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Bluesy Burrell / Kenny Burrell with Coleman Hawkins

今回はギタリストKenny Burrell62年9月レコーディングのリーダー作「Bluesy Burrell」を取り上げたいと思います。名テナーサックス奏者Coleman Hawkinsが7曲中4曲フィーチャーされています。

Recorded: September 14, 1962 at Van Gelder Studios, Englewood Cliffs, NJ Label: Moodsville Producer: Ozzie Cadena
g)Kenny Burrell ts)Coleman Hawkins(tracks 1, 4, 5 & 7) p)Tommy Flanagan b)Major Holley ds)Eddie Locke congas)Ray Barretto
1)Tres Palabras 2)No More 3)Guilty 4)Montono Blues 5)I Thought About You 6)Out of This World 7)It’s Getting Dark

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Kenny Burrellは31年7月生まれ、現在も精力的に音楽、教育活動を展開しているギター奏者です。リーダーアルバムを70作以上リリースしている多作家で、本作は彼の18作目に該当します。本Blog今年の1月に投稿したJoe Hendersonの「Canyon Lady」の際にも本作を紹介しましたが、冒頭ラテンの名曲Tres Palabras収録が共通し、演奏形態は全く異なりますがいずれも心に残る名演奏です。本作ではColeman Hawkinsをソロイストとしてフィーチャーしつつ、他の収録曲もソロギター、ギタートリオ、カルテット、コンガをフィーチャーした演奏、Major Holleyのスキャットなど、バラエティに富んだ作品でBurrellの代表作の一枚に挙げられます。

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本作録音の1か月前、62年8月録音のHawkins作品「Hawkins! Alive! at the Village Gate」は彼のカルテット名演奏として誉れ高いライブ作品ですが、メンバーが本作と全く同じで、Burrellと曲によりコンガ奏者Ray Barrettoが参加した形になります。

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ジャズ史において既存のバンドやメンバーにちゃっかりとヤドカリのように(笑)加わって、作品を録音した例は過去にもありますが、例えば以前Blogで紹介したDizzy Reeceの「Comin’ on!」でのArt Blakey & the Jazz MessengersのリズムセクションArt Pepperの代表作「Meets the Rhythm Section」で当時のMiles Davis Quintetのリズムセクションの起用Joe Hendersonと同じくMilesのリズムセクションだったWynton Kelly Trioとの共演作「Four」「Straight, No Chaser」の2作。既存のバンドのメンバー、しかも経験豊富にして高度な音楽的レベルを有するリズムセクションと、同じく優れたフロントが共演するのは往々にして功を奏し、レギュラーとは異なったテイストの演奏を展開します。違った個性同士がケミカルに作用するのでしょう。

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Hawkinsは62年にこのカルテットのメンバーで他に4作、合計5作(!)の録音、リリースを行っています。1月録音「 Good Old Broadway」、3, 4月録音「The Jazz Version of No Strings」、4月録音「Coleman Hawkins Plays Make Someone Happy from Do Re Mi」、前述の8月録音「Hawkins! Alive! at the Village Gate」があり、9月録音「Today and Now」。同一メンバーで年間5作という多作を許されるのはリーダーは勿論、バンドの演奏も素晴らしいが故。ミュージシャンの人気、人望も必須ですが作品が売れ、レコード会社として採算が取れるからです。多くの作品をリリース出来たのは時代が良かったのもありますが、今では夢のような話です。

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62年の録音Hawkins絡みの6作、ピアニストは全てTommy Flanaganという事になります。そしてBurrellにとってもFlanaganはファーストコール、お抱えピアニストとして数多くリーダー作に於いて彼を招き、共演しています。記念すべきファースト・アルバム56年5月録音「Introducing Kenny Burrell」からの付き合いです。

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Flanaganには絶大な信頼をおいていたのでしょうし、彼もそれに応えるべく本作でも眩いばかりにキラキラと光るタッチと、スリルに富んだアドリブライン、バッキングを自由奔放に聴かせています。

それでは収録曲に触れて行きましょう。1曲目Tres PalabrasはWithout Youという英語のタイトルが付けられたナンバー、その名の通り愛の唄ですね。Cuba出身の作曲家Osvaldo Farresのナンバーで、彼は他にもQuizás, Quizás, Quizásという名曲も書いています。Flanaganの弾く印象的なラテンのパターンからイントロが始まりますが、4拍目と1拍目に弾くベースのビートの力強さ、ドラムEddie Lockeはブラシを用い、Ray Barrettoが刻むクラーベのリズムと合わさり、ラテンのムードを醸し出しています。ジャズ屋のラテンですので(笑)、本職のラテンミュージシャンと異なり(彼らの8分音符は実にイーヴンです!)、8分音符がどうしても微妙にバウンスしています。味と言えば味なのですが。テーマはBurrellが奏でますが、実に音楽的です!微妙な強弱、ダイナミクスを伴い、細部に至るまで徹底した美学、歌心を感じさせます。それにしてもグッとくる美しいメロディですね!ソロの先発はFlanagan、イヤーこれまた素晴らしいアドリブです!まず感じるのは使う音のチョイス、そのセンスの良さです。緊張感を伴ったテンションの数々、そしてアドリブのストーリーを構築するにふさわしい、スパイスとなり得るラインの数々、メリハリの効いた様々な譜割から成るフレージングのバリエーション、巧みな歌い回しに聴き惚れてしまいます!Burrellのソロが比較的ダイアトニックで、コードに対してどちらかと言えばインサイドなアプローチが多いので、自分とは異なるFlanaganのプレイにさぞかし興味〜憧れ〜畏敬の念を抱いていた事でしょう。続くHawkinsのソロはまずテナーサックスの音色に惹かれます!ジャズテナーの開祖としての貫禄、風格を感じますが、一体こんな音はどうやったら出せるのかとも、考え込んでしまいます(汗)。ここではBenny GolsonやEddie “Lockjaw” Davisを感じさせるアプローチが聴かれますが、いや、出典はその逆でしたね!失礼しました!(笑)。Hawkinsの8分音符はCharlie Parker以前のスタイルなので、かなりイーヴンです。そういった意味ではラテンに向いているノリかも知れません。独特なラインの連続によるソロですが、深いビブラートとサブトーンを活かしつつ、豪快に歌い上げています。その後のギターソロは何処を切ってもBurrell印の巧みなソロ、正確なピッキングと端正な音符、おおらかな歌い方、ジャズギターの先駆者にして規範たるべき演奏です。ラストテーマに突入し、エンディングはイントロのパターンが再利用されます。
2曲目はスタンダード・ナンバーからNo More、Billie Holidayの名唱があります。2分弱の全編ソロギターでの演奏ですが、美しさと優雅さを感じさせ、巧みなコードワークが光っています。
3曲目もスタンダード・ナンバーGuilty、こちらはギタートリオでの演奏になります。ギターはイントロを含めた早い時点から倍テンポを感じさせる弾き方ですが、リズムセクションはバラードに近いミディアム・スロー感をキープ、テーマ後ソロに入りしっかり倍テン感をアピールし、ドラムが追従します。ベースは2ビートフィールですが、倍テンのグルーヴを感じさせるアプローチで対応しています。サビの最後はBurrell早弾きを披露し、ラストのAメロはリズム隊が次第にバラードに戻リ、コードワークが凝ったカデンツァを経てFineです。
4曲目はBurrell作曲のナンバーMontono Blues、先発にHolleyの登場です。ベースのアルコとハミングのユニゾンによるソロ、彼の十八番の奏法ですが何度聴いても素晴らしいですね!良い音です!Slam Stewartがこの奏法の先輩格にあたります。何とこの二人の共演作が2作あるのですが、文字通りダブルベースです(爆)!1作目は入手困難なので2作目の方をご紹介しましょう、81年録音「Shut Yo’ Mouth!」。Stewartの方はオクターブ高くハミングし、Holleyがベースと同じ音域でのハミングなのでその対比も面白く聴こえます。

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続いてHawkinsのソロはリラクゼーションに満ちた語り口、スケールの大きさを感じます。この音色は間違いなくダブルリップ奏法による、ルーズなアンブシュアでなければ得られません!その後ギターとテナーのバトル、互いのフレーズを拾い合い、「おお、そう来たか、じゃあこんなのはどうだ?」的なカンバセーションを聴かせています。最後はFade OutでFineです。
5曲目はバラードI Thought About You、ユニークな構成による演奏です。冒頭Hawkinsのソロから始まり、テーマを演奏するのはBurrellのギターの方、Hawkinsはそのまま残って随所にオブリガードを入れていますが、Hawkinsのアプローチは一切原曲のメロディを感じさせないのが逆に新鮮です。テーマ後ソロは半コーラスHawkins、付帯音の権化のような深い音色、サブトーンの巧みさには楽器調整が完璧に為されている事まで伝わってきます!調整不足で何処かキーが空いていたら安定してサブトーンは出ず、自在にコントロール出来ませんから!その後ギターも半コーラス流麗にソロを取り、ラストテーマはHawkinsによる一瞬テーマのメロディを感じさせる風のプレイ、でもやはりBurrellが被さるようにテーマを演奏し、ラストはトニックを吹いたHawkinsにやはり被さり、Ⅳ-Ⅶ-Ⅲ-Ⅵ-Ⅱ-Ⅴ-Ⅰと遠いコードから巡りルートに落ち着きました。それにしてもHawkinsはI Thought About Youのメロディを殆ど知らないのでは?とも演奏から感じましたが、録音前に「Hey, Bean(Hawkinsのニックネーム)、I Thought About You演奏するけどテーマ演奏して欲しいんだ」「Kenny, 悪いけど俺は全然知らないんだよ」「Really? じゃあ僕がテーマを弾くからオブリとソロを頼むね、コード進行は大丈夫かな?」「Yeah, 耳で感じ取るからさ」「OK, Bean!」のようなやり取りがあったと勝手に想像しています(爆)。
6曲目はスタンダード・ナンバーからOut of This World、ギター、ベース、ドラム、コンガのカルテット演奏です。小洒落たラテンのアレンジが粋な雰囲気です。ギターによるテーマ奏も肩肘張らないリラックスしたムードが曲調と良く合致しています。ブレークからソロに入り、ベースがスイングビートになりますが、ドラムとコンガはそのままラテンのリズムをキープしており、ユニークなグルーヴが展開されます。カルテットの筈でしたが、ピアノがバッキングでギターソロの途中から参加します。でも何故か途中で止めています。流麗でスインギーなギターソロが聴かれ、その後ギターとコンガの8小節バースが行われ、巧みなコンガソロが聴かれます。Barrettoはこの頃スタジオミュージシャンとして活躍し、Prestige, Blue Note, Riverside, Columbiaといった名門ジャズレーベルのハウス(お抱え)・パーカッション奏者として演奏していました。時代の先駆者はNew Yorkのラテンシーンの第一人者となり、その後は自ずと米国を代表するパーカッショニストとして、その名を轟かせる事になります。ラストテーマに突入し、エンディングのフェードアウト時に再びピアノがバッキングで加わっています。Flanaganに好きにやらせているBurrellも大物ですが、Flanaganは割と気まぐれなのでしょうか?(笑)
7曲目はBurrellのオリジナルIt’s Getting Dark、録音中に日が暮れて来たのでしょうね、きっと。フォームはブルースです。フルメンバーが揃い、ギターがブルージーなテーマを演奏します。ソロの先発をHawkinsが務め、スタイルとしてBopでもない、もちろんHard Bopのテイストは微塵もない、Swing?中間派?いえいえ、Coleman Hawkinsそのもの、の演奏を聴かせます。2番手はBurrell、Hawkinsの時とは一転してFlanaganがBurrellをバックアップすべく、リズミックなアプローチでサウンドを作ります。ギターソロの最後のフレーズを受け継ぎ、ピアノのソロが始まります。ここでもFlanaganはコードの奥に潜んでいる効果的な音使い、テンションを巧みに引き上げて用い、他とは違うテイストを聴かせています。ラストテーマは再びギターが演奏しますが、Hawkinsが離れた所からスネークインしてオブリを入れています。

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