能「皇帝」に思うこと その9
フランスでの公演
2019年「木を生きる」フランス公演がレンヌのパイエット劇場と、パリの日本文化会館で上演された。フランスにはいろんな思い出がある。特に飛行機には苦い思い出もある。それはまたいずれお話しする機会もあるかもしれない。
生まれて初めて同じ内容の演劇作品を数日間、時には一日に複数回上演するという経験をした。一期一会をコンセプトにする能楽ではまずあり得ない事だった。普段は稽古も基本一人でやるし、全員で合わせるリハーサル(能では申し合わせという)は基本一度切りだが、この作品では何度も何度も本番と同じ事をやりながら作っていった。
一期一会に慣れているので複数回やるのが不安だとこぼした時に、パイエット劇場の食堂のマダムから「昨日と同じ人間はこの地球上に誰一人いないのよ」と言われたのは忘れ難い思い出だ。
パリの日本文化会館は父の公演で初めて海外に行った場所だ。まさか自分の公演で12年後に同じ舞台に立つ事になるとは夢にも思わなかった。人生は本当に不思議な事が起こる。この事は闘病中の父にも伝える事ができた。
上の写真は能面に光を当てて"表情を変えて見せている"シーンだ。もしかしたら能面を見た事がない人には違和感を感じるかもしれない。日本語で「能面の様な顔」というのは無表情を表す言葉だからだ。しかし本物の能面を能楽師が操るのを見たらきっとこのイメージが吹っ飛ぶ事だろう。
蝋燭の灯りと能面の表情
このシーンは2018年にヴィラ九条山においてシモンとバンジャマンに能面の表情を変えて見せた体験から作られたシーンである。バンジャマンはバロック演劇の演出で蝋燭の灯りを使ったパフォーマンスをしている。その話の流れから能面が蝋燭の灯りでどう見えるのかやってみよう、という事で試してみた。
ところが蝋燭の灯りに照らされた能面は、私が思ってもみない表情を見せたのだ。
つづく
第八回竜成の会「皇帝」ー流行病と蝋燭ー
令和5年5月28日(日)14時開演
絶賛発売中!
チケットはこちら
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