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テルと黒い龍

【注意】この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません【注意】

 テルにはかわいい黒いヘビのお友だちがいます。
 このヘビはテルの特別なお友だち。ある日突然、その子はテルの前に現れました。
「こんにちは」
 とりあえずテルはその黒いヘビに話しかけてみました。
『こんにちはテルちゃん。ああ、きみのそばは心地よいね。ぼく、しばらくここにいてもいいかな?」
「いいわよ。ところであなた、お名前は?」
「ぼくのなまえ? みかげ。漢字はわからないや」
 そう黒いヘビは答えます。こうして、一人と一匹は仲の良い友達となりました。

+ + +

 月日は瞬くかのように流れます。テルはあっというまに高校を卒業し、そして大人になりました。
 大人になったテルは占い師さんになりました。なぜなら神影ちゃんがそう言ったから。
「なにしろ君の霊力は強いからねえ。これを生かすお仕事は占い師とヒーラーだよ、絶対」
「ふーん、そうなの?」
「そうさ、良いヒーラーは強い霊力をもっているものなんだ。君が霊力を使いこなせば地上最強のヒーラーになれる可能性がある。僕も手伝う、やってみようよ」

 ヒーラーの仕事は簡単ではありません。何しろ自分の霊力を他人に注ぎ込むのですから。
「ほら、そこで腕を伸ばすみたいに霊力を伸ばして」
「そう、自分の意識を遠くに伸ばすイメージだ」
「その幻の腕を伝って魔力が流れる、そう、そう……」
 神影さんがビシバシとテルをしごきます。
 大変だし、なんだかとっても疲れる練習です。でも、神影さんが手伝ってくれたおかげでテルはヒーラーとしての実力をメキメキと伸ばしていきました。

 ある日のヒーリング仕事の帰り道、ふと思いついてテルは神影さんに訊ねてみました。
「神影さんは龍にはならないの? ほら、黒龍って格好いいじゃない?」
  ヘビはいつか龍になる。そうテルは信じていました。
「龍かあ……」
 神影さんが考え込みます。
「そう、なんかね、やればできそうな気もするんだよね」
「へー、じゃあ、なっちゃえば? 黒龍」
 ワクワクしてテルが神影さんを焚き付けます。
「そうだね。じゃあ、ちょっと……」
 神影さんはつとテルから離れると、全身に力を溜め始めました。
「テル、ちょっと霊力借りるよ」
 テルの身体から急に霊力が抜け始めます。
「え? ちょっと、ヤダ」
「もう、止まらん。テル、すまんな」
 神影さんの体がどんどん大きくなっていきます。
 後退るテルの目の前で、神影さんの身体が変化し始めました。
 全身の鱗が大きくなり、そして光沢が強くなります。

 ポンッ

 最初は両腕。

 ドンッ

 そして両脚。
 音を立てて、神影さんの身体から両手脚が現れました。

 メキメキメキ……

 神影さんの巨大化は止まりません。
 気がついた時、神影さんは巨大な黒龍となっていました。
「……ひゃあッ」
 霊力を抜かれ、身体に力が入りません。
 思わず尻餅をついたテルに向かって、神影さんはよく響く低音の声で優しく話しかけてきました。
『……うむ、テルよ、感謝する。主の霊力でわしはこの様に黒龍となった。今後はわしが主を護ろうぞ』
 もう、神影さんなんて気軽に呼べない雰囲気。
 もはやこれは、神影様です。
 黒龍となってしまった御影様は強い霊力を感じる、強いオーラを帯びた神々しい存在になってしまいました。力もとっても強そうです。
 これならなんでもできてしまいそう。
「……はい、あ、ありがとうございます」
 自然と敬語でテルは神影様に答えました。
『どうやら主は力が尽きたようじゃの。どれ、わしが家まで連れて行こう。わしの背中に跨るのじゃ、テル』

 夜の闇の中、テルは神影様の背中に乗って家まで帰っていきました。

+ + +

 さて、その後どうなったかというと……
『テルよ、わしはまだ食い足りないぞ。もっと霊力を寄越せ』
「は、はい、只今」
 テルがパクパクとご飯を食べながら頭の中の神影様に答えます。
 霊力を作るためには何よりご飯が必要です。でも、食べたご飯はテルの身体に残り、抜き取られていくのは霊力だけ。
(神影様が黒龍になったのは嬉しいけど……こんな事してたら太っちゃう)
『……テルよ、なんぞ申したか?』
「いえ、大丈夫です」
 テルは慌てて答えると、さらに食べ物を口に押し込みました。

 やがてテルは黒龍持ちの最強ヒーラーと呼ばれるようになりますが、それはまた別のお話で。

──了──

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蒲生竜哉@『魔法で人は殺せない』著者🎈
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