風と空と光と人へ
これは、たぶん
視力が落ちたのだ
老いによってときどき
命のおわりに触れるとき。
すべて終えたら、終わるのだろうか
引越しを計画した翌朝
早起きをして、家の周りを歩いた
久しぶりにフィルムを巻いた
ドアを開けたときの風
吹き抜けの下からの空
ここにしか落ちない光
家の前の曲がり角から人が出てくるのを
ファインダーを覗きながら待ってるとき
不思議と(映画みたいに)泣きそうになった
さびしいとか、そういう気持ちじゃない
これは、たぶん
写真をしているのが嬉しかったんだ
もう二度と会えない景色を残す
シャッターの音が
しずかな朝の街に響き
しずかに響き終わる朝の街
すべて終えたら、終わるのだろうか
得体の知れないこの感覚は
世界とうまくピントが合わないからだ
これは、たぶん
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