#04 初夏の広島に春の三ツ沢を想う
Jリーグのシーズンとは長いもので例年2月に始まり12月に終える。そして、シーズン序盤は、リーグ戦だけでなく、リーグカップのグループステージや天皇杯での下部リーグのチームとの対戦が行われる。シーズン序盤のカップ戦が行われる水曜夜の三ツ沢には、まだ残る肌寒さとともに独特な雰囲気があると私は感じている。平日夜に三ツ沢に集う(いい意味で)フリークすぎるサポーターとリーグ戦での出場機会の限られる選手たちが奏でる化学反応は、とても魅力的だ。そんなシーズン序盤のミッドウィークの三ツ沢でのカップ戦が私は好きだ。
さて、横浜F・マリノスはシーズン後半戦のスタートにあたる明治安田生命J1リーグ第18節で難敵サンフレッチェ広島とのアウェーゲームでウノゼロの勝利を掴んだ。
難しいアウェー広島での勝ち点3は、単に難しい広島アウェーということだけでなく、長いシーズンを考えればティッピングポイントになっていくかもしれないと感じた。
永戸の出場停止による小池裕太の先発、右CBでの上島の起用、マルコスの不在の中で植中のメンバー入り、などメンバー発表から期待と不安が入り混じる中で始まったゲームだった。
今シーズンのマリノスは、昨年のMVPと守護神が移籍し、攻守ともに再構築を図りながらのシーズン前半であった。その中で苦戦することの多かったリーグ戦だけでなく、カップ戦でも勝ちながら収穫と課題を得て進んできたように感じている。それはもちろんチームだけでなく、普段リーグ戦での出場機会の少ない選手個々もそうだったのだろう。そして、このリーグでの広島戦でチャンスを掴んだメンバーにとっては、自らの価値を示す(もしかしたら次はないかもしれない)時間だったのだろう.
右CBの上島はカップ戦でも明確に高いクオリティを示していたから、早くリーグ戦でもCBで見たいなと思っていた。そして、期待通りのプレーを示したと思う。個人的には上島の立ち姿勢がとにかく好きだ。
植中はロペスとは全く違う持ち味ながら、後半戦の過密日程の中でロペスへの依存度を下げることができる可能性を示してくれた。シーズン前半戦でとにかくタスクの多かったロペスを1点差であったにも関わらず後半早々に変えることができたのは、植中がカップ戦で確かなプレーを示したことの帰結であろう。そして、この交代はシーズン終盤に向けて大きなインパクトを残す事象になっていくだろう。
そして、何よりこの試合は、小池裕太のものだった。昨シーズン同時期に加入した永戸がリーグ内でも高い評価を得る中、なかなかマリノスのSBの役割に馴染めていない感じがあった小池裕太だが、実際には、カップ戦において少しずつだがフィット感が増しているように私は感じていた。そんな中で、迎えたリーグ戦での出場機会。おそらく彼にとって全身全霊を賭けた試合だったのだろう。魂が震えるプレーだった。脚が攣っても最後まで諦めない守備、繰り返す上下動、スムーズなビルドアップ、相手の最終ラインを破るスルーパス。言葉で形容してしまうのが陳腐なほどの大仕事を彼はやってのけた。
日々の練習から、(キャリアを決定づける可能性すらある)限られた出場機会に向けて積み上げを怠らない選手たち。彼らがチームを助けたシーズン半ばのアウェイ広島戦はシーズン終盤に向けて複数タイトルへの期待を抱かせるには十分な結果と内容だっただろう。そして、私は、彼らとともに戦ったまだ肌寒さの残るシーズン序盤の三ツ沢を想うのであった。