立岡靴工房の肩書きを変更する話
オーダーメイド靴を扱うまでの経緯
もともとは既製品の小売店だった
立岡靴工房はオーダーメイド靴の専門店として2016年に創業しました。もともとは靴のタツオカという母体があって、事業承継を検討する段階になって新規事業として2014年からオーダーメイド事業をスタートしたのがきっかけです。
当時は履きやすくてカッコいい靴の(良く言うと)セレクトショップとして既製品を仕入れて販売するスタイルを貫いてきました。多くの小売店がネットショップに出店したり、少しずつ業態を変えていく中で、他社との差別化をするために探してきた新商品がオーダーメイド靴だったわけです。
単に靴を足に合わせるだけではない、手染めで色を付けるパティーヌという技法を使ったオーダーメイド靴を展示会で見つけた時に「これしかない」と商談をさせていただき、取扱の契約をしました。
オーダーメイドにもいろいろある
契約をした職人さんのスタイルは、完全にフルオーダーの靴をつくる、というよりはイージーオーダー、パターンオーダーに近いシステムの靴づくりです。なんでも好きなデザインに対応する、というよりは決まったパターンの中で、足に合わせたサイズの靴をつくるタイプの職人さんでした。
フルオーダーはデザインの全てをゼロからつくるため、非常にコストも時間もかかります。ある程度パターン化することで、フルオーダーに比べると低コスト、短納期で足にフィットする靴をつくれることも魅力でした。
職人さんから足の採寸の研修を受けて、発注のためのWebフォーマットも使い方を教えてもらって販売をスタートしたのが2014年の9月。地元メディアにも取り上げていただき、なんとかいけそうだと思った2015年の7月、隣のお店から火事が出て靴屋も全焼してしまいます。
オーダーメイド部門の独立で専門店に
再建の方法を模索する中で、2016年9月にオーダーメイド部門を独立させることになりました。その際に、今まで履きやすい既製品を取り扱っていた靴のタツオカのイメージをオーダーメイド専門店に変えたいと思ってつけた名前が立岡靴工房です。
特徴の一つである手染め、パティーヌの技術も身についてきたので、より手づくり感を出したい、という想いもありました。
時にはアルバイトをかけもちしながら、少しずつ売上も安定してきた2017年7月には新店舗を建て替えることができました。カバン職人さんとのご縁もあって、手染めを活かしたレザー雑貨の販売もスタートしました。
これを書いている今は2019年10月。オーダーメイド事業をスタートさせて丁度5年が経ちます。5年も経つと、最初はわからなかったり気づかなかった事の中から、いくつかの問題点が明確になってきました。
5年目の問題点
お客様とのミスマッチングが起こる
ホームページやSNSなどで、オーダーメイドの専門店と宣伝していますから「オーダーメイドの靴を探しています」というお客様からお問い合わせがあります。
お話を聞いていく中で「こんなデザインの靴が欲しい」と言われた時、当工房が製作できるパターンの中にないものを希望されるご相談が増えてきました。
もともと決まったパターンの中からおつくりするスタイルなので、イレギュラー対応には当然リスクが発生します。「イレギュラーなご注文なので、ご希望通りになるかどうかはやってみないとわかりません」と説明した上で、こちらも出来る限りご希望に添いたいと思ってパターンを修正したり、後付けのような加工をする対応をしていました。
でも、なかなかうまくいきませんでした。理由は、自分自身が靴や足、ものづくりへの知識が足りないためにお客様にも、職人さんにも中途半端な対応になってしまったからです。
知識が足りないために、職人さんの出来る範囲も把握できていませんでした。
それでも、その時は自分なりに一生懸命やったつもりでした。
しかし、結果的にはお客様から「期待したものと違う」とクレームになったり、職人さんから「その仕様は無理がある」と困らせてしまったり、時間も手間もかけた商品がキャンセル、返金の対応になることもありました。
二つの解決方法
この問題には、二つの解決方法があると思いました。
一つは、知識や経験が足りない部分を猛勉強して、フルオーダーにも対応できる体制をつくること。
もう一つは、オーダーメイドでお受けする幅を狭くして、パターンオーダー以上のものは対応しないこと。
どっちも正解だと思いました。
問題の解決方法
フルオーダーに移行する場合
現状のパターンオーダーからフルオーダーに移行していくためには、フルオーダーに対応できる体制を新しくつくらないといけない。
これは一度チャレンジしようとしたことがありました。今のつくりかたはハンドメイドとマシンメイドの良いところをミックスした製造方法のため低コスト、短納期なんですが、ハンドメイドの割合を大きく増やした職人さんにお願いするチャンスがあったので検討したんです。ハンドメイドの割合を増やすと、その分コストが増える。2~3倍くらい。納期も長くなる。
当時いろいろ悩んだ結果、今の職人さんとの靴づくりの品質を上げていくために製造方法や材料などを見直すことを選びました。ただ、デザインや仕様変更についての課題は先送りのまま。
(書きながら思い出しました。その職人さんのパターンオーダーも素晴らしい品質だった。もう一度検討してみるのもあり:メモ)
だから、今一度フルオーダーに対応できる職人さんを探して、デザインの自由度や品質を上げる。発注方法もゼロベースからつくる。
もしくは自分がフルオーダーの靴職人になって靴づくりの全ての工程を対応する。学校に通うとか、修行に行くとかになるかな。
これがフルオーダーに移行して解決する方法。
パターンオーダーで幅を狭めていく場合
もう一つの解決方法は、もっと「この仕様しか出来ません」を前面に出していくこと。今の宣伝方法では「どんなものでもオーダーメイドでつくります」という打ち出し方になっているので、出来ないことがわかりにくい。
オーダーメイド事業を独立させた頃は「オーダーメイドでやっていくんだ!」って思ってたからオーダーメイドを前面に押し出していた。5年やってみて、今の自分ができることと、やりたいこと、目指したいことがよくわからなくなっていることに気づきます。
まずは自分が確実にできることに立ち返って、基盤を整え直す。それから次の展開を考えていく方がリスクが少ないし、幅を狭めることでシンプルに考えられるはず。パターンオーダーといっても、多くの選択肢があるから、選びやすいように絞ることは、お客様を必要以上に悩ませないことにも繋がる。それは職人さんも、自分自身にとっても同じ。今以上にイレギュラーが起こりにくくすることで、製作コストも下げることができる。
もちろん足と靴の相性によってはある程度イレギュラーは起こる。サイズ調整の面では、パターンオーダーの仕組みで対応できないイレギュラーが起こる可能性はある。でも、対応出来ることを狭めることでデザインについてのイレギュラーはなくなり、結果的にはスムースな靴づくりが実現できる。
オーダーのご注文をお断りするお客様も出てくる。しかしイレギュラーなデザインを受けて中途半端な対応になるよりは、満足してもらえる可能性が高い。
これがパターンオーダーで幅を狭めていくもう一つの解決方法。
自分ができることに立ち返る
良い格好するのを、やめる
書きながら思ったんですけど
「なんでもオーダーでつくります!」って言うのはカッコいい感じがするし、そんな自分でいたい。良いように思われたいという見栄がある。
「立岡靴工房はオーダーメイドで独立した、オーダーの専門店なんです!」と言い続けてきましたけど、実際は外注に頼っているところが大きいから「なんでも出来る」って言ったらダメなんですよね。
お客様がオーダーシューズの購入を検討される際に、「オーダー靴 岡山」で検索すると立岡靴工房のホームページが出てきます。
2016年の創業時に、ある意味「勢いに任せて」つくったホームページなので少し大げさな表現になっていたり、プライドが高いような書き方をしていました。あと、ブログは更新していましたがトップページはほとんど更新していないことに気がつきました。
改めてホームページを見直してみる
で、ホームページにはどう書いてあったかを確認すると
立岡靴工房は、岡山市の表町商店街にて明治時代より代々商売を続けており、昭和36年(1961年)より現在の靴屋として創業いたしました。
紳士靴、婦人靴の専門店として半世紀以上の歴史がございます。
商店街では独自のオーダーメイド技術によって様々なお客様の足にふさわしい一足をお作りいたします。
革靴の修理やメンテナンスなどのご相談も全てお受けいたします。
「独自のオーダーメイド技術によって様々なお客様の足にふさわしい一足をお作りいたします。」
と書いてました。なんでも対応しそうな勢いです。あとちょっと文章おかしいところもある。
サービス内容のところでは
立岡靴工房では、「日本人に合わせた日本人のための靴」 に徹底的にこだわっています。
快適な履き心地だけでなく、お客様のイメージにぴったりなデザインでオーダーメイドシューズをお届け致します。
「お客様のイメージにぴったりなデザインでオーダーメイドシューズをお届け致します。」
と書いてました。「イメージにぴったりなデザイン」と書かれたら、なんでも対応できます、と同じですよね。恥ずかしい話、こんな文章をつくったことを忘れていました。そして見返していなかった。
オーダーメイド:メンズを展開すると
立岡靴工房のオーダーメイドシューズは、男性のお客様の使用用途、悩み、こだわりをヒアリングし、独自の測定方法と製造工程を通じて、お客様のイメージに合った一足をご提供いたします。
「お客様のイメージに合った一足をご提供いたします」
と書いていました。操業した当初は本気でそう思っていました。改めて今の視点で見てみると、もっと違う表現の方がいいと思いました。
例えば、後半の部分を
革を手染めする技術を活かして、いくつかのパターンの中からお客様のイメージ合ったカラーリングの一足をご提供いたします。
このように更新しました。
5年前につくったまま、細かいところの見直しができていませんでした。同じホームページ内のブログで新サービスの紹介をしていても、オーダーメイド靴を紹介すること自体の更新を見落としていました。
一部リンク切れもあり。これは自分で更新したので心当たりがあります。修正しました。
レディースのページを開いてみると
立岡靴工房のオーダーメイドシューズは、女性のお客様の使用用途、悩み、こだわりをヒアリングし、独自の測定方法と製造工程を通じて、お客様のイメージに合った一足をご提供致します。
と書いているので、
立岡靴工房のオーダーメイドシューズは
⬇︎
立岡靴工房のオーダーメイドパンプスは
お客様のイメージに合った一足をご提供します
⬇︎
お客様に足に合うパンプスを5種類のパターンの中からご提供します
このように変更しました。
もう一点、修理のページもあるんですが
「他のお店で買った靴なんですけど修理していただけますか?」と言われることが多いので
他店で購入された靴でも対応しておりますので、
お気軽にお持ち込みください
という一文を追加しました。「ウチのオーダー靴しか直さないよ!」とお高く止まっているような印象だったかもしれません。
ホームページやSNSでの表現を更新していく
まずは出来ることを明確に
なんでもオーダーメイドで対応します、という印象を与えやすい表現を変えて行く必要があると思いました。単に表面的な説明の文章や写真を更新していく、ではなく自分自身の心構えから。
例えば、ホームページをつくった当初は何が出来て、何が出来ないのかわからなかったから紹介が雑になる部分があった。けど、今はわかる。わかるから、わかりやすく紹介したいし、しないといけない。
たくさんあるホームページの中から選んで訪問してくれたことに対して、おもてなしというか、感謝の気持ちが伝わるような内容にしたいと思いました。
逆に言うと、今までの内容では「いいものを提供しているんだから、見つけてもらって当然」とか「わかりにくかったら問い合わせしてください」という自分勝手な都合でしか伝えてなかったなと思いました。
だから、「出来ることは限られていますので、その中で最適な提案をさせていただきます」という表現に統一します。
例えば、
「オーダーメイド靴の専門店 立岡靴工房」という表現から
⬇︎
「カラーオーダー靴の専門店 立岡靴工房」
「カラーとサイズオーダー靴の専門店 立岡靴工房」とかに。
グーグル検索で出てくるところも
現状は先ほどのホームページに書いてあるように「お高く止まった感じ」な印象を与える可能性がある。
立岡靴工房|岡山市のオーダーメイドシューズ専門店
立岡靴工房は、岡山県岡山市で靴屋として50年以上の歴史があるオーダーメイドシューズ専門店です。独自の採寸、製造方法によって、紳士靴や婦人靴、ビジネスやフォーマル、カジュアル等お客様のイメージに合った一足をお届けいたします。
このように変更してみると、今の自分が出来ることにも合っているから違和感がなくなる感じ。
⬇︎
立岡靴工房|岡山市のパターンオーダーシューズ専門店
革を手染めで染色するカラーオーダー対応|パターンオーダーシューズ専門店「立岡靴工房」です。お客様の足に合わせた革靴とパンプスは「靴が合わない」「カラーを自由に選びたい」といったお悩みを解決します。外反母趾にも対応します。
この辺りを念頭に入れて、ブログやSNSの更新も表現を変えていけば全体的な印象が変わってくるんじゃないかと思いました。細かいところを見直していくと、ホームページもリニューアルできるといいかも。
自分でわかる範囲の変更を試してみて、これ以上はわからないや。となったら専門の人に見てもらおう。ある程度は自分で手をかけないと、人任せにしすぎたら、どんな表現が最適なのかわからなくなるからね。
気づいてよかった。見直してよかった。
まとめ。
何かがうまくいかなかくなる時、必ず原因がある。
ほとんどの場合は、「この部分は大丈夫だろう」と見直してなかったところに原因があることが多い。
なぜそうなるのか。慢心とか。気の緩みとか。調子に乗っていた。とか
その結果、自分のキャパオーバーなことに手を出してしまったりして、忙しくなりすぎて悪循環になったりする。
それで、立ち止まって色々見直すことができれば、立ち直れるはず。
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今ここ。
更新の進捗また更新します!