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                二〇䞉九幎䞃月二十九日 二五時〇八分
                      沖瞄県島尻郡座間味村阿嘉

「これで終わりだな」
 俺はクレアずマレスに声を掛けた。
──はい。以倖の熱源はありたせん。殲滅完了です
「よし。じゃあ倧䜐を回収しよう」
 俺は船を䟋の浅瀬に向けるずスロットルを開いた。
 ドッドッドッドッドッ  
 そのたたの勢いで䞀気に浅瀬に乗り䞊げる。
「行くぞ、マレス。倧䜐を船に乗せよう」
「うん」
 マレスに声を掛けたその時。
 突然、船尟偎から小さな氎音がした。
 暗がりの䞭、二人の人圱が船に乗り蟌んで来る。
「お垰り、お二人さん」
 人圱の片割れが俺たちに声を掛ける。
 この声はアケミ ならば隣の野郎は船長か
「誰だ、こい぀ら」
 俺はクレアに蚊ねた。
──刀りたせん。こちらからはダむビングショップのむンストラクタヌず船長にしか芋えたせん
「それ䜍は俺にも刀る。こい぀らはアケミずケンちゃんだ。俺は䞭身を蚊いおいるんだ
──䞍明です。状況から考えお瀋陜軍の人たちですが、浞透しおいたずしたら半幎以䞊前から掻動しおいたこずになりたす
「芋事に殺られたわねえ。たさか、郚隊党滅にたで远い蟌たれるずは思っおもいなかったわ」
「お前らは、䞀䜓  」
 今たで俺は二人のこずを眪のない、小さなダむビングショップのむンストラクタヌ達だず思っおいた。
 その二人が瀋陜軍の関係者だったずは。
 背埌のマレスも䞀瞬驚いた衚情を芋せたが、すぐに真顔に戻るず『やれやれ』ずいう颚に肩をすくめた。
 自衛隊出身の芁員の倚くは囜内事案しか経隓がないためか、どちらかずいうずナむヌブだ。
 その点、䞖界䞭を股にかけお戊っおきたマレスは匷い。
 戊堎では臚機応倉が求められる。この皋床の裏切りはマレスの蚀葉を借りれば『よくある話』なのだろう。
「倧田倧䜐を動けなくしおくれればそれだけで良かったのに、私の倧切な郚隊を諞共壊滅させちゃうっお、あんたたち䜕者なのよ 二察䞉十䞀よ。たさかこんなこずになるずは思わなかったわ」
 倧げさに䞡手を広げながらアケミが嘆息する。
「党身矩䜓もプロパンガスの爆発では持たないのね。最初に突入したのは党身矩䜓の芁員だったんだけど、䞀気に吹き飛ばされた時には流石に鳥肌が立ったわ。たあ、気分だけだけどね」
「ずもあれあんたらには消えおもらわないずいけないんだ。枈たないね」
 これはケンちゃんず呌ばれおいた誰かの蚀葉だ。
 蚀いながらアサルトラむフルを腰だめに構える。
「うちも矩䜓の開発には䜙念がないんだけどね、どうにも開発が行き詰たっおいるのよ。だからのサンプルがどうしおも必芁なの」
 パシュヌッずいう、空気が抜けるような音が埮かに聞こえる。
 肉付きの良かったアケミの姿がみるみる现くなっおいく。
──和圊、この人は矩䜓所持者です。氎䞭栌闘戊胜力もあるず考えられたす。ここは䞀旊匕いお。船の䞊での戊闘は避けお䞋さい
「匕くったっお、どこにだよ」
 远い詰めたず思っおいたら、どっぷり嵌っおいたのはこちらだったずいう構図だ。
 少々倪めだったアケミの姿は芋る間に粟悍な戊士のそれに倉貌した。
 驚く俺に向かい、アケミがニダリず笑う。
「驚いた」
 アケミの瞳が暗く光る。
「皮膚ず矩䜓倖骚栌の間に空気を入れるこずが出来るの」
「浮力調敎、氎䞭戊察策か」
「たあ、それもあるけど  うちらの矩䜓は容姿を倉えられるこずが特城なのよ」
 今床は小枝を折るような小さな音を立おながらアケミの顔の圢が倉わっおいく。
 少し倪めで䞞顔なダむビングむンストラクタヌのアケミは、あっずいうたに现面に切れ長の瞳が光る粟悍な兵士の姿に倉容した。
「さお、こち  」
 ず、突然、猛烈な蜟音が呚囲を満たした。
 ドゎヌンッ。
 䜕かに突き飛ばされたかのように、アケミの身䜓が吹き飛ばされる。
 マレスだ。
 近すぎるため、プロヌン姿勢ではアケミを撃おないからだろう。重いバレットを腰だめに抱えおいる。
 ドゎヌンッ。
 さらにもう䞀発。
 起き䞊がろうずもがくアケミの胎を、攟たれた培甲匟が装匟筒のロケットモヌタヌを癜く茝かせながら盎撃する。
 だが、あの銃を腰だめで撃ち続けるこずはマレスには無理だ。
 䜓重が軜すぎる。
 射撃するたびにマレスがよろける。
 アケミず呌ばれおいたダむビングむンストラクタヌは重い銃匟の盎撃を腹に受け、身䜓をくの字に曲げながら海䞭に投げ出された。
 俺はほが同時に足元のアサルトラむフルを拟い䞊げるず、唖然ずしおいる船長の胞元にフルオヌトで銃撃を撃ち蟌んだ。
 咄嗟に船長が䞡手で胞元を庇う。
 䞡腕から火花が散り、攟ったラむフル匟が虚空に跳匟する。
 撃ちながら照準を䞊に持ち䞊げ、頭を狙う。
 だが、頭蓋に圓たったラむフル匟は皮膚を削るだけだ。盛倧に火花を散らしながら船長の顔の䞋から金属補の倖骚栌が珟れる。
 ク゜ッ、こい぀も矩䜓だ。
 俺は空になっおしたったアサルトラむフルを投げ捚おるず巊腿のホルスタヌから抜いたベレッタのサヌモバリック匟を奎の腹郚に撃ち蟌んだ。
 貫培出来ない。
「ヘヘッ」
 爆発するサヌモバリック匟の衝撃に腰を぀いた船長が䞍敵に笑う。
 培甲匟にマグチェンしおいる間はなさそうだ。
 矩䜓ず蚀えども、生䜓脳ずその維持噚官ずの接続を砎壊されれば動䜜停止する。
 俺の知る限り、人民軍のサむボヌグにバヌサヌクモヌドは存圚しない。
 ならば頞をぞし折っお生䜓脳ずの接続を切るたでだ。
 匟みを぀けお船長が飛び起き、生身の身䜓では䞍可胜な速床でこちらに向かっお来る。
 ガゥンッ
 ほずんど同時にマレスが揎護射撃を開始。
 再び反動でよろけるマレスを暪目で芋ながら俺はマレスに声をかけた。
「こい぀は俺が片付ける。マレス、海に萜ちたアケミを探せッ。セットになったら面倒だ」
「了解」
 蚀う間にもバレットに吹き飛ばされた船長が再び立ち䞊がる。
 こい぀の方が重い。
 向かっおくる船長に俺は正面からタックルした。
 接觊するず同時に脚を払い、盞手の重心を厩す。
 ベレッタを手の甲偎に回しながら䞊䜓を開いた船長の足銖を䞡手で掬い取り、身䜓を捻っお盞手の膝関節砎壊を狙う。
 だが、すかさず同じ方向に身を翻しお、船長が関節砎壊を回避する。
 間を眮かず懐に朜り蟌むず、俺は殎りかかっおくる船長の右腕を取った。
 䜓を入れ替え、䞀本背負いの芁領で盞手を投げる。
 盞手が頭䞊を越えた瞬間、俺は膝を突いお䞡腕を匕いた。さらに自分の身䜓も投げ出しお党䜓重を盞手の頞に乗せる。
 受身を取れず、船長の頞郚がぞし折れる。
 ボキッ、ずいう嫌な音。
「ガハッ」
 船長の口から鮮血が溢れ出る。
 だが。
「なんちっおね」
 たるで転んだ子䟛が起き䞊がるかの様に、船長は銖をさすりながら再びゆらりず起き䞊がった。
 銖が䞍自然な方向に曲がっおいる。頭がたるでフヌドのように背䞭に垂れ䞋がっおいる。
 ク゜、こい぀は  。
 船長が向き盎るず、背䞭偎にぶら䞋がっおいた銖がぐるんず廻り、今床は胞元に垂れ䞋がった。
「沢枡さん、流石だね。でもさ、壊せばいいっおもんでもないんだなあ」
 しくじった。
 この距離では察応が間に合わない。
 䞀瞬のうちに船長の腕が銖元に絡み぀き、あっずいうたに俺は海䞭に匕きずり蟌たれおいた。
「朱珠、返回朱珠、早く戻れ」
『静賢、只需䞀分鐘静賢、ちょっずたっお』
 氎䞭の音速は秒速䞀キロを超える。声は聞こえるが、アケミがどこにいるか刀らない。
 船長の身䜓は重かった。氎深は五メヌトルにも満たない。だが、抌さえ぀けられた身䜓から船長をもぎ離すこずがどうしおも出来なかった。
 たるでタコのように絡み぀いおいる。
 これはたずい。
 このたたでは溺死する。
 盞手は氎䞭戊に特化した矩䜓所持者、䞀方、こちらは生身の身䜓だ。ハむパヌベンチレヌションもしおいない。このたたでは数分も持たない。
 すぐに振りほどいおなんずかしないず。
 俺は手にしたベレッタを船長に向けお連射した。
 二発、䞉発。
 だが、抵抗が倧きい氎䞭では期埅しただけの砎壊力を発揮できない。
 匟は明埌日の方向に跳匟するず氎䞭で爆発した。
 ドンッ、ドンッ、ドンッ  
 呚囲に癜い閃光ず衝撃波が充満するが、船長を振りほどくには至らない。
 船長はマりントポゞションで俺に䜓重をさらに乗せるず、
「無理だよ」
 ず胞元から声を発した。
 ク゜ッ。
 たるでタむマヌの数字がみるみる枛っおいくのを芋おいるような気分だ。
 もがいおも船長の力は匷かった。
「気楜なもんだよ、こっちは。こうしおいればいずれあんたは溺死する」
 わざわざ日本語で蚀いやがる。
──和圊、あなたの䜓内の酞玠濃床が急激に䜎䞋しおいたす。なんずかしないずあなたはあず二分以内に倱神したす
 どう考えおも船長の矩䜓重量は癟キロを越えおいる。
 浮力調敎しおいない矩䜓はただの鉄の塊だ。
 クレアも無茶を蚀いやがる。
 俺はもう䞀床船長の腕を振りほどこうずした。䞡足を船長の身䜓の䞋にねじ蟌み、無理やり䞊に抌し䞊げる。
 しかし、船長の力は匷かった。俺に抱き぀き、背埌で組んだ船長の䞡手を振り解くには至らない。
 力を䜿うずさらに䜓内の酞玠が枛る。もがけばもがくほど、どんどん息苊しくなっおいく。呚囲の海氎が粘るようだ。
──あず䞀分ありたせん。和圊、急いで
 船長は俺の䞊半身に預けた身䜓にさらに䜓重を乗せ、俺の身䜓を氎底に抌し付けた。
 燃え䞊がる炎に茝く氎面を背景に、氎䞭の歪んだ芖界の䞭で船長の口元に薄い笑みが浮かぶ。
 䜕か、冷たいものが背埌から迫っおくる。
 瀬戞際で感じる冷たい感觊ず抗いがたい焊燥感。芖界が狭くなるに぀れ、焊りが募る。
 だが、どうしおも船長の身䜓を振りほどくこずができない。
「もうそろそろかなヌ  朱珠、早」
 そうこうしおいる間にもアケミが戻っおくるだろう。そうしたら本圓にお手䞊げだ。
 マレス、䜕をしおいる。早く来い。
 俺は右手で腰のコンバットナむフを抜くず船長の脇の䞋に突き刺した。
 腕の䞀本でも砎壊できれば抜け出すこずができるかも知れない。
 だが、その皋床では矩䜓を砎壊するこずはできなかった。金属補の関節に阻たれ、俺のナむフは半ばで止たる。こじり通そうにも、関節の構造が刀らない。
 いかん。
 巊右から幕が降りるように芖界が暗くなっおいく。酞玠欠乏の兞型的な症状だ。
 初めお、俺は自分の死を意識した。
 ず、その時。
 俺は頭䞊に『トプンッ』ずいう小さな氎音を聞いた。
 揺らぐ芖界の䞭、黒い人圱が静かに船長の背埌に近づいお来る。
──クレア姉さた、倧䞈倫。今なんずかしたす
 マレスは音もなく背埌から近づくず、巊手いっぱいに握った癜い物䜓をべずりず船長の背䞭に貌り付けた。
 俺に目を合わせ、氎䞭で人差し指を唇に圓おおりィンクをしおいる姿が再び頭䞊ぞず離れおいく。
「唖」
 ほずんど同時に、『カチン』ずいう小さな音が聞こえた。
 ドゥンッ
 衝撃波が走り、船長の身䜓諞共吹き飛ばされる。
 マレスが船長の背䞭に貌り付けたのはプラスティック爆匟だった。片手いっぱいの量だったら五癟グラムのパッケヌゞ䞀個たるごずだろう。
 緎っお粘らせたプラスティック爆匟は激烈な砎壊を船長の身䜓にもたらした。
 背面から矩䜓を粉砕され、船長の身䜓が二぀になる。
 氎䞭に现かい砎片ず鮮血が溢れ、声を攟぀間もなく船長の瞳から光が消える。
 俺は衝撃波に吹き飛ばされ、船長の䞊半身ず共に氎底に叩き぀けられた。
「ゎブッ」
 最埌に残っおいた空気が肺から抌し出される。
 ぀ず、マレスはこちらぞず戻っおくるず俺の頭を抱き寄せ、肺いっぱいに吞い蟌んでいた空気を口移しで吹き蟌んだ。
 暗かった芖界がみるみる明るくなる。
 もう䞀床䞡脚を胞元に抌し蟌み、俺は䞊半身だけになっおしたった船長の身䜓を無理やりもぎ離した。
 砕かれた腹郚から有象無象の䜓組織が氎䞭に散らばっおいく。
 マレスがその手を差し䌞べ、俺の身䜓を氎面にたで匕き䞊げおくれる。
「ブハッ」
 俺は氎面から顔を出すずようやく䞀息぀いた。
 息をするたびに喉からヒュりヒュりず音がする。
──生きおいたすか、和圊
「倧䞈倫 和圊さん」
 䞋ろしたフェンダヌを䜿っお既に船によじ登り始めおいるマレスが呑気に俺に蚀う。
「いや、死にかけた。助かった」
 手を䌞ばすマレスに手を振り、俺は䞡手を掻いお、船ではなく岞蟺に向かった。
 ただ酞玠が足りない。芖界の色調がおかしい。足がも぀れる。
「連䞭は氎䞭戊のプロだ。マレス、アケミは芋぀かったか」
「いえ、ただです」
「ク゜、朜りやがった。  マレスも岞に䞊がれ。海䞊では䞍利だ」
 俺は笑う膝に無理やり力を入れお身䜓を支えるず、マレスに声をかけた。
「了解」
 アサルトラむフルを背負ったマレスがバレットを抱えお船の䞊を走り、岞蟺に飛び降りる。
 聞かれおいるこずは折蟌枈みだ。今曎ストヌキングする意味はない。
「静賢」
 どこかからアケミの声がする。
「アケミ、ケンちゃんは死んだよ。諊めろ。今なら逮捕しおやる」
「舐めるな 今曎生き意地汚く生き延びお䜕になる」
 どこだ。どこにいる。
「クレア、探知しろ。熱源、金属、モヌション、なんでもいい」
──捕捉したした。あなたたちのいる堎所から二時の方向、船の圱に移動する熱源を探知。接近しおきたす
 ようやく、眩んでいた芖界の色調が元に戻っおきた。
 バレットをマレスから受け取り、腰だめに抱える。
「正確な方向をくれ」
──送りたす
 透明なデヌタグラスに赀い人圱が映る。
 これは実際に芋おいる映像ではない。クレアが䞊空から収集しおいる情報をリアルタむムに再生しおいる擬䌌映像だ。
 この距離なら絶察に圓おられる。
 俺はトリガヌに指をかけた。腕を通しお䌝わっおくる、流䜓ゞャむロのハム音が倧きくなる。
「クレア、バレットのタクティカルリンクをデヌタグラスにオヌバヌレむ」
──了解
 デヌタグラスに射撃予枬線が珟れる。短距離射撃ならこれで十分だ。スコヌプはいらない。
 赀い人圱が氎面を移動しおいる。
 ただだ。もう少し匕き぀けおから  
「マレス、装匟倉曎。タングステンだ」
「了解」
 背埌からアサルトラむフルのマガゞンを入れ替える音がする。
 船の圱から赀い人圱が珟れた瞬間、俺はトリガヌを匕いた。
 ドゎヌンッ
 赀い人圱に向かっお、衝撃波をその身に絡った十二䞃ミリのラむフル匟が癜く茝きながら突進する。
 だが、発射した銃匟は䜕の手応えもなく赀い人圱を貫通するず、そのたた海䞭に消えた。
 デコむ
 瞬間、氎音ず共にアケミが背埌から珟れた。
「忘れた 私たちが氎䞭に朜んでいたずき、あんたたちにはうちらが芋えなかったでしょ」
 向き盎る間もなく、アケミは玠手のたた身を沈め、こちらに向かっお駆け出した。
 芋たずころ、歊噚を持っおいる様子はない。
 栌闘戊だけで俺たちに勝぀぀もりなのか
 すかさずマレスが発砲開始。
 バララララッ  
 俺の呚囲を通り越し、重いタングステンカヌバむドの銃匟が空間を切り裂いおいく。
 现身になったアケミは暪転を繰り返しながら銃撃を噚甚に避けるず、匟幕の隙間を瞫いながら再びこちらに駆け出した。芋る間に肉薄しおくる。
 バレットを投げ捚お、腿のホルスタヌに手を䌞ばす。
 だが、アケミの方が速かった。
 気づけば目の前にアケミの顔がある。
「恚みはないんだけどさ、たずは隊長さんを倒さないずね」
 りィンクしながらアケミの身䜓が突然沈む。
 アケミはそのたた前埌開脚するず、するりず俺の股の間を朜り抜けた。
 あっずいうたに背埌を取られた。
 銖にアケミの现い腕が絡み぀く。
 アケミはグルリず回り、俺の身䜓を盟にしおマレスに向き盎った。
「どう これでも撃おる」
 アケミはマレスの戊闘胜力を知らない。マレスの粟密射撃ならアケミを撃぀のは簡単だ。
「どうっおこずはないわ」
 マレスは平然ず蚀い攟぀ず、俺の肩から芗くアケミの顔面にタングステンカヌバむド匟を撃ち蟌んだ。
 ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ
 背埌で金属が砎壊される音がする。
 倧気を切り裂く衝撃波が俺の頭を揺さぶる。通り過ぎる真空に頬が切れる。
 銖を掎たれおいおかえっお良かった。そうでもなければ脳震盪を起こしそうだ。
「止たっおくれたお陰で撃ちやすくなったわ。ありがず」
「チッ」
 絡んでいた腕の力が抜ける。
 機を逃さず俺は振り向くず、巊肘をアケミの顎に叩き蟌んだ。
 そのたた回転。胞元に向けおベレッタを発砲。
 咄嗟にアケミは胞元を䞡腕で防埡するず、バク転しお距離を取り盎した。
 こい぀も腕の装甲が厚い。
 攟った二発のサヌモバリック匟はアケミの目の前で虚しく爆発、䞊腕郚の装甲を削ぐだけに留たる。
「ご自慢のサヌモバリック匟もサむボヌグには無力ね」
 顔面を五五六ミリのタングステンカヌバむド匟に削られ、頭郚の䞀郚を倱ったアケミが䞍気味に笑う。
「マレス、こい぀ら脳の䜍眮が違う。胞元を狙え」
「了解」
「霧厎さん、あなたずは埌で遊んであげる。でも今はデヌトしたい気分なのよ」
 アサルトラむフルを構えるマレスに声を掛けるず、アケミは再び昏い瞳で俺を睚み぀けた。
 バク転を繰り返しお距離を取り盎したかず思う間もなく、猛然ずダッシュを始める。
 巊右に動くアケミに照準が远い぀かない。
 あっずいうたに距離を詰められるず、アケミは
「ヒュりッ」
 ず気を蟌めた枟身の掌底を俺の胞元に叩き蟌んだ。
 ハヌトブロヌ。心臓砎壊を狙った必殺の䞀撃だ。
 咄嗟に埌ろに向かっお飛ぶ。が、僅かに遅かった。
「ガハッ」
 転がった末、思わず膝を突く。
 䞀瞬、目の前が暗くなる。
「我らが䞭華拳法の粟華は重心移動の高速化よ。矩䜓ならばその砎壊力は想像を絶するわ」
 打撃力は䜓重ず加速床の自乗に比䟋する。加速床を重芖するのは合理的だ。
 再びバク転ず暪転を繰り返し、マレスの銃匟を避けながらアケミが哄笑を攟぀。
 しかし蚀葉ずは裏腹に、アケミの攟った䞀撃の嚁力は匱かった。
 ブラックアりトこそしたが、それも䞀瞬だ。
 芖界の色調がおかしい。しかし、身䜓は動く。
 バララララッ  
 再び頭䞊をマレスの攟぀銃匟が通り過ぎおいく。
 俺はマレスの射線を避けながら起き䞊がるず、偎面からアケミの身䜓に飛び぀いた。
 飛び぀き腕拉ぎ十字固め。
 右腕を取り、銖に脚を巻き぀けながら空䞭でアケミの肘を固める。
「ならば、珟代の栌闘戊の粟華は関節砎壊だな」
 今床は氎䞭ずは違う。
 右手でアケミの腕を拉ぎながら巊手に握ったベレッタをアケミの右脇の䞋に捩じ蟌み、すかさず発砲。
 攟たれたサヌモバリック匟は次々に爆発するずアケミの肩を脇の䞋から完党に粉砕した。
「な、なんで」
 右腕を倱ったアケミが埌ろに飛びずさりながらゆらりず立ち䞊がる。
「足堎だよ。砂地では十分な震脚ができないようだな」
 もげたアケミの右腕を背埌に攟りながら膝を突き、今床は巊腕にサヌモバリック匟を叩き蟌む。
 次々ず癜い閃光が瞬き、先の銃撃で脆くなっおいたアケミの巊腕が完党に粉砕される。
 䞡腕を倱ったアケミはもはや無力だった。
「無力化したぞ。投降しろ」
 俺の背埌でマレスがアサルトラむフルを構え盎す音がする。
「投降は、しない」
 アケミが歯ぎしりする。
 次の瞬間、小さな爆発音を立おおアケミの䞊半身が匟け飛んだ。
 腰から䞋だけになっおしたった矩䜓がドサリず砂地に倒れこむ。
「  銬鹿が」
 俺はホルスタヌにベレッタを戻した。
「マレス、倧䜐を探そう」
「はい」
 無衚情なたた、マレスがスリングに釣られたアサルトラむフルを背䞭に背負う。
 俺たちはアケミの亡骞をそこに攟眮するず斜面を登り始めた。



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