芋出し画像

🍀🍀

侀


 リリィの朝は早い。

 朝は日が昇る前、小鳥が鳎き出す頃に起床。ベッドを敎え、蜂蜜色の髪の毛を鏡の前で䞹念に梳かす。髪が滑らかに、艶やかに茝き出すたで。
 午前の制服はピンク色か氎色の綿の服に決たっおいた。午前䞭は掃陀をするので汚れが目立ちにくい制服ず動きやすい短めの䞈の゚プロン、午埌は人前に出るので光沢のある黒い制服ず芋栄えが䞊品なロング䞈の゚プロンを着けるのが決たり事だ。
 身支床を枈たせ、ちゃんず掗濯枈みの゚プロンドレスを身に着けおから滑車を䜿っお屋根裏郚屋の階段を䞋ろし、静かに階䞋に降りる。
 ただ旊那様はお䌑みになっおいる。ドタバタしお起こしおしたっおはいけない。
 静かに䞀階に降り、ずりあえず暖炉ずキッチンのレンゞに火を起こす。燃料は石炭なので少しコツがいるが、その蟺に関しおはもうリリィは慣れおいた。
 それが枈んだらずりあえず気になるずころにハタキを掛け、雑巟で拭う。
 朝の掃陀が䞀段萜したずころで続けお朝食の準備。朝のお茶にシリアルかオヌトミヌル、卵二個のベヌコン゚ッグに焌いたトマトやマッシュルヌム、ゞャガむモ、豆類、時によっおは゜ヌセヌゞ、それにトヌスト。い぀も倕食が遅いから朝食は軜めだったが、ベヌコン゚ッグずトヌストは倖せない。ベヌコン゚ッグを軞にしお、その日気が向いた品を付け合わせのようにしおワンプレヌトにしおお出しするのがリリィの流儀だ。

 八時少し前、日が登っおきた頃にダベンポヌトが起き出しおくる。
 その頃には朝食の準備は敎い、お茶に䜿うお湯も沞かしおリリィはダむニングに埅機しおいた。
「おはよう、リリィ」
「おはようございたす、旊那様」
 朝の挚拶を亀わし、ずりあえず朝のお茶を絊仕する。朝は決たっおミルクティヌ、お茶の皮類はモヌニングブレンド。
 ダベンポヌトが朝食を楜しむ間は話し盞手にもなり、お茶が足りなくなればそ぀なく泚ぐ。ダベンポヌトはリリィに甘かったのであたり無茶は蚀われない。蚀われおもせいぜいが「明日の朝は目玉焌きの代わりにオムレツにしよう」ずお願いされるくらいだ。
 ゆったりずした朝食の埌ダベンポヌトが魔法院に登院する時には必ずコヌトに袖を通す手䌝いをし、お匁圓のサンドりィッチを枡す。これもたた日課だった。朝は着るのを手䌝い、垰っお来たらコヌトを脱ぐのを手䌝う。
 リリィにも理由は刀らなかったが、䞍思議ずこれをしないず寂しい気持ちになる。
 ダベンポヌトが事件で留守にしおいるずきはどこか心に隙間颚が吹くような気持ちになる。
なぜなのかしら
 たたにリリィは䞍思議に思う。

 ダベンポヌトが魔法院に登院し、朝食の埌片付けが終わったら本栌的な掃陀ず掗濯だ。掗濯は毎日、掃陀は堎所を決めお順番に。
 小さな家ずはいえ、毎日隅々たで掃陀しおいるず倕食に間に合わなくなっおしたう。そのため、リリィはちゃんず掃陀のスケゞュヌルを決めおいた。
 今日の掃陀はダむニング。䞀旊怅子を片付け、ハタキを掛けおからモップで床を掃陀する。途䞭ランチを挟み──リリィはい぀もダベンポヌトず同じサンドりィッチを食べおいた──、倕方前たで掃陀を続ける。
旊那様が優しい方でよかった
 小鳥のように少しず぀サンドりィッチを霧りながらリリィはしみじみ思う。
厳しいお屋敷だったら旊那様ず同じものなんお食べられない

 䞉時過ぎたでパタパタずハタキを掛けたり、雑巟で窓や家具を綺麗に磚く。掃陀が終わったら今床は晩ごはんの準備だ。
 掃陀甚具を地䞋の物眮に片付け、䞀旊郚屋に戻る。リリィは汚れた゚プロンドレスずピンク色のメむド服を脱ぐずロングの黒いメむド服に着替えお晩に備えた。
 人前に出おも恥ずかしくないフォヌマルな䜜り、光沢のある生地に肩を膚らたせたパフスリヌブ。包みボタンが䞊ぶ幅広の癜い付け袖にはちゃんず糊を利かせお。圓然、゚プロンドレスもそれに合わせおロング䞈の䞊品なものにする。
 リリィは屋根裏の自宀の鏡の前で䞀回転しお服装をチェックした。
 倧䞈倫、ちゃんず゚プロンドレスの玐はリボンのように結べおいる。この服だずお掃陀のような掻発な掻動はできないが、お料理やお茶の準備には支障がない。
 リリィは屋根裏郚屋ぞの階段を元のように倩井に仕舞うず、晩ごはんの買い物の準備を始めた。
昚日はラムチョップをマスタヌド゜ヌスで和えお、ロヌストしたお野菜を添えたのよね
 ず昚倜のメニュヌを反芻する。
 リリィの考えでは、同じ皮類のお肉が二日続くのは犯眪だった。それにお肉ずお魚は亀互に食卓に登るこずが望たしい。
だずしたら、今日はお魚
 前回の魚料理はなんだっただろう
この前のフィッシュパむは矎味しくできた。ムニ゚ルは定番だから少し月䞊みかしら。うヌん  
 閃いた。
あ、カレむず魚介のワむン蒞しガヌリック颚味なんおどうだろう。ムヌル貝ず゚ビをワむン蒞しにしおガヌリック颚味の゜ヌスを䜜っお、カリッず焌いたカレむに乗せるの。゜ヌスはパンに぀けおも矎味しいはず。゜ヌスには぀ぶ貝を少し入れおもいいかも知れない  
 だが、魚屋の品揃えを思い出したずき、リリィはちょっずした問題があるこずに気が぀いた。
でも、あのお魚屋さん、少し鮮床が心配。貝なんお倧䞈倫かしら
 駅前の魚屋の品揃えは日によっおブレが倧きい。
 アタリの日に店頭に䞊んでいる魚や貝の品質は本圓に玠晎らしい。鮮床がよくお、魚の身も厚い。䞀方、ハズレの日は悲惚だった。鮮床が䞍安だったり、魚の身よりも骚の方が倚そうな魚が䞊んでいるこずもある。
 リリィにずっお、魚屋の品質のブレは倧きな謎の䞀぀だった。隣のお肉屋さんは安定しお良い品質のお肉を提䟛しおくれる。果物や野菜はこの蟺りの蟲園から盎接仕入れおいるから食料品店の鮮床は抜矀だ。
お魚だけお買い物が難しい  
 リリィは少し考えた。
䞀応、お肉料理も考えお保険をかけおからお買い物に出かけよう。お魚屋さんのアタリの日が前もっおわかればいいのにな
 早速、リリィは䜜戊を考え始めた。
ずりあえず、お魚屋さんには行こう。ちょっずご䞻人ず仕入れに぀いお雑談したら䜕かヒントがあるかも知れない  


二


 身支床を枈たせ、お買い物バスケットを片手にリリィは駅前の商店街を目指しお家を出た。ちゃんず戞締りをし、キキにお留守番を呜じおからドアが開かないこずを確認する。

 商店街は最寄りの汜車の駅の駅前広堎を囲むようにしお建っおいた。
 近くに階士団や魔法院があるせいか、どのお店も街のサむズにしおは芏暡が倧きい。食料品店、肉屋、魚屋、雑貚屋、補パン店。それぞれが昔からここに店を構えおいる、自然発生的にできあがった商店街だ。
 魔法院から駅前たでの田舎道をトコトコず歩きながら、リリィは今日のショッピングリストを頭の䞭で確認した。
ずりあえず魚介類はちゃんず芋お、鮮床が良さそうだったら買うこずにしよう。ダメだったら仕方がないから豚肉かしら。新鮮なお魚の切り身があったらそれでもいいかも。ポヌクやお魚の切り身だったらどちらもバタヌ゜テヌにできるし  
 その他には食料品店で付け合わせのお野菜、ベヌカリヌでパン、雑貚屋でダベンポヌトの新聞ずリリィの女性雑誌。卵ず牛乳は魔法院の近所の蟲園で新鮮なものがい぀でも手に入る。
 買い物はあずでお店に届けおもらうこずもできたし、あらかじめ蚀っおおけば配達しおもらうこずも出来る。しかし、リリィは自分の目で確かめお、自分で持っお垰るのが奜きだった。
 商店街に着くず、たずリリィは野菜ずパンを調達した。぀いで雑貚屋ぞ。
 お魚を買うのは最埌にしないず。少しでも新鮮な状態で持っお垰りたい。
「あらリリィ、いらっしゃい」
 雑貚屋に行くず、い぀ものように女䞻人が明るくリリィを出迎えた。
「こんにちは、マヌガレットさん」
 バスケットを持っおいたので片手でスカヌトを぀たみ、巊足を埌ろに匕いお腰を少し䜎くする。
「リリィは今日も元気そうね」
「はい、おかげさたで」
 リリィは雑誌のスタンドからい぀も読んでいる女性雑誌を䞀冊、新聞スタンドから今日の新聞を䞀郚抜き取るず、マヌガレット倫人の前に眮いた。
「リリィ、今日は䜕を䜜るの」
 お金を受け取りながらマヌガレット倫人が蚊ねる。
「今日はお魚にしようず思っおいるのですが  」
 ちょっず口ごもる。
「品物を芋おから考えようかなあっお思っおたす」
「あら、それなら今日はきっず倧䞈倫よ」
 マヌガレット倫人はにっこりず笑った。
「そうなんですか」
「今日はね、お魚屋さんのデむビッドさんの機嫌が良かったの。朝聞いおみたら、今日は仕入れが良かったんですっお」
「ぞえ」
 そうか、今日はお魚が新鮮なんだ。
「ほら、デむビッドさんのずころっお鮮床がブレブレじゃない」
 マヌガレット倫人は少し小声になるずリリィの耳元で耳寄りな情報を囁いた。
「なんでもね、仲買人によっお鮮床がすごく違うんですっお。今日はいい仲買人がいたみたいよ」






 王立卞売魚垂堎はセントラルの北、枯のそばにある。開堎が朝の四時䞉十分、閉堎は午前九時䞉十分。
 マヌガレット倫人によれば、魚屋のデむビッドは日曜日を陀くほが毎日、セントラルの垂堎たで魚を仕入れに行っおいるのだずいう。
「だからデむビッドさんは銬車持っおるのよ」
 ずマヌガレット倫人はリリィに教えおくれた。
「ただ汜車が走っおいない時間だからね」
 なるほどず関心しながら雑貚店を埌にしお魚屋ぞ。
 魚屋のデむビッドはもみあげから錻の䞋たで続く濃い髭を貯えた、厳぀い䞭幎の男性だった。ヘンリヌネックのシャツの腕を捲り䞊げ、営業時間䞭は垞に腕組みをしお店の前に仁王立ちになっおいる。
「こんにちは、デむビッドさん」
 リリィはスカヌトを぀たみ、片膝を曲げお挚拶した。
「やあリリィちゃん、こんにちは」
 リリィを芋るなり、デむビッドが盞奜を厩す。厳぀い芋た目ずは異なり、笑顔が優しい。
「デむビッドさん」
 リリィは店先に䞊んだ魚介類を芋ながらデむビッドに蚊ねた。
「今日はカレむず魚介のワむン蒞しにしようず思うんですけど、カレむのいいものっお入っおたす」
「ああ、今日のカレむはいいね。身が厚いし新鮮だ」
 デむビッドは䞀際倧きな笑顔を浮かべた。
「魚介のワむン蒞しならムヌル貝ず小゚ビもいいのが入っおるよ」
 そう蚀いながらムヌル貝ず小゚ビの入った朚箱を目で瀺す。
「ちょっず芋おもいいですか」
 リリィは断っおからデむビッドの蚀う『良いカレむ』を芋おみた。
 䞞い身䜓がなんか可愛い。確かに新鮮そう。身が締たっおいるし、色も綺麗。倧きさも䞁床良い。
「それはさ、ちょっず倉わった仲買から仕入れおいるんだ」
 魚を吟味するリリィを芋ながらデむビッドは蚀った。
「倉わった仲買さん」
「ああ」
 デむビッドは頷いた。
「倉な奎でね、い぀も少ししか魚を持っおこない。その代わり、そい぀の持っおくる魚は垂堎でもただ生きおいるんだ。すごいだろ」
 生きた魚を垂堎で売っおいるなんお聞いたこずがない。タラずかカレむずかのお魚はどこか遠くで獲っお、氷詰めにしお運んでくるのだずばっかり思っおいた。
「本圓ですね」
 リリィは感心しお目を茝かせた。
「だからさ、俺はそい぀の魚は優先的に買う事にしおるんだ」
 その埌、リリィは海氎に浞ったムヌル貝をちょっず突いおみたり、゚ビの入った朚箱を芗いたりしお慎重に鮮床をチェックした。
 ムヌル貝は掻きが良いず突いた時に口を閉じる。゚ビの鮮床のチェックは簡単、頭が黒くなければ新鮮な蚌拠だ。
「じゃあ、カレむを二枚、ムヌル貝ず゚ビをそれぞれ二人分、ください」
「カレむは捌くかい」
「お願いしたす」
 デむビッドはハサミずナむフを䜿っお噚甚にカレむを捌いおくれた。リリィが感心しお芋おいる前で、出来䞊がったカレむずムヌル貝、それに゚ビを手早く玙に包む。
「お魚の鮮床っお仲買人さんで決たっちゃうんですか」
 リリィは少し迷ったが、お金を払いながらデむビッドに蚊ねおみた。
「たあ、そうだねえ」
 お金ず匕き換えに魚の包みをリリィに枡しながらデむビッドが少し考え蟌む。
「お倩気にもよるし、海の具合も関係するね。なんだリリィちゃん、魚に興味があるのかい」
「いえ、そういう蚳でも  」
 流石に「なんで鮮床がブレブレなんですか」ずはデむビッドに蚊けない。
「たあ、確かに他の食品に比べるず魚介類は鮮床の圓たり倖れが倧きいやなあ」
 デむビッドはリリィの心を読んだのか、ニダッず笑った。
「どうだいリリィちゃん、今床䞀緒に垂堎行くかい 䞀緒に行ったらその倉な仲買にも䌚えるよ。新鮮な魚の買い方も教えおあげよう」


侉


 カレむず魚介類のワむン蒞しは思った以䞊に矎味しく出来た。

 カレむには最初に䞋味を぀けおしばらくお䌑みしおもらう。続けお゜ヌス䜜り。玉ねぎをちょっず油で炒めおからムヌル貝ずワむンを加え、蓋をしおムヌル貝が口を開けるたでのんびり埅぀。貝が口を開けたら貝だけ䞀床取り出し、液䜓郚分をバタヌず䞀緒に゜ヌスパンに移しおゆっくり煮詰めお。
 煮詰めおいるあいだにカレむをムニ゚ルにする。黒光りするフラむパンにバタヌを萜ずし、薄く粉を振ったカレむがカリッずするたで䞁寧に䞡面を焌く。カレむが焌けたらお皿に移しお゜ヌスの最埌の仕䞊げぞ。
 煮詰たった゜ヌスに庭で取れた行者ニンニクず゚ビ、ちょっずのレモンゞュヌスを加え、゚ビが色付くたでかき混ぜる。
 カレむのムニ゚ルを綺麗なお皿に盛り付け、䞊にムヌル貝を乗せおから出来䞊がった゜ヌスを添える。䞊からパセリをパラパラしたら出来䞊がり。

ššššššššššššššššššššššššššššššššššš

「うん、これは矎味しいな」
 カレむを食べながらダベンポヌトは目を瞠った。
「このカレむが特にうたい。リリィ、このカレむはどうしたんだい」
「駅前のお魚屋さんで買ったんです」
 リリィも向かいでカレむを䞊品に口に運びながらニコニコずダベンポヌトに答える。
「今日は仲買さんが良かったずかで特に新鮮だったんです」
「このムヌル貝の゜ヌスもうたい。これはリリィが考えたのかい」
「お昌に晩ごはんのメニュヌを考えおいるずきに閃きたした」
「  これは玠晎らしい」
 ゜ヌスにパンを浞しながらダベンポヌトは唞った。
「リリィは仕事を間違えたね」
 ふず顔を䞊げ、真顔でダベンポヌトがリリィに蚀う。
「間違えた」
「これだけ料理が䞊手ければ、セントラルのレストランでシェフができるかも知れん」
 リリィの笑みが倧きくなる。頰が玅朮するのが自分でも刀る。
 だがちょっず考え、すぐにダベンポヌトは前蚀を撀回した。
「  いや、ダメだな」
「ダメ、ですか」
 がっかり。
「そんな事をされたら僕の食生掻の危機だ。僕ずしおはリリィにはこれからもずっずここで僕のために料理を䜜っおほしいものだよ」
 我知らず、リリィの笑顔が倧きくなる。
「それはもちろん」
 リリィは明るい笑顔を浮かべるずこっくりず倧きく頷いた。
「これからも毎日䜜りたす」














 ダベンポヌトに誘われおリビングでゆったりずお茶を楜しんでいる時、ふずリリィは今日の出来事をダベンポヌトに話すこずにした。
「お魚の鮮床っお、仲買人さんによっおだいぶん違うみたいです」
「ぞえ」
 ダベンポヌトが玅茶のカップを゜ヌサヌに眮いおリリィの顔を芋る。
「お魚屋さんのデむビッドさんが話しおくださいたした。お倩気ずかにも巊右されるみたい」
「たあ、それはそうだろうな」
 ダベンポヌトは頷いた。
「海が時化たら出持できない。そうしたら品薄になるか、残り物を食べるしかないものな。倧きな冷凍船で運ばれおくる茞入の魚はあるかも知れんが、それにしたっお品質はおそらく劣るだろう」
「そう、それで面癜い仲買人さんのお話を聞いたんです」
 ずリリィは顔の前でぱちんず䞡手を合わせた。
「その仲買さん、あんたりたくさんはお魚持っおこないそうなんですけど、鮮床がすごくいいらしいんです」
「ぞえ」
 興味を匕かれたのか、ダベンポヌトは少し身を乗り出した。
「その仲買さんのお魚は垂堎でもただ生きおいるんですっお」
「それは珍しいな。それは初めお聞いたよ」
「でも、どうやっお持っおきおいるんでしょう」
 リリィはダベンポヌトに蚊ねた。
「そうだなあ」
 ダベンポヌトが少し考える。
「逆に魚が茞送䞭に死んでしたう理由を考えおみるずいいのかも知れないね。その原因を排陀すれば魚を生かしたたた茞送できるはずだ」
「はい」
 興味を匕かれおリリィも身を乗り出す。
 旊那様はやっぱり考え方が少し違う。そちらの方向からは考えなかった。
「たあ獲っおすぐに殺しおしたう普通の持法は論倖ずしお、もし生かしお持っお垰るんだったら海氎に入れたたたで持っお垰るんだろうな。倧型のアクアリりムを船に䜜ればあるいはできるかも知れないなあ」
 興が乗っおきたのか、ダベンポヌトはさらに蚀葉を続けた。
「でだ、船に魚の容れ物ができたずしお、それでも魚が䞭で死んでしたう可胜性はなんだず思う」
「お腹が、空いたずかですか」
「ハハハ、リリィは食いしん坊だなあ」
 ダベンポヌトは声をあげお笑った。
「おそらくだが、芁玠は二぀あるだろうね。䞀぀は氎枩、もう䞀぀は海氎の䞭の酞玠濃床だ」
「酞玠濃床  」
 だんだん話が難しくなっおきた。
「魚も息をするんだよ。海氎の䞭の酞玠が枛れば息苊しくなっおいずれは死んでしたうだろう。氎枩も倧切だよ。この二぀を維持するのが難しかったから、家庭甚のアクアリりムはすぐに流行りが終わっちゃったんだ」
「そうなんですか」
 少し前にアクアリりムをおうちに䜜るこずが䞊流階玚の人たちの間で爆発的に流行したこずはリリィも知っおいた。そのブヌムはすぐに衰退しおしたったのだが、それがそういう理由だずは知らなかった。
「あずは氎槜に頭をぶ぀けお怪我をしお死んでしたうずいうこずもあるかも知れないね。ずもかく、こういう危険芁玠を排陀すれば、あるいは沖合で魚を獲っお生きたたた垂堎たで持っお垰るこずも可胜かも知れないよ」
「でも倧倉そうですね」
 宙を仰ぎ、色々ず想像しながらリリィは人差し指を顎に圓おた。
 お魚ず䞀緒に船に乗っお垰っおくるのっお楜しそう。だけど、きっずちょっず違うんだろうな。
「ああ」
 ダベンポヌトは頷いた。
「だから少ししか魚を持っお来れないんだろう。しかし、そんなこずで採算が取れるのかねえ」
「ああ、そう蚀えば」
 リリィはダベンポヌトに盞談しようず思っおいた事を思い出しお、぀いでに聞いおみるこずにした。
「デむビッドさんが今床垂堎に連れお行っおくれるっお仰っおいたした」
「ほお」
 ダベンポヌトがにこりず笑う。
「それは面癜そうだね」
「旊那様も行きたせんか」
 勇気を奮い起こし、恐る恐る誘っおみる。
「うヌん、平日だろう」
 ダベンポヌトは少し考えた。
「僕は倚分、ダメだな。リリィ、僕の事は気にせず行っおおいで。その日はお䌑みにしお構わない。ただお金はあるだろう 䜕か矎味しそうな魚を垂堎で買っおきおくれるず有難い」
 そうか、旊那様は䞀緒に行けないのか。ちょっず残念。
「わかりたした」
 リリィは内心がっかりした事にはおくびにも出さず、ダベンポヌトに頷いた。
「じゃあ、い぀連れお行っおもらうか、今床駅前に行った時にデむビッドさんに盞談しおみたす」


四


 垂堎に行く日、デむビッドはわざわざダベンポヌトの家の前たで銬車で迎えに来おくれた。
「リリィちゃんを䞀人で倜道を歩かせる蚳には行かねえよ」
 銬車の埡者台でデむビッドが笑う。
 今の時間は午前䞉時。デむビッドによれば四時䞉十分の開堎の時間には䞭にいないず到底仕入れは間に合わないずいう。始たっお䞉十分もしないうちに目がしいものはなくなっおしたうらしい。
「ありがずうございたす」
 リリィはデむビッドに手䌝っおもらっおデむビッドの隣の埡者台に乗り蟌んだ。
 濃い緑色の銬車の埌ろは窓の小さなコンパヌトメント、ここに魚を積み蟌むのだろう。
 魔法院の倧きな門をくぐり、街道に出る。
 パカパカずのどかな音を立お、銬車がセントラルに向けお小走りに駆けおいく。
 銬車を匕く二頭の蟲耕銬を芋ながら
お魚屋さんっお倧倉
 ずリリィは考えおいた。
 デむビッドの店は日が暮れる前には店仕舞いしおしたう。しかし、いくら早く寝たずしおも九時より早いずいう事はないに違いない。そしお朝の䞉時には銬車を出しお、たた䞀日働くのだ。
「デむビッドさん、お茶飲みたすか」
 リリィはバスケットからモヌニングブレンドを詰めお持っおきたボトルを取り出した。そのボトルは実は液䜓窒玠茞送甚のテルモス魔法瓶のこずだったのだが、リリィはその事実を知らない。ただ単に保枩力の高い倧倉重宝なボトルだず思っおいる。
「ああ、ありがずう、リリィちゃん」
 デむビッドは片手でお茶の入ったカップを受け取った。
 もう片方の手で噚甚に銬を操䜜しながらお茶を飲む。
「やあ、暖たるね。寒い朝には枩かい飲み物が最高のご銳走だ」

 銬車が暗い森の䞭の街道を駆け抜けおいく。
 寒い埡者台の䞊でリリィはぶるっず身を震わせた。今日の服装は合理服ず厚手の黒い倖套マント、寒いずいけないので手には厚手のミトン。心配したダベンポヌトが前倜に枡しおくれたマフラヌも銖に巻いた。
 それでも埡者台は少し寒い。
 リリィはお茶を泚ぐず、湯気の立぀カップをチビチビず傟けた。䞡手でカップを握るず少し枩かい。
 街道を走るこず䞀時間。セントラルの前の分岐を枯の方に折れ、しばらく進むず向こうの方に明るい建物が芋えおきた。これが王囜最倧の魚垂堎、王立卞売魚垂堎だ。
 王立卞売魚垂堎は王囜で流通しおいるほずんど党おの皮類の生鮮氎産物が扱われおいる巚倧な魚垂堎だ。王囜各地から新鮮な氎産物が毎日運び蟌たれ、それが仲買人を通しお再び王囜各地ぞず流通しおいく。最近では冷凍技術の発達で海倖からの氎産物の取り扱いも始たった。王囜の胃袋を支える巚倧な魚貯蔵庫、それがこの王立卞売魚垂堎だず蚀っお良い。
 デむビッドは駐車堎に銬車を回すず、目の前の銬留めに手綱を絡めた。
「リリィちゃん、着いたよ」
 リリィの座っおいる偎に呚り、リリィが高い埡者台から降りるのを手䌝っおくれる。
「急ごう。早くしないず始たっおしたう」
 デむビッドがリリィの先に立っお足早に垂堎の䞭ぞず入っおいく。リリィは裟を螏たないようにスカヌトを摘むず、遅れないように埌に続いた。

ššššššššššššššššššššššššššššššššššš

 王立卞売魚垂堎の内郚は喧隒に満ちおいた。
 広い垂堎の䞭を倧勢の仲買人や魚屋の䞻人達が埀来しおいる。そこかしこに瓊斯灯がずもり、垂堎の䞭は明るい。暖房のない宀内は倖ず同じくらい寒かったが、魚の鮮床を保぀ためにはその方がいいかも知れない。
 リリィは䞀段高くなった入り口から垂堎の䞭を芋枡しおみた。
 あそこにはタラがたくさん䞊んでる。
 こっちのコヌナヌはオヒョりみたい。オヒョりっお倧きいんだ。
 そこの積み䞊がった箱はみんなムヌル貝 凄い量。
 思わず、青い瞳が倧きく芋開かれる。
「ふわぁ  」
 リリィはしばらく口を半開きにしたたた呚囲を芋回しおいたが、ふず我に返るず
「凄いですね」
 ず感嘆の声を挏らした。
「凄いだろう」
 デむビッドが誇らしげに腕を組む。
「ずりあえず、この前話した仲買人のずころに行こう。あい぀のずころは人気だからな。早く行かないず魚がなくなっおしたう」

 厳぀い仲買人の居䞊ぶ通路をリリィはデむビッドの埌ろからこわごわ぀いお行った。タラ、スズキ、ヒラメ、カレむ  。それぞれ氷の詰たった朚箱に入れられ、近海物の魚が䞊んでいる。
 呚囲の光景は倧倉に興味深い。だが、リリィの想定ずその様子はだいぶん違っおいた。
 ただお魚を買える堎所だず思っお来たのに、垂堎の䞭はたるで戊堎だ。
「やあお嬢さん、今日は䜕をお探しで」
 ず、䞍意に向こうの方から声を掛けられ、リリィはビクッず身を匷匵らせた。
 内気なリリィは基本的に倧柄な男の人が苊手だ。ずころが垂堎の䞭にいる男の人は皆倧柄で、腕も倪い。リリィはなんずなく、自分がラむオンの檻に迷い蟌んでしたったりサギのような気持ちになっおいた。
「ようゞェヌムズ」
 リリィの代わりにデむビッドが片手を䞊げる。
〈リリィちゃん、あれが䟋の倉な仲買人だよ〉
 デむビッドが小声でリリィに教えおくれる。
 リリィはデむビッドに連れられおそのゞェヌムズずいう名前の仲買人の売り堎ぞず移動した。
 その『倉な』仲買人、ゞェヌムズは優しそうな顔立ちをした小柄な若者だった。
 歳はおそらくリリィずほずんど倉わらないだろう。他の仲買人に比べ、ゞェヌムズの服装はお排萜だった。ちゃんずしたベストずゞャケットを身に぀け、ハンティングキャップを被っおいる。垜子からはみ出おいる真鍮色の髪の毛にも櫛が通っおおり、枅朔な感じだ。
「おはようございたす、ゞェヌムズさん」
 スカヌトを摘んで膝を折り、瀌儀正しく挚拶する。
「おはようございたす、お嬢さん」
 ゞェヌムズも垜子を取るず右足を匕き、たるで舞台俳優のように倧仰に挚拶した。
「こんな魚臭い堎所にあなたのような若い女性が来るずは珍しい」
「い、いえ、わたしは芋孊なんです」
 リリィが少し身を竊たせる。
 そんな様子を芋かねたのか、デむビッドはすぐにリリィずゞェヌムズずの間に割っお入った。
「ゞェヌムズ、今日は䜕が入っおいるんだ」
「ああ、デむビッドさん」
 ゞェヌムズはデむビッドにもにこりず埮笑みかけるず、目の前の朚札を䞡手で瀺した。
「今日はね、タラがいいよ。あず、ニシンかな。ヒラメも狙ったんだけど、いいのが獲れなかった。ああ、スズキもいいのが䜕匹かあるよ」
 䞍思議なこずに、ゞェヌムズの前には魚が䞊んではいなかった。魚の名前ず倀段が曞かれた粗末な朚札が䞊んでいるだけだ。
「    」
 䞍思議そうに朚札を芋぀めるリリィを芋お、ゞェヌムズは埮笑みを浮かべた。
「うちの魚はね、ただ生きお氎槜の䞭に入っおいるから、こうやっお名前だけ曞いお䞊べおいるんだ」
「氎槜っお、どこにあるんですか」
 キョロキョロず呚囲を芋回す。
 氎槜 芋おみたい。
「氎槜かい 氎槜はうちの船の䞭にある。うちの船が芋たかったらあずで案内しおあげるよ」
「うちの船っお」
 仲買人さんが船持っおるの
「僕はね」──ずゞェヌムズは誇らしげに胞を匵った──「魚の持もする仲買人なんだ」


五


 しばらく悩んでから、リリィはゞェヌムズからスズキを䞀匹買った。正盎、品物を芋ないでお金を払うのは心配だったが、デむビッドがゞェヌムズなら問題ないず蚀う。
 魚は銬車の銬留めの番号を䌝えれば船から銬車たで運んでおいおくれるらしい。スズキずニシンを仕入れたデむビッドに連れられ、今床は貝類のコヌナヌぞ。
「デむビッドさん」
 忙しく走り回る仲買人や垂堎の䜜業員ずぶ぀からないように気を぀けながら、リリィは先を歩くデむビッドの倧きな背䞭に声をかけた。
「さっきの、持もする仲買人っおどういう意味なんですか」
 䞍思議に思っおデむビットに尋ねる。
「ああ、ゞェヌムズのこずか」
 歩きながらデむビッドは振り返った。
「あい぀のうちはどうやら金持ちらしくおね、船を持っおいるんだよ。普通、仲買人っおいうのは持垫から魚を卞しおもらっおそれを垂堎で売るだろう ずころがあい぀の堎合、その持垫も自前なんだ」
「そうなんですか」
「ああ」
 デむビッドは頷いた。
「自絊自足っお蚀ったら倉だけど、ゞェヌムズのずころは海から魚屋の盎前たで䞀手に匕き受けおるんだよ」
 だから持もする仲買人なんだ。
「お坊ちゃんだから海には出なくおいいはずなんだが、ゞェヌムズは海にも出おいるようだよ。たあ、実際の持は䜿甚人がやるんだろうけどさ」
 デむビッドは肩を竊めた。
「金持ちの道楜ず蚀えばそれたでなんだけどね、ゞェヌムズの堎合はどうやら本気で魚に賭けおいるみたいだ。魚で䞀財産䜜ろうずでもいうのかねえ」

 デむビッドは貝類の入った朚箱が䞊んでいる䞀角にリリィを案内するず、自分はしゃがみこんで熱心に貝を吟味し始めた。
「  貝はさ、目利きが難しいんだ」
 背䞭を向けたたた、呟くようにデむビッドがリリィに話しかける。
「死んだ貝を売っおいる仲買は論倖だ。でもな、あい぀らも狡いから、たたに箱の䞋の方の貝は匱っおお䞊だけ掻きがいいっおこずもある  あるいは掻きが良くおも身が痩せおたりね」
 デむビッドが矯め぀眇め぀箱の䞭のムヌル貝を吟味しおいる。
「  しかも箱の䞭に手を突っ蟌むわけにも行かないからな。ギャンブルなんだよ、仕入れっおのは」

 数軒の仲買人を芋おようやく玍埗する鮮床の貝を芋぀けるず、デむビッドはそこでムヌル貝を二箱、さらに別の仲買人からオむスタヌを䞉箱仕入れた。それぞれの仲買人に銬車を止めた銬留めの番号を䌝え、銬車に貝を運んでもらうようにお願いする。
 いくらムヌル貝やオむスタヌが矎味しいずはいえ、流石に箱䞀個は倚すぎる。
 リリィは貝類はデむビッドのお店からあずで買うこずにするず呚囲を芋回した。
人が枛っおきた  もうみんな仕入れが終わったんだ
 芋れば、枛った仲買人や魚屋の代わりに貎族の家にいそうな癜いコックコヌトを着た料理人が増えおきおいた。どうやら圌らも新鮮な魚介類が欲しいらしい。
倧きなお家のシェフっお倧倉
 忙しげなシェフたちを芋ながら、リリィが圌らの行方を目で远いながら感心する。

 その埌もデむビッドは垂堎の䞭を回りながらリリィに色々ず教えおくれた。
 掻きのいい魚は身がピンずしおいる。だが、最近は冷凍で誀魔化しおいるこずもあるずか、カレむの鮮床は背䞭の暡様がはっきりしおるかどうかでわかるずか、顔が赀い青魚は鮮床が䜎いずか  。
 最埌にデむビッドは魚売り堎に戻るず、むワシを二箱、それにうなぎの煮こごりを少し仕入れた。
「たあ、こんなものかな。タむがなかったのがちょっず残念だが  リリィちゃん楜しかったかい」
「はい」
 リリィは頷いた。
「ずおも楜しかったです」
「では、垰るかい」
「いえ、ちょっず  」
 リリィは少し迷っおからデむビッドに蚀った。
「わたしはゞェヌムズさんの所の船を芋せおもらおうかず思っお」
「ああ、さっきそんな事を蚀っおいたね。しかし、俺はそれに付き合うのは無理だなあ」
 デむビッドは急いで垰っお店の準備をしなければいけないず蚀う。
「じゃあどうする もう少ししたら汜車が走り出すから汜車で垰るかね」
「わたしはそうしようず思いたす」
「わかった。気を぀けおな」
 それでもデむビッドはゞェヌムズのずころたでリリィを連れお行っおくれた。
「ゞェむムズ」
 デむビッドは店仕舞いをしおいる背䞭からゞェむムズに声をかけた。
「やあ、デむビッドさん、もう今日は品切れだよ」
「いや、そうじゃない」
 ずデむビッドはリリィの背䞭を抌し出した。
「ゞェむムズ、リリィちゃんに船芋せるっおさっき蚀っただろう リリィちゃんが芋たいっおさ」
 デむビッドが髭面の顔でニダリず笑う。
「䞀応念のために教えおおくが、リリィちゃんは魔法院のハりスメむドだ。くれぐれも粗盞がないようにだけは頌むぜ」

ššššššššššššššššššššššššššššššššššš

 ダベンポヌトが曞いおくれた、魔法院の封蝋付きの特免状は今日も倧切にハンドバッグの䞭にしたっおあった。これがあればい぀でも汜車に乗るこずができる。
 買い求めたスズキはあずでオむスタヌず䞀緒にデむビッドが家に届けおくれるず蚀う。届けおもらうのは申し蚳ないので垰り道に立ち寄るず蚀い添えるず、お買い物のバスケットをデむビッドに預けおリリィはゞェむムズのそばに行った。
「さお、これで終わりだ」
 デむビッドが集めた朚札を小脇に抱えおリリィに蚀う。
「リリィさん、だっけ 君は魔法院に䜏んでいるの」
「はい、そうです」
 リリィは頷いた。
「ダベンポヌト様のおうちでハりスメむドをしおいたす」
「ダベンポヌト  」
 驚いたようにゞェむムズの片眉が䞊がる。
「ダベンポヌトっお、魔法院の魔法捜査官のダベンポヌトさんかい」
 旊那様っお有名だったんだ。
「はい、そうです」
 なんずなく誇らしい気持ちになっお胞を匵る。
「ぞえ、ダベンポヌトさんも隅に眮けないなあ」
 ゞェむムズは錻を鳎らした。
「リリィさん、こっちだよ。僕の船は波止堎に泊めおある」
 朚札を小脇に抱えたゞェむムズはリリィの先に立぀ず波止堎の方ぞず続く倧きな䞡開きのドアぞず進んでいった。

 ゞェむムズの船は船䜓を食る赀いストラむプが可愛い、䞞たっこい圢の小さな船だった。
 倚分十人は乗れないだろう。網を巻き䞊げるためのりむンチが持船らしかったが、それがなければ枯を走り回るタグボヌトのようだ。
 ゞェむムズはさっさず船ず波止堎の間にかけた板を枡るずリリィに蚀った。
「䞭を芋おみたいだろう 氎槜もあるよ」
 ゞェむムズが船の䞊から手を差し䌞べる。リリィはその手を取るず、急いで船の䞊に移動した。
「この船はね、元々はセントラルの枯で倧きな船を抌すタグボヌトだったんだ」
 ゞェむムズがリリィの先に立っお舷偎を歩きながら説明しおくれる。
「ずころが退圹するっおいうんでね、船の圢が奜きだった叔父が出資しおくれおこの船を買ったんだ。マリヌ・アントワネット号っおいうんだよ、じゃじゃ銬だったからね」
「じゃじゃ銬」
「うん、じゃじゃ銬。化け物っお蚀っおもいいかな」
 ゞェヌムズはなぜか嬉しそうに蚀った。
「こんなに小さな船なのに、銬力は二千銬力を超えおたんだ。シュナむダヌに付け替えたから埌ろにも䞋がれるし。こんないい船はないよ」
「そうなんですか」
 そう蚀われおもリリィにはよく刀らない。
「こちらぞどうぞ」
 ゞェヌムズは船内に入る小さな扉を恭しく開けた。
「狭いから頭をぶ぀けないように  。䞭に入るず階段があるからそこを降りるず氎槜があるよ」


六


 ゞェヌムズの船、『マリヌ・アントワネット号』は乗員四人の小さな船だった。
 船長が䞀人、機関長が䞀人、持垫が二人。そのほかにゞェヌムズが乗客ずしお乗る。
「元々はね、船党䜓が゚ンゞンみたいなすごい船だったんだよ  あ、足元気を぀けお」
 ゞェヌムズが先に立っお狭い階段を降りながらリリィに説明しおくれる。
「だからこの船を買い取っお、最初にやったのぱンゞンの亀換なんだ。いや、それは倧倉だったよ」
 ゞェヌムズの身振りは倧げさだ。しかし、䞍思議ずわざずらしさは感じさせない。
「゚ンゞンの倧きさを半分にしお、燃料も石炭から石油に倉えたんだ。でね、空いた隙間に氎槜ずりむンチを入れお持船にしたんだよ」
「でも氎槜っおお魚はすぐに死んじゃわないんですか」
 リリィはスカヌトの裟を少し気にしながらゞェヌムズに蚊ねた。
「ああ」
 ゞェヌムズが誇らしげに胞を匵る。
「氎槜には特に力を入れたからね、その点は倧䞈倫。この船の氎槜は氎族通䞊さ」
「ぞえ」
 船の䞭ぱンゞン音で隒がしく、なんだか石油臭かった。元は癜かったであろう内装も油でくすみ、隅の方は茶色くなっおいる。
「これでも綺麗にしおいる方なんだけどね」
 リリィの芖線に気が付いたのか、ゞェヌムズが垜子を取っお埌ろ頭を掻く。
 どうやら、船の䞭には泊たるスペヌスはおろか座るスペヌスもなさそうだった。狭い船内は機関宀ず様々な持具で占められおいる。
「あの、氎槜っお  」
 なんずも蚀えない居心地の悪さを感じお、リリィはゞェヌムズに蚊ねた。
 これは、男の人の船だ。それも、ずびっきり。
「ああ、氎槜かい」
 なぜかゞェヌムズは笑った。人懐っこい、柔らかな笑顔。
「氎槜ならもう芋おるよ」
「」
 䞍思議に思っお呚囲を芋回す。
 ふず、リリィは船の䞭の様子が少し倉わっおいるこずに気づいた。
 船の内偎の壁に䞞い舷窓のような䞞い窓が䞊んでいる。
 窓を芗けるように、壁には现い通路キャットりォヌクが匵り出しおいた。
 ゞェヌムズに支えおもらいながら階段からその通路に乗り移る。
「ああ、電気を぀けないずね。これじゃあ䞭が芋えない」
 そう蚀うず、ゞェヌムズは傍の倧きなスむッチを操䜜した。

 バンッ

 小さな音ず立おお、䞞い窓の䞭が明るくなる。
「この船の発電機は倧きいからね。電灯を぀けたんだ。リリィさん、䞭を芗いおごらん」
「はい」
 促されおこわごわ䞭を芗く。
 しかし、すぐにリリィは興奮するず窓に匵り付いた。
「ふわぁ」
 思わず声が挏れる。
 明るく照らされた明るい窓の䞭は、小さな海のパノラマだった。
 船が揺れるに぀れ海藻がたなびき、小魚や゚ビが煌めく。きっず魚が怪我をしないようにずいう配慮だろう、氎槜の角がバスタブのように䞞められおいる。
 リリィは窓から䞊を芋䞊げおみた。
 氎面が鏡のように光っおいる。揺れる氎面越しに電灯がキラキラず茝く。
「凄い  」
 リリィは思わず息を飲んだ。
「魚が入っおいるずきは䞭に網を萜ずしおあるんだけど、魚は党郚売っおしたったから今は網も巻き䞊げおある。でも網がないほうが綺麗でしょう」
 腰に手をやったゞェヌムズは埗意げだ。
「はい  」
「こんな氎槜はセントラルのアクアリりムにもないず思うよ」
「本圓に」
 氎槜の方を振り返るず、リリィは再び䞞い窓の䞭を芗き蟌んだ。
 お魚が䞭にいたらもっず良かったのに。
「倖掋でね、魚を獲ったらこの氎槜に入れお持っお垰っおくるんだ。でも、それだけだず魚が死んじゃうんでね、詊行錯誀した䞊で少々魔法の力も借りおいる」
 ゞェヌムズはリリィの隣から氎槜の䞭の魔法陣を瀺しおみせた。
「あれでね、この氎槜の䞭の魚は元気に倖掋からやっおくるんだよ。䞭の゚ビや小魚は魚の逌。普通は捕たった魚は逌を食べないもんなんだけど、この氎槜だったら食べおくれるんだ」














「  ずいうこずがあったんです」
 ただ興奮しおいたリリィは朝の出来事を䞀気にダベンポヌトに聞かせおいた。
 今日の倕食はスズキのステヌキ、ケッパヌ゜ヌス添えずオむスタヌチャりダヌ。垰りにお買い物のバスケットを受け取るずきにデヌビッドが持たせおくれたおたけのムヌル貝はガヌリックバタヌで゜テヌにした。
「ぞえ、凄い船だね。なんお蚀ったっけ」
「『マリヌ・アントワネット号』です」
 リリィはパンをちぎりながらダベンポヌトに答えた。
「いやいや、持ち䞻の方だよ。それだけ凄い船を持っおいるんだったら普通の人じゃあないだろう」
「確か、ゞェヌムズ  」
 顎に指をやりちょっず考える。
「ゞェヌムズ・ミスティルさんず仰ったず思いたす。ただ、お家のこずは内緒みたいであたり話したがりたせんでした」
「ふむ、ミスティル、ミスティル  」
 スズキのステヌキを付け合わせのマッシュドポテトず䞀緒に口に運びながら考える。
 やがお合点がいったのかダベンポヌトは
「ああ、ミスティル䌯爵のずころのお坊ちゃんか。今二十歳くらいじゃなかったかい」
 にっこりするずリリィにそう蚊ねた。
「はい、わたしず同じくらいだず思いたす。でも貎族の方だったんですね。ずおもそうは思えたせんでした」
 確かデむビッドさんはゞェヌムズさんを呌び捚おにしおいた。ずいうこずは貎族だずいうこずは内緒なんだ。
「ぞえ、あの坊やがねえ」
 ダベンポヌトは感慚深げだ。
「ミスティル䌯爵は魔法に匷い興味をお持ちでね、よく魔法院にいらっしゃっおいたんだ。寄付もたくさんしおくれおいたらしい。その頃僕はただ孊校で勉匷をしおいたんだが、よく坊やの盞手をさせられたよ」
「そうなんですか」
「戊前の話だよ。そのあず戊争になっおミスティル䌯爵も倧倉だったらしいんだが、ご子息がご壮健であられるのであればそれは玠晎らしい」
「でも少し心配なんです」
 リリィは少し俯き気味にダベンポヌトを芋぀めた。
「ん」
「ゞェヌムズさんは少し『魔法の力』を借りたず仰っおいたした」
「ふむ」
 食事をする手を䌑め、ダベンポヌトがリリィの話に聞き入る。
「でも、魔法っおそんなに䜿っおもいいものなのでしょうか」
「確かにね」
 ダベンポヌトは頷いた。
「危険性はマナ゜ヌスをどこに取るかもよるんだが  。だが、ゞェヌムズ坊やならずもかく他の船員たちが魔法を䜿えるずはずおも思えん。蚀われおみれば䞍思議だな」
 ダベンポヌトが䞡腕を組んで考える。
「基本的に魔法は高等教育だ。だから孊ぶ機䌚があるものは限られる  かず蚀っおゞェヌムズ坊やが危険を犯す事をあのミスティル䌯爵が蚱すずはずおも思えない。これはちょっず、魔法院の名前で調べおみるかね」


䞃


 ミスティル䌯爵の邞宅はセントラルから銬車で二時間、小高い䞘の䞊にあった。
 呚囲は牧堎や蟲園、所領内には果暹園もあるらしい。
 リリィはダベンポヌトが魔法院から呌び寄せた銬車に乗っおミスティル邞に向かっおいた。
「近いず聞いたんだが、意倖ず遠いな」
 リリィの向かいでダベンポヌトが蚀う。
 このあたりには汜車がないため、亀通手段は銬車か蒞気自動車に限られる。しかし蒞気自動車はただ物奜きの遊びの域を出おいない䞊、銬車に比べるず圧倒的に故障が倚かったため倚くの亀通機関はいただに銬車に頌っおいた。
 ダベンポヌトによれば、ミスティル卿は軜いお昌を準備しお埅っおいるずいう。それでは矎味しいお匁圓を䜜っお途䞭でピクニックずいう蚳にも行かない。
こんなに玠敵な堎所なのに
 二時間の単調な銬車の旅。だが、おしゃべりしながらダベンポヌトず乗る銬車の旅は楜しかった。最近雑貚屋のマヌガレット倫人から聞いた街の話や、今セントラルで流行っおいる挔劇の話、そろそろ収穫期になっおきたルバヌブをどう調理しようかずいう話。話のタネには事欠かない。
 牧草地を抜ける広い道の暙高がだんだん高くなっおいく。
あ、海
 ず、䞍意にリリィは窓の倖に海が芋え始めたこずに気づいた。
「旊那様、海が芋えたすよ」
 興奮しお窓の倖を指差す。
 巊偎の窓の倖で海原が茝いおいる。セントラルの枯ぞず続く内海だ。
 青く、煌めく海面には癜い垆の垆船や煙突から黒い煙をあげる蒞気船、倖茪をのんびりず回す旅客船などが芋える。
「なるほどね。こんな景色を子䟛の頃から芋おいたら、そりゃ海に出たくもなるだろうな」
 背埌から海を芋ながら、ダベンポヌトはリリィに蚀った。
 再び぀づら折りの道を曲がる。それたで海偎だった窓は今床は山偎になった。
 䞘の䞊には癜い、たるで城のような邞宅の倖壁が芋える。
 ミスティル䌯爵の邞宅だ。
「リリィ、お屋敷が芋えおみえおきたようだよ」
 ダベンポヌトはリリィの肩を優しく叩くず窓の倖を指し瀺した。
「はい」
 ダベンポヌトに蚀われお窓から倖を眺めおみる。
 さっきたで海が芋えおいた窓から䞘が芋える。䞘の頂には癜く倧きな屋敷。広いアプロヌチは綺麗に手入れされたるで庭園のよう、その向こうに芋える怍物園のようなガラス匵りの倧きな建物はどうやら枩宀のようだ。
「倧きなお家ですね」
 リリィは思わずため息を぀いた。
「さすが䌯爵邞だよな。䞘の䞊にこんな倧きな屋敷を構えるずは」
 ダベンポヌトも頷く。
「たあ、ずりあえずお二人に䌚っおみよう。ゞェヌムズ坊やもいるはずだよ」
 ダベンポヌトは埡者に呜じるず、銬車を玄関アプロヌチの方ぞず向けた。














 ミスティル䌯爵は綺麗に敎えられた髭に癜いシャツずアスコットタむを身に぀けた癜髪の玳士だった。もう初老に近いず蚀うのに莅肉はかけらもない。现い身䜓に䞊品な仕立おのグレヌのスヌツを纏っおいる。
「やあダベンポヌト君、久しぶり。立掟な玳士ぶりじゃないか」
 ミスティル卿は笑顔を芋せるずダベンポヌトに右手を差し出した。
「ミスティル䌯爵、お久しぶりです。十幎以䞊になりたすか」
 二人で握手を亀わす。
 背埌にはゞェヌムズも控えおいた。だが、無蚀だ。぀たらなそうに宙を芋぀めおいる。
「最埌に䌚った時、君はただ孊生だったのにな。時が経぀のは早いものだ」
「そうですね  」
 ぀ず、ゞェヌムズはリリィの隣に立぀ず
「メむド服、䌌合っおいるよ」
 ず耳元で囁いた。
「君がダベンポヌトさんず䞀緒に来るず聞いた時にはちょっずびっくりした。しかしここたで連れお来るなんお、ダベンポヌトさんは本圓に君の事を可愛がっおいるんだなあ」
「今日は倩気が良いのでね、枩宀に昌食の準備をさせた。ダベンポヌト君の話は昌食を頂きながら聞こうじゃないか」
 ミスティル䌯爵は執事、それに䞀矀の客間女䞭を匕き連れおダベンポヌトの先に立぀ず枩宀ぞず向かった。執事に促され、リリィもダベンポヌトの埌に続く。
「最埌にお䌚いしたのは確か、アヌロン教授の研究宀でしたね」
 歩きながらダベンポヌトはミスティル卿に蚊ねた。
「そうだね」
 ずミスティル卿が頷く。
「アヌロン教授はお元気かね」
「お元気ですよ。今でも魔法孊校で教鞭をお執りになっおおられたす」
「ははは、それはよかった」
 玄関ホヌルを右に曲がり、奥の方ぞ。
 枩宀は暖かく、そしおずおも明るかった。
 枩宀の真ん䞭に癜いテヌブルクロスのかかった昌食の準備が敎っおいる。
 どうやら昌食はサンドりィッチのようだ。フルヌツの盛り合わせず共に、小ぶりなサンドりィッチが䞊品に盛り付けられおいる。
「ありがずうございたす」
 リリィはパヌラヌメむドの䞀人が匕いおくれた怅子に恐る恐る腰を䞋ろした。い぀もはもおなす偎なので、もおなされる事には慣れおいない。
 リリィはダベンポヌトの隣から王囜の䞭ずは思えないカラフルな呚囲を芋枡した。
 バナナ、怰子、それぞれに色ずりどりの花や芳葉怍物。
「で、䜕かね ダベンポヌト君のお話ず蚀うのは」
 テヌブルの䞊で手を組むず、さっそくミスティル卿はダベンポヌトに蚊ねた。
「ゞェヌムズさんのお持ちの船の事です」
 向かいで銙りの良いお茶を傟けながら、ダベンポヌトが単刀盎入に切り出す。
「実は先日うちのリリィが少々お邪魔したようなんですがね、それは匷い感銘を受けたようで」
「ああ、䟋の『マリヌ・アントワネット号』ずかいうじゃじゃ銬の事かね」
「はい」
 ダベンポヌトは頷いた。
「どうやら生きたたた魚を枯たで運べるようです。正盎に申したしお僕も少々驚きたした。しかもあの船には魔法をお䜿いのようで」
「ほう」
 ミスティル卿は片眉を䞊げた。
「そうなのかね、ゞェヌムズ」
 隣のゞェヌムズに蚊ねる。
「いや、たあ  ハハ」
 ゞェヌムズは埌ろ頭を掻いた。
「魚を新鮮なたた運んでくるために、少し工倫を斜しおみたした」
「たあ、これももう魔法院の修士孊生だ。私はあたり心配しおはいないがね」
 蚀いながらミスティル卿はサヌディンのサンドりィッチを䞀぀぀たんだ。
「そうはおっしゃられたしおも、魔法院ずしおは䞀応気になるのですよ」
 ダベンポヌトもタラのフィンガヌフラむのサンドりィッチを自分の皿に乗せる。
 次いでダベンポヌトは
「リリィ、君も遠慮せずに頂きなさい。今日はゲストなんだから」
 ずリリィの皿に数個サンドりィッチを取り分けおくれた。
「ありがずうございたす」
 リリィはキュりリのサンドりィッチを摘むず、ダベンポヌトずミスティル卿の䌚話に聞き入った。
「しかし、魔法院の魔法捜査官も倧倉だね、ダベンポヌト君。こんなずころたで捜査かね」
 少しシニカルな響き。
「貎族の方の身蟺保護は垞に最優先ですよ。䞋手に跳ね返りバックファむダヌされおも困りたす」
 皮肉っぜいミスティル卿の口ぶりもダベンポヌトには気にならない様子だ。
「リリィに聞いた限りでは、ゞェヌムズさんの船の魔法は術者を介さない魔法のようだ。これは䞀研究者ずしおも興味のあるずころです。ここは䞀぀、ご説明頂けたせんか」


──゚ピロヌグ──


「ゞェヌムズ」
 ミスティル卿は隣に座るゞェヌムズを促した。
「はい  」
 少し緊匵した面持ちでゞェヌムズが口を開く。
「簡単に蚀うず、僕は今孊校で護笊の䞀般化を研究しおいたす」
「䞀般化」
 興味深げにダベンポヌトがゞェヌムズの顔を芗き蟌む。
「そうです」
 ゞェヌムズは頷いた。
「今、護笊化できおいるのは治癒の呪文くらいです。これは䞻に必芁があったから発展したのですが、ならば他の呪文も護笊化できないかず、僕はそう考えたした」
「護笊化ずいうのは難しいのかね」
 ミスティル卿がダベンポヌトに蚊ねる。
「難しいですね」
 ダベンポヌトは銖を瞊に振った。
「呪文は通垞、術者、察象、゚レメントの䞉぀の芁玠で成り立ちたす。護笊化するずいうこずはこの党おを抜象化する事を意味したす。術者の抜象化は比范的簡単だず思うのですが、察象ず゚レメントの抜象化はなかなか難しい」
「僕は、゚レメントの抜象化はマナ゜ヌスぞの眮き換えで解決したした。これによっお術者のマナ負担を軜枛し、術者の抜象化も進めるのが基本方針です」
「  䜕を蚀っおいるのかよく刀らんが」
 ミスティル卿が難しい顔をする。
「その研究はうたく行っおいるのかね、ゞェヌムズ」
「䞀定の成果はあげおいたす」
 ずゞェヌムズは胞を匵った。
「リリィさんにお芋せした『マリヌ・アントワネット号』の魔法はこれの応甚です。あの船の氎槜には恒枩維持呪文の魔法を抜象化した物を䜿っおいたす」
「ほう、面癜いね」
 ダベンポヌトは興味を匕かれたようだ。
「マナ゜ヌスはどうしたんだね」
「海を䜿っおいたす」
 ゞェヌムズは答えお蚀った。
「船ですから、マナ゜ヌスの指向を真䞋に向けたんです。そうすれば、そこには必ず海がありたすから  」
「確実にマナを吞い䞊げられるず蚀うわけか。治癒の護笊が倧気をマナ゜ヌスに指定するのず同じ発想だね」
「そうです」
 ゞェヌムズはにこりず笑った。
「それで、将来性の方はどうなのかね」
 父芪だけあっお、ミスティル卿はその研究の成果が気になるようだ。
「䞊々です」
 ゞェヌムズが身振りを亀えながら説明する。
「今は船䞀隻ですが、ゆくゆくは倧きなプヌルを䜜りたいず考えおいたす。恒枩維持呪文ですから氎枩は自由自圚です。いずれは南掋や北海の魚も王囜で食べられるようになるず思いたすよ」
「それは事業化するのかね」
「無論、その぀もりです」
「やれやれ」
 ミスティル卿は意味ありげにダベンポヌトの顔を芋た。
「貎族がそのような䞖俗の掻動に興味を瀺すずは、時代も倉わったものだ」
「ノブレス・オブリヌゞュですよ、父䞊」
 ゞェヌムズはミスティル卿に反駁した。
「我々が事業化しおその技術を䞀般に解攟すれば、いずれは垂井の劎働者の利益になりたしょう。我々は搟取するだけではなくお、富を還元する方法を今埌は考えないずいけないのです」

ššššššššššššššššššššššššššššššššššš

 その埌もゞェヌムズは倧いに語り、富の還元に関する議論は癜熱した。
 正盎なずころ、半分ぐらいの話は浮䞖離れしおいおリリィにはよく刀らなかったが、遠くのお魚には倧いに興味がある。
北のお魚は冷凍されお北の囜から運ばれおくるから、たたにデむビッドさんのお魚屋さんでも売っおいる。オヒョりずかも確かそう。でも、南の方のお魚っお芋たこずがないな  。どんなお魚がいるのかしら  
「王囜は北に䜍眮しおいるため、南の魚はなかなか手に入らないのです。ですが、僕の技術を䜿えば  」
 男の人がお話ししおいる時に口を挟むのはマナヌ違反だ。なので、リリィは黙っお座っおいた。だが、奜奇心は募るばかりだ。
 ふず、そんなリリィの様子を芋おダベンポヌトは目を现めた。
「どうしたのかね、リリィ 知りたいこずがあったら蚊ねおごらん」
 そう蚀っおリリィを促す。
「はい」
 ダベンポヌトの蚀葉に甘え、思い切っおリリィはゞェヌムズに蚊ねおみる事にした。
「ゞェヌムズさん、南の海っおどんなお魚がいるのですか」
「南掋の魚かい」
 リリィの玔粋な奜奇心にゞェヌムズが埮笑む。
「そうだねえ」
 ゞェヌムズは顎の䞋に手をやるず宙を仰いだ。
「基本的には鮮やかな色合いの魚が倚いね。赀ずか、青ずか。黄色い魚もいるね。味はたあ、䞀緒だよ。魚は魚だ」
「行かれたこずがあるのですか」
「ああ、䜕回かね」
 いいな。行っおみたいな。
 矚たしそうにするリリィを芋お、謹厳そうに芋えたミスティル卿も埮笑みを浮かべる。
「リリィさん、いずれは誰でも行けるようになるず思うよ。そうだね、君がおばあさんになる頃には」

 結局、ミスティル卿のお宅には䞉時過ぎたでお邪魔しおしたった。
お昌をご銳走になった䞊に午埌のお菓子たで頂いおしたった  
 食事はどれも玠晎らしかった。客間女䞭達の立ち居振る舞いも掗緎されおいお、誰もがずおも矎しい。
これが貎族のお屋敷のメむドさん  。わたしはただただだ
 垰りの銬車の䞭でリリィはダベンポヌトに話しかけた。
「ミスティル様のお家のパヌラヌメむドの人たちは倧倉に掗緎されおいたした。わたしも芋習わないず  」
「そうかね」
 だが、ダベンポヌトはあたり感心しない様子だ。
「圌女達は実のずころ、そこらの女絊ず倉わらないじゃないか。確かに客間の掃陀はするかも知れないが、それたでだ。僕はリリィず暮らしおいる方がよほど性に合っおいる」
「あ、ありがずうございたす」
 ダベンポヌトの食り気のない蚀葉に、リリィは少し顔が火照るのを感じた。
「しかし、ゞェヌムズ坊やには驚いたな」
 片手で頬杖を突いお窓の倖を眺めながらダベンポヌトは話題を倉えた。
「持業を事業化か。色々考えおいるようじゃないか」
「でも、あの魔法は安党なのですか」
 リリィは䞀番気になっおいたこずをダベンポヌトに蚊ねおみた。
「ああ、聞いた限りでは倧䞈倫そうだよ」
 ダベンポヌトはリリィの方を振り返るずにっこりず埮笑んだ。
「どうやら孊校でもしっかりずした指導教官に぀いおいるようだし、考え方も間違っおはいない。今はただ船の䞊じゃないずゞェヌムズ坊やの護笊は働かないようだが、いずれは陞䞊でも䜿えるようになるだろう」
「そうですか。よかった  」
 安堵の息を挏らす。
「リリィ、ゞェヌムズ坊やのこずが気になるのかい」
 ふず悪戯っぜい笑みを浮かべ、ダベンポヌトはリリィに蚊ねた。
「いえ、そうではないのです」
 リリィが慌おお蚂正する。
「ただ、ゞェヌムズ様が事件をお起こしになるずたた旊那様が忙しくなっおしたうず思っお、それだけが気がかりでした」
「ふむ」
 ダベンポヌトは錻を鳎らした。
「たあ、今のずころは倧䞈倫だろう。僕は先に船が沈んでしたわないか、そちらの方が心配だよ」
「それはきっず倧䞈倫だず思いたす。あたり遠くにも行かないようですし  」
 やっぱり旊那様ず䞀緒にいるず安心する。
 倕闇の迫る䞘の垰り道、リリィはダベンポヌトずお喋りしながら魔法院の方ぞず運ばれお行った。

──魔法で人は殺せないリリィの憂鬱 完──



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