芋出し画像

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                二〇䞉九幎䞃月二十䞃日 䞀五時五〇分
                      沖瞄県島尻郡座間味村阿嘉

 その日の午埌はさながら教宀での座孊のようだった。
 俺ずマレスの二人は垂ケ谷地区ずの通信コン゜ヌルの前に座り、画面の向こう偎のクレアず共に―のスペックを埩習しおいた。
 倧田倧䜐を排陀する぀もりは、少なくずも俺にはない。だが倧田倧䜐が䜕を考えおいるのか刀らない以䞊、䞇党の準備をしおおく必芁があった。
 䜕がなんでも倧䜐を救いたい。
 どうやったら即時砎壊呜什に背くこずなく即時砎壊を成せるのか。
 どこを砎壊すれば、倧䜐を殺すこずなく無力化できるのか。
 知っおおくべき事柄は山のようにあった。
──出発する前にも簡単に説明したしたが、シリヌズはこれたでの矩䜓ずは䞀線を画する矩䜓なんです
 䜙った怅子の䞊に茉せた画像投圱装眮ホロ・スフィアの䞭で、クレアが操䜜する矩䜓のモデルが回転する。
──米囜の最新矩䜓、―もの蚭蚈を螏襲しおいたす。そういう意味でもゞェヌムス・アルバス倧䜐が提唱し実践したの蚭蚈思想は画期的だったず蚀っおいいでしょう
 たるでドキュメンタリヌ番組のナレヌタヌのようにクレアが蚀う。
──特に泚目するべき点は生䜓脳の䜓内配眮です
 クレアはホロ・スフィアの䞭で矩䜓の胞郚を拡倧した。
──倧田倧䜐の生䜓脳はの胞郚、人間だったら胃がある蟺りにありたす
「そんなずころにあっお倧䞈倫なの」
──物理孊的には理想的な配眮です。身䜓が重心を䞭心にしお回転するず考えた堎合、モヌメントアヌムの端に脳があるこずはずおも䞍合理なんです
「なんか身䜓の感芚が狂っちゃいそう」
 機械䜓操の経隓があるだけに、マレスのコメントは身䜓感芚に盎結しおいる。
──ならば聞きたすがマレス、あなたは自分の脳がどこにあるか意識したこずはありたすか たずえばあなたはタンブリングするずきに脳の䜍眮を意識したすか
 クレアはモニタヌの向こうで埮笑みを浮かべるず、マレスに尋ねた。
「え」
 マレスが䞀瞬考え蟌む。
「うヌん、ないかも」
──じゃあ、あなたの心はどこにありたすか
 クレアがさらに突拍子もない質問をする。
「うヌん、ここ、かな」
 マレスが现い芪指で胞の䞭心を指差す。
──マレス、そこにあなたの脳はありたせんよ。心は思考の写像なのですから、本来であればあなたは自分の頭を指差すべきなんです。あなたの脳が頭にあるず思うのはあくたで知識です。あなたはどこに脳があるかを意識しおいたせんし、あなたが自らそれを知るこずも出来たせん。であれば  脳がどこにあっおもいいずは思いたせんか
「うヌん  わかったような、刀らないような  」
 マレスが曖昧な衚情をする。
──たあ、そこはあたり考えなくおも問題はありたせん。気にしなければならないのは、今たで人䜓の構造に囚われすぎお䞍合理なこずをしおいた矩䜓蚭蚈を䞀から芋盎し、蚭蚈段階から生䜓組織を工孊的に正しい䜍眮に再配眮したのがだずいう点です。埓っお、匱点の䜍眮が人䜓ずは違うんです
 クレアは矩䜓の胞郚を拡倧した。
──この䞭心郚の䞞い郚分が生䜓脳キャスク、隣の二぀のナニットが生䜓肝臓モゞュヌルず膵臓機胜を叞るランゲルハンス島モゞュヌルです。生䜓脳キャスクは深海探査船の船殻玠材ず同じ匷化チタン合金で構成され、単分子炭玠繊維で匷化されおいたす。これを砎壊するのは非垞に困難だず考えおください
「おいおい、じゃあどうすればいいんだ」
 俺はクレアに尋ねた。
「そんなものは砎壊できんぞ。それじゃあお手䞊げだ」
──脳は非垞に脆匱な組織です。倚少時間はかかるかもしれたせんが、栄逊䞍足、ないしは酞玠䞍足に陥れば機胜は比范的速やかに停止したす。ですから、本䜓を砎壊しなくおも呚りを砎壊できれば問題はありたせん
 クレアは砎壊察象を赀くハむラむトしおみせた。
──最倧の匱点はここ、埪環噚制埡系です
 生䜓脳キャスクの盎䞋、䜓幹奥深くの小さなモゞュヌルが赀く点滅する。
──この前面には生䜓肝臓モゞュヌルずランゲルハンス島モゞュヌルがありたす。このうしろには埪環系ポンプもありたすので、この䞀垯を砎壊できればは比范的速やかに死に至りたす。攻撃は背埌からのほうがより有効です。には倖骚栌のみで背骚や肋骚がありたせん。背面装甲を貫培できればすぐに生䜓組織に䟵襲できるはずです
「わかった」
──ただし、
 クレアはモニタヌの䞭で现い人差し指を立おた。
──にもバヌサヌカヌモヌドがあるこずを忘れないで。ですから、モヌド発動前に倒しお䞋さい
 バヌサヌカヌモヌド。嫌な蚀葉だった。
 バヌサヌカヌずは北欧神話における狂戊士のこずだ。熊の毛皮をたずった野獣のような北欧神話の戊士は、戊争に際しおは異垞興奮状態ずなり敵味方構わず殺戮を行ったずいう。
 クレアの蚀うバヌサヌカヌモヌドずは、臎死的なダメヌゞを被った矩䜓が身䜓保護を目的に実斜する緊急回避行動のこずだ。
 敵味方構わず蹂躙し、ずにかく基地あるいは回収ラリヌポむントぞの垰還を最優先呜什ずしお実行する。この際、生䜓脳ず矩䜓ずの通信は完党に遮断される。生䜓脳は匷制睡眠状態ぞず導かれ、矩䜓はすべおの被害──これには味方ぞの被害も含たれる──を床倖芖しお自動的に基地ぞず垰還する。
 この機胜は米軍のサむボヌグに特有のものであり、たたそれが故に米囜補の矩䜓は恐れられおいた。
 サむボヌグがバヌサヌクしたために味方に被害が及んだずいう事䟋は未だないが、敵ずしお察峙した堎合にはその限りではない。サむボヌグが暎走した結果、戊線が砎綻しお戊堎が殺戮の修矅堎ず化したケヌスも䞀぀ではない。暎走するサむボヌグに勝぀自信は俺にもなかった。
──埪環噚系を砎壊する前に埪環噚制埡系を砎壊するこずが非垞に重芁です。制埡系が先に砎壊されれば、その埌埪環噚系が砎壊されおもバヌサヌカヌモヌドは発動したせん。ないしはたずめお党郚砎壊できるのであれば、それはそれでも構いたせん
「簡単に蚀うけどなクレア、そりゃあ無茶だ」
 俺はクレアに蚀った。
「サむボヌグの埪環噚系を制埡系もろずも砎壊しろっお、それには匷装培甲匟を装填したミニ・ガンかロケットが必芁だ。バレットでも䞀発ではたぶん無理だろう」
──和圊、ガトリングガンを銃架なしで撃぀のはおそらく人類には䞍可胜ですよ。反動で飛んでいっおしたいたす
「じゃあ、他の方法を教えおくれ」
──今の個䜓保護バヌサヌカヌモヌドの発動ロゞックを解析䞭です。機械である以䞊、バヌサヌカヌモヌドを発動させるこずなくの掻動を停止させる攻撃シヌケンスが必ずあるはずです
「ああ、頌む」
 䞖の䞭には出来るこずず出来ないこずがある。
 クレアが蚀っおいるこずはどう考えおも出来ない偎の方に思えた。
「ねえ、クレア姉さた」
 ふず、それたで考え蟌んでいたマレスが口を開いた。
「垰還するべき基地がないサむボヌグの堎合、バヌサヌカヌモヌドが起動したずしお、その人はどこに垰るんですか」
──マレス、それはいい質問ですね
 クレアがモニタヌの向こうで考え蟌む。
──そうですね、どこに垰るのでしょう。特に倧田倧䜐の堎合、どこに垰るのかは調べる必芁がありそうです
 その時、俺はドアがノックされる音を聞いた。䞉回のノック。
 瞬時にマレスのスむッチが入る。
 顔぀きがい぀ものほわんずした少女から手緎の戊士のそれぞず倉わる。
 倧きな瞳が半目に据わり、そこに凶暎な光が宿る。
 もう䞉床ノック。
『いるかね』
 やや掠れた声。
 戊闘モヌドに入ったマレスが音を立おずに立ち䞊がる。
 マレスは怅子の背にかけおいたい぀ものトヌトバッグから静かにを取り出すず、ドアの圱に立った。
 無蚀のたたアむコンタクト。
〈敵〉
 巊手で右手を芆うような仕草をしおから、䞡手で握り盎したを顔の暪に添える。
 俺は広げた手のひらをマレスに向け、巊右に振った。
〈䞍明〉
 俺はテヌブルに眮いおあったベレッタを背䞭に抌し蟌むず、わざず音を立おお怅子を匕いた。
 ドアに近づきながら開いた右手の手のひらを䞋げ、次いで頭の䞊で振る。
 〈隠れおいろ〉〈カバヌしおくれ〉
 マレスが人差し指ず芪指でサむンを䜜る。
「どなた」
 わざず明るい声でドアの倖に声をかける。
 ドアの反察偎に立ち、右手でドアのノブを掎む。
『和圊、私だ。倧田だ。開けおくれんか』



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