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みこりんの大冒険

【注意】この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません【注意】

 ドカーンッ!

 遠くの方で爆発音がした。
「キャーッ」
 なんでかどうやってもフィットしないヘルメットを両手で押さえながら慌てて違う掩蔽壕に向かって走る。
 ッタタ、タタタタタタタタタ……
 周囲に充満するマシンガンの音。
 あちらこちらにキノコ雲のような、オレンジ色の爆炎が上がる。
「ヒーッ」
 爆弾が投下されるたびにみこりんは逃げ回る。あちらの掩蔽壕、こちらの掩蔽壕……

 そもそも、こんな事になってしまったのはひとえにフジテレビが悪い。フジテレビが例の調子で『元局アナをエクストリームなところに送り込み、これをライブ配信する』とかいうおかしな企画を立ち上げたのだ。白羽の矢が立ったのは渡部美智子。最初みこりんは出演を渋ったが、だが破格のギャラに目が眩み、結局こんなおバカな企画を受けてしまった。
 みこりんも子供たちの学費を稼がないといけない。お金は大切。

 それにしても……とみこりんは後ろを振り返る。そこにはハンディカムを構えた一人の戦場カメラマンが黙って佇んでいた。彼は今まで一言も発していない。まるで影の様にみこりんについてくる。
(なんでこんなところで平気でいられるのかしら?)

「キャーッ!」

 再び近くで爆弾が炸裂した。しかし戦場カメラマンの表情はピクリとも動かない。
 慣れってこわいわー、と思いつつ、みこりんはゴール地点が設定されているDMZ(非武装地帯)に向かってひた走った。

+ + +

 何もアラフィフでしかも二人の大学生の子供を持つ私を起用しなくても……と半分涙目になりながらみこりんはガレ地の戦場を逃げ回る。
 今頃、お台場のフジテレビ本社ではこの企画を立ち上げた元師匠が腹を抱えて笑いながら、ライブ配信されているこの戦場の様子を見ている事だろう。
 エアコンの効いた、役員室の中で。

 ドカーンッ

 さっきよりももっと近い。
「キャーッ」
 思わず悲鳴を上げる。
 と、
「……これは、まずいですね」
 終始無言だった戦場カメラマンが初めて口を開いた。
「これ、恐らくは制圧爆撃です。ここにいると、たぶん死にます」
「死ぬ? イヤよ、私は絶対に死ねないの! 子供たちとアンディ(注:みこりんのトイプードル)のために!」
「じゃあ、がんばりましょう」
 お笑いの時間はもう終わりです、と彼は呟くとみこりんに戦場での正しい逃げ方を指南した。
「もっと姿勢を低くして、もっとゆっくり移動するんです。早く移動すると目立ってしまいます。無防備になってしまう掩蔽壕と掩蔽壕の間は全力で走って、安全な場所ではゆっくり移動する。それがコツです。僕が先に行きますから、あとから少し離れてついてきてください」
「は、はい!」
 みこりんは言われた通りにヘルメットを被り直すと──戦場カメラマンに指摘されるまで、みこりんはヘルメットを前後逆に被っていることすら知らなかった。本当にひどい番組だ──、これまた言われた通り、頭から地面の砂をかぶってシャネルの白いパンツスーツを茶色く汚した。洗顔と同じ要領で顔にも細かい砂をまぶす。
 おかげさまでメイクは落ち、いつもは艶々の髪の毛もガサガサになってしまったが、この際そんなことは気にしていられない。
「そうです、これでだいぶん目立たなくなりました。さあ、行きますよ」
 戦場カメラマンが走り出す。
 みこりんは言われた通り、3メートルくらい離れたところから戦場カメラマンの汗で濡れた背中を追いかけた。
 なんとなく、今度はちゃんと逃げられる気がする。やっぱり経験者がそばにいるのは心強い。
(私はあの子たちのところに絶対帰るの!)
 みこりんは決意を新たにすると、戦場カメラマンの後ろから爆炎吹き荒れる戦場を駆け抜けていった。

──了──


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蒲生竜哉@『魔法で人は殺せない』著者🎈
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