腸内細菌が産生する物質が感情をコントロールする?
皆さんこんにちは。生命科学研究者のTatsuyaです。
今回は腸内で産生された物質がどうやって脳の活動と行動に影響するのか、新たな論文が出ていたので、ご紹介します。
Nature 2022年2月に掲載された論文で"A gut-derived metabolite alters brain activity and anxiety behaviour in mice"というカリフォルニア工科大学の研究グループからの報告です。
概要
腸内細菌叢がマウスの行動や脳の発達に影響を与える事は知られています。これまで筆者らは、自閉症の患者の血中や、自閉症モデルマウスのには4-ethylphenyl sulfate (4EPS)という腸内細菌によって産生される物質が増加してることを報告してきましたが、そのメカニズムはわかっていませんでした。この論文では
1、腸内細菌が4EPSを産生する酵素と経路を発見し、4EPS産生菌を作成した。
2、4EPS産生菌を無菌マウスに移植したところ、非産生菌を移植したマウスに比べて脳の神経活動に変化が見られた。
3、その原因としてoligodendrocyteという神経細胞の一種の細胞分化を抑制し、神経伝達に必要な髄鞘の形成を阻害した結果、脳の血流に変化が起き、不安時のような行動をとるようになった。
以上の事を証明しました。
筆者らは4EPが腸管内で産生されると、いくつかの感情に関わりある行動に変化が見られるメカニズムの一端が解明された。今後は4EPSが細胞分化に影響を与える分子的メカニズムや、今回観察された多くの脳血流の変化のうち、決定的なシグナルを解明していくとしています。
今回のポイント
今回は脳の感情に関わる機能と、腸内細菌の産生する物質についての研究でしたが、主に2つの重要な検証がありました。
細菌の遺伝子組み換え
これまで自閉症患者の血中に4EPが多いことを含め4EPやその類似物質が行動様式に影響を及ぼすことは、これまでいくつか報告されてきました。ただ、4EPの産生には多様な菌が関わっているため、証明は困難でした。
そこで筆者らは、チロシンから4EPまでに必要な、いくつかの酵素を全て、もしくは一部をもつ菌を作ることで、この問題を解決しました。
これによって初めて腸管内で細菌によって産生された物質が実際に脳機能に影響を及ぼすことを証明できたんですね。
この方法は、細菌叢の機能を研究する際に、単一の菌が原因でないことが多い中で、重要な証明方法になるかもしれません。
脳の活動の検出
さらに今回は脳の活動の検出も高精度で行われています。fUSiという脳血流を超音波を用いて観察し、脳全体の血流量の変化を記録する方法で生きたままマウスの脳の活動を知る方法と、古くからある糖分の代謝量で活動を確認する方法と照らし合わせ、血流量と代謝の2種類のデータを相互補完しています。
これにより今後はマウスを生きたまま、脳の領域ごとに活性化部位を観察できるようになりますので、有効な検査方法と言えるでしょう。
それでは今回はここまで。
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