見出し画像

All the Gin Is Gone / Jimmy Forrest

今回はテナーサックス奏者Jimmy Forrest1959年録音65年リリースのリーダー作「All the Gin Is Gone」を取り上げてみましょう。

Recorded: December 10 & 12, 1959 Released: 1965 Studio: Hall Studios, Chicago Label: Delmark
ts)Jimmy Forrest g)Grant Green p)Harold Mabern b)Gene Ramey ds)Elvin Jones
1)All the Gin Is Gone 2)Laura 3)You Go to My Head 4)Myra 5)Caravan 6)What’s New? 7)Sunkenfoal

画像1


自作の名曲Night Trainを51年にレコーディング、52年3月にBillboard R&B chartで1位を記録した事でその名を馳せたForrestです。他にも数曲チャートを賑わせるヒットを出しました。Night Trainはその後Louis Prima, Oscar Peterson, James Brown, Count Basieら大物ミュージシャンによってもカヴァーされています。Forrestは20年St. Louisで生まれ、40年代はJay McShann, Andy Kirk, 50年代初頭にDuke Ellington, 70年代に入りCount Basieの楽団に在籍し、自己のバンドや Harry “Sweets” Edison, Al Greyのスモール・コンボでも活躍しました。ジャズフィールドでの活動がメインでしたが、演奏家としてはストレート・アヘッドと言うよりも、いわゆるホンカーとしてのテイストが育まれたと思います。他の作品もホンカーが全面に出たものが中心で、60年録音オルガン奏者Larry Youngを迎えた「Forrest Fire」、61年若きJoe Zawinullが参加した「 Out of the Forrest」等のリーダー作があります。遡り52年Miles Davisとの共演を果たした「Miles Davis / Jimmy Forrest Live at Barrell」ではホンカー寄りのビ・バップスタイルでMilesと丁々発止のやり取りを展開しており、Milesとはスタイル的に興味深い対比を示しています。

画像2

画像3

画像4


60年9月録音Forrestの他Oliver Nelson, King Curtis(!)のテナー3管による作品「Soul Battle」、こちらではNelsonの知的で端正なアレンジに加え名手Roy Haynesが3者の良き仲介役となり、テナー衆は互いをリスペクトしつつ、バランスの取れた小気味良い、しかし白熱したバトルを堪能する事が出来ます。

画像5


彼自身の活動期間としては40年代全般からその後51〜2年(Night Trainの当たり年)、60年代初頭、70年代中頃から80年に没するまでと断続的で小刻みになりますが、家庭の問題、健康面、様々な事情があったからでしょうか。ひょっとしたら大ヒットを出して経済的に豊かになり、ハングリーさを欠いたためにシーンからリジェクトされた可能性もあるかも知れません。豪快で華々しいブロウには多くの聴衆にアピールする魅力があったので、継続的な音楽活動が行われていればホンカー・テナーを代表する一人に君臨していたと思います。

本作はElvin Jones, Grant Green, Harold Mabernら当時の若手、今となっては各楽器のレジェンドを擁し、Forrestのスインガー振りを発揮させることに成功しています。ディスコグラフィーを紐解くとNight Train以来のリーダー・レコーディングと言う事になり、実質の初リーダー作に該当します。ForrestはNight Trainに乗って(笑)ホンカーとしてシーンに登場した感があり、本作はストレート・アヘッドな作品に仕上がったために市場での需要を考慮して発表を差し控え、ほとぼりが冷めた65年にリリースされたのでは、と考えています。ForrestとSt. Louis同郷のGreenにとっては初レコーディングに該当します。LPレコードでリリースされたオリジナルのジャケットにはジャズっぽいテイストのイラストで二人が描かれており、当時の新進気鋭のギタリストとしてフィーチャーされていたのでしょう。

画像6


それでは演奏に触れて行きましょう。1曲目表題曲All the Gin Is Gone、Forrest作のアップテンポ・ナンバーです。ピアノとドラムのイントロからForrestによるシンコペーションのメロディがリズミックで印象的なテーマ奏、いきなり素晴らしい音色の登場です!ホンカーの必須条件として豪快なテナーのトーンを有する事が挙げられると思いますが、まさしく太くて味わいのある魅惑的な音色です!使用楽器はSelmer Super Balanced Action、マウスピースはOtto Link Metal、恐らくDouble Ring Modelと思われます。そしてスインギーなレガートでビートを刻むのはElvin Jones、本作録音59年12月はJohn Coltraneのバンドに参加したての頃になります。彼から音楽についてを学び始めたばかりでElvinの強力な個性は未だ発揮されてはいませんが、グルーヴ、フィルインにはその明確な萌芽を聴き取ることができます。Forrestのソロですがこれはどこから聴いても正統派ジャズマンのアプローチで、ホンカーの匂いは払拭されています。強いて述べるならばソロの短さ、もう少し長いストーリーを提示して欲しかった事と、タイム感がon topでリズムがラッシュしている点ですが、スピード感に満ちた演奏とも言えなくもありません。このノリから察するに、彼は普段このテンポの4ビートを演奏する機会をそうは持たなかったでしょう。続くGreenのソロは後年のスタイルをしっかり感じさせる、シングル・ノートでのスインガー振りを提示しています。Mabernのピアノソロもグルーヴィーです。ForrestとElvinの4バースに続きますが、一層拍車がかかったリズムのラッシュにElvinは確実に対応しキープしているのに対し、ベースのRameyはかなり様子を伺いつつ演奏しているように見受けられます。もっともElvinとのドラムバースにベーシストは誰もが苦慮していますが。
2曲目はスタンダード・ナンバーLaura、Charlie Parkerの名演が有名なバラードですがここではミディアム・スイングで演奏されています。イントロに続くサブトーンを効かせたメロディ奏、グッと来ますね、素晴らしい!優雅な雰囲気の曲での益荒雄振り、大きく長いストーリーを唄うかの如き表現です。後半に行くに従いtoo muchな表現もありますが、そこはホンカーゆえと解釈しましょう。コードに対するアプローチは実に巧みで、普段からインプロヴィゼーションの研究を怠らないプレーヤーなのでしょう、前述のMilesとの共演盤の演奏でも同様の認識を持っています。続くGreenのソロはまるでもう一人管楽器奏者がいるが如きホーンライクなアドリブを聴かせます。コードを一切弾かないギタリストですから当然なのですが、明らかに管楽器のそれを意識しています。彼らをサポートするElvinのドラミングは3連符を多用した実にアクティヴなものです。ピアノソロで瞬時にブラシに持ち替えますが、ブラシ・ワークがまた的確で既に名人芸の域にあり、そのままラストテーマを迎えます。
3曲目はオリジナルLPに未収録のテイクYou Go to My Head、こちらはバラードで演奏されますがForrestのサブトーン全開です!Low C音の凄みと言ったら!この人は楽器を大変巧みに操り、表現の幅もそれは豊かですが、テナーを吹いているとひたすら熱くなり、そのまま一本調子になる傾向があります。だからホンカーなのだろう?違うか?と言われそうですが(笑)、出すところと抑えるところのメリハリが確実にあるのがジャズプレーヤーなのだと、実はここで再認識させられました。その後のピアノソロでMabern美しいタッチを聴かせます。ラストテーマではForrest、より深いビブラートを聴かせてくれます。
4曲目Forrestのオリジナルでブルース・ナンバーのMyra、裏拍のアクセントを多用しグロー・トーンでテーマを演奏すれば、これはもはやジャンプ・ナンバーです!Forrestも隠し持っていたホンカー魂を全面に掲げブロウ、続くGreenのソロは淡々とフレーズを爪弾き、我が道を行くが如きです。Mabernのソロは曲調に合致したテイストを表現すべく奮闘しています。その後ForrestとElvinの4バースが再び、こちらはテンポの関係か1曲目よりもスムーズにやり取りが行われています。ここで聴かれるドラムのフレーズは後年よりもずっとオーソドックスで、かなりアプローチが異なったものになります。Elvinもわずか数年で演奏が大きく変貌を遂げ成長した事を実感しました。
5曲目はForrest自身も在籍していたDuke Ellington楽団の重要なレパートリーCaravan、Elvinのマレットによるタム回しからイントロが始まります。C7でギターが中音域の何やらコンディミ系のシンコペーション・パターンを演奏、怪しげな雰囲気を醸し出しています。テーマ部分での微妙にメンバーのグルーヴが合わない感じが、むしろ曲想に通じる猥雑さを表現しています。アドリブに入りスイングに一変しますがElvinはブラシを用いてずっとキープしています。テナー、ギター、ピアノとソロは続きますが早いテンポにも関わらずのブラシワーク、実に巧みで音楽的なサポートです!更にそのままドラムソロに突入、ソロの最後には再びマレットに持ち替えラストテーマになりますが結局一切スティックは使いませんでした。ここでのForrestのソロはジャズスピリットに満ちたアプローチで、ホンカーの専門家ではこうは行かないだろうと感じました。
6曲目はスタンダード・ナンバーWhat’s New、この曲は当時のジャズシーンで流行っていた様に認識しています。バラードですがあえてForrestは上の音域を用いてしかも張りに張ったフルトーン、ビブラートも満載状態で演奏しています!こんなに猛々しく演奏する曲想と解釈して良いのでしょうか?良いのでしょう、だってホンカーですから(笑)。1コーラス半だけのテイクですがフリジアンのような、アラビア音階も感じさせるラインからテーマが始まります。サビではフラジオ音のGまで使ってシャウトしています。他のバラードが低音域を駆使した演奏なので、むしろバランスが取れている様にも感じました。
7曲目ラストを飾るのはForrestのオリジナルブルースSunkenfoal、テーマでのギターとのアンサンブル、Elvinのフィルイン共にカッコ良いです。先発Forrestのソロは巧みなラインを繰り出しますがグロートーンも交え、ホンカーの語り口でジャズの演奏を行っています。ギター、短くピアノ、珍しくベースとソロが続きますが、グイグイ演奏を引っ張っているのがやはりElvin、そのままフロント3人でドラムとバースを行います。前曲でForrestフラジオG音を使ったその流れか、同音の多用が目立ち、またリーダーのon topによるプレイで収録曲の何曲かは初めのテンポに比べてラストでは早くなっていますが、本テイクではむしろ遅くなる傾向にありました。

最後に同じDelmarkレーベルから72年「Black Forrest」が、本作の別テイクと5曲の未発表曲を収録した作品としてもリリースされています。

画像7


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?