見出し画像

10代の「権威主義」は、思考力と感情コントロールの不足に起因か


以下の解説は、2025年1月23日付で PsyPost に掲載された
「Adolescents with authoritarian leanings exhibit weaker cognitive ability and emotional intelligence」
という記事をもとに構成しています。実際の内容と多少の差異がある可能性がある点、ご了承ください。


1. 基本情報

1.1. タイトル

Adolescents with authoritarian leanings exhibit weaker cognitive ability and emotional intelligence

1.2. 著者

  • 記事執筆: Eric W. Dolan(PsyPost, 2025年1月23日付)

  • 引用研究: Alain Van Hiel, Kim Dierckx, Hilde Depauw, Tassilo Tissot, Ruben Van Severen, Johnny Fontaine, and Arne Roets

  • 研究タイトル: “The Relationship Between Cognitive and Emotional Abilities and Ideological Attitudes Among Adolescents”(掲載誌: Journal of Personality)

1.3. 記事

  • 本記事は学術論文「The Relationship Between Cognitive and Emotional Abilities and Ideological Attitudes Among Adolescents」を紹介するニュース・解説記事です。

  • 主題: 思春期の若者の認知能力と情動的能力が、保守・左派を問わず権威主義的態度と関連しているかを調査。


2. 要約

2.1. 1行要約

認知能力と感情面のスキルが低い思春期の生徒ほど、左派・右派に関わらず権威主義的な姿勢を持ちやすいという研究を紹介した記事。

2.2. 3行要約

  1. ベルギーの研究者らが15~22歳の約500名を対象に、認知能力・情動能力と政治的態度(左右の権威主義を含む)の関連を調べた。

  2. 結果、知能や情動調整が低い青少年ほど右派・左派いずれの権威主義的態度も強く持ちやすい傾向が確認された。

  3. これは成人における類似研究と一致し、青年期からこうした態度が形成される点に注目を促している。

2.3. 400字要約

Journal of Personality に掲載された新研究によると、認知能力(IQなど)や情動的能力(感情を理解し調整する力)が低めの青少年ほど、左右の政治スペクトラムを問わず権威主義的姿勢を取りやすいことが分かった。対象は15~22歳の約500人で、認知テストおよび情動テストのスコアとともに、右派の権威主義・社会的支配傾向・左派の権威主義を測定。すると認知能力が低いほど権威主義的傾向が見られる一方、情動能力との関連はさらに強く、感情をコントロールし他者と適切に関わるスキルが乏しいと権威主義が高まる結果が示された。これにより、権威主義的態度の発端が思春期における認知・情動能力の欠如と深く結びついている可能性が示唆された。


2.4. 800字要約

研究デザインと背景

本研究はベルギーの大学チームが主導し、15~22歳の青少年507名を対象として、(1) 認知能力テスト、(2) 感情理解・調整能力を含む情動能力テスト、(3) 右派権威主義・社会的支配志向・左派権威主義の3種類の政治的態度を評価した。従来、成人を対象にした研究で「認知能力や情動面が低いほど、権威主義的価値観を持ちやすい」という結果が報告されていたが、思春期段階でも同様の関連が成立するのかを調査した。

主な結果

  • 認知能力が低いほど、右派・左派問わず権威主義的な態度を持つ傾向が顕著。

  • 社会的支配志向(集団間のヒエラルキーを肯定)の場合、認知能力との関連はやや弱めだった。

  • 情動能力の低さはさらに強く権威主義と結びつき、感情コントロールが不十分だと政治的極端思想や強硬姿勢をとりやすい。

  • 左派と右派の権威主義的態度は根底に類似した心理特性(低い情動能力・認知能力)を共有していることが確認された。

意義

本研究は「大人になってから政治的信条が形成される」という従来の認識に対して、思春期から既に政治的傾向が萌芽しており、それは認知・情動面の発達と深く関係する点を示唆する。また教育の場での介入(感情教育や論理的思考スキルの強化)が、権威主義傾向を和らげるかもしれないという方向性を暗に示す。


2.5. 1,200字要約

1. 研究目的と背景

政治心理学の分野では、成人において「知能が低いほど保守的・権威主義的な態度を取りやすい」との知見が蓄積されてきた。だが、思春期の若者でも同様の傾向が見られるのか、さらに情動能力がどのように作用するのかは十分に研究されていなかった。そこでベルギーの研究者らが青少年を対象に、大規模な調査を実施した。

2. 方法

  • 対象: 15~22歳の約500名(中学・高校生~大学初年次レベル)

  • 測定:

    • 認知能力:標準化された知能検査(語彙や推論、処理速度等)

    • 情動能力:感情理解や制御力を評価するテスト

    • 政治的態度:右派権威主義(RWA)、社会的支配志向(SDO)、左派権威主義(LWA)の3軸

  • 統制要因: 性別、年齢、教育水準など

3. 主な結果

  1. 認知能力が低いと右派・左派いずれの権威主義スコアも高くなる傾向が確認された。

  2. 社会的支配志向と認知能力の関連は、右派権威主義との関連よりも弱め。

  3. 情動能力の低さはさらに強い予測因子で、感情理解が乏しいと極端な政治的立場を取りやすい傾向が浮上。

  4. 右派と左派の権威主義的態度には類似の心理的特徴があり、理性や感情面の弱さが両極端の権威主義と結びついていることが示唆された。

4. 考察と意義

結果は、思春期でも既に政治的信条の端緒が形成されており、その形成過程に認知・情動能力が重要な役割を果たすことを示唆する。著者らは、成人同様に若者でも「認知・情動面が低い人ほど権威主義へ惹かれる」構図が成り立つと結論づけ、社会的な教育介入や感情教育の可能性を論じている。
ただし、因果関係は明確ではなく(横断研究であるため)、今後は長期追跡で「どの段階で権威主義が固まるのか」「教育的支援が態度に影響を与えられるか」を探る必要がある。


2.6. 1,600字要約

1. 研究背景

大人において、低い認知能力と権威主義的態度(保守や右派だけでなく、左派の過激思想も含む)の関連は、先行研究で繰り返し確認されてきた。一方、思春期の若者に着目した研究は少なく、特に「情動能力」がどのように政治的傾向に関わるかは未解明だった。本研究では、ベルギーのチームが大規模サンプルを用いて若者の認知・情動能力と政治的態度を包括的に分析しようと試みた。

2. サンプルと測定方法

  • 参加者: 15~22歳の507名

  • 認知能力: 標準IQテストなどを活用して測定

  • 情動能力: 感情理解や感情調整のパフォーマンスを評価する4種類のテストをまとめたコンポジットスコア

  • 政治的態度:

    1. Right-Wing Authoritarianism (RWA):権威や秩序を重視し、従属と攻撃性を伴う右派的態度

    2. Social Dominance Orientation (SDO):社会的ヒエラルキーを肯定し不平等を受け入れる傾向

    3. Left-Wing Authoritarianism (LWA):再分配や反伝統的権威を掲げつつも、強硬的・攻撃的な態度を示す左派的権威主義

3. 主な結果

  1. 認知能力の低さ

    • 右派・左派の両方向で権威主義的態度が強まりやすいが、とくにRWAとの関連が顕著。

    • SDOとも関連があるが、RWAほど顕著ではない。

  2. 情動能力の低さ

    • 認知能力よりもさらに強い相関があり、感情コントロールが乏しい人は極端な態度(RWA、SDO、LWA全て)を支持する傾向が高い。

    • 情動能力を統制したあとの認知能力の影響は小さくなる。

  3. 左右の権威主義の共通性

    • 右派・左派は異なる主張をもつが、その根底には似た心理特性(低い情動能力・認知能力)が関係している。

4. 年齢差・発達的視点

本研究では15~22歳の幅広い年齢層を対象としたが、結果の傾向は年齢による顕著な違いが見られず、この時期を通じて一定の相関が確認された。これにより「思春期から青年期にかけて、認知・情動能力が低いほど権威主義が形成されやすい」可能性が示唆される。

5. 意義と限界

  • 意義:

    • 従来は成人対象で確認されていた「認知能力の低さと権威主義の関連」が、青少年でも再現された。

    • 情動面が予想以上に強い決定要因である点が新しい知見となる。

    • 社会的には、教育現場での情動教育や批判的思考スキル育成の重要性を示す。

  • 限界:

    • 横断研究で因果関係を立証できない。

    • テストの地域的偏り(ベルギーを主軸)や文化要因は排除しきれない。

    • 質的に異なる政治的態度を一括りに「権威主義」として分析している点に留意。

6. 今後の展望

研究者は縦断研究を提案し、「青少年期における認知・情動能力の変化が、どのように政治的態度の形成・固定化へと繋がるか」を追跡する必要性を訴えている。特に教育プログラムが思春期における極端な政治観にどう影響を与えうるかを検証することが、権威主義抑制や多様性尊重の観点で重要だとしている。

いいなと思ったら応援しよう!