路上ライブ
「ガキの頃の夢は何だった?」
「もう忘れたよ。そんなこと‥もう35だぞ」
「俺の夢はプロ歌手になることだった」
「お前、昔から歌上手いもんなぁ〜」
仕事終わりに、いつものBARで一杯飲む。
いつものジントニックを飲みながら、いつもの仲間と‥
帰り道に人だかりを見つけた。
どうやら路上ライブをしているようだ‥
「学生の路上ライブかぁ‥」
ギターの音が鳴り響く。
「だからーいーま、あーいにゆーく‥そう、きーめたんだー♪」
「YUIの曲じゃん‥」
懐かしい歌につい足が止まる‥
「oh good-by days いまー、かわるーきがーすーるー♪」
「この曲名なんだっけぇ‥」
目の前の女の子の歌がまっすぐに俺の心に入ってくる。
むちゃくちゃ上手いわけではない‥
でも、キラキラしている‥
「若いっていいなぁ‥」
俺には彼女が眩し過ぎた。
そして、とても遠い存在に感じた‥
ギターのコードも所々間違っていたが、心地よいメロディだった。
気づいたら、俺は1番前に座っていた。
何曲聞いていただろう‥
気がつけば、観客が俺だけになっていた。
ふっと彼女と目が合う‥
俺は照れてしまい、目を逸らした。
彼女も微笑んだように見えた。
「何かリクエストありますか?」
彼女に聞かれた俺は悩みながら、ぽつりと呟いた。
「一緒にHYのモノクロ歌わん?」
彼女は一瞬、驚いたがすぐに頷いた
「おじさん歌えるの?」
「歌えるわ‥それに35歳だから」
「おじさんじゃん‥」
「きょうもーみつけたーきみのすがたー♪‥」
「ついみとれてーまえもみれないー♪‥」
街の雑音をかき消すように、2人の歌声が空に響いた‥