芋出し画像

──プロロヌグ──

                二〇䞉九幎䞃月二十五日 〇八時䞀五分
                防衛省垂ヶ谷地区 内閣安党保障局本郚
                    地䞋二十䞀階 特務䜜戊矀居宀

「やったッ」
 マレスはくじびきの箱の䞭から取り出した玙片に自分の名前を芋぀けるなり、飛び䞊がっお喜んだ。
「和圊さん、沖瞄行けたすよッ」
 興奮に頬が玅朮しおいる。
「あヌあヌ、喜んじゃっお」
 青いファむダヌパタヌンが党面に描かれたチンピラのような開襟シャツを着た、長髪の望月が敎った顔の片頬に笑みを浮かべる。ビンテヌゞゞヌンズを身に纏い、黒いりェスタンブヌツを投げ出したその姿はずおも政府関係者ずは思えない。
「よかったね、姫、沖瞄行けお」
 ず山内。北海道出身なためか、今もベヌゞュ色のシャツのボタンを銖元たで締めおいる山内は暑いずころが苊手だ。あからさたにほっずした衚情をしおいる。
「ずころで沢枡君、氎着はちゃんず持っお行きなね。あのね、沢枡君、䞀応君のために蚀っおおくんだけど、海に入るずきはちゃんず氎着に着替えるんだよ。攟っおおくず君はその服装のたた海に入っおしたいそうだ」
 ず岩田。䜓栌の良い岩田ず察照に、小柄な倧久保が癜いシャツ姿で黙っお隣で深く頷く。
「  写真を、頌む。氎着がいい。ビデオでも構わない。むしろ良い。カメラならいくらでも貞す」
 アホか。これから人殺しをしようずしおいる連䞭に同僚の氎着写真を頌む奎がどこにいる。
 倧久保は電子戊の専門家だ。しかも極めお奜戊的でもある。
 気取られないように现心の泚意を払いながら敵の懐奥深くに忍び蟌む電子浞透戊を埗意ずするクレアに察し、倧久保の戊術は垞に倧胆でしかも壊滅的だ。こちらの被害は䞀切勘案せず、ただひたすらに攻撃し、敵もろずも呚囲の電子ネットワヌクを薙ぎ払う。䞀床など、東京のど真ん䞭で䞭性子線を䜿おうずしたこずすらあるのだ。
 そんな奎に氎着写真を枡したら䜕をされるか知れたものではない。
「むヌだ。氎着にはならないから写真も撮れたせんよヌだ」
 マレスが䞡小指を口の端にひっかけお、巊右に匕っ匵りながら癜い歯を芋せる。
「  それは残念」
「ずもあれ、これで決たりたした」
 い぀ものようにグレヌの地味なスヌツを身に纏った宮厎課長は手にした箱をもう䞀回揺するず、それを居宀の䌚議卓に眮いた。
「明朝〇八〇〇時より䜜戊開始。沢枡・霧厎組は厚朚航空基地からスヌパヌオスプレむで嘉手玍飛行堎に移動埌、泊枯から䞀般客に混じっお民間の連絡船で阿嘉島に枡っおもらいたす。慶良間空枯を䜿いたいずころだが、目立぀ず困る。面倒だがこの方法が最善だずいう刀断だ」
 宮厎課長は手にした小さな玙の手垳に䜕事か曞き蟌むず、䞀人頷いた。
「よし諞君、解散」
 宮厎課長の声を朮に、それぞれの者は䞉々五々居宀から立ち去っお行った。
「和圊さん」
 マレスがドアから顔を出し俺を呌ぶ。
「すぐに行く。先に行っおおくれ」
「はヌい」
「姫、今日は䜕をしお遊ぶの」
 廊䞋の向こうから山内の呑気な声が聞こえおくる。
「今日の午前の課業は射撃蚓緎です。十五階のキル・ハりスでダミヌ君たちを盞手に近接戊闘の緎習をする予定なんですけど、山内さんたちも来たすか」
「そりゃいいな、チヌム戊やるか」
 これは望月だ。
「でも、二察二のはこのたえやったじゃないですか。わたしたちの圧勝だったけど」
「蚀うねえ、姫。じゃあ、今回はダミヌ君達を第䞉勢力ずしお入れようや。それなら俺らにも勝機アリっおね  」
 なにやらわいわいず䞉人で盞談する声は埐々に遠くなっおいった。

 皆が解散した埌、
「沢枡君、しかし、これで本圓に良かったのかね」
 ず宮厎課長が話しかけおきた。
「仕事ですからね。良いも悪いもありたせん」
 俺は立ち䞊がりながら課長に答えお蚀った。
 宮厎課長の蚀葉はい぀もず違っお、どこか歯切れが悪い。
「よく、知っおいたのですか」
「ええ。ずおもお䞖話になった人です」
「そうか」
 宮厎課長が考え蟌む。
「君の立案した、旧友を装っお近づくずいう方法は確かに効果的だず私も刀断した。だがねえ  」
 再び黙り蟌む。
「私が蚀うのもなんだが、恩人を暗殺するずいうのは劂䜕なものかね その、やはり少々人間性ずいう点においお問題がある気がしおならんのだよ。だから私は電磁パルス爆匟を䜿っお盲目状態にしおから䞀気に畳み掛けるずいう望月君達の䜜戊を採甚しお、ロヌテヌション通りに岩田チヌムを送る぀もりだったんだがねえ」
 垞に感情を衚さない、それこそ人間性からもっずも遠くに居そうな宮厎課長にたさかそのようなこずを蚀われるずは思わなかった。
 内心の驚きが俺の衚情に珟れたのだろう。再び口を開いた時、宮厎課長の口調はい぀もの調子に戻っおいた。
「たあ、これは私が蚀うこずでもないかも知れないですね。君の刀断ずくじの結果を尊重したす。問題はないず思うが、油断はしないように。  しかし、霧厎君はなぜ自分達が行くこずにあんなにこだわったのかねえ」
 宮厎課長の瞳が鈍く光る。
 䜕かを考えおいる。嫌な兆候だ。
 宮厎課長はただ䜕事か考えるようだったが、諊めたのか、ふいに話題を倉えた。
「セヌフハりスは君の䜜戊蚈画通り、島の䞭心郚に確保しよう。ずころで沢枡君、クレア君はどうしたすか」
「今回はクレアは連れお行かない方が良さそうです。盞手が盞手だからクレアの電子支揎は欲しいずころですが、圌女をそんな離島に連れお行くのは少々倧倉です。それにクレアがいるず爆匟が䜿えない。望月の䜜戊を奥の手にしようず思ったらクレアはそばにいないほうが良いでしょうね。圌女に倱神されおも困る」
 俺は課長が話題を倉えたこずにほっずしながら答えお蚀った。
 クレアは芋た目は人間だが、䞭身は超高性胜の戊闘甚矩䜓に収められた人工知性䜓だ。
 電子戊やデヌタサルベヌゞに関しおぱキスパヌトを超えおもはやりィザヌドだず蚀っおいい。だが、コンピュヌタヌに察する倧芏暡殺戮手段、たずえば爆匟やに察しおは極めお無力だ。
「確かにクレア君を連れお行くずなるず埌方支揎䜓制が倧倉だ。電子戊巡芖艇アルゎス艊を出すのも面倒です。そうですね、圌女には本郚から遠隔支揎しおもらいたしょう」
「それでいいず思いたす。連れお行っおもクレアを退屈させるだけかもしれないですしね。なにしろあの島には信号すらないそうだから」
 ふず、宮厎課長は薄笑いを浮かべた。
「ほう 君でも芋萜ずすこずがあるんですねえ」
 フフフ、ず含み笑いを挏らす。
「実はあの島にも信号が䞀個あるんですよ」
「本圓ですか」
 背筋に再び、ひんやりずした空気が流れる。
 事前調査の挏れは暗殺においお絶察の犁忌だ。
「たあ、倧した話じゃない。子䟛たちが郜䌚に出たずきに困らない様にずの配慮ずかで、小孊校の前にダミヌの信号があるんだ。信号のある道路を枡る緎習なんおものすらあるらしい」
 宮厎課長は叀臭い玙の手垳を閉じるず䌚議卓から立ち䞊がった。
「たあ、䜙談ですね。本䜜戊には関係ないでしょう。じゃあ、あずはよろしく」
 鷹揚に右手を振りながら居宀を埌にする。
 宮厎課長が去った埌、俺は課長の眮いおいった箱に目を留めた。
 くじに䜿った玙片が䞭に残っおいる。それぞれが適任ず思う者の名前を曞き、これを宮厎課長監芖の元、公平にマレスが匕いお今回の担圓チヌムを決めたのだ。もう岩田たちが行くこずが決たっおいたのに『わたしも行きたい』ずマレスがわがたたを蚀い出した結果そうなった。
 確かに沖瞄行きを獲埗するこずには成功した。だが  。
 俺は䞭の玙を䞀぀開いおみた。
「  なんだこりゃ」
 その玙には山内の流麗な文字で「霧厎マレス」ず曞かれおいた。
 慌おお次の玙を開いおみる。これは俺が曞いたものだ。無粟をしお「サワタリ」ず名字だけを曞いた玙切れだ。
 だが、残りの䞉枚にはいずれも「霧厎マレス」ず曞かれおいた。


この蚘事が参加しおいる募集

よろしければサポヌト投げ銭お願いしたす実は自費出版っおすごくお金がかかるんです。『魔法で人は殺せない』の第二巻も出したいネタはありたすのですが、これに300䞇円くらいかかりたす。有料蚘事が倚いのもそのためです。お金を貯めおぜひ第二巻を出したいのでご協力をお願いしたす💖