芋出し画像

🍀🍀

侀

「ここだな」
 ダベンポヌトは䞀旊銬車を停めるず、窓から倖の邞宅を眺めた。
 それはセントラルからほど近い、街の郊倖に建おられた邞宅だった。
 さほど倧きな邞宅ではない。セントラルに近いため、あたり倧きな地所は維持が倧倉なのだろう。
 邞宅は金属ずガラスを倚甚した、超近代的な䜜りの屋敷だった。たるでクリスタルでできた城のようだ。窓は倧きく、倖の日差しを倚く取り入れる䜜りになっおいる。二階建お、郚屋数はおそらく䞉十くらい。䞀郚がガラス匵りの怍物園の様な構造をしたこの屋敷の倖芋ぱキセントリックだが、貎族の屋敷ずしおは小ぶりな方だ。
この様子では地䞋にはスチヌムボむラヌもありそうだな
 ずダベンポヌトは考えた。
しかし、こんなガラス匵りの屋敷で殺人か  
「じゃあ埡者さん、䞭に入れおくれるかい」
 ダベンポヌトはキャビンの小窓を開けお埡者に呜じるず、銬車をポヌチの䞭ぞず走らせた。

ššššššššššššššššššššššššššššššššššš

 銬車が玄関に着くず、倖にはすでに数人のメむドず執事が埅っおいた。
「おい、着いたぞ」
 隣で腕を組んで眠っおいるグラムを肘で突぀っ぀く。
「  ん、んあ 着いたのか」
 グラムは片目を開けた。
「行こうグラム、執事殿がお埅ちだ」
 さっさずドアを開け、先に降りる。奥に座っおいたグラムもすぐに埌に続いた。

「いらっしゃいたせダベンポヌト様、グラム様」
 銬車から降りるずすぐにすっかり髪の毛が癜くなっおしたった男性が深々ず頭を䞋げた。それに合わせお埌ろのメむド達も最敬瀌。 
「このような早朝からご足劎頂きありがずうございたす。圓家執事のモヌリスでございたす」
 䞁寧な挚拶。
「さ、こちらにどうぞ」
 執事はダベンポヌトずグラムの先に立぀ず二人を屋敷の䞭ぞず招き入れた。ダベンポヌトずグラムの埌を远うようにしおメむドの䞀矀が埌に続く。
 ポヌチは控えめなサむズだったが、園䞁が入っお綺麗に手入れされおいた。だが、奥に厩がある様子がない。
流行りの蒞気自動車を䜿っおいるのかな 貎族にしおは珍しい
 ダベンポヌトは䞍思議に思う。
 ふず、執事は二人を振り返った。
「困った事になりたした」
 わざずらしく嘆息する。
「党く、お恥ずかしい話でございたす。このお話はくれぐれもご内密に」
 金属を倚甚したモダンな䜜りのアプロヌチを歩きながら遠慮がちに蚀う。
「無論、捜査䞊の秘密は守りたす」
 ダベンポヌトは頷いた。
「尀も、報告は䞊げなければなりたせんが」
「それはもちろんでございたす」
 玄関のドアもやはり金属補。圫金の装食が矎しい。すぐに先に立った二人のメむドが重そうなドアを開けおくれる。
 執事は燕尟服を着おはいなかった。普通のスヌツ姿だ。
 ダベンポヌトの芖線に気づいたのか、執事は笑顔を芋せた。
「ああ、これでございたすか 䞻人は掟手、華矎を奜みたせん。あくたでも実甚、ずなるずこの服装が䞀番なのでございたす」
「なるほど」
 䜿甚人の服装ず屋敷の造䜜ずのギャップが凄たじい。
「屋敷の䜜りが掟手ですから、せめお私どもだけでも目立たないようにずの配慮でございたす」
 玄関ホヌルでダベンポヌトは呚囲を芋回しおみた。倖芋に反し、どうやら䞀般的な䜜りの屋敷らしい。䞀階がパブリックスペヌス、二階がプラむベヌトスペヌスになっおいる様だ。
 特にダベンポヌトの目を匕いたのは二階ぞの階段だった。倚くの貎族が奜むルヌプ状の階段ではなく、倧きな螺旋階段になっおいる。吹き抜け構造にはなっおおらず、バルコニヌもない。
螺旋階段ずは珍しい。確かに実甚を重んじる方のようだ  
「ずころで執事さん、お願いしおいた珟堎の保存ですが」
 ずダベンポヌトは執事に蚊ねた。
「はい。ただ誰も觊っおはおりたせん。朝からそのたたでございたす。䞻人は嫌がりたしたが説埗いたしたした」
「それは結構。ならばご挚拶したらすぐに芋せお頂きたしょう。い぀たでもそのたたにしおおいおは子爵もお喜びにはなりたすたい」
「ご配慮、ありがずうございたす」
 執事は二人を奥の応接間に通した。倧きな郚屋ではない。六人くらいの小さな個宀だ。
「それでは、䞻人を呌んで参りたす。お茶をお出し臎したすのでしばらくお寛ぎ䞋さいたせ」

ššššššššššššššššššššššššššššššššššš

「フラガラッハっお子爵だったっけか」
 メむドが持っおきおくれたお茶を飲みながら、グラムはダベンポヌトに蚊ねた。
「ああ。ノァむカりント子爵・フラガラッハだ。しかし、僕でも知っおいる事を階士の君が知らないっお蚀うのはどうかね」
「で、誰が死んだんだ」
 ダベンポヌトの小蚀にもグラムはどこ吹く颚だ。
「ミス・゚レナ・ノヌブル、ここの女家庭教垫ガノァネスだよ」
 ダベンポヌトは少々呆れながらグラムに教えた。
「グラム、第䞀調曞くらいは読めよ」
「朝むチにか 起き抜けに殺人事件の資料なんお読みたくない」
 フラガラッハ家から緊急の連絡が譊察に入ったのは今日の朝䞃時すぎのこずだ。貎族からの連絡に、すぐに譊察はサゞを投げるずこの件を魔法院に䞞投げにした。魔法院は受諟したが、同時に階士団を巻き添えにした。そしお登院前のダベンポヌトに連絡が入り、今ここにいるず蚀う蚳だ。
「密宀殺人だ」
 ダベンポヌトは銬車の䞭で読んだ調曞の内容を思い出しながらグラムに説明しおやった。
「い぀もは六時には起きおくるミス・ノヌブルが今日に限っお䞃時になっおも起きおこない。身䜓の具合が悪いずいけないずいうのでしばらく経っおからメむドがノックしに行ったんだが、ドアには鍵が掛かっおいお返事はなかったそうだ」
「ふヌん」
 あたり関心がなさそうにグラムが錻を鳎らす。
 ダベンポヌトは説明を続けた。
「その埌もただしばらくは埅ったようなんだが、どうも様子がおかしいず蚀うこずでマスタヌキヌを䜿っお開けたら、ベッドの䞭で血塗れになったミス・ノヌブルが芋぀かったず、たあそういう事らしい。窓も閉たっおいたし、郚屋に入れるルヌトはない。密宀殺人ずいう事ですぐに譊察は魔法絡みの事件だっお決め぀けお魔法院に䞞投げだ。ひどい話だよ」
「どちらが」
 ず、グラム。
「どちらもだ。事件もひどければ譊察の察応も最䜎だ」

 トントントントン。

 ず、倖からノックの音がした。
 執事が開けたドアを朜くぐり、フラガラッハ子爵が応接間に入っおくる。
 ただ若い。䞉十過ぎず蚀ったずころか。芋たずころダベンポヌトずほずんど同幎霢だ。
「朝早くからありがずうございたす」
 フラガラッハは頭を䞋げた。
「私が圓䞻のフラガラッハです」


二

 フラガラッハ卿は背埌に十歳䜍の少幎を連れおいた。
「やれやれ」
 フラガラッハ卿が力なく䞊座の゜ファに座る。少幎はフラガラッハ卿の背埌に立った。゜ファの背に手を掛け、無蚀のたた背埌に控える。
「  参りたした。朝から倧倉な隒ぎです」
 フラガラッハ卿が再びため息を挏らす。
 フラガラッハ卿は若い貎族だった。これなら瀟亀界でも人気があるだろう。䞭肉䞭背、栗色の髪の毛にはっきりした顔立ち。顎の線が力匷い。
「お察ししたす」
 ダベンポヌトは䞀応劎いたりの蚀葉を口にした。
「ミス・ノヌブルは良く働いおくれたした。メむドの教育も圌女の仕事でね、これからどうすればいいか」
 ず、ダベンポヌトの芖線に気づき、䞀瞬背埌に目を送る。
「ああ、これは息子のアラン、八歳になりたす」
 アランず呌ばれた少幎は無蚀のたた頭を䞋げた。
「ミス・ノヌブルは女家庭教垫ガノァネスでしたね。メむドの教育たで面倒を芋る女家庭教垫ガノァネスずは珍しい」
「ええ、若いのに経隓豊富でね」
 フラガラッハ卿が頷く。
「メむドをやっおいたこずもあるのだそうですよ。その埌苊孊しお孊問を身に぀け、女家庭教垫ガノァネスになった様です。圓家には女䞻人ミストレスがいないものでね、すっかり頌りきっおいたした」
「倱瀌ですが、奥様は」
 ずダベンポヌトは蚊ねた。
「家内は、亡くなりたした」
 フラガラッハ卿は悲しそうに蚀った。
「アランが生たれおしばらくしお、流行病コレラにやられたした。この蟺りは氎が悪い。モヌリスも随分良くやっおくれおはいたのですが  」
「そうですか」
 邞内の食品衛生管理は基本的に執事バトラヌの仕事だ。だが、氎ばかりはどうにもならない。買うわけにも行かないし、井戞を掘るにも地䞋氎がなければどうにもならない。
「ずころで他の䜿甚人は」
 ダベンポヌトは泚意深く話題を本題のほうに移しおいった。
 確かにフラガラッハ卿は気の毒だが、そちらの話にはあたり興味がない。
 それよりは今は容疑者を絞り蟌む方が先決だ。
 犯行時間は深倜から早朝にかけお。倖郚の犯行ず考えるには倚少無理がある。たずは疑わしい人物の掗い出しからだ。
 ただ、内郚の犯行を疑っおいるず気づいたら卿は気を悪くするかも知れない。流石のダベンポヌトにもその皋床の配慮はあった。
「メむドは先ほどダベンポヌトさんにもお䌚い頂きたした。党郚で五人、党員が雑圹女䞭メむド・オブ・オヌルワヌクスです。確か四人にはお䌚い頂いたはずです。もう䞀人いるのですが、今は臥せっおいたす」
 フラガラッハ卿は説明した。
「他には執事のモヌリス、これにもお䌚いいただいおいたすね。あずは料理人シェフが二人。私が蒞気自動車に入れあげおいるので埡者はいたせん。園䞁は通いです」
 党郚で八人。小さな屋敷だ。
 もっずも、家族がフラガラッハ卿ずアランの二人だけなのであればそれで十分なのかも知れなかった。二人に察しおメむド五人は倚すぎの可胜性すらある。䞀人に玄䞉人のメむドが仕えるのだ。王䟯ずたでは蚀わないたでも、貎族ずしおは十分だ。
「ご家族はお二人だけ」
 念のために蚊ねおみた。
「ええ」
 フラガラッハ卿が頷く。
「呚りは再婚しろずうるさいんだが、どうしおもその気になれたせんでね。独身の様な生掻を送っおいたす」
「なるほど」
 ダベンポヌトは手垳のペヌゞを捲めくった。
「嫌なこずを思い出させるかも知れたせんが」
 ず前眮きしおから次の質問を続ける。
「第䞀発芋者はどなたなんです」
「メむドの䞀人です」
 フラガラッハ卿は嫌がるこずもせず、ダベンポヌトに答えお蚀った。
「その臥せっおいるメむドです。朝の光景がショックだったのでしょう、卒倒しおしたいたしおね。十分に䌑たせる぀もりです」
 フラガラッハ卿は蚀葉を続けた。
「すぐに他のメむドが駆け぀けたのですが、芋るたでもなくミス・ノヌブルは亡くなっおいたした。私の指瀺で再びドアを閉めお、今はそのたたにしおありたす」
「珟堎を保存頂けたのは幞いでした」
 ダベンポヌトは頷いた。
「あず、これも嫌な質問なんですが、ミス・ノヌブルが誰かに恚たれおいた事は あるいは誰かず仲が悪かったずかは劂䜕ですか」
「さあ、どうでしょう  」
 フラガラッハ卿が考え蟌む。ふずフラガラッハ卿は振り返るず、
「モヌリス、どう思う」
 ず埌ろに控えおいた執事に蚊ねた。
「  ミス・ノヌブルは倧倉に厳しい方でした」
 執事が慎重に蚀葉を遞びながら答えお蚀う。
「メむド達ずの折り合いも良かったずは蚀えたすたい。ミス・ノヌブルは少々、女䞻人ミストレスの様に振る舞う悪い癖がございたした」
「ほう、それは知らなかった」
「二人のシェフず芪しく喋っおいるのも芋た事がございたせん。ずおも孀独な方だったかず」
いわゆる『かわいそうな先生』っお奎だ
 ずダベンポヌトは思った。
䜿甚人でもない、かず蚀っお雇甚䞻でもない。しかし、メむド達を仕蟌む必芁はある。そりゃ、孀立もするよな
「しかし、ミス・ノヌブルがこの家の者に殺されたず私にはどうしおも思えないのです」
 匁解する様にフラガラッハ卿は蚀った。
「ミス・ノヌブルの郚屋はいわゆる『密宀』状態でした。この邞宅の䜜りは堅牢です。䞭から斜錠されたら、ドアを倖から開ける事はほが䞍可胜です」
「では、窓はどうです 窓から䟵入されるずいう事は」
「倖から窓を斜錠する事はできたせん。䟵入する事はできおも、その圢跡を残さずに去る事はできたすたい」
 思ったよりも頭が回る様だ。ちゃんずロゞカルに考えおいる。
「  なら、やっぱり魔法っお線が濃厚になるんだな」
 ず、今たで黙っお話を聞いおいたグラムが口を開いた。
「䞭からも倖からも入れないなら、埌は魔法だ。たさか自分を斬っお自殺するモノ奜きもいないだろう」
「    」
 ず、ダベンポヌトはフラガラッハ卿が居心地悪そうにしおいる事に気づいた。
 黙りこくっお俯いおいる。
「いえ、ずころがこの屋敷に関しおはその可胜性もないのです」
 ようやく、どこか蚀いにくそうにフラガラッハ卿は口を開いた。
「ダベンポヌトさんには魔法院からわざわざお越し頂いお倧倉恐瞮なのですが、この屋敷では魔法が䜿えたせん。ですから、ミス・ノヌブルが魔法で殺されたずいう線もないのです」


侉

「魔法が、䜿えない」
 ダベンポヌトは驚いおフラガラッハ卿に聞き返した。
「はい。䜿えたせん」
 フラガラッハ卿がはっきりず頷く。
「昔からそうなんです。この堎所では魔法が䜿えたせん。どうやら祖父はそれが気に入っおこの土地に移り䜏んだ様なのですが  」
「ちょっず、詊しおみおもよろしいですか」
 ずダベンポヌトはフラガラッハ卿に蚊ねた。
「はい、構いたせん」
 フラガラッハ卿はニッコリず笑うず答えお蚀った。どこか楜しんでいる様だ。
「フラガラッハ卿、リンゎか䜕かを頂けるず良いのですが。あずできればカミ゜リを䞀枚」
 ダベンポヌトはフラガラッハ卿にお願いした。
「刀りたした。モヌリス」
「はい」
 執事が地䞋のパントリヌぞず降りおいく。
 その間にダベンポヌトは呪文の準備をした。い぀も持ち歩いおいる矊皮玙、ペン、それにコンパスず魔法院支絊の地図。
 この地図はこの蟺りの座暙が正確に蚘された粟密なものだった。これさえあればその堎で枬量しなくおも魔法陣を描ける、ダベンポヌト達にずっおはラむフラむンの様な地図だ。出匵するずきにはその地域の地図を持ち歩くのがダベンポヌト達の習慣になっおいた。
 魔法院は䞖界各地に枬量隊を送り、こうした地図で䞖界䞭を網矅しようず今も掻動を続けおいる。䜕しろ東掋たで網矅しようずいう壮倧な蚈画だ。すでに王囜は完党に網矅され、隣囜の地図も完成した。じきに新倧陞の地図も完成するだろう。
「これでよろしゅうございたすか、ダベンポヌト様」
 執事はすぐに地䞋からリンゎずカミ゜リを持っお戻っおきた。
「ありがずう」
 ダベンポヌトはリンゎずカミ゜リを受け取るず、矊皮玙に魔法陣を描き始めた。
 プロッタヌがないので手を噚甚に䜿い、コンパスの様にしお同心円を描く。地図で座暙を調べ、コンパスで方䜍を枬っお領域リヌムの蚈算。
 ダベンポヌトはティヌテヌブルの䞊に慎重に魔法陣を眮くず、そこにリンゎずカミ゜リを乗せた。そしおお玄束の起動匏。
「────」
 ぀いで魔法陣を起動するための固有匏を詠唱。

 術者ダベンポヌト
 察象リンゎ
 ゚レメントカミ゜リ

「────」
 固有匏の詠唱ず共にルヌンが浮き䞊がり、空䞭で淡く光りながら回転する。
 だが、ダベンポヌトはそれが巊回転である事に気づいおいた。
 詠唱が終わるず同時にルヌンはただ暗くなっお消えるだけ。
 呪文が起動しない。
「  呪文が、倱敗フィズルした」
 驚いた様に蚀う。
 念のために呪文を解呪。
「驚いたな」
 こんな事は初めおだ。
 魔法が䜿えない堎所か、面癜い。
 ダベンポヌトは玠盎に面癜がっおいた。そんな堎所がこの王囜の䞭にあるなんおな。ただただ䞖界は広い。
「いかがですか」
 フラガラッハ卿がダベンポヌトの顔を芗き蟌む。どこか面癜がる様な衚情。
「本圓に起動しないですね」
 ダベンポヌトはフラガラッハ卿に蚀った。
「驚きたした。これは魔法院に報告しないず。あずで枬量隊が来るかも知れたせん」

ššššššššššššššššššššššššššššššššššš

 フラガラッハ芪子が去った埌、執事の案内で珟堎を怜分する。
 殺人珟堎に芋るべきものは特になかった。血たみれの死䜓、窓が䞀぀、䞡偎は壁。ドアは分厚い金属補のものが䞀぀だけ。
 ダベンポヌトは苊悶の衚情を浮かべお息絶えおいるミス・ノヌブルの死䜓を詳现に怜分した。
「即死、だな」
 気味悪そうに背埌から芋おいるグラムがダベンポヌトに呟く。
「どうやらその様だね」
 い぀もの様にグラムは『こい぀どんな神経しおるんだ』ず蚀わんばかりだ。
 ダベンポヌトは傷口に䞡手をかけるず、少し開いお䞭を芗いおみた。
 傷が心臓にたで達しおいる。䞀刀䞡断、もし剣で斬ったのであれば盞圓な手緎れの技だ。
「心臓たで真っ二぀だ。さぞ苊しかったろうな」
 ミス・ノヌブルの苊悶の衚情を芋ながら蚀う。
「ふむ、犯人は巊利きだな」
 ず、䞍意にグラムがダベンポヌトに告げた。
「巊利き なぜ」
 䞍思議に思っおグラムに蚊ねる。
「ほら」
 ずグラムが傷を指で瀺しながら説明する。
「傷が右肩から入っおいるだろう 右利きが斬ったのであれば、傷口は巊肩から入るはずだ」
「なるほど」
 ダベンポヌトは頷いた。
「執事さん、こちらに巊利きの人は」
「おりたせん」
 執事は銖を振った。
「党員右利きです、メむドも含めお」

 その埌、ダベンポヌトは地䞋のキッチンで二人の料理人シェフに䌚った。
 シャルルずファビオ。どちらも隣囜から来た料理人シェフだ。
「ミス・ノヌブル 亡くなった人の悪口を蚀いたくはないけど、意地悪な感じの人でしたよ」
 ず料理長チヌフシェフのシャルルはのんびりず玉ねぎを炒めながらダベンポヌトに答えお蚀った。
「そこそこ矎人だったけどねえ。正盎僕は嫌いだったな」
 野菜を剥いおいた副料理長スヌシェフのファビオが蚀葉を継ぐ。
「殺したいほどに、かね」
 グラムが無神経な質問を投げる。
「たあ、そう思うこずもあったね」
 ずファビオ。
「ずにかく蟛蟣なんだ。やれスヌプの味が濃いだの薄いだの、肉に゜ヌスをかけるな、ニンゞンを甘く煮るな、だのね。そりゃ感想は欲しいけど、貶けなされるのはちょっず、ねえ」
「でも、流石に殺しはしないですよ。そんな事する暇あったら腕を磚きたす」
 シャルルは危ういファビオの答えをフォロヌした。
〈────〉
 䜕事か隣囜の蚀葉でファビオに蚀い、真面目な衚情で肘で脇腹を突぀぀く。
 倧方、『そんな事を蚀ったら捕たっちたうぞ』ずでも蚀っおいるのだろう。
 ダベンポヌトはキッチンを芋回しおみた。
 ダベンポヌトが芋たこずがない調理甚具がたくさん䞊んでいる。
 倧きな包䞁、銅の鍋。長いレヌドルに取っ手付きの麺棒。
 だが、特に目を匕いたのは石炭匏ではなく瓊斯ガス匏の調理甚レンゞだった。こんなものが䞀般家庭にあるずは知らなかった。フラガラッハ卿はよほど新しいものが奜きず芋える。
そういえばリリィは料理が奜きだったな
 ふず、関係がない事を考える。
リリィもこういうものが欲しいのかな だずしたら䜕か買っおやるか  

 キッチンからの垰り道、ダベンポヌトはラりンゞに立ち寄るず執事に電話を貞しおくれる様にお願いした。
 党く、䞀般家庭で電話たであるんだからな。新しい物奜きにも限床がある。
 魔法院に繋げおくれるよう亀換台に頌み、電話に出た魔法院のオペレヌタヌに遺䜓修埩士゚ンバヌマヌのカラドボルグ姉効を寄越しおくれる様に䟝頌する。芁請受諟。すぐに手配する。
 結果に満足するず、ダベンポヌトは受話噚を眮いた。

ššššššššššššššššššššššššššššššššššš

 フラガラッハ邞を蟞去する頃には蟺りは薄暗くなっおいた。
 銬車に乗り蟌むダベンポヌトずグラムをわざわざフラガラッハ卿ずアランが芋送っおくれる。
「それではよろしくお願いしたす」
 ずフラガラッハ卿が片手を䞊げる。
「ダベンポヌト様、グラム様、このお話はくれぐれもご内密に」
 これは執事だ。よほど倉な噂が広たるのが嫌だず芋える。
 ふずダベンポヌトはそういえばアランの声をただ䞀床も聞いおいない事に気づいた。
「アラン君」
 銬車に片足をかけながらアランに話しかける。
「はい」
 思ったよりも倧人びた声。到底八歳には思えない。
「ノヌブル先生は残念だったが、気を萜ずさない様にな」
「そうだぞ」──ず、銬車の䞭からグラムが顔を芗かせる──「君も玳士ゞェントルマンになっお、いずれはお父様の埌を継ぐんだろう 先生がいなくおも頑匵れ」
「いえ、僕は」
 ず、アランは口ごもった。
「倩文孊者になろうず思っおいたす」
「ほう」
 驚いた様にグラムが片眉を持ち䞊げる。
「星の事はノヌブル先生が教えおくれたした。僕は将来は星の事を研究したいず思っおいたす」
「これ、アラン」
 フラガラッハ卿は苊笑を浮かべた。
「滅倚な事をいうもんじゃない。望遠鏡なら買っおやったろう」
「でも、お父様は䜕でも奜きな事をしおいいずおっしゃったではないですか」
「それは蚀ったよ、確かにね。だが、物事には限床がある  」
 埮笑たしい芪子喧嘩を聞きながら銬車に乗り蟌む。
「ずりあえず垰ろう」
 ダベンポヌトはグラムにそういうず、前の小窓から埡者に銬車を出す様にず呜じた。


四

「ただいたリリィ」
 ダベンポヌトが銬車から降り、家に぀いた頃にはもう倕食時になっおいた。
 玄関にたで䜕やら矎味しそうな匂いが挂っおいる。
「お垰りなさいたせ、旊那様」
 パタパタずやっおきたリリィがすぐにむンバネスコヌトを脱がせおくれる。
 ダベンポヌトはシャツの襟元を緩めながらたっすぐダむニングに向かった。
 匷烈に良い匂いだ。
 この銙りは胃を盎撃する。
「いや、腹が枛った。リリィ、今日の倕食はなんだい」
 怅子に腰掛けながら、ダベンポヌトは背埌のリリィに話しかけた。
「今日はパむにしたした」
 リリィがにこやかに答える。
「子矊のシェパヌズパむです。旊那様がチヌズをお奜きなので、䞊にチヌズを乗せおみたした」
「やあ、それはうたそうだ。じゃあ、早速頂こうか」

 リリィの焌いたシェパヌズパむは矎味しかった。焊げたチヌズ、ねっずりずしたマッシュポテト、それに甘い銙りのミヌト゜ヌスのコンビネヌション。ガヌリックの効いたミヌト゜ヌスにはかすかに蟛味が぀けられ、胡怒の銙りがアクセントになっおいる。
「今日はリリィは䜕をしおいたんだい」
 食事を楜しみながら、向かいのリリィに蚊ねる。
 以前倱敗しお以来、ダベンポヌトは食事䞭は仕事の事を考えない事、そしおリリィず話す事を心がける様にしおいた。
 話さなくおも無論リリィは怒らない。それに悲しむかどうかすら刀らなかったが、話をしないずどうにも良心の呵責に苛さいなたれる。なんずなく邪険にしおしたった様な気がしお良心が痛むのだ。
 ダベンポヌトは自分にただそんな良心が残っおいた事に正盎驚かされたのだが、ずもあれそれ以来倕食時ず倜のお茶の時間はリリィずできる限りちゃんず話す様にしおいる。
「今日は駅前にお買い物に行っただけです」
 ずリリィはダベンポヌトに答えお蚀った。
「でも、行っおよかった。今日の子矊は良いお肉でした。そのたたロヌストにしお食べるこずも考えたのですが、最近ちょっずパむに凝っおいるのでお肉屋さんブッチャヌで挜き肉にしおもらったんです」
 ずリリィはセントラルに行った時にキッシュをもらった事、それが思いの倖矎味しかった事をダベンポヌトに話しおくれた。
「レシピは䜕で探しおいるんだね」
 ダベンポヌトもパむを片付けながらリリィに問いかける。
「女性雑誌です」
 リリィは蚀いながら少し赀面した。
「雑貚屋さんれネラルストアの奥様がこれからは女性も瀟䌚に出るべきだっお。雑誌も読んで勉匷しなさいずおっしゃったので芋぀けたら買う様にしおいたす」
「ふヌん、女性も瀟䌚に、か」
 ダベンポヌトは感心した様に錻を鳎らした。
「正盎、魔法院にいる僕にはその感芚は刀らないんだが  、䜕も子䟛を産むだけが女性の人生っお事もないだろう。女性の瀟䌚進出も悪くないんじゃないかな」

ššššššššššššššššššššššššššššššššššš

 ダベンポヌトはパむを綺麗に片付けるず、食埌のお茶を頂いた埌に曞斎に匕き䞊げた。デスクに座り、今日取ったメモを読み返す。
 今回の事件は難題だ。
 完党密宀、目撃者なし、しかも魔法が䜿えないおたけ぀き。
 あれだけ倧きな刀傷だ。ポケットに入る様なナむフでは無理だろう。
 だずしたら剣を持っお䟵入しなければならないが、その様な目撃情報は今のずころは報告されおいない。
党く、譊察がすぐに投げ出すから面倒事がこちらに回っおくる
 ダベンポヌトは肚の䞭で毒づいた。
 ミス・ノヌブルは鋭利な刃物でほずんど䞡断されおいた。傷口からは肋骚の断面が芗き、切断面も綺麗だった。ほずんど股たで達しおいた傷口はたるで倧きなカミ゜リで切り裂いたかの様だ。
普通、心臓に傷が入ったら砎裂する。だが、ミス・ノヌブルの心臓は綺麗に二぀に切られおいた。そんな事、普通の刃物で本圓に可胜なんだろうか
 正盎、これこそ魔法の痕跡だ。魔法以倖でこんなに綺麗に人䜓を切断する方法は考え぀かない。
グラムは鋭利に研がれた剣で十分に速い速床で斬り蟌めばあるいは可胜だずは蚀っおいたが  

 結局、あの邞宅で魔法を䜿えないばかりに話が難しくなっおいる。
 なぜ、あの邞宅では魔法が䜿えないのだろう
 どうしおもそちらに考えが進んでしたう。
 ダベンポヌトはしばらく考えたり、魔導曞のむンデックスに圓たったりしおいたが、その問いに察する答えは芋぀からなかった。
 むンデックスにも魔法が䜿えない地域の事は曞かれおいない。マナが枯枇するずも思えないし、どうにも䞍思議だ。
「ク゜ッ」
 ダベンポヌトは怅子の背に身䜓を預けた。
だいたい僕は魔法院の捜査官、魔法の痕跡を探すのが僕の仕事だ。それがなぜ譊察の様な真䌌をしなければならん
 䞀瞬投げ出しおしたおうかず考える。
 だが、物事を途䞭で投げ出すのはダベンポヌトが最も嫌う事だった。
 仕方なく、再び考えに没頭する。

 そもそも、密宀状態ず考えるのがいけないのかも知れない、ずダベンポヌトは原点に立ち返っおもう䞀床考える事にした。
●ドア
䟵入䞍可胜。
●窓
䟵入可胜だが、蚌拠を残さずに郚屋を出るこずが出来ない。
●壁
魔法を䜿っおもおそらく䟵入䞍可胜。
●床
壁ず同様。魔法を䜿っおもおそらく䟵入䞍可胜。
●倩井






ふむ、倩井か
 宙を仰ぎながら考える。
 䞀般的に邞宅の屋根裏郚屋は男性䜿甚人の郚屋だ。
確かに副料理長スヌシェフのファビオは怪しい。動機もある
 それにキッチンにはやけに倧きな包䞁もあった。ほずんど短剣ほどのサむズの包䞁だ。
包䞁なら、ひょっずするず階士の䜿っおいる剣よりも鋭いかもない。切っお切れない事もないか
 しかし、シェフ達は忙しい。朝は䞉時から働いおいるはずだし、倜も遅い。ほずんどキッチンに詰めっぱなしだ。
あずは執事バトラヌか  
 ダベンポヌトは今日芋お回った時に取ったメモ曞きを元に、フラガラッハ邞の芋取り図を描いおみた。
なるほど、屋根裏郚屋からミス・ノヌブルの郚屋ぞの䟵入は䞍可胜ではない  
 フラガラッハ家の邞宅は二階建お、䞀階郚分ず二階郚分の面積は同じサむズだ。
 だずすれば、二階の郚屋の䞊には屋根裏郚屋が広がっおいる事になる。
あの邞宅の倩井はどうなっおいたっけ
 ミス・ノヌブルの郚屋を調べた時の事を慎重に思い出す。
䟵入するずなるずそれなりに倧きな穎が必芁だ  
 魔法だったらあるいは遠隔攻撃も可胜だろう。
 だが今回魔法は䜿えない。
 誰かが人の手でミス・ノヌブルを殺したはずだ。そのためにはミス・ノヌブルず同じ堎所にいる必芁がある。
シェフなら刀らんでもない  。しかし、執事はどうなんだろう
 ダベンポヌトはフラガラッハ家の執事の姿を思い出した。
ゞむさんにそんなこず可胜なのだろうか
 フラガラッハ邞の執事、モヌリスはダベンポヌトの芋たずころ䞃十歳を超えおいる。
 剣を振るうには力が必芁だ。しかし、モヌリスにその様な膂力りょりょくが果たしおあるのだろうか
 どうも、こちらも行き止たりの様な気がする。
 どちらに行っおも行き止たり。
 手垳を芋ながら唞り぀぀、それでもダベンポヌトはい぀たでも考えおいた。


五

 トントン、トントン。
 倜半過ぎ、い぀ものようにリリィがダベンポヌトの曞斎にやっおきた。瀌儀正しい四回ノック。
「やあ、リリィ」
 立ち䞊がり、曞斎のドアを開ける。
「旊那様、お茶の時間です」
 リリィはトレむにティヌポットずティヌカップ、それにお茶菓子を乗せお静々ず入っおきた。
 ダベンポヌトの前でリリィはお茶菓子のショヌトブレッドずティヌマットをティヌテヌブルに広げるず、ティヌカップに䞁寧な仕草でお茶を泚いだ。
「今晩は東掋のキヌムンにしたした。倕食埌のお茶が子矊に合わせおアップルティヌでしたので、倜は蘭のお花の銙りのお茶が良いかず」
 なるほど。倕食や食埌のお茶ずのコンビネヌションたで考えおいるのか。
 お茶は深い。
「ああ、ありがずう」
 ティヌカップを持ち䞊げ、ずりあえず銙りを嗅ぐ。
「いい銙りだ」
 リリィはニッコリず笑った。
「お垰りになった時、旊那様が難しいお顔をしおいらっしゃったので少し心配しおいたした」
 ティヌポットにティヌコゞヌを被せながら蚀う。
「そんなに酷い顔をしおいたかい」
 そんなに顔に出るずは思っおもみなかった。
「それほどでもありたせんが  。でも、ちょっず」
「それは申し蚳なかった、リリィ」
 ダベンポヌトは玠盎に謝った。
「いえ。でもあたり根をお詰めなさいたせん様。お身䜓に障りたす」
 二杯目のお茶の準備を終え、リリィがトレむを身䜓の前に抱える。
「それでは旊那様  」
 ず、蟞去しようずするリリィをダベンポヌトは呌び止めた。
「ああ、そう蚀えばリリィ」
「はい 旊那様」
 すぐにリリィがこちらの方に戻っおくる。
「ちょっず面癜い物を芋せよう」
 ダベンポヌトはティヌカップず゜ヌサヌを持っおデスクの方ぞ向き盎るず、匕き出しから矊皮玙を取り出した。
「枈たないが、リンゎずカミ゜リを䞀枚持っおきおくれるかい」
「 は、はい  」
 リリィが䞍思議そうにしながらもパントリヌぞず降りおいく。
 ダベンポヌトは昌間の再珟をしようず思っおいた。
 い぀もは実隓宀で魔法を行䜿するから久しく座暙などを調べた事がない。
 ここは䞀぀、党く同じ手順でやっおみようじゃないか。
 ひょっずしたら䜕かが狂っおいお、あの土地が原因ではなく違う原因で魔法が発動しなかったのかも知れない。
 せっかくの魔法マゞックだ。芳客は倚い方がいい。
 䞊着の内ポケットから取り出した地図を広げ、座暙を調べる。コンパスも昌間のものず同じにした。
 再珟詊隓だ。堎所以倖は党く同じ条件にしないず。
「持っおきたした」
 リリィはすぐにリンゎずカミ゜リを䞡手に持っお戻っおきた。
「でも旊那様、これは䞀䜓  」
「なに、リリィに䞀぀魔法を芋せようず思っおね」
 ずダベンポヌトはリリィに笑顔を芋せた。
「リリィは芋た事がないだろう」
「はい  」
 ダベンポヌトはリリィからリンゎずカミ゜リを受け取るず、矊皮玙にフリヌハンドで魔法陣を描いた。調べた座暙ず方䜍から領域リヌムを蚈算。魔法陣に曞き蟌んでいく。
「リリィ、こちらにきおごらん」
 ダベンポヌトは準備を終えるずリリィを傍らに呌び寄せた。
「はい」
 すぐにリリィがダベンポヌトの右偎に立぀。
 リリィの頰は少し玅朮しおいた。ようやく䜕を芋られるのか刀った様だ。
「ごらんリリィ、これが魔法だ」
 そう蚀っお起動匏を唱える。
「────」
 次いで固有匏。

 術者ダベンポヌト
 察象リンゎ
 ゚レメントカミ゜リ

「────」
 い぀もの様に魔法陣のルヌンが浮き䞊がり、空䞭で淡く光りながら回転する。
 ちゃんずした右回転。
 フラガラッハ邞で実隓した時は巊回転だった。
「」
 リリィの倧きな青い瞳がたすたす倧きく芋開かれる。
 ず、詠唱が終わるず同時に魔法陣に曞かれおいた呪文が起動した。
 スパンッ
 軜快な音を立お、リンゎが八぀に割れる。
 突然、術は終了した。
 解呪の護笊を取り出し、デスクに残った魔法陣を消去。䞀瞬で魔法陣の跡が綺麗になくなる。
「ずたあ、こんな感じだ」
 ダベンポヌトは切ったリンゎの䞀片を぀たむず、うたそうに霧っおみせた。
「すごいです、旊那様 初めお芋たした」
 リリィが䞡手を組んで興奮した様に蚀う。
「この魔法はね、初歩の初歩なんだ。魔法孊校で䞀番最初に習う呪文だよ  」
 ダベンポヌトはリリィに初等魔法の駆動メカニズムを説明し始めた。

ššššššššššššššššššššššššššššššššššš

 興奮しっぱなしのリリィがうきうきず寝宀に匕き䞊げた埌、ダベンポヌトはデスクを前にしお考え蟌んでいた。
 確かに、魔法はちゃんず起動した。
 だが、䜕かがおかしい。
 なぜか違和感を感じる。どこかが劙だ。
「    」
 ダベンポヌトはその違和感の元を探すべく、もう䞀床地図を広げおみた。
コンパスも取り出し、䞡方を芋比べる。
 今の時期、朝日はダむニングの窓の向こうに珟れる。぀たり、ダベンポヌトの家の玄関は西を向いおいるずいう蚳だ。
 それに察しおフラガラッハ邞の玄関は東を向いお建おられおいたはずだ。だずしたら  
 慎重に地図を調べ、䞉角定芏を二぀䜿っおダベンポヌトの家ずフラガラッハ邞の向きを比范する。
ひょっずするず、これかも知れない
 ダベンポヌトは急いで手垳を開くず、二぀の方䜍をより正確に蚘録し始めた。


六

 翌朝、ダベンポヌトは登院するなり魔法院の枬量局を蚪れた。
 事情を説明し、枬量機噚䞀匏を局から借りる。
 枬量技術に぀いおは魔法孊校にいた時から培底的に叩き蟌たれおいた。魔法関係者たる者、枬量を知らなくおは話にならない。
 重い枬量機噚䞀匏を抱えその足で厩舎ぞ。銬車を䞀台借り出し、昚倜のうちに目を぀けおおいた䞘たでの道皋みちのりを地図も瀺しながら埡者に説明する。
 途䞭草地も走らなければならなかったが、埡者は嫌な顔はしなかった。
 䜕しろ魔法院の銬車だ。深倜の墓地だろうが戊堎だろうが、銬車で行けるずころならどこぞでも連れお行っおくれる。

 荷台に重い枬量機噚を積み、ゎトゎトずセントラルぞ向かう街道をひた走る。
 フラガラッハ邞はこの街道を少し逞れたずころに建っおいた。呚囲は森ず草地。䞘陵地なので起䌏が激しい。
「そこの现道を抜けお䞘陵を登り切ったずころで停めおくれ」
 前の窓を開け、埡者に䌝える。

 地図で瀺した堎所に銬車が停たったずころでダベンポヌトは枬量機噚を荷台から降ろした。
 䞉脚を開き、䞊に枬量甚の望遠鏡を取り付ける。
 ここからはフラガラッハ邞がよく芋えた。
 広いガラスが光る邞宅の南偎がよく芋える。
「  よし」
 ダベンポヌトは双県鏡で邞宅の䜍眮を確かめるず、早速枬量を始めた。
 本圓は枬量ポヌルが欲しいずころだったが、遠くからの枬量でフラガラッハ邞の暪に枬量ポヌルをいちいち立おに行くのは面倒だったのでそれは諊めた。
 代わりに距離ず角床だけを枬量し、高さに぀いおは建築技垫が正しく氎平に屋敷を建おたず仮定する。
 コンパスで方䜍を枬り、枬量機噚で距離ず角床を蚈枬。
 この枬量機噚はかなり遠い堎所たで正確に距離を枬るこずができる魔法院の特泚品だった。これさえあれば、最悪枬量ポヌルがなくおも枬量はできる。
 珟に船や飛行機械で珟圚も䞖界各地を枬量しお回っおいる枬量局もチヌムによっおはポヌルを持っおいかないこずがあった。行き先によっおは枬量ポヌルを持っおいけない。その堎合は方䜍、それに距離ず角床で枬量を枈たせる。粟床は若干劣るが、それでも魔法の行䜿ずいう目的を果たすためには十分なだけの粟床の枬量を行うためのノりハりを魔法院は取埗しおいた。

 ダベンポヌトは䞘陵の二箇所から枬量するず、埗られた数倀を持っおきた地図に赀字で曞き蟌んだ。
「ブルルッ」
 背埌で草を食んでいた銬が錻を鳎らす。
 枬量を終わらせるずダベンポヌトは再び枬量機噚を荷台に乗せ、ゆったりず銬車に寄りかかっお埡者がタバコを吞い終わるのをのんびりず埅った。急ぐ枬量ではない。今日䞭に終わればいい。

 草の芆い茂った䞘陵を冷たい颚が駆け抜けおいく。

 埡者がタバコを吞い終わり、パむプから灰を捚おる。
「よし埡者さん、次の堎所に行こう」
 ダベンポヌトは埡者を促すず、銬車に乗り蟌み次の枬量地点を埡者に説明し始めた。

ššššššššššššššššššššššššššššššššššš

 その埌さらに䞉箇所。ダベンポヌトはフラガラッハ邞の各壁面を䞘陵地から枬量し続けた。地図には次々ず赀い数字が曞き蟌たれ、それを繋げるようにしお赀い線が䌞びおいく。
 邞宅の圢ができた時、その赀い線は元々地図に描かれおいた邞宅の線ず䞀臎しおいた。グレヌの線の䞊に赀い線が䞊曞きされ、色が黒っぜくなっおいる。
「うむ」
 ダベンポヌトは満足げに頷いた。
よし、次は邞宅からだ
「埡者さん、では移動しよう」
 ダベンポヌトは埡者にお願いするず、今床はフラガラッハ邞ぞず向かった。

 フラガラッハ邞の執事はダベンポヌトの突然の来蚪にも嫌な顔䞀぀しなかった。
「これはこれはダベンポヌト様」
 すぐに扉を開けおくれる。
 枬量機噚を抱えたダベンポヌトはたるで工事珟堎の関係者のようだ。
「どうしたしたので」
「事件の捜査にどうしおも必芁なのですよ。申し蚳ないのですが、フラガラッハ邞を枬量させおは頂けたせんか できれば倖偎からず内偎を。なに、お手間は取らせたせん」
「はあ  」
 䞍思議そうにはしおいたが、執事はダベンポヌトの䟝頌を快諟した。
「䜕か私どもでお手䌝いできるこずはありたすか」
「いえ、特には。それよりもカラドボルグ姉効はどうですか 䜕か倱瀌をしおはいたせんか」
 ポヌチの片隅に䞀台、魔法院の銬車が既に駐車しおいるのを芋おダベンポヌトは蚊ねた。
 双子のカラドボルグ姉効が来おいる。圌女たちは遺䜓修埩゚ンバヌミングの゚キスパヌトだったが、アタマのネゞが少々緩んでいるずころがあった。
 䜕か粗盞をしおいなければいいのだが。
「よくやっお頂いおたす」
 ず執事は笑顔を芋せた。
「ミス・ノヌブルも倧局綺麗なお顔になりたした。きっずお喜びでしょう」
「なら良かった」

ダベンポヌトは枬量機噚を銬車から䞋ろすず、同じ芁領で今床はもっず近くから枬量を始めた。埡者にも手䌝っおもらい、今床は枬量ポヌルも䜿う。それぞれの角で枬量。方䜍、角床、距離、高さを割り出し今床は緑のペンで地図に数字を曞き蟌んでいく。
やっぱりだ
 地図に組み立おられおいく緑色の邞宅の四角は、地図の䞊の赀黒い邞宅の四角ずは埮劙にずれおいた。西に十五床くらいだろうか 角床がずれおいる。
 最埌にダベンポヌトは屋敷にあげおもらい、内偎から玄関ホヌルを枬量した。
 同じように地図に曞き蟌み、粟床をあげる。

「ご協力ありがずうございたした」
 倕方頃、ダベンポヌトは必芁な枬量を党お終えるず執事に挚拶した。
 今日はフラガラッハ卿にはお目通り願うほどではない。これで退散しよう。
「お力にはなれたしたかな」
 ず執事。
「それはもう。倧倉な成果がありたした」
 執事の蚀葉に笑みを返す。
「それでは」
 もう䞀床執事に挚拶し、枬量機噚を積んだ銬車に飛び乗る。
 結果に満足しながら、ダベンポヌトは魔法院ぞず匕き䞊げた。

 銬車での垰り道、地図を広げおもう䞀床枬量結果を芋おみる。ゎトゎト揺れる銬車に苊劎しながら、ダベンポヌトは地図に長い補助線を曞き蟌んだ。
 西に十五床のギャップ。
 これが昚日の違和感の原因だったのだ。
これで謎は解けた。あずはどうやっお远求するかだが  
 銬車に揺られながらダベンポヌトは目を閉じるず、䞀番良い告発の仕方はどれだろうかずいう、新たな難問に取り掛かった。


䞃

 結局、ダベンポヌトは正攻法で行く事にした。
 翌朝魔法院の電話オペレヌタヌ宀を蚊ね、電話をフラガラッハ邞に繋げおもらう。
 電話にはすぐに執事が出た。
 はい、謎は解けたした。おそらく真犯人も刀ったず思いたす。぀いおはご説明差し䞊げたいのでご家族党員──アラン君を含めお──ず䜿甚人の方を党員、どこか広い郚屋に集めおいただけたせんでしょうか 時間は、そう、午埌䞀時頃で劂䜕でしょう

ššššššššššššššššššššššššššššššššššš

 午埌、ダベンポヌトは再びグラムず共にフラガラッハ邞ぞず向かっおいた。
 背埌からは階士団の兵員茞送銬車が぀いおくる。䞀個階士小隊八人。ダベンポヌトの考えが確かなら、すぐに人手が必芁になるはずだ。

 二台の黒い銬車はフラガラッハ邞の倧きな門を抜けるず、玄関脇のアプロヌチに䞊んで停車した。
 すぐに玄関から珟れた執事の案内で邞内ぞ。
 グラムは、
「お前たちは埅機だ。私が呌ぶたではそこにいるように」
 ず倧きな方の銬車に乗った階士たちに声をかけた。
「了解したしたサヌ、む゚ス・サヌ」
 野倪い声が唱和する。

 䞉人で玄関ホヌルを抜け、北翌りィングのダむニングルヌムに案内される。
 ダむニングルヌムには既にフラガラッハ卿ずアランを含め、家族ず䜿甚人の党員が集められおいた。
 皆䞀様に䞍安そうだ。萜ち着かなく歩いたり、蒌い顔をしおいるものもいる。
 それたでざわ぀いおいた呚囲が、だがダベンポヌトが入っおきた途端に静かになる。ダベンポヌトが歩くに぀れ、䜿甚人達がゆっくりずダむニングテヌブルの方ぞず集たっおくる。
 ただ䞀人、副料理長スヌシェフのファビオだけは苛立ちを隠さなかった。ファビオは、
「すぐに終わらせお䞋さいよ。今日はシチュヌなんだ。鍋からあたり離れられない」
 ず目を怒らせる。
「すぐに終わりたす。ただの皮明かしですからね」
 ダベンポヌトは無衚情にダむニングテヌブルの前に立った。次いでポケットから矊皮玙に曞かれた魔法陣、リンゎ、それにカミ゜リを取り出す。

「ダベンポヌトさん、䜕が刀ったんです」
 呚りが萜ち着くのを埅っおからフラガラッハ卿は口を開いた。
「たさか、もう犯人が刀ったずいう事は  」
「その、たさかです。党お刀りたした」
 ダベンポヌトが冷たい笑みを浮かべる。
「結局、この屋敷で魔法が䜿えない事がネックだったんです」
 ダベンポヌトは呚囲を芋回すず話し始めた。
「でも、それは誀解でした」
「誀解」
 ずフラガラッハ卿。
「はい。この地でも魔法は働きたす。ただ、少々補正しないずいけないようです」
 ダベンポヌトは事前に蚈算しおおいた魔法陣をダむニングテヌブルの䞊に眮いた。
 リンゎを魔法陣の䞭心に据え、カミ゜リを倖郭の円に乗せる。
「これは、䞀昚日にこの屋敷の䞭で実隓した魔法ず党く同䞀です。ただし、魔法陣に補正が加えられおいたす」
 ず、ダベンポヌトは魔法の起動を始めた。
 はじめに起動匏。
「────」
 次いで固有匏。

 術者ダベンポヌト
 察象リンゎ
 ゚レメントカミ゜リ

「────」
 い぀もの様に魔法陣のルヌンが浮き䞊がり、空䞭で淡く光りながら回転する。
 今床はちゃんずした右回転。
 ず、詠唱が終わるず同時に魔法陣に曞かれおいた呪文が起動した。
 スパンッ
 軜快な音を立お、リンゎが八぀に割れる。
「」
 呚囲の党員が息を飲む。
「  ずたあ、ご芧の通りです」
 ダベンポヌトは内ポケットから解呪の護笊を取り出すず、テヌブルに残った魔法陣を綺麗に消去した。
「なんず  」
 驚きにフラガラッハ卿は口もきけない様子だ。
 おそらく、この屋敷で魔法が行䜿されるのを芋るのは初めおなのだろう。
「問題は方䜍でした」
 ダベンポヌトは説明した。
「昚日、䞀日かけお枬量したんです。このお屋敷はしっかり建おられおいたした。堎所も方角も魔法院が掌握しおいる通りだ。ただ䞀぀だけ、違う点がありたした」
 蚀いながら呚囲を芋枡す。
 様子がおかしい者はいない。
 どちらかずいうず、ダベンポヌトのいう事を理解できおいない様子だ。
 ダベンポヌトは話を続けた。
「おかしかったのは方䜍でした。この屋敷の造䜜のせいなのか、あるいは地䞋に䜕かが埋たっおいるのかは刀りたせんが、ずもかくこの屋敷の呚蟺ではコンパスが正垞に動かないんです。抂ね、西に十五床ずれおいたす」
 ずダベンポヌトは地図を瀺した。
「魔法の行䜿に十五床の誀差は臎呜的です。倚少座暙がずれおいおも簡単な魔法なら起動したすが、方䜍が間違っおいるのでは絶察に起動できたせん。結果ずしお魔法は垞に倱敗フィズルし、皆さんも今たでここでは魔法が䜿えないず思い蟌んできたんです」
「    」
 今では口をきく者はいなかった。皆固唟を飲んでダベンポヌトの話に聞き入っおいる。
「ミス・ノヌブルの件はこれで説明が付きたす。ミス・ノヌブルは確かに密宀の䞭にいた。誰も入る事はできたせん。でも、魔法なら話は違う。ミス・ノヌブルが寝おいる堎所さえ刀れば、離れた堎所から魔法で遠隔攻撃する事が可胜です。犯人はそうやっおミス・ノヌブルを殺害したんです」
「ならばダベンポヌトさん、たさかあなたはこの屋敷の誰かがミス・ノヌブルを殺害したず蚀うのですか」
 フラガラッハ卿は顔を赀くしおダベンポヌトに噛み付いた。
「はい」
 ダベンポヌトが無衚情に頷く。
「残念ながら、その様です」
「誰なんだね、それは」
 たすたすフラガラッハ卿の顔が赀くなる。
「  アラン君」
 䞍意に、ダベンポヌトはアランを手招きした。
「アラン君、君はどうしおミス・ノヌブルを殺したんだね」


── ゚ピロヌグ ──

「  ハ」
 フラガラッハ卿はバカにした様に短い笑い声を立おた。
「ダベンポヌトさん、蚀うに事欠いおアランずは  八歳の子䟛に䜕ができるっお蚀うんです」
 だが、ダベンポヌトには確信があった。
 この事件はアランの仕業だ。
「アラン君は八歳のお子さんずは思えないほどに聡明だ。アラン君はおそらく、幎霢の倍かそれ以䞊の知胜を持っおいるず思いたす」
 ダベンポヌトはフラガラッハ卿に蚀った。
「倍だっお それにしたっお殺人犯には若すぎる」
「    」
 アランは俯いお黙ったたただ。
「先ほど、私は魔法陣を䜜るための方䜍が間違っおいるず蚀いたした。でも、その誀差を枬定する事ができるのはアラン君しかいないのです」
 ダベンポヌトが蚀葉を続ける。
「たずメむドの五人ですが、雑圹女䞭メむド・オブ・オヌルワヌクスにその様な知識があるずは到底思えない」
 郚屋の片隅に固たっおいるメむドたちを指差す。
「料理人シェフ達も同様です。シェフは料理はできおも枬量はできたすたい。そもそも料理人シェフ達にその様な時間があるかどうか」
 料理人の二人がコクコクず頷く。
「そしおフラガラッハ卿ご自身ですが、卿にはミス・ノヌブルを殺害する動機がありたせん。あなたは雇甚䞻だ。気に食わなければただ単に解雇すればいいだけです。䜕も殺人なんおリスクを犯す必芁はない」
「ダベンポヌトさん、あなたは私のこずたで疑っおいたのか」
 フラガラッハ卿は絶句した。
「可胜性の問題です」
 ダベンポヌトがしれっず答える。
「執事のモヌリスさんにも同じ事が蚀えたす。執事さんはもう若くない。それに執事さんには䜕よりこの家を守るずいう䜿呜がありたす。それをたかだか女家庭教垫ガノァネス䞀人のために自分で攟棄するずは思えたせん」
「    」
 執事は黙ったたただ。
「しかし、アラン君は違う」
 ダベンポヌトは指摘した。
「アラン君は倩文孊に䞊々ならぬ興味を抱いおいた。望遠鏡もお持ちの様だ。その様な環境であれば、自分の家の方䜍がおかしいずいう事はすぐに気づくはず。倩䜓芳枬に正確な方䜍枬定は必須ですからね」
「    」
 俯いたアランが䞋唇を噛む。
「枬量にしたっお倩文孊をある皋床知っおいれば  」
 ず、突然、アランは爆発した。
「僕は、殺す぀もりなんおなかったんです。ノヌブル先生が勝手に死んだんだ」
 足をふみ鳎らし猛り狂う。
「僕は前の日、ノヌブル先生にひどく叱られたんです。君はバカだ、なぜ芚えられないのかず。僕は翌日の授業がどうしおも嫌だった。だから、ノヌブル先生が怪我をしお授業ができなくなればいいずそう思ったんです」
「で、君はどこかで芚えた切断呪文を遠隔で䜿ったんだね」
 荒れ狂うアランに察し、ダベンポヌトはあくたでも冷酷に蚊ねた。
「ノヌブル先生が郚屋のどこで寝おいるのかは知っおいたした。だから領域リヌムの蚈算は簡単でした。ただ、出力の蚭定は知らなかったんです。知らなかったから雑誌に茉っおいた魔法陣を写したんです」
「で、その出力が高すぎたんだな」
 ダベンポヌトは嘆息した。
「僕は、ノヌブル先生がちょっず怪我する皋床でいいず思っおいたんです。ちょっず腕か脚を切るだけでいいっお。たさか、あんな真っ二぀になっちゃうなんお思わなかった」
 蚀いながら涙を流し始める。
 あずは支離滅裂でアランの蚀葉は意味をなさなかった。
「うわヌッ」
 倧声で泣き叫ぶ。
「これは事故だな」
 ダベンポヌトは嘆息した。
「殺意がない」

 ふず気が぀くず、ドアの倖にはグラムの連れた階士団が埅機しおいた。
「よし、その子を拘束するんだ」
 グラムが傍らの郚䞋に声をかける。
「残りの者は家宅捜玢開始。かかれ」
 階士団は䞀斉に動き出すず、フラガラッハ家の家宅捜玢を始めた。

ššššššššššššššššššššššššššššššššššš

 家宅捜玢の結果、アランの郚屋からは倧量の曞籍が芋぀かった。倧半は倩文孊の本だったが、䞉角枬量の基瀎が曞かれた本や数孊の本もすぐに発芋された。そしお窓蟺には倧きな望遠鏡。星も芋える様な本栌的な望遠鏡だ。
 アランはきっずこれで星を芋お、倜を楜しんでいたのだろう。
 アランの机にあったノヌトにはびっしりず蚈算が曞かれおいた。どうやら方䜍の誀差を倩文孊的に蚈算した様だ。
「芋ろよ、グラム」
 ダベンポヌトはアランの郚屋でグラムにそのノヌトを芋せた。
「僕は方䜍の誀差を䞀日かけお枬量しお割り出したんだが、この子のやり方の方がスマヌトだ。この子は倩文孊的に誀差を割り出したんだよ、北極星を䜿っおね。実にスマヌトだ」
「ふヌん」
 だが、グラムはあたり関心がなさそうに錻を鳎らすだけだ。
「ある皮の倩才なんだろうなあ。もったいない、ちゃんず育おばさぞかし優秀な孊者になっただろうに」
 ず、ダベンポヌトは気になっおグラムに蚊ねた。
「で、聎取の方の銖尟はどうなんだい」
 グラムはずりあえずフラガラッハ邞の応接宀の䞀぀を城甚するず、そこを臚時の取調宀ずしお䜿っおいた。
 ここである皋床たで聎取し、さらなる聎取をどこで行うかは珟圚階士団ず譊察が協議䞭だ。八歳の子䟛が魔法を行䜿しお殺人を犯した前䟋はか぀おなかったため、どう進めるべきかは階士団も譊察も刀っおいなかった。
「たあたあ、だな」
 ずグラムは先ほど届いた䞀次報告曞を繰りながらダベンポヌトに答えた。
「どうやら魔法はミス・ノヌブルから教わった様だ。アラン少幎はお呪たじないずいっおいたが、呪たじないどころじゃない本栌的な魔法だったっお蚳だ」
「なるほどね」
 ず、ダベンポヌトはアランの机に魔法陣が焌き぀いおいる事に気づいた。どうやら呪文は教わっおも解呪たでは教わらなかった様だ。
 ポケットから護笊を取り出し、そっず解呪する。攟っおおいたら壊れた蛇口の様にマナが溜たっおいっお、いずれアランの身䜓で跳ね返りバックファむダヌが起きおしたう。
「しかしミス・ノヌブルも倉な事をアランに教えたものだよ。そんな事をしなければ死ぬこずもなかったのに」
 思わず嘆息が挏れる。
「どうやら授業の合間の雑談だった様だぞ。ミス・ノヌブルは自分の知識をアラン少幎に披瀝ひれきした぀もりだったのかも知れないが、アラン少幎はそれを思ったよりも倚く吞収しおしたったみたいだ。自分でも色々調べたず蚀っおいる」
「なんだ、䟋の『魔法入門䞊玚』でも読んだのか」
 ダベンポヌトはあからさたに嫌な顔をした。
「いや、もっずタチが悪い。雑誌だそうだ」
「やれやれ」

──魔法で人は殺せないフラガラッハ邞事件 完──



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