵盤から離れ相手に演奏を譲る反射神経、ペダルの使用はどちらが主導権を握るのか、物理的に腕や指がぶつからない等、いつもは独占している88鍵を共有し合う制約が、演奏にある種の緊張感を生み出し本作では実に良い方向に作用し、結果名演奏となりました。2人のピアニストの音楽的方向性、演奏スタイル、相性も大いに関係するところです。Richieは1947年5月NY生まれ、Lennie Tristanoに師事しBerklee, Manhattan音楽院でも学びました。Andyも同じく47年12月NY生まれ、Bill Evansに師事しBerrkleeのほかJulliard, New England音楽院でも学ぶという共に学究、学理肌、そして同世代のミュージシャンです。そういえばBillもLennieに師事していましたね。他の共通点としては名ピアニストを多く輩出し登竜門として名高いStan Getzバンドの出身者であり、白人ジャズピアニストの最高峰Bill Evansを敬愛し自他共にその影響を受けている事を認めています。本作でもEvansの66年作品「Bill Evans at Town Hall 」からピアノソロで演奏されている亡き父親Harry L. Evansに捧げたIn Memory of His Father Harry L. (Prologue/Story Line/Turn Out the Stars/Epilogue)をThe Town Hall Suiteとして取り上げています。

実は本作は2人のDuo第2作目にあたります。丁度1年前の92年11月録音の作品「Too Grand」Steeplechase こちらは連弾ではなく2台のピアノを使用しての伝統的なピアノDuo演奏になります。自由奔放でかつジャズスピリットに溢れ、同じ音楽的ベクトルを有するピアニストのみが成しうるダイナミックな演奏で、これまた素晴らしい作品です。この作品の仕上がりから2人は更なる緊密なDuo演奏を目指し、次作は敢えて縛りの多い連弾と言うスタイルで演奏に臨んだと言うことになります。ストイックでアーティスティックな2人に拍手を!

画像3


Andyは1人でグランドピアノ2台を同時に演奏する形でも作品をリリースしています。92年4月録音「Buy One Get One Free」Steeplechase Yamahaのグランドピアノを2台、片手で1台づつを演奏していますが、弾きこなすには大変な体力と気力、集中力が必要な事でしょう。物理的に腕が普通よりもかなり長くなければなりませんし(笑)。1台のピアノを2人で演奏することが連弾、ではこのように1人で2台のピアノを演奏する事は何と言うのでしょう?(笑)。こちらは壮大な雰囲気のソロピアノ集に仕上がっており、2台を難なく弾きこなすAndyのテクニック、器用さと音楽性、情熱に脱帽してしまいます。本作収録のElmがここで既に取り上げられていました。

画像4

それでは収録曲について触れて行きましょう。1曲目はMiles DavisのSolar、Richieが度々取り上げるレパートリーでもあります。冒頭Richieが高音域、Andyが低音域を担当します。ソロ中は度々入れ替わり、ラストはAndyが高音域、Richieが低音域を担当します。なんと緻密で知的、ホットでクールなインタープレイの連続でしょう!2人のピアノタッチを実に的確に捉えた録音状態も素晴らしいです。Lineageな2人は音楽的に良く似た部分もありますが明確な個性を湛えたスタイリスト同志、明らかな違いを感じさせつつも互いにインスパイアされフレージング、コードワーク、ピアノの音色区別が次第に付き難くなります。実際にどの様に入れ替わって演奏しているのか、録音時の映像が存在したら是非とも見て見たいものです。「いまの右手はRichieのラインだけど左手はAndyかな?」「両手ともにAndyかも知れない」と想像しながら鑑賞するのも楽しいです。ソロのトレード時に交差する4本の腕!20本の指!正確なタッチやタイムをテクニカルにキープしつつもエグいコードワークやハイパーなソロのラインが見事にハマり、応酬されるスリリングなDuo!これだけの演奏を繰り広げているにも関わらず声が出ないのが不思議です!演奏しながら声の出るピアニストが多いと思うのですが、無音の2人です。
2曲目はお馴染みJerome KernのAll the Things You Are、こちらもRichieのオハコのナンバーです。メロディの1音1音に全く別なコード付けを施す独自のRichieのアレンジが光ります。Andyが高音域を、Richieが低音域を担当します。それにしてもこの左手のラインは異常なほどに異彩を放ち、美しく響きます。Andyの右手のフレージングも実にクリエイティヴです!ベーシストSteve Lloyd Smith「Chantal’s Way」、自身のソロピアノリサイタルを収録した「Maybeck Recital Hall Series Volume Nineteen」、Dave LiebmanとRichieのDuo作「Unspoken」いずれもでRichieの素晴らしいAll the Thingsのプレイを聴くことが出来ます。

画像5

画像6

画像7


3曲目は本来バラードで演奏されるGershwinのI Loves You Porgy、明るいテンポでスインギーに、Richieが高音域、Andyが低音域担当で演奏されます。シングルノートでの対話形式のようにも聴こえつつ、次第に低音域〜高音域担当が入れ替わり2人の絡み具合が芳醇なスコッチウイスキーのように、シングルモルトからブレンデッドに移行して行きます。
4曲目はとても美しいバラードHaunted Heart、Andyが高音域、Richieが低音域を担当します。Bill Evansの「Explorations」に名演が収録されていますが2人のBillへのオマージュ第1弾です。Andyは左側にRichieがいるのでどうしても右寄りになる事からか、いつも以上に高音域でのラインが目立ちます。

画像8


5曲目は互いに敬意を表して各々の代表曲を演奏しあうコーナーのRichieヴァージョン、演奏曲はAndyのオリジナルChappaqua。元はAndyがGetzのバンド在団中演奏したナンバーでGetzはAndyが抜けた後も愛奏していた様です。それにしてもスタジオ内で自分の曲を他の名手が演奏するのを聴くのはどんな気分でしょうか?Richieにまさに打ってつけの美しいメロディ、コード進行を擁した名曲、そして知的さとリリカルさを配した解釈、素晴らしい演奏です。Andy自身もGetzバンドで演奏した経験を生かし、Getzのレパートリーばかりを取り上げた96年10月録音作品「 Stan Getz in Chappaqua」で演奏しています。ここでのGetz役はDon Bradenが務めます。もう1作、我らがベーシスト鈴木”Chin”良雄氏のNY時代の作品「Matsuri」でAndyと共演、ここではTom HarrellのフリューゲルホーンとLiebmanのフルートでメロディを分かち合っています。

画像9

画像10

6曲目は再びMilesのナンバーからBlue in Green、Bill Evansのナンバーだと言う説もあります。高音域をAndyが、低音域をRichieが担当、この上無い美の世界に誘いつつも演奏が佳境に達した頃にRichieが倍のラテンフィールを提示し、また別なカラーを聴かせてくれます。
7曲目表敬コーナーAndyの出番によるRichieのオリジナルElm、この曲はRichieが亡きポーランド出身の天才ジャズヴァイオリン奏者Zbigniew Seifertに捧げたナンバーです。作者自身のトリオアルバム「Elm」で聴くことが出来ます。ここでのAndyは曲の構造を徹底的に分析し、複雑なコード進行を微に入り細に入り解析し、Richieとはまた異なる解釈で深遠なハーモニーと美の世界を表現しています。左側にはRichieは居ないはずなのですがDuo時の耳、感性がそのまま継続しているのか、かなり高音域を多用しているように聴こえます。2人のオリジナル曲の録音終了後、その出来栄えからさぞかしお互いの音楽性を称え合ったことと思います。ピアニストが2人同じ現場に居合わせて共演する機会は稀有でしょうし。

画像11


8~11曲目はBill EvansへのトリビュートとなるThe Town Hall Concert、4曲ともBillのナンバーです。8曲目となるPrologueはRichieが高音域、Andyが低音域を受け持ちます。かなりマニアックな選曲、でもBillから影響を受けたピアニストやファンには堪りません!メロディを奏でるRichieの音色も心なしかBill寄りに聴こえます。

画像12


9曲目Story Line、Andyが高音域、低音域をRichieが演奏します。インテンポになってからの2人のソロのトレードが実にスリリングです。ここでのAndyのソロラインからBillのテイストが聴こえてきます。
10曲目は哀愁感満載の魅力的なメロディ、コードの流れを持つ美しいバラードTurn Out The Stars。Richieが高音域、Andyが低音域を受け持ちます。ミディアムテンポでのRichieのソロ、物凄い事になっています!この音の粒立ち、音色、タイム感での高速プレイは超人的、でも決してテクニックのオンパレードにならないところが素晴らしいです!はっきりとしたメロディはソロ後に登場します。
11曲目最後を飾るのは文字通りEpilogue、両者随時入れ替わりの演奏、テーマのメロディのモチーフを効果的に用いた、こちらの応酬もとんでも無いですね!エンディングはRichieが高音域、Andyが低音域で締めます。

いいなと思ったら応援しよう!