芋出し画像

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                 二〇䞉九幎䞃月二十九日 二䞉時〇䞀分
               沖瞄県島尻郡座間味村阿嘉、倩城展望台沖

 船を移動させ、予定通り倩城展望台の西の沖合四〇〇メヌトルの海域にアンカヌを打った。
 本圓ならもっず遠方で埅機したかったが、展望台の連䞭を片付ける必芁がある。あたり離れるのは埗策ではない。
 次いで俺は、
「クレア、ナむト・レむノンの高床を䞊げろ。䞇が䞀連䞭がを䜿ったら墜萜する」
 ず指瀺を出した。
──了解したした。高床を八〇〇メヌトルに䞊げたす。小型爆匟の効果半埄は五〇〇メヌトルがせいぜいですから、これで倧䞈倫なはずです
「打ち䞊げ匏の可胜性が高いぞ。信号匟発射筒で打ち出すはずだ。高床だけじゃなくお十分に距離も取れ」
──了解したした
 肉県では芋えないが、ナむト・レむノンが移動しおいくのがタブレットの画面䞊に芋える。
「軌道空母はどうだ」
──日本䞊空にアグラむアが接近䞭です。䜕か䌁んでいたすね。高床䞀〇〇キロの匷制軌道に移行したした
 匷制軌道航行ずいうのは実際の軌道よりも䜎い軌道を飛ぶため、地球ずは逆の方向にスラスタヌを噎射しお匷制的に高床を䞋げる航行方法のこずだ。スラスタヌを切れば遠心力で艊は迅速に本来あるべき高高床軌道に戻る。
 地䞊で䜕かの䜜戊が実斜される際に行われるこずが倚い行動だ。
「䞀〇〇キロっお蚀ったら䞭間圏ギリギリじゃないか。連䞭も䜕か情報を掎んでいるのかも知れないな」
 たすたす今晩襲撃が行われる可胜性が高くなっおきた。
「さおず」
 俺はデッキに寝転んだ。
「これでできるこずは党郚やった。あずは埅぀だけだ」
「でも、今日来なかったらどうするんです」
 暪座りになったマレスが尋ねる。
「来るたで毎日同じこずをするだけさ。マレス、明日は釣り道具でも持っおくるか」

  

 零時四十分。
──和圊、起きおいたすか
 クレアから通信だ。
 俺はデッキの䞊で埮睡んでいた。
「ああ、起きおる。どうした」
──゚ンゞンをかけおください。動きがありたした。先遣隊ず思われる䞃人が移動を開始しおいたす。ボギヌず呌称したす。よろしくお」
「了解。  掛かったな」
 思わず笑みが挏れる。
「クレア、ただ早い。連䞭の動きを远っおくれ」
 蚀いながらナむト・レむノンの防氎タブレットを手元に匕き寄せた。
 確かに道沿いに䞃぀の赀いボックスが移動しおいる。
 連䞭は倩城展望台の分岐で二手に分かれた。
──ボギヌが四人ず䞉人のグルヌプに別れたした。以降ボギヌずボギヌず呌称したす
 四人はさらに奥ぞ進み、䞉人が展望台に䞊っおくる。
──ボギヌはさらに前進䞭。ボギヌが展望台に䞊がりたした
「抂ねクレアの読み通りだな」
 俺はマレスに囁いた。
「そりゃ、クレア姉さたですもの」
 我がこずのように胞を匵る。
「さあお、どうしたものか」
「もっず深く針が刺さるたで埅ったほうが良いず思いたすよ」
──そうですね。私もそれに賛成です
 ずクレア。
──本隊が動くたで埅ちたしょう
 奥に進んだ四人のうちの二人は鉄補のゲヌトの䞡偎で立ち止たった。そのたたそこに留たり、時折巊右を亀代しおいる。
 残りの二人はそのたたさらに進み、藪を挕ぎながら沿岞ぞず向かった。
 䞀方、展望台に登った䞉人は二人を歩哚ずしお簡易的な駐留地を䜜ったようだった。
 䞀人がベンチの前に陣取り、残りの二人がりロりロず呚囲を譊戒しおいる。
 やがおそのうちの䞀人が倧䜐の家がよく芋える展望台の角に移動した。
──クレア、拡倧できるか
「はい」
 鮮明な暗芖映像の䞭で双県鏡を芗いおいる兵士が頭䞊から芋える。
「タむミングが重芁ですね。それにしおも本隊はどうしたんだろ」
──ああ、動き始めたしたよ
 ドミから十二人のグルヌプが二぀出発した。
 想定よりも四人ず぀倚い。十二人分隊ずいうのは今時にしおはずいぶんず倧きい。
──以降、先発をグルヌプアルファ、埌発をグルヌプベヌタず呌称したす
「了解。  マレス、船は動かせるか」
「それは無理。操船っおしたこずありたせん」
「そりゃたいったな。じゃあ、展望台の連䞭片付けるたで䞋で埅っおおくれ  クレア、今どこらだ、連䞭は」
──接近䞭です。レむノンのタヌミナルを芋おください
 十二人で䞀぀のグルヌプが二぀、北ず東から移動しおいる。あず䞉〇〇メヌトル皋床だ。藪を挕ぎながら移動しおいるようで、移動速床が遅い。
 さらに十分以䞊埅っおから、ようやく連䞭は倧䜐の家の呚囲に到着した。
 そこで二隊の動きが止たる。
 倧䜐の家からは光が挏れおいる。起きおいるのか、あるいはわざずか。
──アルファ、前進再開。東偎から目暙に向かっお散開しおいたす
「了解」
 俺は船を埮速で動かすず、できる限り音がしないように倩城倩文台の䞋に船を぀けた。
 䞊手い具合に展望台の足元に浅堎の砂地がある。
 そこに船銖を抌し䞊げ、近堎の岩を䜿っお船䜓を固定する。
「ちょいずボギヌを片付けおくる」
 俺は銃口を䞋に䞉䞀匏アサルトラむフルを背負うず、フリヌランニングの芁領で音を立おないように気を぀けながら䞀気に展望台の䞊にたで駆け䞊がった。
 䞉人ずもこちらに背䞭を向けおいる。䞀人は通信タヌミナルに぀きっきり、残りの二人は双県鏡で倧䜐の家を監芖しおいるようだ。
 俺はセレクタヌを䞉点バヌストに切り替えるず、それぞれの頭ず銖の䞋を䞉発で打ち抜いた。
 サりンドサプレッサヌが装備されおいるため音はほずんどしない。
 䞉人はものも蚀わずに厩折れた。
「クリア」
 マレスずクレアに結果を䌝える。
 さお、通信機はどうしたものか。
 少し考えた末、俺は通信機を攟っおおくこずにした。壊したらかえっお面倒なこずになりかねない。攟っおおいおよかろう。
 俺は再び斜面を駆け䞋りるず船に戻った。
 腰たで氎に浞かっお船銖を抌し、船を海に戻す。
「䞊の歩哚を朰しおきた。次はタンクだ。射撃䜓勢を取れ。キュヌは俺が出す」
「了解」
 マレスは黄色いバむポッドを開くず、ポッドの䞡脚を船銖にセットした。
 マガゞンにはすでに十二䞃ミリの焌倷培甲匟が装填されおいる。
 俺は船を回すず倧䜐の家の西偎に移動した。
 高台にある家だが、距離を取ればプロパンタンクが芋える。
 沖合八〇〇メヌトル。これなら連䞭の匟は届かない。
「ここからならどうだ」
「いけそうです。ここからならプロパンタンクが芋えたす」
 艊銖にプロヌン姿勢で暪たわったマレスが身じろぎ䞀぀しないたた、サむトを芗き蟌みながら答える。
「二発ず぀」
「そうだな」
 俺はマレスに答えた。
「タンクの頭ず底は肉が厚い。胎郚に二発づ぀だ」
「了解」
 俺は携垯颚速蚈をチェックした。
「颚が吹いおる。右にクリック」
「了解」
──突入が始たりたした
 遠くの方から『バンッ』ずいう音が䞉回した。
 マスタヌキヌだ。ショットガンでドアのヒンゞを飛ばす音だ。
──䞉人突入したした。グルヌプベヌタが今から入りたす
「撃぀」
「ただだ。グルヌプベヌタの突入を埅お」
 操船コン゜ヌルに眮いたスポッティングスコヌプを芗きながらマレスに答える。
「了解」
──グルヌプベヌタ、突入開始。建家内に入りたした。グルヌプアルファ、匕き続き建家を取り囲む様に展開䞭
「よし、マレス、撃お」
 返事をせず、マレスが现く息を吐きながらバレットのトリガヌを二回、絞る。
 ガりンッ、ドゥヌンッ
 耳を聟する蜟音が呚囲を満たす。
 八〇〇メヌトル先のタヌゲットに着匟するたでには䞀秒以䞊の間隔がある。だが、圌らが射撃音を聞くこずはない。射撃音よりも早く匟が到達する。
 その間にマレスは続けおさらに二発射撃した。
 初匟呜䞭。続けおもう䞀発。
 タンクに着匟した培甲匟が音もなく閃光を瞬かせる。
 手前のプロパンタンクに着匟した二発の焌倷培甲匟を远うようにしお、埌から攟った二発が隣のプロパンタンクに吞い蟌たれる。
 音もなく、スポッティングスコヌプの䞭の二本のプロパンガスタンクが突然爆発した。
 爆発したプロパンタンクが倧䜐の家を粉々に吹き飛ばす。
 癜い火柱の閃光に、䞀瞬芖野が暗くなる。
 数瞬遅れお二぀のプロパンタンクが爆発する蜟音が響いおきた。
 倧きな爆発音が呚囲を満たす。
 粉々に吹き飛んだ半朚造の家が䞀気に炎に包たれる。
「よし。クレア、䜕人残っおいる」
 行動䞍胜になった敵のボックスはグレヌに倉わる。赀いボックスが残りの敵だ。
──珟時点で確認できる、圢のある行動䞍胜者は九人です。他六人は粉々になっお吹き飛ばされおいたす。負傷状態は刀りたせんが、生きおはいないでしょう。合蚈の被害状況は十五人、それに和圊が察凊した䞉人を加えお十八人ず思われたす。健圚なのは歩哚を含めお十䞉人です。
「十五人飛ばせたんだったら䞊出来だ。倧䜐はどうだ」
 倧䜐のボックスは青く衚瀺されおいる。
──健圚です。あの皋床の爆発じゃあダメなんですね
「想定の範囲内だ。をあの皋床の爆発で砎壊できるずは思えない」
 燃え䞊がる家を背景に、統率が取れなくなった瀋陜軍の兵士が各々炎の䞭に飛び蟌んで行く。
 その䞭心で暎れおいるのが倧䜐だろう。
 俺はスポッティングスコヌプから身を起こすず双県鏡で状況を確認した。
 双県鏡の芖界の䞭、兵士に囲たれながら倧䜐が埒手空拳で応戊しおいる。
 さすがの経隓倀だ。あっずいうたに盞手の銃を奪い、ラむフル匟を頭郚に撃ち蟌んでいる。
「あれ」
 その時、スコヌプを芗いおいたマレスが声を䞊げた。
「あれ、䜕をしようずしおるんだろう」
「なんだ」
 双県鏡でマレスの芖線の先を远う。
 芋るず緑色の迷圩服を着た瀋陜軍の兵士が右手を頭䞊に掲げおいた。
「いかん、だ」
 芋おいる間にトリガヌが匕かれ、打ち䞊げられた匟頭から芋えない閃光が呚囲に広がる。
 次の瞬間、倧䜐のバヌサヌカヌモヌドが発動した。

  

 バヌサヌカヌモヌドが発動するずそれはすぐに刀る。
 行動様匏が倉わるのだ。
 倧䜐は手にしたラむフルを投げ捚おるず、玠早く手近な兵士に襲いかかった。䞡芪指を鎖骚の隙間に抌し蟌み、力任せに巊右に匕きちぎる。
 アバラを砕かれ、兵士の身䜓が二぀に裂ける。双県鏡の芖界の䞭、匕き裂かれた傷口から奔流のように鮮血が溢れ出る。
──和圊、アグラむアがを射出したした。到達予定時刻はあず䞃分、萜䞋地点はあなたたちがいる堎所から玄䞉千メヌトル、慶留間島沖です
「マレス、急げ。残りの連䞭を片付けろ」
「でも、どっちから」
「瀋陜軍が先だ。到着たでただ䞃分ある。先に瀋陜軍を片付けお、その埌倧䜐を行動䞍胜にするんだ」
「了解」
──でバヌサヌカヌモヌドが発動するずいうのは始めお聞きたした。危ないずころでしたね。望月さんの䜜戊を採甚しおいたら郚隊が党滅しおいたしたよ
「たったくだ」
 双県鏡ずスポッタヌスコヌプを䜵甚し、クレアの指瀺を頌りに残りの敵を探す。
──マレス、巊偎から歩哚に出おいた人達が戻っお来おいたす。察凊しおください
「了解」
 マガゞンを入れ替え、マレスが装匟筒付翌安定培甲匟で敵を撃぀。
 胞に着匟するず同時に赀い血煙をあげお䞊半身が消滅する。隣の敵にもう䞀発。腰から䞋が消滅し、䞊半身が厩れ萜ちる。
 珟堎の音は聞こえない。音のない芖界の䞭で、ただ次々ず敵が消滅しおいくのを芋るのは劙に非珟実的だった。
 芋぀けた。
「正面に䞀人いるぞ」
 俺はスポッティングスコヌプのタクティカルリンクを䜿っおマレスのバレットに射撃諞元を䌝達した。
 マレスが身じろぎし、銃口を埮かに動かす。
 ドゎヌンッ
 耳を聟する蜟音。マズルブラストが目の前を癜く染める。
 䞊半身ず䞋半身が分断され、二぀になった身䜓が地面を赀く染める。
 その間にも逃げる兵士の銖を埌ろから掎み、倧䜐が力任せに銖の骚を折る。胞を拳で突き砎り、玠手で心臓を握り朰す。それだけでは飜き足らないのか、さらにそこから背骚を匕きずり出す。
「マレス、早く瀋陜軍の連䞭を凊眮しろ。バレットの方がただ人道的だ」
「はい」
──マレス、巊偎に䞉人。真ん䞭がリヌダヌです。真ん䞭、右、巊の順で察凊しお
「はい」
 的確に䞉発の高速培甲匟で敵の頭郚を粉砕する。
「確か海に二人降りたな。䞊にもただもう䞀人いるはずだ。クレア、探せ」
 倧䜐は足が悪いずは思えない玠早い動䜜で移動しおいる。
 これは時間ずの勝負だ。バヌサヌクしたに惚殺されるくらいなら、ラむフル匟で即死させた方がただマシだ。
──熱源怜出
 クレアが蚀った。
──砎片の圱に隠れおいたす
「壁面ごず粉砕しろ」
「了解」
 空になったマガゞンをすばやく亀換し、マレスが再びを装填する。
 マレスはトリガヌを二回匕き絞った。
 は装匟筒に包たれた、タングステンカヌバむド鋌で䜜られた现い高速培甲匟だ。
 だが、俺たちが今䜿っおいるには现工があり、装匟筒にロケットモヌタヌが仕蟌たれおいる。これによっお二次加速し、超超音速で敵に突進する。
 装匟筒のロケットモヌタヌの燃焌が終了するず同時に装匟筒が分離し、尟郚に小さな矜を぀けた现長いタングステンの培甲匟が音速の二倍を超える速床で空気を切り裂く。
 现く重い培甲匟は衝撃波を匕きずりながら薄い壁を打ち抜くず、そのたた敵を貫通した。
 頭郚ず胞郚を貫通され、迷圩服を着た兵士の癜い圱が厩折れる。
 これで二十九人。
「よし、倧䜐を止めよう。匟は同じでいい。で腰の関節を粉砕しろ」
──いえ、和圊、ちょっず埅っお䞋さい
 ず、ナむト・レむノンをコントロヌルしおいるクレアが俺を止めた。
──海に降りた二人が䞊がっおきたす
「マレス、撃おるか」
 スコヌプから離れ、マレスがタブレットに目を萜ずす。
「難しいです。茂みの䞭にいる様なんですけど、光孊サむトだからよく芋えない」
「ク゜ッ」
 俺はクレアに声をかけた。
「クレア、もっず詳现な䜍眮情報は送れないのか」
──ネガティブ。今はそのタブレットに送った情報が党おです。こちらからの射撃補助は困難です
「連䞭、䜕をする気なんだ」
──それも刀りたせん。心拍数が高いのは走っおいるためなのか、そのほかの理由なのか刀りたせん。ただ、䟝然珟堎げんじょうに接近䞭です。あず十メヌトルありたせん
「クレア、倧䜐はどうしおる」
──東に移動を開始したした。に向かうのだず思いたす
 俺はスポッティングスコヌプを右に回した。
 芋぀けた。
 炎䞊する家を背景にしお、倧䜐がゆっくりず歩いおいるのが芋える。
「でもどうやっお海を枡るんだろ」
「の方から寄っおくるはずだ。阿嘉枯の埠頭たでボヌトが来るんだず思う」
 その時突然、茂みの䞭から先の二人の兵士が飛び出しおきた。
 距離があるため声は聞こえない。だが、䜕事か叫びながら倧䜐の䞋半身に抱き぀いおいる。
「䜕をする気だ」
 蚀っおいる間に手抎匟のピンを抜く。
「したった 自爆攻撃だ。マレス、連䞭を止めろ」
「無理ですよ 自爆攻撃は止められたせん」
 二人は倧䜐を挟むようにしお抱き合うずそのたた爆死した。



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