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Buster Williams / Something More

美しくて深い音楽、ベーシストBuster Williamsのリーダー作「Something More」を取り上げてみましょう。
New JerseyにあるRudy Van Gelder Studioにて1989年3月8,9日録音。
ドイツのIn+Out Recordsから1989年にまずレコードがリリースされ、後に1曲追加(7曲目I Didn’t Know What Time It Was)されてCDもリリースされました。
およそCD発売時の追加テイクに関しては残り物感が漂いますが、この作品では全く異なり、むしろ最重要な演奏曲です。演奏時間が14分28秒と長く、レコードでは時間の関係でやむなく収録を見合わせたように思います。CD化されて作品として完全な形になりました。

bass,piccolo bass)Buster Williams piano,keyboards)Herbie Hancock tenor,soprano sax)Wayne Shorter trumpet)Shunzo Ohno drums)Al Foster
1.Air Dancing 2.Christina 3.Fortune Dance 4.Something More 5.Deception 6.Sophisticated Lady 7.I Didn’t Know What Time It Was

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我々ミュージシャンの演奏を生かすも殺すも録音エンジニアの腕に掛かっていると言って過言ではありません。
この作品は内容の素晴らしさもさることながら、録音がとても素晴らしいのです。美しい音で良い演奏を楽しめるのは音楽鑑賞の原点です。
さすがBlue Note、Prestige、Impulse、CTI、ジャズ黄金期の名レーベルの録音を支えたレジェンド・エンジニア、Rudy Van Gelder(RVG)、そして自身のNew Jerseyにあるスタジオでのレコーディングです。各々の楽器の音色の美味しい成分、倍音成分、輪郭、雑味、音像の位置を的確に捉えたレコーディングに仕上がっています。
RVGは楽器の特性、音色の本質、ミュージシャンそれぞれの個性やスタイルによるサウンドの表現の違いや醸し出される音のどこに着眼すべきなのか、芸術的な領域まで理解しています。その意味ではもう一人の参加ミュージシャンと言えます。ミキシングの際の各楽器の配置、レイアウト、マスタリング時のサウンドの変化の度合いも全て見据えて録音に臨んでいるので、さぞかしミュージシャン達は自分の音をRVGに任せていれば安心、大船に乗った気持ちで演奏に専念することが出来た事でしょう。
60年代Blue Note Labelの諸作ではポータブル蓄音機やジュークボックスでのレコード再生を念頭に置いた、『凝縮された音質』での録音で、これらをCD化した際には多少違和感のある音質でしたが、本人RVGによる24bitデジタルマスタリングでかなりの高音質に変化しました。でも個人的には60年代Blue Note録音の再生はレコードに勝るものはありません。
80年代CDのデジタル録音が主流になってからもRVGはその手腕、他の追随を許さないセンス、生涯クオリティの高いレコーディングのするための研究を続けた情熱、実績から、録音エンジニアの第一人者の地位を確固たるものにしています。
ここでのWayne Shorterのソプラノサックスの深い音色が堪りません!もう何度も耳にしていますが聴く度にゾクゾク、ワクワクしてしまいます!誰も成し得ていない未知の領域の音色。いわゆる普通のソプラノサックスの音色とは全く次元が異なります。太くてエッジー、暗くて明るくて、ツヤがありコクを併せ持ちつつ、七色に刻々と変化するサウンドを完璧なまでに押さえています。

実はソプラノサックスを録音するのはテナーやアルトよりもずっと難しく、エンジニアの腕の振るいどころ、いや、むしろその逆で鬼門かも知れません。ソプラノのベル先端に1本、管体中程に1本、そしてソプラノの全体のアンビエント(雰囲気)を収録すべくもう1本、少なくとも合計3本のマイクを必要とし、収録の際の楽器とマイクの距離や位置、イコライジング、更には3本のマイクのバランスが大切なのです。以前取り上げたことのあるSteve Grossmanの「Born At The Same Time」のソプラノの録音はベル先端に1本のみ使用の音色に聞こえます。これはこれで迫力のある音色ですが、どこか「チャルメラ」っぽさは否めません。大雑把に述べるならばベルからの音は金属的な硬い成分、対する管体中程からの音がマイルドな美味しい成分と言えます。ソプラノRVGは特に管楽器、中でもテナー、ソプラノサックスの録音が特に上手いと思います。Blue Noteで何枚ものリーダー作を録音した名テナー奏者Stanley Turrentineをして、「僕の生音よりRudyの録音の方が全然格好良いよ」言わしめています。Sonny Rollins、John Coltraneに始まり、Eddie “Lockjaw” Davis、Illinois Jacquet、Tina Brooks、Dexter Gordon、Hank Mobley、Benny Golson、Willis Jackson、Joe Henderson、Sam RiversたちのRVGが手掛けたテナーの音色は、確かに本人達の生音よりも良いのかもしれません(笑)

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この頃のWayne ShorterはYAMAHA YSS-62ネック部分がカーヴしたストレート・タイプのソプラノを使用しています。YAMAHAからのエンドースではなくWayne本人がチョイスしたと言われています。マウスピースはOtto Link Slant、オープニングが10番と特注以外考えられない仕様のものです。因みにテナーのマウスピースもOtto Link Slant 10番。ソプラノMPはOtto Link本人に何本か作って貰ったそうで、複数本まとめた状態での収納されたケースを見た事がある人がいます。リードに関しては色々な種類を使っていたようで、この頃は何を使っていたかは確認できていませんが、後年Vandorenの3番を使っていた模様です。テナーはRicoの4番を使用していたので、ソプラノもひょっとしてRicoを使っていたのなら3番から3半の辺りと推測されます。
作品中2曲目のChristinaの演奏が真骨頂です。メロディ、コード進行の美しいBuster Williamsのオリジナル曲、まさしくWayne Shorterのソプラノのために書かれた曲と言えます。Buster Williamsのベースライン、Herbie Hancockのバッキング、YAMAHAのDX7と思しき?シンセサイザーのオーケストレーション、ドラムスAl Fosterのカラーリングが「さあ下ごしらえは出来上がった。Wayne、思いっきり歌ってくれ!」とばかりにバックアップしています。
タイトル曲のSomething Moreでも全く同様の事が言えます。因みにBuster Williamsは”Something More Quartet”というバンド名でリーダー活動を継続的に行なっているようです。メンバーは流動的ですが、フロントはアルトサックス奏者の場合が多いようです。

そしてそして、もう一曲Wayneのソプラノサックスが大活躍するテイクが、CD追加分のスタンダード・ナンバーI Didn’t Know What Time It Was。この当時はWayne がスタンダードを演奏する事自体が珍しかったのです。1960年代Art Blakey Jazz MessengersやMiles Davis Quintetで曲目限定ではありましたが、スタンダード演奏を聴くことが出来ました。その後Weather Reportや自分のグループでの演奏では全くと言って良いほどスタンダード・ナンバー演奏から無縁でした。
このRichard Rodgersの名曲をBuster Williamsが素晴らしいアレンジに仕上げました。ミステリアスなベースパターンに始まり、イントロほか随所にWayneが独り言を呟くようにユニークなブリガードを入れています。美しくて深い音色でこんな風にメロディを演奏されたら我々は成す術がありません(涙)。
それにしてもこのWayneのソロは一体何を考えているのでしょう??いわゆるジャズのインプロヴィゼーションで使われるリック(常套句)は用いられてもアクセント的に、異常なほどに研ぎ澄まされたメロディセンス、コード感から成り立つアドリブは、全てその場で自然発生的に生まれているに違いありません。このワンアンドオンリーぶりは他の追従を許すさず、そのためにWayne Shorterスタイルの後継者が生まれることを拒んでいます。

続くHerbieのピアノソロ、リーダーのベースソロ、ドラムスソロとこの曲の演奏者全員のアドリブがたっぷりと聞くことが出来、アルバムの大団円となります。

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