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ジ・アート・オブ・ザ・サキソフォン/ベニー・ウォーレス

 テナーサックス奏者ベニー・ウォーレスの1987年録音リーダー作、『ジ・アート・オブ・ザ・サキソフォン』を取り上げましょう。

録音:1987年2月7, 8日
スタジオ:スカイライン・スタジオ、ニューヨーク
エンジニア:ジェームズ・ファーバー
プロデューサー:ベニー・ウォーレス
エグゼクティヴ・プロデューサー:クリスティン・マーチン
レーベル:デンオン

(ts)ベニー・ウォーレス  (g)ジョン・スコフィールド  (b)エディ・ゴメス  (ds)ダニー・リッチモンド  (ts)ハロルド・アシュビー(on 4, 8)  (ts)ジェリー・バーガンジ(on 1, 5, 7)  (as)オリヴァー・レイク(on 3, 9)  (ts)ルー・タバキン(on 2, 6)

(1)イーディス・ヘッド  (2)ユー・ゴー・トゥ・マイ・ヘッド  (3)リズム・ヘッド  (4)モンロー・カウンティ・ムーン  (5)サングス  (6)オール・トゥ・スーン  (7)チェスター・リープス・イン  (8)プレリュード・トゥ・ア・キス  (9)プリンス・チャールズ

ジ・アート・オブ・ザ・サキソフォン/
ベニー・ウォーレス

 テナーサックス奏者ベニー・ウォーレスが4人のサックス・プレーヤーを招き、各々とサックス・バトルを行った作品です。

 サックス同士のバトルには昔から名演奏が数多く残されています。サックスと言う楽器の特性でしょうか、互いの演奏に触発されたレスポンスが演奏を密なものにし、いつもとは違ったフレージング、アプローチ、ニュアンス、展開を引き出します。
 同一楽器でのバトルには他の管楽器でも同様の傾向が見られますが、サックスは特にその度合いが強いように感じ、バトルに向いているのかも知れません。
特にテナーサックスはアルトやバリトンに比較して高からず低からず中庸の音域、男性の声に近いトーンはバトルに相応しい楽器と言えましょう。

 参加のサックス衆ですが、ヴァラエティに富んだ人選です。ハロルド・アシュビージェリー・バーガンジオリヴァー・レイクルー・タバキン
 レイクはアルト奏者ですが他の3人はテナー奏者です。ウォーレス自身ユニークなプレイ・スタイルを有しますが、比較的何処を切っても金太郎飴的スタイルのため、バトル相手でいつもとは違った世界が構築される事を狙った企画、とも想像しています。

 ハロルド・アシュビーは1925年3月27日カンサスシティ生まれですから、この中では最長老です。本作でも他のプレイヤーとは一線を画する、永年の演奏経験に基づく深い味わいを聴かせます。
デューク・エリントン楽団に68年入団、晩年のエリントンを支え、彼の没後75年まで在籍します。エリントン・サウンドで培われたメロディアスでスイートなバラード演奏に、抜群のセンスを発揮します。

デューク・エリントン、ハロルド・アシュビー

 ジェリー・バーガンジは47年10月21日マサチューセッツ州ボストン生まれ、70年代にデイヴ・ブルーベック・カルテットを皮切りに活動開始、自身のバンドでも多くのリーダー作をリリース、教育者としてもニューイングランド音楽院で教鞭を執るほか、CDやヴィデオにリンクした教則本、理論書を多数出版しています。
ハスキーで個性的な音色とスリリングなプレイで、シーンに欠かすことの出来ないセッションマンとして君臨しています。

ジェリー・バーガンジ

  オリヴァー・レイクは42年9月14日アーカンソー州マリアナ生まれ、60年代にセントルイスで活動を開始し、前衛的なプレーヤー達との演奏経験から77年、デヴィッド・マレイ、ジュリアス・ヘンフィル、ハミエット・ブルーイットらとワールド・サキソフォン・カルテットを立ち上げます。フリーフォーム・スタイルを信条としますが、アヴァンギャルドな中にも美しい音色が光ります。

オリヴァー・レイク

 ルー・タバキンは40年3月26日ペンシルヴェニア州フィラデルフィア生まれ、フィラデルフィア音楽院で学んだ後ニューヨークに進出、メイナード・ファーガソンほか幾つかのビッグバンドに在籍し、73年穐吉敏子=ルー・タバキン・ビッグバンドを結成します。
サブトーンを駆使した魅惑のテナートーンで豪快なプレイを展開し、裏拍へのタンギングが的確に施された滑舌の良い8分音符のスイング感から、バンドを牽引します。
 自己のテナートリオで縦横無尽にブロウするスタイルには、モダンジャズ以前のテナー奏者コールマン・ホーキンス、ベン・ウェブスター、またエディ・ロックジョウ・デイヴィスからの影響を感じさせます。

ルー・タバキン

 リーダーであるベニー・ウォーレスは46年11月18日テネシー州チャタヌーガ生まれ。高校在学中から演奏活動を行い、テネシー大学卒業後ニューヨークに進出、モンティ・アレキサンダー、バリー・ハリス、バディ・リッチ、ダニー・リッチモンドらと共演します。78年からリーダー作を発表し始め、その数は20作に及びます。
 個性的な音色と跳躍を生かしたフレージングにスリリングなテイストを見出す事が出来ますが、アルト奏者エリック・ドルフィーの演奏スタイルにオーヴァーラップします。ギラギラ感、毒気はドルフィーよりもずっと少ないですが。

ベニー・ウォレス

 この強烈なサックス集団を支えるリズム・セクションですが、ギタリスト、ジョン・スコフィールド、ベーシスト、エディ・ゴメス、ドラムス、ダニー・リッチモンド
 この3者いずれもがジャズシーンに於いて、強者つわものたちとの共演の修羅場を潜り抜けた、経験豊富な伴奏者たちです。
 ジョン・スコフィールドはビリー・コブハム、デイヴ・リーブマンらシーンでアクティヴな活動を行うプレーヤーと共演、そしてモダンジャズの牽引者、帝王マイルス・デイヴィスのバンドに加入し、更に音楽性に磨きを掛けます。
 エディ・ゴメスはモダンジャズに於けるピアノトリオのフォーマット、美学を創り上げた名匠ビル・エヴァンスと、その黄金期に11年間演奏を共にし名盤を多く残します。超絶技巧ベーシストの先駆け、そして最高峰として多くの後続奏者に影響を与えました。
 ダニー・リッチモンドは自己の音楽を生涯追求し続けたベースの巨人チャールズ・ミンガス、アクの強さでは右に出る者は存在しないでしょう、サイドマンに対する厳しい要求や暴力沙汰を含むハラスメントでも名高い、とは言えジャズの美意識が人一倍高い彼と、21年間もの長きに渡り共演し、40作近くミンガス作品でプレイします。
 リッチモンドを例えてみるならば、唯一無二の音楽性を有するデューク・エリントン楽団に所属した(エリントンにハラスメントは存在しないでしょうが)、重鎮バリトンサックス奏者ハリー・カーネイと同様な立ち位置ですが、カーネイの場合は何と楽団在籍48年にも及びました。

 特に本作ではピアニストではなくギタリスト、しかもバッキングの妙技からプレイヤーにケミカルな変化を与える名手ジョン・スコフィールド、コード進行に対する浮遊感の提示を基本に、ソロイストを束縛する事なく、付かず離れずを基本にしながら、確実に演奏をプッシュするスタンスをキープします。彼の登用が興味深く、本作でも目を見張るようなプレイを展開します。

ジョン・スコフィールド

 それでは収録曲について触れて行く事にしましょう。スタンダード・ナンバー以外は全てウォーレスのオリジナルです。
 1曲目イーディス・ヘッドはチャーリー・パーカーのオリジナル、ドナ・リーのコード進行を用いたナンバー。
ドナ・リー自体も、元を正せばジェームズ・ハンリーが1917年に書いたナンバー、バックホーム・アゲイン・イン・インディアナ〜通称インディアナのコード進行が使われています。
 ウォーレス、バーガンジのツーテナーによる幾何学的メロディライン、ほど良きテンポ設定、ドラムのトップシンバルとウォーキング・ベースの良きコンビネーション、ギター・バッキングの妙、テーマ奏の時点で演奏に期待が高まります。

 本作は常に左チャンネルにウォーレス、右に相方サックス奏者、ここではバーガンジが位置します。
 ソロの先発はバーガンジ、ホゲホゲ、ガサガサ、シュワー等で表現出来るテナーの付帯音の豊富さ、この事はトーンのコクに直結します。
自分の出したい音色への拘りとその極めは、多かれ少なかれプレイヤーに存在しますが、バーガンジの度合いはかなりの模様です。テナーサックスの選択からしてマニアックで複数のメーカー、モデルを数多く所有、マウスピースも自身のシグネチャー・モデル作成にまで至る、膨大なコレクションを所有している模様です。
 ソロのラインも学理に則ったロジカルさを感じさせ、音楽的にシャープさを表出します。スリリングにしてスピード感を感じさせるインプロヴィゼーションは実に私の好みです。

 ウォーレスのソロに続きますが、これまた奇妙なテイストです。特に奇を衒ったてらった訳ではないでしょうが、バーガンジとは対極に位置するストレンジさ、興味深いアプローチではあります。
音の跳躍やトリッキーなフレージング表現に際する確実性、タイム感のタイトさ、踏まえるべき点をしっかりと踏まえたプレイ、コード感は希薄ですが押し寄せる音塊の迫力を聴かせるスタイルなのでしょう。
 リズム隊の繰り出すレスポンスは充分に魅力に溢れ、リッチモンドの的確なサポートに感じるリアルジャズ・プレーヤー振り、ジョンスコの瞬間を逃さず狙い定めたバッキングの絶妙さ、ゴメスの纏わり付くようなラインが合わさり、鉄壁のリズム・セクションと成ります。
 ジョンスコのソロプレイは一聴彼と分かる音色とシングルノートを中心とした、斬新さを常に掲げながらのうねるが如きラインの連続、時折繰り出すコードサウンドのフレッシュさ、歌心と創造性がバランス良く配されます。
 その後ラストテーマへ、はじめのテンポ♩=250から♩=280まで速くなりましたが無事にFineを迎えます。

 2曲目ユー・ゴー・トゥ・マイ・ヘッドは38年にジョン・クーツが作曲したスタンダード・ナンバー、ここでは早めのバラードで演奏されます。
 メロディ奏はタバキンとウォーレスのチームにより細かく分けられ、始め8小節毎を基本にプレイ、続いて4小節毎、ユニゾン、フィルイン・ソロのトレード等で両者とも個性を発揮しています。
 テンポの速い曲でのウォーレスのテナー・トーンは、音のコア、身が詰まり過ぎていて耳に痛い程ですが、バラード奏では自ずと音量を落としている関係でしょう、寧ろ付帯音の発生に直結し、結果情感を表しています。
所謂ホンカー・スタイルを想起させるブロウとも言えましょう。
 タバキンの音色も魅力的な成分を湛え、美しさを表現していますが、ここでは音色のインパクトでウォーレスに軍配が上がります。

 テーマ後ゴメスのソロが始まります。圧倒的なテクニックは弦高を低く設定し、弦に指が触れた程度で発音可能なほどのレスポンスを基本にプレイします。
指板に弦がぶつかる際のパーカッシヴな音が印象的、正確にして端正な8分、16分音符を駆使し、重音奏法も随所に交えながら1コーラスを演奏します。

エディ・ゴメス

 続いてタバキンのソロへ、一切の躊躇なく自身の歌を貫徹させる意思を感じるアプローチ、そしてトラディショナルな中に危なさを含ませた表現、ここには美学を感じます。
 同様に1コーラスをプレイしウォーレスのソロに変わります。その途端にベースとドラムスが演奏を止め、伴奏をギターのみに一任しプレイし始めます。メロディラインの断片を多く導入したソロ構成には比較的落ち着きを感じさせ、ギターとデュオゆえのリラクゼーションも発揮します。
 プレイ終わりにリタルダンドしカデンツァ・ソロへ、タバキンも参加しフリークトーン、マルチフォニックス等の特殊奏法を交えながらFineに至ります。

 3曲目リズム・ヘッドはレイクとの共演、アヴァンギャルドなテイストの楽曲はレイクを迎えるに相応しいと思いますが、例えばゲスト・サックスプレイヤーには全員テナー奏者と言う縛りを設け、それこそデヴィッド・マレイやデューイー・レッドマンの参加ならば別の展開があったろうと、興味が惹かれるところです。
 リズム・チェンジのコード進行を用いたこの曲、ソロはレイクから。アグレッシヴにパフォーマンスするプレイに、巧みにビートを刻むリッチモンドのシンバル・レガートが絡みます。ソリッドなシンバルの音色、身長が高く腕の長いドラマーならではのストロークのあるしなやかさが、何処かジャック・ディジョネットを想起させます。

ダニー・リッチモンド

 ジョンスコの短いソロがあり、ウォーレスのプレイに続きます。ここでのゴメスのアプローチにも、スリリングな場面を確認できます。
その後ラストテーマへ、冒頭テーマと同一のフォームに基づきます。

 4曲目モンロー・カウンティ・ムーンはアシュビーとの演奏です。
 冒頭のジョンスコが爪弾くイントロに導かれ、ウォーレスがテーマ奏の主導権を握り、アシュビーがオブリガートを挿入します。フォームはブルース、リズムは8分の6拍子が基本に流れます。
 ソロの先発はアシュビー、深さを感じさせるトーン、スイートネス、申し分ない色気、結果ウォーレスとの対比と相成ります。
リズム隊、特にリッチモンドが繰り出すバックビートが曲想に合致し、ゴメスのオントップのベースと相性の良いコンビネーションを聴かせます。
 続いてジョンスコのソロへ、彼のブルースへのアプローチは常にブルージーさと危なさを併せ持ち、ナチュラルにして確信犯的なスケールアウトにいつもハッとさせられます。途中にテナー二人によるバックリフが入るとジョンスコのプレイは一層熱を帯びます。
 ウォーレスの出番です。トリッキーなラインの連続ですが、タイム感の正確さからフレージングのインパクトがストレートに伝わります。ソロが佳境に達した頃にアシュビーのオブリガートとリッチモンドのプッシュが加わり、ラストテーマに向かいFineとなります。

 5曲目サングスはスタンダード・ナンバー、オール・ザ・シングス・ユー・アーのコード進行を基に3拍子にアレンジし、危ないメロディラインを施し演奏されます。お相手のサックスはバーガンジ、ソロも彼から開始されます。
 バーガンジのオリジナル・ナンバーにも同じテイストの楽曲を認める事が出来、メロディ嗜好が似た者同士のプレイと考えています。

 1コーラス目リズム隊はハーフテンポを中心にプレイ、2コーラス目から3拍子にスイッチ、バーガンジのロジカルでチャレンジ精神旺盛なフレージングの連続にバンドはバーニング、レスポンスすべく各人様々なアプローチにトライしています。
 ジョンスコのソロに続きます。コード進行の似たナンバーであるフライ・ミー・トゥ・ザ・ムーンのメロディ引用、コンディミ・フレーズ、オクターヴ奏法等を用いてフローティングな演奏を聴かせます。
 ゴメスのソロが短く行われますが、どっしりと構えつつメロディ、重音奏法を交え自身のストーリーを語ります。
 ウォーレスのソロはジオメトリックな世界をここでも存分に構築し、同様に短く纏めラストテーマを迎えます。

 6曲目オール・トゥ・スーンはタバキンとのコンビ、全編彼らだけのアカペラで演奏されます。
 冒頭短くウォーレスがプレイし、はじめのメロディをタバキンがプレイします。随時メロディ奏担当が入れ替わりながら進行し、互いを聴きながら色々なフラグメントを提供し合います。
 ソロはタバキンが正統派然としながらプレイ、ウォーレスはマイペースに、カンヴァセーション相手の話を聴いている様でいて、素知らぬ振りも繰り返します。
 プレイ・スタイルは勿論、コール・アンド・レスポンスの概念が全く異なるテナー奏者同士の、ユニークな二重奏に仕上がりました。

 7曲目チェスター・リープス・インはウォーレスの高校時代の恩師、チェット・ヘッジコスに捧げられたナンバー、ヘッジコスは指導者として多くのミュージシャンを育て上げました。
ここでのお相手はバーガンジ、他のサックス奏者が2曲ずつに対し彼とは3曲対局します。

 タイトルはレスター・ヤングのレスター・リープス・インに掛けられており、レスター〜の方は所謂いわゆるリズム・チェンジのコード進行を基にしていますが、こちらはハウ・ハイ・ザ・ムーンのコード進行に準拠しています。
 4拍3連を基本とした3拍子と、4拍子のリズムが交互に現れる形式からなり、リズムが変化する妙を表現します。

 先発はウォーレス、テーマのストレンジさをそのまま引き継ぎプレイされますが、ストレート・アヘッドなテイストを内包する曲想であるため、テナーの音色がややブライトに感じます。
 バーガンジのダークな音色はこの曲にマッチし、インスパイアされたリズム隊もウォーレスのソロ時よりもアクティヴにプレイ、何を行うべきかが容易にイメージ出来たのでしょう。
 ジョンスコのソロを経てラストテーマへ、ここでは同じテナーバトル、ピート・クリストリーブ、ウォーン・マーシュのアルバム『アポジー』をイメージしました。

ピート・クリストリーブ、ウォーン・マーシュ・
クインテット/アポジー

 8曲目エリントン・ナンバー、プレリュード・トゥ・ア・キスは冒頭アシュビーのメロディ奏をフィーチャーします。
 54年録音ベン・ウェブスターのウイズ・ストリングス作品『ミュージック・フォー・ラヴィング』に同曲が収録されていますが、こちらが決定的名演奏と認識しており、アシュビーもこの演奏を良く聴き込んだように感じるのは、随所にウェブスター風のニュアンス、ヴィブラート、ダイナミクスを確認出来るからです。

ミュージック・フォー・ラヴィング
/ベン・ウェブスター・ウイズ・ストリングス

 とは言えアシュビーのプレイも決してウェブスターに劣りません。蕩けんばかりのスイートネスを基本に、充実したサブトーンを用いる事で得られる魅力的な付帯音、多種多様に及ぶヴィブラート、ベンド、グリッサンド、音量のダイナミクスがごく自然に用いられ、何よりも極めて洒脱、脱力感の半端無さが演奏のグレードを高めています。

 リズム隊のサポートがこれまた素晴らしく、ジョンスコのアルペジオを主体としたバッキングとメロディのブレンド感には匠の技を感じさせ、淡々としながらも共演者の音を良く聴き、サビからアクティヴになるリッチモンドのブラシワークの闊達さ、全く的確な音符の位置にビートを繰り出すゴメス、故に三位一体のサポートです。

 ストレートにメロディを1コーラス演奏した後、ギターソロへ。ホーンライクにラインをレイドバックさせるジョンスコのプレイは魅力的な音色と相俟って、唄心を満載した表現に至り、セクシーさも表出します。
 半コーラスのプレイ後ゴメスのソロへ、正確なピッチ、リズム、メカニカルなまでの超絶さにはいつもながら感銘を受けます。ここでのジョンスコのバッキングにも色香を感じました。

 リッチモンドのブラシ・プレイに包容力を感じるのは、豊かな音楽性を持ったかつてのリーダー、ミンガスから譲り受けたものと考えています。
 こうも考えられますが、リッチモンドに寛容や尊重の精神が飛び切り存在していた故、ミンガスに長年仕える事が出来たとも、音楽が共同作業である事を真に理解出来たミュージシャンのみが成しえるパフォーマンスです。

 その後にラストテーマとしてウォーレスがプレイします。単刀直入に言ってアシュビーのプレイとは格が違います。
 バラードはそのミュージシャンの力量が問われ、音楽性の全てが表れると言って過言ではありません。ウォーレスの活動が盛んな頃の表現は、彼がオーディエンスに耳新さをアピールしていたので成り立っていたかもしれませんが、大切なジャズの伝統を置き去りにしていたように思います。
現在彼がジャズシーンから遠ざかってしまったのには、そこに根本的な原因があるように考えています。

 1コーラスをウォーレスが演奏し、最後のカデンツァの際に微かにアシュビーがオブリガートを挿入しFineとなります。

 9曲目プリンス・チャールズはレイクとのコラボレーション、曲想は何処かオーネット・コールマン初期のテイストを感じます。
 先発はウォーレス、ここでは音色、プレイ共に楽曲に合致しています。テーマメロディのフラグメントを多用し、テーマに設けられた、2小節余分に付け足されたスペースがソロパートでも効果的にサウンドします。
 レイクはアヴァンギャルドにブロウし、ジョンスコの伴奏に火が付きエフェクティヴにバッキングを施します。
 続いてギターソロに突入しそうになりますが、ドラムスソロへ、リッチモンドは比較的オーソドックスなフレーズを繰り出します。その後のラストテーマは本編で散々盛り上がったためでしょう、エンディングはあっさり気味にFineです。


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