Weather Report / The Legendary Live Tapes: 1978-1981
今回はWeather Reportのライブ音源を集めた作品Weather Report / The Legendary Live Tapes: 1978-1981(Columbia)を取り上げてみましょう。CD4枚組の大変充実した内容です。(2015年リリース)
CD 1 – The Quintet: 1980 + 1981 1.8:30 2.Sightseeing 3.Brown Street 4.The Orphan 5.Forlorn 6.Three Views Of A Secret 7.Badia / Boogie Woogie Waltz 9.Jaco Solo (Osaka 1980)
CD 2 – The Quartet: 1978 1. Joe And Wayne Duet 2.Birdland 3.Peter’s Solo (“Drum Solo”) 4.A Remark You Made 5.Continuum / River People 6.Gibraltar
CD 3 – The Quintet: 1980 + 1981 1.Fast City 2.Madagascar 3.Night Passage 4.Dream Clock 5.Rockin’ In Rhythm 6. Port Of Entry
CD 4 – The Quartet: 1978 1.Elegant People 2.Scarlet Woman 3.Black Market 4.Jaco Solo 5.Teen Town 6.Peter’s Drum Solo 7.Directions
1978年、80年、81年のWeather Report黄金期、Jaco PastoriusとPeter Erskineが在籍していた時代の演奏で、Erskineが個人的にカセットテープで録音していたものを編集しデジタル化しリリースしました。プロデュースもErskine自らがつとめています。すべての作品の録音やクオリティに徹底的にこだわったWeather Reportにしてはカセット音源だけに録音の音質〜かなり巧みにデジタル・マスタリングを施してありますがヒスノイズやドンシャリ感〜、臨場感の粗さ、アルバム構成に際してのラフさは否めませんが、それらを補って余りある演奏のクオリティの高さが驚異的、改めてWeather Reportは本質的にライブバンドであった事を認識させてくれます。Jacoの絶頂期を捉えたドキュメンタリーと言う側面もある作品です。
78年の演奏はJoe Zawinul(key) Wayne Shorter(ts,ss) Jaco Patorius(b) Peter Erskine(ds)のカルテット、80年81年はRobert Thomas, Jr.(perc)が加わりクインテット編成での演奏になっています。
こちらは2002年にリリースされたオフィシャルな未発表ライブ音源を集めた2枚組CD「 Weather Report Live & Unreleased」。Joe Zawinul~Wayne Shorterの双頭を軸に75年のAlphonso Johnson(b)、Alex Acuna(ds,perc)、Chester Thompson(ds)、Manolo Badrena(perd)、そして78年〜80年Jaco~Erskineのコンビはもちろん、それ以降83年Omar Hakim(ds)~Victor Bailey(b)のリズムセクションでの演奏も収録されており、集大成的な作品です。
「The Legendary Live Tapes」と同じカルテット編成で78年にライブ録音、翌79年にリリースされたWeather Reportの代表作「8:30」、同年のグラミー賞を受賞しました。おそらくベストテイクを厳選し曲順や構成を徹底的に練っています。ちなみにプロデュースはZawinulとJacoの2人でShorterは加わっていません。
上記2作のライブ盤はフォーマルな作品としてリリースされているので、ライブ演奏でも「おめかしした」「デコレーションされた」表情を見せていますが、「The Legendary Live Tapes」の方は「すっぴんの」「生身の」「ライブ演奏の赤裸々な面」をとことん聴かせてくれています。このCDがリリースされたお陰でWeather Reportのヒューマンな側面をしっかりと感じ取ることが出来ました。
スタジオ録音やオフィシャル・ライブ演奏では聴くことの出来ないギラギラ感、崩壊寸前にまで達する演奏のテンション、インタープレイ、先鋭的な音楽をクリエイトしようとする容赦なき創造意欲、チャレンジ精神。間違いなくJacoの演奏がバンドの推進力となり、他のメンバーを強力にインスパイアし、恐ろしいまでに美しくエネルギーに満ちた前人未到の音楽を演奏しています。
JacoがZawinulに初めて出会った時に「俺の名前はジョン・フランシス・パストリアス3世で、世界最高のエレクトリック・ベース・プレイヤーなんだ」といきなり自己紹介した話は有名です。始めは相手にしていなかったZawinulも次第に彼に興味を持ち始め、当時Weather Reportに在籍していたAlphonso Johnsonが抜けることになった際、後釜でJacoを参加させることにしました。Alphonso Johnsonも素晴らしいベース奏者ですが、Jacoの演奏は更なる境地へ進まんとしていたWeather Reportに全く相応しい音楽的な起爆剤となりました。適材適所とはまさしくこのことです。それにしてもJacoがジャズ界に出現してから40年強、実際のところ彼を超えるベーシストは未だ現れていません。
ところでCDの78年のカルテット演奏で6月28日のテイクが4曲収録されていますが、実はたまたまその場に居合わせていました。
場所は今はなき新宿厚生年金会館、当時の外国人ジャズミュージシャン生演奏の殿堂です。現在進行形の最先端を行っていたフュージョンバンドWeather Report、未だ見ぬ生Jaco Pastoriusを体験しに、動くWayne Shorter、Joe ZawinulとPeter Erskineを拝みに行くべく、聴く気満々で会場入りしました。
超満員の新宿厚生年金会館大ホール、今か今かとWeather Reportの登場を待ちわびています。幕が開く前から開演の狼煙を上げるべくシンセサイザーのSEが厳かに鳴り響き始めました。そして開幕です!会場割れんばかりの拍手を受け、4人のメンバーの登場です!印象的なベースのパターンからすぐに演目はShorterのElegant Peopleと分かりました。作曲者本人のエグくて極太の個性的なテナーのメロディ演奏、物凄い音色です!あれ???でも何か変です??何かが足りないのです?それは開幕前には鳴っていたはずのZawinulのシンセサイザーがコンサートが始まっているにも関わらず全く音無しなのです!!Zawinul周囲の膨大なシンセサイザー、キーボード、フェンダーローズ類をスタッフが慌てて取り囲み始め、懸命に対処していますが一向に機材が音を出す気配はありません!それに反するかのようにZawinulの怒号が聞こえます!この騒ぎを尻目に何とShorter、Jaco、Erskineの3人の演奏はめちゃくちゃ盛り上がっています!一般的にミュージシャンはイレギュラー、ハプニングがあればあるほど燃える人種です!当然の出来事でしょう、本気でハプニングを楽しんでいます!「うわー、カッコいい!」この機材トラブルによる思いがけないプレゼントに僕自身も興奮し、束の間このZawinul不在Weather Report Trioを楽しむことが出来ました。しかし無粋なことに盛り上がりに反してステージの幕がゆっくりと降り始めます。「えっ、なんで?どうして?」聴衆全員が感じたことと思いますが、完全に幕が閉まってからも3人は演奏を続けています。会場の手拍子もいちだんと激しくなっています。聴衆から笑い声さえ発せられています。「だったら幕を開けてちゃんと聴かせてよ!」と感じ始めた頃に次第に演奏が静かになりフェードアウト〜無音状態、ついに幕内で行われていたスペシャル・コンサートも終演となりました。
しばしの沈黙の後、アナウンス嬢による案内が流れ始めました。舞台裏もさぞかし取っ散らかっていたのでしょう、伝説的なメッセージがこちらです。「ご来場のお客様にお詫び申し上げます。只今機械の故障が悪いため、もう暫くお待ちくださいませ」そうか、機械の故障が悪いのなら仕方ないか、と妙な納得をしたのを覚えています(笑)。
それからどのくらい経ったでしょうか、ステージ再開の運びとなり開幕し再度Elegant Peopleが、今度はもちろんシンセサイザー、キーボードのサウンド付きで(笑)演奏されました。でも先ほどまでのバンドのテンションは何処に行ってしまったのでしょう?と感じたオーディエンスは僕だけではないと思います。
そりゃあそうですよね、機材トラブルで中断したコンサートをまた当初予定の1曲めから演奏してもプレイヤー自身気持ちは入り難いですよね。当夜はクオリティ的には何ら問題のない通常のWeather Report Concertでしたが、冒頭のトラブルが無ければ更に充実した内容のコンサートになったのでは無いでしょうか。(我々はこの事を「羽黒山・月山・湯殿山=出羽三山〜出は散々」と呼んでいます…失礼しました!)