試合に出られない時にすること
このホッケー大国でなにを魅せるか
アメリカに来て1ヶ月半。
ここまでわずか20分の出場のみで、すでに二度のカット。
ここまでの経歴は何も評価に値せず、
見られているのはここで何をしたか。
そしてそれを証明するチャンスも今のところはない。
これは周りのせいではなく、練習の中で圧倒的なパフォーマンスを発揮できていない自分の責任。
北米では世界最高レベルのホッケーシステムが確立されており、世界各国のリーグが助っ人選手の獲得のために目を光らせる、世界最高峰のリーグが3つ。
NHLには世界最高レベルのゴーリー
そしてその下には、
NHLレベルのAHLゴーリー
AHLレベルのECHLゴーリー
と、枠が少ないこのポジションは、本来は一つ上のリーグでプレーできるレベルのゴーリーでも、
その競争率の高さから溢れて下に押し出されるため、
ゴーリーのレベルは他のポジションに比べて一つ上のリーグと言われたりもする。
実際、AHLの選手を見ていると多くがNHL経験者であり、
時にはECHLにまでNHLのゴーリーが落ちてくる。
(年齢の関係もあるが、今季でいうとサンノゼでプレーしていたAaron DellがECHLでプレーしている。)
そんな難しい環境、シーズン前には挑戦を反対されるも、比較的安定しているヨーロッパでの契約が決まらなかった事で、ここでのプレーを決意。
やはり現実は甘くなく、現在はニューヨークのチームの補欠。
いつクビになってもおかしくない状況。
そんな中でも、どんなマインドを持って戦っているか、みんなに知ってもらいたいし、
次に挑戦する後輩のヒントになれるかもしれない。
絶体絶命のピンチは、大きく成長するチャンス
試合に出られない時だからできることもある。
高校生、大学生、カテゴリは違っても、
チーム内の立場が近い人はきっといるはず。
そんな人にも届けたい。
トレーニング
一番大きな要素は、このトレーニング。
試合に出られないということは、週末はオフ。
試合に出るメンバーは試合の経験値を得る。
それを得られないことは絶対に不利。
上手くなる1番の方法は試合に出ることだから。
けど、彼らが試合に向けてコンディションの調整をする間に、フィジカルの差を埋めることができる。
シーズン中には扱いづらい重量のウエイト、高強度のスプリントや氷上練習に影響のあるトレーニング(僕の場合はスクワット、ジャンプ、スプリント等)をとことん追い込む。
明日の氷を気にする必要はないし、むしろ気分が良くなってくる。
時間が許す限り、一番最後まで氷に乗る。
ゴーリーなら、プレイヤーと遊びのシュートアウトを100本受ければかなり練習になるしスタミナもつく。
彼らはゴーリーの休憩を考えてない。
走る暇があるなら、100本シュートアウト受けたほうがいいかななんて思ってる。
その中でも疲れを言い訳にせずに全力で止める。
練習で息の上がる疲れの感覚は、PPの緊張して脚が固まる感覚に似てる。
疲れたときのような不利な状況でのパフォーマンス向上でピンチに強くなれる。
今所属してるチームは、ありがたいことにリンクにジムがある。
試合前には、監督に「6時に戻ります」と伝えて、いつもできない高強度のウエイトを組む。
終わると、
「今日を一生懸命戦った。」
と自分に自信が持てる。
それが来週の練習のエネルギーになる。
頑張ることで、頑張れる。変なサイクルだけど。
チームのサポート
どんなに腹が立っても、この仕事をおろそかにしたら必ず自分に返ってくる。
小学生の時、まだルーキーだったレッドイーグルスの成澤さんがチームの練習に来てくれた。
当時からイーグルスは地元少年チームとの交流を行なっていて、僕もイーグルスの大ファンだった。
ああいった小さな活動がファンを増やして、プロを目指す子どもたちを増やし、この競技の発展に繋がるのだと思う。
成澤さんには
「プロになるためにはどうしたらいいですか?」
「家ではどんなトレーニングをしてますか?」
そう質問したけど、
「おれはトレーニングはしなかったよ。氷上練習を一生懸命やっただけ。」
と、あまり求めていた答えは返ってこなかった。
おそらく、当時すでに僕のことをライバル視していた。
そんな成澤さんの話を勝手にしてしまって申し訳ないけど、
とある選手から
「成澤さんは試合に出ない時は一生懸命チームのサポートをしてたよ。だから、成澤さんが出る時にみんな頑張って守る。」
という話を聞いた。
ゴーリーが3人登録されているチームの場合、
毎試合1人がベンチ外になり、特に若いうちは年間ほぼ全ての試合をベンチ外で過ごすこともある。
水を汲んでも全ての選手にお礼を言われるわけでないし、
自分が飲むわけでもない水を汲むのはどう考えてもつまらない。
けど、やっぱり見てる人はいる。
僕自身もGRITSにいた頃、87番の茂木慎之介さんとはよく一緒にメンバー外を経験した。
お互いにメンバー外になる悔しさや仕事の大変さを知っているからこそ、
彼が試合に出て僕が試合に出なかった日は
「水とかスティック整理ありがとう」
と、必ず声をかけてくれた。
その一言が嬉しくて、逆の時には必ずお礼を言うようにした。
そうやってチームは信頼関係を築き上げていくし、
慎之介さんが点数を決めると嬉しい。もし慎さんがミスをしても、絶対にカバーしようという気持ちにもなれる。
やってるフリをすると必ず周りには伝わるし、一生懸命サポートすることは必ず自分に返ってくる。
アメリカでもそう。
チームに生き残ろうと思ったら、すぐにグッドプレイヤーになれなくても、まずはグッドガイになる。
自分なら勝てたと信じる
ここまでと180°ひっくり返るような話だけど、
全員がハッピーになれる展開はない。
僕が試合に出るということは、誰かが外れるということ。
僕にチャンスが回ってくるということは、前の試合で誰かがミスをしたということ。
試合に出てそのポジションを獲得するためには、
他の人に同情してられない。
勝利を目指す競技スポーツと教育・健康のためのスポーツは違うから、同じ話を子供にするつもりはないけど、
少なくとも高校、大学、プロとカテゴリが上がるにつれて、この要素は強くなる。
他の選手の道具壊すとか、そういう「蹴落とす」話ではない。
これもチームのサポートと同じく自分に返ってくる。
けど、他人がミスした時、友人として、チームメイトとしての声掛けや気遣いは必要。
だけど、そこで終わったらただのいいやつとして消えてくだけ。
チャンスだ
とか、
俺ならこうしよう
なんて、常に自分が試合に出ることを考えて、いつでも行けるという気持ちを持たないと、
同じ境遇の他の選手にのまれてしまう。
正直、技術の差なんて小さいもので、ほとんどは精神的な強さや経験値だと思う。
他の選手のミスの原因や負けの原因を技術的観点から考えながらも、俺が出ていれば…と自信を持ち続けて、
絶対にいいやつで終わらない。
他人の不幸を望むのではなく、
練習から
「お前がミスしたらいつでも出れるよ。」
というプレッシャーを与え、
監督にも
「こいつは準備ができてる」
と、次の入れ替え候補の一番上に数えられるよう練習に取り組む。
いつ入れ替えが起きるかはわからないけど、準備が十分だったら必ずいつかはチャンスが来る。
もしカットされることになってしまっても、
「あの日の練習で手を抜かなければ」
と後悔せず、
「ここまでやって無理なら俺にはどうしようもない。次のチームで頑張ろう。」
と、思えるよう、今を全力で頑張る。
毎日が戦い。
今週の試合に出られないなら、
来週の準備を始めよう。
今月出られないとしても、
来月の試合の準備を今から始めよう。
そう自分に言い聞かせて、
明日も朝からリンクに向かいます。