見出し画像

Les McCann Ltd. in New York

今回はピアニストLes McCannの61年ライブ盤「Les McCann Ltd. in New York」を取り上げてみましょう。

Recorded at the Village Gate in NYC on December 28, 1961 Label: Pacific Jazz / PJ45 Producer: Richard Bock
p)Les McCann ts)Stanley Turrentine tp)Blue Mitchell ts)Frank Haynes b)Herbie Lewis ds)Ron Jefferson
1)Chip Monck 2)Fayth, You’re… 3)Cha-Cha Twist 4)A Little 3/4 for God & Co. 5)Maxie’s Change 6)Someone Stole My Chitlins

画像1

CDにはボーナストラックとして3曲が追加されており1曲は収録当夜の未発表テイク、2曲は別日別メンバーによる演奏です。コンサートの全貌という意味合いを取り、当夜の演奏全6曲のみを紹介したいと思います。

現在83歳のLes McCann、若い頃に海軍タレント・コンテストの歌唱部門で優勝し、その所以で米国を代表するバラエティ番組であったThe Ed Sullivan Showにボーカリストとして出演したという異色の経歴の持ち主です。本作と同年に(前作に位置します)「Les McCann Sings」という、ビッグバンドを従え自身の渋いボーカルとピアノ〜弾き語りですね〜をフィーチャーした作品を録音しています。

画像2


世に名を残す男性ボーカリストたちに比べれば、ご愛嬌的な要素も感じる歌唱力ですが、持ち味の方はかなり良いところを行っていると思います。McCannのユニークなピアノスタイル、オリジナル曲の作風はこのボーカルに裏付けされているのでは、とも感じました。

McCannは59年録音初リーダー作「It’s About Time」(World Pacific)以降ピアノトリオやフロント楽器を交えた作品、ビッグバンド、Joe Passとのコラボレーション、The Jazz Crusadersとの共演作、Leader, Co-leader含めて現在までに55枚もの作品をリリースしています。その多くにリラックスしたエンターテインメント性を感じさせ、ビバップやハードバップを基本としていますが、とりわけゴスペルやR&Bのテイストを交えた音楽性が米国で絶大な人気を誇る所以でしょう。「 The in Crowd」が代表作のピアニストRamsey Lewisや以前Blogで取り上げた事のあるGene Harrisにも通じる音楽性です。Richard Teeを含めても良いかもしれません。60年代は自分のトリオを核として全米に限らず世界を股にかけた活動を展開し、69年にはMontreux Jazz Festivalでのテナー奏者Eddie Harris、トランペット奏者Benny Bailey2人のフロントをフィーチャーしたライブ録音「Swiss Movement」が大ヒット、収録曲Compared to Whatはシングルカットされミリオンセラーを記録し、その名声を不動のものにしました。Roberta Flack、Eugene McDaniel(Compared to WhatやFeel Like Makin’ Loveの作曲者)らを発掘した功績も大きく、ジャズのフィールドだけでは収まりきれない活動を展開し続けています。

画像3


本作は61年NYC Village Gateでのライブ演奏を収録した作品で、自身のピアノトリオ〜Les McCann Ltd.〜にフロント3人を迎えた編成です。それもテナーサックス奏者2人、トランペット奏者1人というユニークなもので、テナー奏者の1人がStanley Turrentineというのが最大の魅力です。McCannのリーダー作でTurrentineとの共演は本作のみ、多分に漏れずここでもOne & Onlyの素晴らしい音色、プレイを存分に聴かせています。McCannの演奏、音楽にはテナー奏者のフロントが合致するようです。Eddie Harris, Turrentineの他Teddy Edwards, Ben Webster, Harold Land, Wilton Felder, Yusef Lateef, Plas Johnson, Jerome Richardson… 参加したテナーマンを見渡すと、ホンカーテナー系統のスタイルが人選の際には必須条件のようです(笑)。

ちなみにTurrentineは本作参加の返礼としてか、本作ライブ5日後の62年1月2日に自身のリーダー作「That’s Where It’s at」(Blue Note)にMcCannを招いてレコーディングしています。McCannのオリジナルを4曲演奏していますが、こちらも素晴らしい作品です。

画像4


それでは収録曲に触れて行く事にしましょう。1曲目はChip Monck、本作収録曲は全てMcCannのペンによるものです。アップテンポのスイングナンバー、曲自体を構成する各パートいずれもが大変凝っておりさらにその組み合わせ、独自の曲想です。音量の極大から極小、ダイナミクスを存分に生かしつつ淀みなくアンサンブルする演奏から、ミュージカルのハイライト・シーン、ないしはアニメのテーマ曲、挿入歌をイメージさせます。ストップタイム、バックビート、ジャンプナンバーのようなグルーヴ、3管編成のジャジーな響き、総じてハッピーな雰囲気が前面に出ていつつもどこか哀愁を感じさせるバランス感は見事です。先発は一聴Turrentineと分かるコクのある豊かな響きを湛えたテナーソロです。構成の煩雑さに起因したのか単なるケアレスミスなのか、1’55″の辺りでTurrentineがリピートせず一瞬次(サビ)のパートのコード進行でフレージングし、「Ouch!」となりますが気を取り直して元の進行に戻ります。その後本来のサビに入る際、先程と全く同じフレージングで対処しているのでフレーズを用意していたのでしょう、きっと。Horace SilverのSister Sadieのような管楽器のバックリフが入り、2小節間のブレークになりますがカッコいい構成ですね!淀みなくソロが続き再びソロ中に管楽器のバックリフが挿入され計2コーラスのテナーソロ終了(1コーラスが92小節!とても長いのです!)、ピアノソロに続きます。ここでもソロ中の同じホーンアンサンブルでソロに景気付けがなされますが、こちらは1コーラスでラストテーマになだれ込みます。エンディングにもMcCannの美学が込められたアンサンブルパートが付加されてFineです。演奏内容も良いのですが、曲の構成がオーディエンスにアピールする要素てんこ盛り、曲だけでもワクワク状態、ゴージャスな装丁のお弁当ですが華美になり過ぎずとも人目を引き、思わず手に取り盛り付けカラフルで小鉢満載、味付けも大満足のご馳走、楽曲自体が聴かせてしまうタイプです。でもやはり曲の構成と難易度、シンコペーションを多用したシカケ、ダイナミクス、テンポ設定、ライブレコーディング、諸条件を乗り越えてギリギリの状態での完奏でした!
2曲目はバラードFayth, You’re… 実に美しいナンバーです。イントロでMcCannがピアノの弦を弾いて効果音を奏でていますが、61年のジャズシーンではかなり異色のプレイです。曲のメロディを吹くのは一聴Turrentine… ではなくもう一人のテナー奏者Frank Haynesです。こちらも魅力的なトーンの持ち主、前曲同様ダイナミクスが施され、バラードの美学が冴え渡ります。Haynes音の太さ、艶、色気はTurrentineに負けずとも劣らないのですが、深みや雑味、付帯音、音像の奥行き、サブトーンの巧みさが異なり、個人的にはTurrentineの方に軍配を挙げてしまいます。HaynesはMcCannが何度か共演したGerald Wilson Big Bandに所属していたテナーマン、本作ジャケットには名前がHainesと誤記されてのクレジット、ちょっと残念です。1’43″からTurrentineに交代し彼のソロが始まります。ステージ後方に位置していたのか、ややスネークインしての登場、濃密な音色とサブトーンで伸ばす音が消え入る時にかかる細かいビブラートがたまりません!その後ピアノのソロを経てHaynesの奏でるラストテーマ、ここでのメロディ奏も堂々たるものでHaynesソロはなくとも存在感を十分アピールしました。
3曲目はジャズロック仕立てのブルースナンバーCha-Cha Twist、ピアノのイントロから始まり、Blue Mitchellのトランペット・ソロが先発、リズムの雰囲気と曲のサウンドがいかにも60年代初頭を感じさせます。ドラムと一緒に1拍目頭、2拍目裏、4拍目表裏でずっと鳴っているカウベル、誰か手の空いているフロント奏者が叩いているのかと思いきや、続くTurrentineのソロの後ろで2管でのバックリフが演奏されるので、手が空いているフロント奏者がいないにもかかわらずカウベルが鳴っています。これはドラマーが叩いていましたね。田舎たいルーズな感じが本職の仕事のようには聴こえませんでしたので(汗)
4曲目は軽快なワルツナンバーA Little 3/4 for God & Co.こちらもなかなかの佳曲です。ソロの先発はHaynes、どうしてもTurrentineと比較してしまいますが、残念な事にここでは物足りなさを否めません。ゆっくりした演奏時には隠れていたものがテンポが早くなった事により、現れてしまいました。その後Mitchellのソロに続きTurrentineのソロはイケイケです!Turrentineに関しても音色、ニュアンス、ビブラートは天下一品、申し分ないのですが、タイムがもう少しだけタイトでレイドバック感が出ていれば僕には100%です!ピアノソロを経てラストテーマへ。エンディングはTurrentineがフィルインを入れつつ、後の二人がハーモニーを奏でます。
5曲目Maxie’s Change、ちょっとシャッフルがかったミディアムテンポのナンバー、どことなくArt Blakey and the Jazz MessengersでのBenny Golsonのナンバーをイメージしてしまいます。Turrentineここでも素晴らしい音色でホンカー的流麗なソロを聴かせ、Mitchell, Haynesとソロが続きます。ここでの音色を聴くとHaynesの使用マウスピースはTurrentineのOtto Link Metalとは異なり、ハードラバーではないかと想像しています。
6曲目Someone Stole My Chitlins、イントロはOn Green Dolphin Streetを彷彿とさせますが、本作中最もMcCannの左手がフィーチャーされたナンバーに仕上がっています。Richard Teeの左手も特徴的でしたね。トランペットのテーマ奏の後ろでテナー2管がトリルやハーモニーを演奏するのがカッコイイです。演奏中TurrentineがMcCann?に何かを促されて?ソロを途中で止めています。Mitchellのソロは相変わらずの堅実さを聴かせ、続くMcCannの左手は本領発揮!Haynesのソロ後にも左手旋風は止みません!ラストテーマは特に演奏されずピアノが強制終了させているかのようです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?