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Rough‘n Tumble / Stanley Turrentine

今回はテナーサックス奏者Stanley Turrentineの1966年録音リーダー作「Rough ‘n’ Tumble」を取り上げたいと思います。

Recorded July 1, 1966 at Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ Label: Blue Note 84240 Producer: Alfred Lion
ts)Stanley Turrentine tp)Blue Mitchell as)James Spaulding bs)Pepper Adams g)Grant Green p)McCoy Tyner b)Bob Cranshaw ds)Mickey Roker arr)Duke Pearson
1)And Satisfy 2)What Could I Do Without You 3)Feeling Good 4)Shake 5)Walk On By 6)Baptismal

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60年代中頃Blue Noteに残されたTurrentineの作品は佳作揃い、個人的にも愛聴盤が多いです。以前当Blogで取り上げた「The Spoiler」は本作の2ヶ月後に録音された、ほぼ同一の楽器編成、メンバー、Duke Pearsonのアレンジが施された続編的な内容、選曲の作品になります。自らもホーン・セクションの一員として参加しつつ、例のTurrrentineにしか出せない魅惑のテナーサウンドを駆使して(本人にとってはおそらく鼻歌感覚でしょうが)華麗にメロディを奏でています。

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後年2007年のリリースですが67年録音の作品「A Bluish Bag」。

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08年リリース同じく67年録音の作品「The Return of the Prodigal Son」(放蕩息子のご帰還〜凄いタイトルです!)。

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こちらは68年録音、リリースのBurt Bacharach特集「The Look of Love」。

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いずれの作品もOctet, Nonet, Tentetといった大編成でTurrentineの持ち味をよく理解したPearsonの名アレンジにより、ジャズのスタンダード・ナンバーからAntonio Carlos Jobim, Burt Bacharach, Lennon-McCartney, Aretha Franklin, Henry Mancini, Ashford-Simpson, Ray Charles, Sam Cooke等のポップス、R&Bの名曲をジャジーに、ゴージャスに演奏しています。演奏者全員がジャズプレーヤーであるため、リズムやグルーヴに多少の違和感はありますが、そこがまた味になっていると解釈しています。

これらの編成にさらにオーヴァー・ダビングですがストリングス・セクションが加わった作品が68年録音「Always Something There」です。

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ストリングス・セクションが加わった事により、一層豪華なサウンドを楽しむ事が出来る作品となりました。Turrentineの演奏はワンホーン・カルテットでも十分に素晴らしさを発揮しますが、ホーン・セクション、ストリングス・セクションが加わる事により、パワーブーストされた如くテナーサックスの魅力が何倍にも増幅されるのです。でもどんなプレイヤーでも編成が増え様々な楽器が加わる事で魅力が拡大するとは限らず、人によっては演奏が単に繁雑になるだけの結果を迎える場合もあります。Turrentineは持っている器の大きさ、許容量が半端ない演者なので、大編成で自身の魅力が輝くのです。この豪華な編成によるテナーサックス・フィーチャリングの演奏、他のプレイヤーで思い出すのがMichael Brecker晩年2003年録音、リリースの作品「Wide Angles」です。この作品は04年グラミー賞ベストラージジャズアンサンブル・アルバムを受賞しました。

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Quindectet(造語です)〜15人編成による作品、Michael本人とGil Goldsteinのアレンジ、楽器編成は4リズムに加えてperc, tp, tb, fr-horn, oboe, b-cl, alto-fl, violin×2, violaそしてMichaelのテナー合計15人編成、アルバムではアレンジのみ担当で楽器演奏はしていなかったGoldsteinが、日本公演ではピアノとアコーディオンを演奏、一人増えて16人編成となりました。メンバー紹介時にステージ上のミュージシャンから「ひとり増えたのならQuindectetじゃないわよね?」なんて言葉も聴こえて来ました。究極のエンターテイメント・ラージ・アンサンブル集団として日本でツアーした事が今となっては夢のようです。金管楽器、弱音系木管楽器、弦楽器によるオーケストレーションと素晴らしい楽曲、緻密にして華麗なアレンジが光るアンサンブル。Michaelのテナーサックスは一人で何人分ものプレイを聴かせますが、本作や来日公演ではMichaelを音楽的、人間的に尊敬している、彼のことを大好きな共演ミュージシャン達の素晴らしいサポートにより、半端のないパワープレイを体験するする事ができました。

余談ですがMichaelのマネージャーDarryl Pitt(彼はMichaelの専属カメラマンでしたが、Depth of Field〜被写界深度〜という名前の音楽事務所を立ち上げ、Michaelを専属タレントとして擁していました)とQuindectet来日時に会い、「Wide Angleって名前の作品なのにWide Angelって勘違いする人が多くてさ」と言いながら背中の大きな翼を両腕で表現し、「どれだけ大きな天使の翼なのかな」と笑いながら話していました。さすがMichaelと付き合いの長い方、洒落っ気たっぷりです!

60年代のBlue Note Labelは10名以上の素晴らしいテナーサックス奏者を自社アーティストとして抱えていました。Dexter Gordon, Joe Henderson, Wayne Shorter, Hank Mobley, Sam Rivers, Tina Brooks, Ike Quebec, Fred Jackson, Don Wilkerson, Tyron Washington, Harold Vick, Charlie Rouseたちですが、Turrentineだけが破格の扱いでこのような大編成によるポップス路線を歩むことが出来ました。大編成のレコーディングには圧倒的に経費がかかるので、ペイ出来る試算が無ければなりません。これだけの数の作品を制作出来たからにはいずれもがそれなりにヒットしたのでしょう。Blue Noteの他楽器奏者を見渡してもTurrentine級の扱いを受けたミュージシャンはそれほど存在しないと思います。それだけ彼の演奏に魅力があった訳ですが、例えば他のテナー奏者にポップスやロックのメロディを吹かせてもそれなりの表現をするに違いありませんが、ひたすらジャズ演奏に終始してしまう事でしょう。Turrentineの本質は間違いなくジャズプレイヤーですが、ジャズ以外のジャンルの表現力、そのポテンシャルを半端なく持ち合わせているため、ジャズをルーツとしながらポップス、ロックのフィールドに誰よりも容易に入り込む事が出来ています。多くのオーディエンスを獲得したのも頷け、ジャンルを超えた表現者としてテナーサックスでは初めてのクロスオーバー、フュージョン・プレーヤーと言えると思います。ちょっと間違うと「歌のない歌謡曲」ならぬイージーリスニングに成り下がってしまう危険性を孕んでいますが、「魅惑のテナーサウンド」がしっかりと歯止めを掛けています。彼のテナーサックスの音色、ニュアンス、ビブラート、ほとばしる男の色気が特に黒人のおばさま達に絶大なる人気を博し、人気絶頂時にはコンサート、ライブで楽屋からの出待ちを受けていたそうです(爆)。おそらくJames Brown並みのアイドルだったのでしょう、おばさま達に揉みくちゃにされ、記念に持って帰ろうと髪の毛を抜かれていたのを目撃したという話も聞いたことがあります(汗)。

Blue Note Label後も様々なレーベルから大編成の作品を多くリリースし、「最も稼ぐジャズテナー奏者」として君臨したと言われています。

それでは収録曲に触れて行きましょう。1曲目はピアニストRonnell BrightのナンバーAnd Satisfy、ホーン・セクションとギターのメロディとの絡み具合が如何にもジャズロックと言ったナンバーです。続くTurrentineのメロディ奏にはおばさまで無くともグッと来てしまいます(笑)。改めてホンカー、テキサス・ファンクのテイストを感じますが、端々に聴こえるジャズフレーバーに彼でしか成し得ないバランス感を見い出すことが出来ます。続くBlue Mitchell、Grant Greenふたりのソロには逆にしっかりとジャズを感じました。ラストテーマ後ワンコードでシャウト・プレイ、何故にフェードアウト?もっと聴きたかったです!
2曲目はRay CharlesのナンバーWhat Could I Do Without You、素晴らしい選曲、Turrentineの持ち味にぴったりのラブソングです。全編吹きっきりの演奏、どこまでアレンジされているか分かりませんがMcCoy Tynerのバッキングが良い味を出しています。ブルースやR&Bのバンドで演奏活動をスタートさせたTurrentineの、ソウルフルなブロウを堪能できるテイクに仕上がりました。
3曲目は英国の作曲家Anthony NewlyとLeslie Bricusseのコンビによるミュージカル・ナンバーFeeling Good、本作録音の前年に初演され曲自体も様々なミュージシャンに取り上げられました。哀愁を感じさせるメロディをTurrentineが素晴らしいニュアンス付けで吹く、小気味好いミディアムのスイング・ナンバー、ホーンセクションのリフがソロ中を通して効果的に用いられています。ブルージーなバッキングを聴かせていたMcCoyがそのままソロに突入、曲想に合致したメロディアスなソロを聴かせます。ホーンセクションのインタールードに促されてラストテーマへ。ここでもアウトロでTurrentineのシャウトが聴かれますが、こちらも残念ながらフェイドアウト、多くのオーディエンスにアピールするためには盛り上がり切ってはいけないのでしょうね、きっと。ここまでがレコードのSide Aになります。
4曲目はSam CookeのヒットナンバーShake、こちらもTurrentineのR&B魂が発揮される演奏です。比較的低い音域でテーマを奏で、すぐさま上の音域でソロが始まります。おそらくCookeのオリジナル演奏のキーに合わせたのではないでしょうか、ホーンセクションのバックリフを受けながら気持ち良さそうにブロウしているのが伝わってくる演奏です。Greenのグルーヴィーなソロに続きラストテーマ、その後再びテナーソロになりますがフェードアウトは定番なのですね。
5曲目はBacharachの名曲Walk on by、McCoyが奏でるリフが可愛らしいです。Bacharach作曲のノーブルなメロディを本当に美しく吹けるジャズプレイヤーはTurrentineしかいないでしょう。おっと、Stan GetzのBacharach特集66,67年録音「What the World Needs Now」の存在を忘れていました。こちらもテナーサックスが演奏するBacharachメロディの名演集、本作と双璧をなす作品です。

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6曲目アルバムの最後を飾るのはJohn Hinesの作品Baptismal、この曲のみ異色な選曲ですが作品のスパイスになっています。Baptismalとはキリスト教の宗教用語で意味は洗礼式です。厳かな雰囲気の中に独特なカラーが光る名曲です。Turrentineの音色も一層輝く名演奏だと思います。


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