【SS】天国の向こう側
「人は死んだらどこにいくのか?」
これは僕の長年の疑問だった。
「いずれわかる」
と亡くなったじいちゃんは僕に言ったが、死んだ後でじいちゃんは僕に教えてはくれなかった。
死んだらどうなるか? これは教えてくれる人は一人もいない。
どうせすることもないし、一つ死んでみるか。
そこで僕は死んでみることにした。
どうせ死ぬなら痛くない方がいい。
いろいろ考えたが、確実性を優先して飛び降り自殺にした。20階以上のビルなら落ちてる途中で失神するだろうし、脳が粉砕されれば確実に死ぬだろう。一瞬だからたぶん痛みも感じない。
そこで僕は以前勤めていた某IT企業の屋上に登った。
ここから鳥になってしまった同僚は多い。セキュリティが甘いので簡単に屋上に出られるのだ。
「さあ、行くぞ」
僕はフェンスを乗り越えると、地面に向かって一気にダイブした。
………………
…………
着いた先は何もない草原だった。
三途の川もなかったし、神様に会うこともなかったし、もちろん閻魔大王の裁判もなかったし、エジプトじゃないから黒猫みたいなオシリスに会うこともなかった。
ただの草原。
太陽は見えないが、あたりは明るい。
ただ、驚いたのはそこの人口密度の高さだった。
なんだか知らないけど人がやたらと沢山いる。
「なんだ、こりゃ?」
思わず僕は呟いた。
しばらくあたりを歩き回って知り合いを探してみる。
すると、いた。
去年バイク事故で即死した難波が
「おう! お前も来たのか」
と向こうから声をかけてきたのだ。
「おう、難波。ここはどこだ?」
僕は難波に尋ねてみた。
「わからん。天国?」
難波が首を捻る。
「それにしても人が多いな。どうなってるんだ?」
「なんかさー」
難波は説明してくれた。
「死ぬとここに来るみたいなんだよ。だけど出方がわからないから人は増える一方だ」
「ふーん」
「だがな……」
と、難波は声を潜めた。
「どうやらここで死ぬとな、現世に帰れるらしいんだよ」
「え? マジか」
僕は驚いて難波の顔を見つめた。
「ああ、マジマジ。なんかこの前どこで聞きつけたのかじいさんが俺んとこにきてさ、「殺してくれ」って言うから一発で撲殺したんよ。そしたらそのじいさんはすーって消えちまった。あれ、きっとどっか行ったんだぜ、たぶん。それが現世かどうかは知らんけどな」
「そりゃいい話だな」
すでにここに飽き始めていた僕は難波に言った。
「じゃあ、殺るか」
「おう、いいぜ」
そういう訳で僕は難波と殴り合いを始めた。
しかし、痛くもないし、疲れもしない。なんせ死んでいるのだ。息をしていないから息もあがらない。
「おい、これ、なんか不毛じゃねーか?」
僕は必殺のクロスカウンターを放ちながら難波に言った。
「おう、そうなんだよ。水もねえし、高いところもねーし、死ぬにも死ねないんだよな」
難波もハイキックで俺を蹴り飛ばしながら答えて言う。
やがて飽きたので難波と草原に横になった。
「しかし、どうしたもんかな」
僕は難波に言った。
「せめて女がいればヤリまくってそれなりに楽しそうなんだが、ここ、野郎しかいねーんだよ。どうやら男女で場所が違うみたいだ」
「なんだよ、風呂屋みたいだな」
しかし、他に特にやることもない。
仕方がないので、僕は今日もなんとかして殺し合えるように難波と殴り合いを繰り返している。
──天国の向こう側 了──