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Getz at the Gate / The Stan Getz Quartet Live at the Village Gate Nov. 26 1961

今回は2019年にリリースされた未発表音源、Stan Getz Quartetの1961年11月New York, Village Gateでのライブ「Getz at the Gate」を取り上げたいと思います。

1961年11月26日NYC Village Gateにて録音
ts)Stan Getz p)Steve Kuhn b)John Neves ds)Roy Haynes
Disc 1 1)Announcement by Chip Monck 2)It’s Alright with Me 3)Wildwood 4)When the Sun Comes Out 5)Impressions 6)Airegin 7)Like Someone in Love 8)Woody’n You 9)Blues
Disc 2 1)Where Do You Go? 2)Yesterday’s Gardenias 3)Stella by Starlight 4)It’s You or No One 5)Spring Can Really Hang You Up the Most 6)52nd Street Theme 7)Jumpin’ with Symphony Sid

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数多くの未発表音源リリースを手掛けたプロデューサーZev Feldman、よくぞ本作を発掘しました!彼が手掛けた代表作としてBill Evans「Some Other Time」Stan Getz 「Moments in the Time」Joao Gilberto / Stan Getz「Getz / Gilberto ’76」があります。録音テープの存在確認だけでも大変な労力を必要とする事でしょう。おそらく収納ケースには簡単なインデックスしか記載されていないテープをオープンリールデッキに載せて再生し、その内容を耳を頼りに誰がどんな演奏を行なっているのかを判断する。経験値が物を言う作業ですが、すぐに目的の作品が見つかるとは限らず徒労に終わる事もあるのは容易に推測できます。お目当てのテープを見つけたとしてもその後には参加アーティストや、演奏者が故人の場合その家族に発生する諸々の権利の確認〜承認承諾、レーベルの版権等事務的な手続きが山積みしていて、膨大なそれらをクリアーしてやっと陽の目を見ることが出来るのです。米国は個人の権利の国ですから。いずれにせよGetzの代表作に挙げてもおかしくない、彼の真髄を捉えた素晴らしいクオリティーの作品です。ジャズミュージシャンは基本的にライブ演奏でその本領を発揮しますが、それが見事に具現化されています。

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本作録音の8日前、同じくNYCのライブハウスBirdlandでのライブを録音した作品「Stan Getz Quartet at Birdland 1961」、当Blogでも以前取り上げたことがありますが、AMラジオのエアチェック音源をCD化したものなので、演奏内容がとても素晴らしいのですが音質のクオリティが玉に瑕なのです。

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参加メンバーを含めこちらの演奏の延長線上に本作が位置し、霞の中から突然に御神体が出現した如くの驚くべきクリアーさを伴った素晴らしい音質(エアチェック盤の音質に耳が慣れていましたから)、レパートリーはかなり重複しますがむしろ二つの演奏の比較を楽しむことが出来ます。こちらは正式な録音と思われますが、60年近く前のレコーディングとなれば膨大な量の録音に紛れその詳細は定かではありません。ましてや違うレコード会社の倉庫に保管され、眠っていたとなれば事は尚更です。十分な曲毎の演奏時間、61年の演奏とは信じられない緻密で現代的な演奏内容、十二分な演奏曲数、一晩の演奏を全て収録したと考えられるアルバム。GetzとSteve Kuhn、Roy Haynesの共演、エアチェック盤ではベーシストがJimmy GarrisonでしたがここではJohn Nevesに変わりますが、ドラマー、ベーシスト共にKuhnの推薦による参加だそうです。本作の内容は僕にとって意外な謎解き、また新たな問題提起、認識を新たにする事柄を有しており、子供の頃に毎月購読していた少年雑誌の増刊号(付録の数が急増しました!)の如き様相を呈しています(笑)。

それでは早速演奏曲に触れて行きましょう。Disc 1のトラック1は司会者によるアナウンスメントになりますがChip Monck、どこかで見たことがある名前と思いきや、こちらも以前当Blogで取り上げたLes McCannの作品、同じくVillage Gateでのライブ作品「Les McCann Ltd. in New York」の冒頭曲の曲名じゃあありませんか!あんな名曲に名前がクレジットされる人物、Chip Monckとは一体何者でしょう?彼は39年Maschusetts生まれのライトニング・エンジニア〜ステージの照明技師ですね、彼はVillage Gateで59年から働き始め、店の地下にあるアパートで生活し、照明の他に店で司会業もこなしていたようです。想像するに人懐っこい性格で出演ミュージシャンたちと親交が深く、信頼関係を築いていたのでしょう。Les McCannとは特に懇意にしていたに違いありません。彼はVillage Gateで働き続ける傍ら、Newport Folk FestivalとNewport Jazz Festivalにも関わり、同じくNYC HarlemのApollo Theaterでも照明技師を勤めていました。彼のように音楽好きで、裏方の仕事を積極的にこなしつつミュージシャンと好んで関わる人物が古今東西ジャズ界には欠かせません。

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トラック2、MonckのMCに促されるように演奏の1曲目It’s Alright with Meが始まります。MCや拍手が遠くから聞こえて来るのでかなり奥行きのあるライブハウスのようです。
MCに被りながらGetzのカウントがスタート、リズムセクションによる8小節のイントロ後テーマ開始です。テナーの音像、音色、定位ともちょうど良い所に位置し、申し分ありません!これから始まるカルテットの演奏をリスナーにぐっと引きつけるためのアドバンテージです。2ビートフィール、サビはスイング、2ビートから2小節ピックアップを経てソロ開始です。早速Kuhnはバッキングを停止、これもColtraneとの共演から学んだ一つでしょう。2コーラス目からバッキング開始、その間もGetzは快調に飛ばしています。HaynesとNevesのコンビネーションも抜群、Garrisonとのコンビも良かったですがそれを上回るビートを感じます。ドラムの音像がテナーのタイム感と絶妙のコントラストを描き、リズムの洪水となり押し寄せて来ます。続くピアノのソロ、タッチの細部まで収録されフレージングのアイデアと相俟ってリリシズムを聴かせます。その後テナーとドラムのバース開始、いや〜素晴らしいトレードです!互いのフレーズに寄り添いつつもどっぷりとは嵌らず、付かず離れず、音楽を熟知したマエストロのみが成し得る次元のやり取りが聴かれます。その後ラストテーマは後半から演奏され、エンディングはその場のアイデアによるものでしょう、スリリングなキメが演奏されFineです。

2曲目Wildwoodはバードランドのライヴでも演奏されていたジジ・グライスのナンバー。古き良きアメリカの長閑さを感じさせるムーディなテーマ後、Getzはアイデアを満載させながら縦横無尽に吹きまくっています。様々なニュアンス、音色の自在な使い分け、ダイナミクスの振れ幅は実にスリリングです。続くKuhnのピアノはBill Evansのテイストを感じさせながら、背の高いピアニストに見られる力強い打鍵を聴かせます。その後ベースソロ、ドラムとのバースを経てラストテーマへ。

3曲目も同様にバードランド盤で聴かれるHarold ArlenのバラードWhen the Sun Comes Out、低音域でのサブトーンとビブラート表現の多彩さ、ppからffまでの音量のダイナミクス、時に高音域でのシャウトを交え、非凡な唄心が聴き手を深遠な美の世界へと誘います。ピアノソロはなくテナーの独壇場で終始します。テナーフィーチャーの後はリズムセクションをフィーチャーしたナンバーに続きます。

4曲目はなんとJohn Coltrane作曲、しかもGetzは演奏せずにピアノトリオをフィーチャーしたImpressionsです!彼自身がこの曲での演奏をリタイアしたのか、お気に入りのピアニストKuhnをフィーチャーするためだったのか分かりませんが、GetzのMCで「リズム隊をフィーチャーしてMiles Davisの作品So Whatをお送りします」と紹介している点に興味が惹かれます。GetzともなればSo Whatという曲をまず知っているでしょう。考えられるのは①直前までリズムセクションはSo Whatを演奏する予定でその旨をバンマスであるGetzに伝えていたが、ベーシストがメロディ演奏に自信がなく直前になって弾けないと言い出したので、ピアノがメロディを演奏する同じコード進行のImpressionsに変えた。②GetzはImpressionsの原曲がSo Whatと知っており、Coltraneがそのコード進行を拝借して曲を書いた事をあまり良くは思わず、シニカルなGetzは敢えてMiles DavisのSo Whatと紹介した。③61年当時はSo WhatとImpressionsの区別は特に無く、ImpressionsもSo Whatと言った。
他にも単なるGetzの勘違いとも言えなくはありませんが、聡明な彼に限ってステージ上でそんなケアレスミスをするとは考えられません。So WhatやImpressionsを本当に知らなかったのか…真相に関して機会があればご存命の参加ミュージシャンにぜひ尋ねて見たいものですが、60年も昔の話ですから…
肝心の演奏ですがユニークなアプローチのImpressionsです。テーマ奏から斬新、Bill Evansを彷彿とさせる瞬間が多々ありますが、KuhnならではのMode解釈も光り、Ⅱm7-Ⅴ7のようにコーダルにも捉えつつ、Dorian ModeではなくMixo-Lydianを意識してもフレージングしています。I’m Old Fashonedのメロディを引用したりと12分近くの長さの演奏ですが、全く冗長さを感じさせません。ベースソロ後再びピアノソロ、ドラムと8バース、ラストテーマ、全編に渡ってHaynesのドラミングが素晴らしいサポートを聴かせています。
5曲目はACの冒頭を飾ったSonny Rollinsの名曲Airegin、アップテンポにも関わらず実にたっぷりとして安定したタイム感、しかも難しいコード進行をスキー競技のスラロームのように、いとも容易く潜り抜けて行きます!なんと密度の濃い、そして全てに余裕を感じさせるスインガー振りです!あまりの物凄さからでしょう、Getzのソロが終わった瞬間に客席から?笑い声すら聴こえてきます。続くピアノソロも大健闘、その後のドラムとのバース、こちらもネタ切れという言葉、そんな概念は微塵も存在しません!どんどん良くなる法華の太鼓(笑)、凄いバンドの物凄い瞬間を捉えた演奏です!
6曲目はスタンダードナンバーLike Someone in Love、この曲のキーはA♭、Cで演奏されますがここでは少数派?のE♭。幾分早めのテンポ設定でリズムセクションが熱演しますが、特にドラムのテナープレイへの寄り添い方が絶妙です!Kuhnの演奏もよりEvansのアプローチを感じます。ベースソロ後再びドラムと8バース、無尽蔵とも思えるHaynesのフレージング、アプローチに一層感心してしまいます!
7曲目もAC収録、この頃のGetzの十八番のナンバー、Dizzy GillespieのWoody’n You、Getzのいつものテンポ設定よりもかなり早い演奏、バンドの演奏はさらに白熱し、ありきたりな表現で恐縮ですが、留まるところを知りません!Getzにはとうとうスイングの神が降臨したようです!Kuhnも負けじとばかりにベースに煽られ?煽りながら?スイングしています。短いベースソロ(リズムの解釈が素晴らしい!)、ドラムの8バースを経てラストテーマへ、興味深いターンバックが付加されてFineです。
8曲目はBluesとタイトルされた即興のブルース・ナンバー、流石にリラックスしたテイスト・チューンが選曲されましたが、バンドのスイング道探求は一向に止むところを知りません!Getzはブルース進行とは名ばかりに(爆)好き勝手に唄い捲っています!Haynesのグルーヴが火のついたGetzに油を注いでいるのです!Kuhn、Nevesもブルースらしからぬソロを展開、ドラムとの4バースを経てテーマらしいテーマもなく終了、ここまでがDisc 1になります。

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Disc 2の1曲目、ACにも収録のAlec Wilder作曲のバラードWhere Do You Go?、耽美的な様相を呈したストレートなメロディ奏、短いながらもとても印象的な演奏です。
2曲目Yesterday’s GardeniasもACで演奏されているミディアムテンポのナンバー、Getzは知られざる佳曲を発掘する名人でもあります。小粋に鼻歌感覚での演奏は他の演奏と一線を画す癒し系の印象です。続くピアノ、ベースソロもGetzのテイストを反映させているが如し、言ってみれば箸休め的な演奏です。
3曲目スタンダードナンバーStella by Starlight、普通はキーB♭メジャーで演奏されますがここではGメジャーです。52年録音Getzの代表作の1枚である「Stan Getz Plays」にも収録されています。テーマ奏でのGetzの「コーッ」という音色が堪りません!コンパクトな演奏の中にも大きな唄を感じさせるプレイです。

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4曲目Jule Styneの名曲It’s You or No One、Getzが取り上げるのは珍しく、僕の知る限り初演と思われます。Dexter GordonやJackie McLeanの演奏で有名ですが、ここではキーがE♭メジャー、Haynesのドラミングが的確にサポートしつつ演奏が行われますが、珍しくGetzが曲に乗り切れていない印象を受けました。自分の好みのテイストでは無かったのか、恐らく以降演奏されなかったと思います。5曲目美しいメロディのバラードSpring Can Really Hang You Up the Most、再びGetzの演奏だけで終始する演奏、何と気持ち良く耳に入り、心に響く唄い方でしょう!Haynesはバラードでも個性的なアプローチを展開しますが、ここでもブラシワークがトリッキーでいて決して演奏の邪魔をしない音楽的なプレイを聴かせています。ピアニストAlbert DaileyとGetzの83年録音Duo作品「Poetry」にも収録されていますが、こちらも大変美しい演奏です。

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6曲目はThelonious Monk作曲の52nd Street Theme、49年8月録音「The Amazing Bud Powell Vol.1」に収録されていますが、こちらもドラマーがRoy Haynesです。Rhythm Change形式のコード進行、お得意のアップテンポで演奏されています。4度進行のフレージング、一つのフレーズの譜割りをずらしたりとアプローチが多彩です。何しろタイム感が素晴らしいので何をやってもカッコイイのですが。Kuhnも曲のテイストの中で、サウンドするようにと的確にアドリブをしています。そしてこの曲の目玉はHaynesのフリードラムソロです。この人の型にはまらない不定形なソロのアプローチは実に魅力的です!ここでも様々なモチーフを基に(Salt Peanutsのメロディさえ聴こえて来ます!)、ダイナミクスのショウケースとも言える自由奔放なロングソロを展開しています。後テーマのサビもドラムソロで締め括っており、エンディングでHaynes自身が「Thank You!」と挨拶しています。

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7曲目最後を飾るのはACでもラストに演奏されていたLester YoungのJumpin’ With Symphony Sidですが、ルンバのリズムのドラム・イントロに続いてテナー1人でまずThe Breeze and Iを演奏します。ウケ狙いで?わざと?メロディを間違えて吹いていますが、その直後How High the Moonを吹きますが観客から?ブルースをリクエストされ、Symphony Sidを演奏し始めます。フリーキーな音を楽しげに吹いていたりと、いつになく上機嫌さを感じさせるGetz 、きっと当夜の演奏にかなり納得していたのでしょう、リラックスした雰囲気でロングソロを取っています。同様にピアノ、ベースもソロをたっぷりと演奏しますが、ベースソロが終わりそうでなかなか終わりません!というよりも後テーマ担当のリーダーが不在?Getzはどこかに出掛けてしまったのでしょうか?間を保たすべく?再びピアノソロが始まります(汗)。このソロも何やら長いですね、Kuhnオールド・スタイルでソロを続けますが、Getzはステージに戻って来なかったのでしょう、婦女子を伴って何処かに呑みに行ってしまったのかも知れません(苦笑)、Kuhnがエンディングを担当して強制終了です!

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