見出し画像

痛みに耐えるか、選手として死ぬか

このスポーツをするということは、

痛い

ということ。


僕は、痛いのが大嫌い。

一部好きな人もいると思うけど。(?)

今回は、もっと成長したいと自分に向けてのメッセージを込めたnoteでもあります。

※今回の内容は、一般的な社会における考え方や、子どもの教育現場の考え方とはかなり大きな差がある内容になっております。プロの世界における特殊な考え方であるという点をご了承ください。


痛みと向き合う


最大160km/hを越える硬質ゴムが当たって痛くないわけがない。


いくつかある記憶の中で印象的なのは、
小学4年あたりの出来事。

僕の人生の中でもなまらおだってた時期の一つ


当時は王子イーグルス(現レッドイーグルス北海道)のジュニアチームに在籍しており、

チームの練習とは別で週に1-2回、王子Jr.の練習があった。

コーチ陣は元王子イーグルスの選手で、色々なスタイルのゴーリーから幅広い知識を教えてもらった。

ある日の練習、コーチと一対一で練習をしてテンションが上がった僕は、

「もっと速いシュートを打ってください!」

とお願いした。

日々少しずつ成長して、もう少し速いシュートを止めれる気がした。


コーチは怪我をさせないために低めのシュートのみを打ってくれたが、それが悪く作用し、正しく防具をつけていない僕のに直撃した。

痛さのあまりフリーズし、シクシクと涙を流した😢

当時は防具も発展途上で正しい着け方も普及しづらかったため、コーチを責める意図は一切ない。

現在使用しているニーガード
元はCCM派でしたが、今はこれがとてもお気に入り


当時に比べて、今は練習参加の際にを守る道具の着用を義務化しているコーチも多いので、改善はされている。

プレイヤーに比べて防具の噛み合わせが複雑で、上手に着用できていない小学生以下の選手は多い。

僕も指導する機会があるとほぼ毎回、子供達の防具を付け直す。また、ズレなどのストレスを抱えてる子もいる。

コーチの方々はゴーリーの防具をチェックする習慣をつけてほしい。


そんな経験も経て、今は正しく防具を着用しているし防具に対するこだわりも強い。

けど、残念なことにどんなに防具を正しく着用しても、一定の確率で必ず怪我が発生する。

脳震盪

骨折

出血

また、
相手選手が倒れてきた際に股関節を負傷すると長期離脱。場合によっては引退

プレイヤーは平気で相手選手味方ゴーリー側に突き飛ばすけど、味方ゴーリーの選手生命を奪いたくないなら今すぐにやめるべき。

相手選手は、
「DFに突き飛ばされた」
と言い訳ができるので、大袈裟にゴーリーの上に倒れ掛かることができる。
怪我させたらラッキー。くらいの感覚で。

あのプレーを見るたびにすごく気分が悪くなる。

少し逸れたけど…


このスポーツをする以上、


痛みからは逃れられない


GRITS入団二年目、あちこちが痛いと文句を言ってる僕に、
当時東北フリーブレイズから新規加入した先輩ゴーリーの古川駿さんにこう言われた。


「けどタツ、キーパーって痛いもんだぞ。」


確かに、高速でゴムの塊が飛んできたら痛いのは当たり前。

マインドを変えて、

痛い。けど、痛いだけ。

と考えてプレーするようにしてから、痛みへの恐怖が減った。

だって痛みをなくす方法はないし、死ぬわけではない。

言われてみればそんな駿さんも、鎖骨周りにはたくさんアザがあった。

硬いパックを受けるのが僕らの仕事だから


痛みから逃げる=チャンスも逃げる


プロになるまで、にシュートが当たったらイライラして良かったし、にシュートが当たったら休んで良かった。

もちろんシューターは当てない努力をするべき。

メルボルンでも、僕の顔に連続でシュートが当たった時には監督がブチギレて、お前が一番大事だとハグまでされた。笑
それくらい、顔に当てることを嫌うコーチもいる。

©︎2024 Matt Hartigan


けど、プロの世界を知るまでそれに甘えていた。

プロのホッケーの世界に入り、先輩方を見ていて気づいた。

痛くても、誰もプレーをやめない。

これまでのように、

痛いから。フラフラするから。


という理由でプレーをやめればやめるだけ、

痛がり

のイメージがつくし、

休んでる間には成長アピールの機会を失っている。

痛くても、監督の前でもう一本受けたい。

そんな貪欲さが僕には全くなかった。



23-24シーズン、北海道ワイルズ(現東京ワイルズ)とのアウェイ交流戦


10月の釧路はすでにかなり寒く、ウォームアップをしても身体の芯は冷えたままだった。

一番最初のシュートが左肩に当たった時に、やばい痛みがした。

10分ほど続けて練習するも肩の痛みが治らず、ロッカーに戻った。

怪我は仕方がないけど、大学時代から長く使っていた防具、ウォームアップ不足、集中力不足など、

色々な原因が考えられ、

自分次第で怪我をしない方法は絶対にあった。

左肩が上がらずご機嫌斜めな僕とコーチ陣で話しあった結果、

土曜に決まっていた先発予定をずらし、土曜の朝の練習で様子を見て問題がなさそうなら日曜に先発ということになった。

ワイルズとの交流戦という非公式戦だったから、育成の目的も兼ねてわざわざ土曜の朝まで様子を見てくれた。

けど、本来ならそれはプロの公式戦で、土曜に先発したゴーリー調子が良ければ僕の先発予定は100%取り消しになっていた。

この時は本当に肩が上がらない痛みでプレーできるか分からなかったけど、

例えばにシュートが当たって、その時は激痛だけど少し待てば治る。

なんて時に、「痛いです。」とベンチに帰ったら、

「なら明日やめとくか」

と判断され、自らチャンスドブに捨てることにつながりかねない。

骨折などの本当にプレーできない怪我を除けば、

痛がってるところを見せれば見せた分だけ損する。


試合の裏側で起こっていること


他にも、自分はまだプロになりきれてないと思った出来事がある。

以下、出血等表現があるので苦手な方はご注意ください。


横浜GRITSの中でもかなりドS鈴木ロイさん

ロイさんは無限にエピソードがあるけど、今回は一部のみ。

ゴンちゃんこと権平優斗はチームのために献身的にプレーする選手で、
大卒1年目ルーキーながら、すでに主力メンバーとして毎試合ロースター入りしていた。

そんなゴンちゃんレッドイーグルス札幌アウェイ戦で、
4on5のPKの中、味方のクリアしようとしたパックが至近距離で口に当たり、唇が縦に裂けた。


どう考えてもやばい怪我で、ゴンちゃんの口からは血が噴き出ているのに何故か試合は続行。

(ルール詳しくありませんが、味方のプレーの影響による出血では試合は止まらない?原因問わず、リンクに血が落ちることは感染症リスク等もあって避けるべきなので試合は止まる。というのが僕の認識でしたが…)

「これはまずい。」

と、みんながレフリーに試合の中断を求める中、ロイさんだけは

「ゴンちゃん、立て!プレーしろ!」

と叫ぶ。

んでゴンちゃんも立ち上がってプレーしちゃうから、リンクはゴンちゃんの軌跡の血で真っ赤。

なんだか、人権とは…?と感じたり、
倫理的にも残酷すぎるシチュエーションでこれも思い出すと気分が悪いけど、立ち上がったゴンちゃんは本当に偉い。

そしてゴンちゃんは縫合手術をその場で受けて、20分後には試合に復帰。


ゴンちゃんを立ち上がらせたロイさんマジか。
とは思いつつも、誰もロイさん酷いよ。とは言わない。

だって、
日頃からロイさんが痛みに負けずプレーしているのを知っているから。


練習中にロイさんの胸にかなり速いワンタイマーショット直撃したことがあった。

ほんとに

「流石のロイさんもついに死んだか。」

と思ったけど、

一瞬前屈みになったと思ったら、すぐにプレー続行。

え、ツヨ。

と思いつつも、ロイさんが普通にプレーしてるからみんなもプレーする。

数十秒経ちそのプレーが終わると、ロイさんはリンクので倒れ込んだ。

数十秒ができなかっただろうし、どう考えても痛い

けどロイさんはチームの練習の進行を優先した。
スクリーン
に入るのも怖くなるはずだけど、いつも通りプレーしてゴーリーの目の前にも立っていた。


韓国アウェイ戦では、相手選手が目の前で転倒し、ロイさんの顔にスケートが向かってきた。

ロイさんとその選手は交錯し、スケートロイさんの顔付近にぶつかったようにも見えた。

先ほどのゴンちゃんの怪我の日、イギリスリーグではにスケートが入った選手が亡くなった。

ロイさんも首に入れば一大事。

幸い、ロイさんは立ち上がってプレーを再開。
大きな怪我はなさそう…?

けど、僕はプレー中のロイさんのから血が出でいることに気づき、すぐにトレーナーに伝えた。

「ロイさん多分耳切れてるから帰ってきたらすぐ対応して」

けどロイさんは今もパックをキャリーし、最後はゴールに向かってシュート

笛が鳴り、ロイさんがベンチに帰ってきた頃にはジャージの肩部分は赤くなっており、すぐにトレーナーとロッカールームに直行。

すぐに医師が縫合し、後から聞いた話だと耳が三箇所切れており、軟骨が見えていたそう。

そして縫合が終わり、「3ピリから復帰できます。」とトレーナーから監督に伝言。トレーナーも悪魔か何かか?

ロイさんに聞いた。

「耳切れたのいつ気づきました?」

すると、

「当たった瞬間やばいと思ったけど、チャンスだったから笛鳴らしたくなかった。」

同じことを、決してアマチュアのリーグには求めて行けないし、なんならプロのリーグでも求めてはいけない。

けど、これがプロ

自分が離れれば、違う選手出番が回る。

チームからは怪我の直後に試合に出ること強要はされないけど、

休むことで誰か活躍すれば、自分の来季の契約がなくなるかもしれない。

そこまでしてでも、そこまでしないと生き残れない世界で、

鎖骨がちょっと痛いくらいでなんだ?
という話に当然なる。

ある日は
杉本華唯が目の下を切り、試合中に縫合

「麻酔してもめっちゃ痛かったわ」

「皮膚引っ張られる時が痛い」

「ベッド横になりながら、今日もう出れないかなと思ったら、お医者さんに

「これでオッケー」

て言われて、
びっくりして周り見たらトレーナーも

「早く行きな」

みたいな圧がすごくて飛び出してきた。笑」

とさっきまで出血してたとは思えないほどケラケラ話している。

そして挙句の果てには

「豪士さん(熊谷豪士)、縫う時麻酔しないらしい。その後のプレーの感覚鈍くなるから。」

華唯が苦笑い

豪士さんに、「痛くないんですか?」と聞くと

「めっちゃ痛いよ!」

意味がわからない。


それくらい、この世界ではみんな必死にやってる。


それを知ってるからこそ、他チームファンでも、パフォーマンスに対して苦言を呈すツイート見ると、複雑な気持ちになる。

実際、だらしないプレーを見せる選手もいるし、ほんの一瞬気を抜くとこのスポーツでは置いていかれる
誰も痛いのを言い訳にしてはいけない。

ファンの人たちに気持ちが届かなければ、
それは俺たちの努力不足だと、僕たちはもっと頑張らないといけない。

ファンが試合を見てくれなければ、リーグは成立しないから。


痛みに耐えるか、選手として死ぬか


アメリカに来て、反省した出来事があった。

昨日は試合前ということもありシュートメインの練習というよりはシステム重視プレイヤーの練習


ゴーリーの出番は少なく、やっと出番が来る頃には体が冷えていて、交代してすぐ失点したりと、なんだかモヤモヤ、イライラする日だった。


そんな中で、至近距離のスラップショットが顔に当たるし、

その後には
ゴール裏→ゴール前へのパスの、
至近距離のワンタイマーショットの練習で
鎖骨の間にシュートが当たった。

(前者はイライラした選手が腹いせに思い切り適当に打ったシュートなので彼は反省するべき。ゴーリーを的と勘違いしている)


痛みからつい前屈みになって、もう1人のゴーリーと交代した。

また今、

「痛かったらやめてしまう自分」

に戻ったと感じた。


明日クビになるかもしれないのに。

もう一本のシュートが最後になるかもしれないのに。

いつクビになってもおかしくないと自分には言い聞かせて、毎日を大切にと言うけど、


結局今も、痛みに勝てていない。

「この環境で成長できる」とはなんだったのか、
週契約環境から学べること」は何なのか。

ここを去るとき、引退するとき、

「あの時に、痛みに負けた」

そんな心残りから後悔するのは嫌。

集中している時、シュートの怖さは一切ない。

シュートの怖さ内側からくるもの。


自分の人生を天秤にかけてみる。

痛みに耐える

明日、

選手として死ぬ


そう思うと、もちろん答えは一つしかない。



と、自分に言い聞かせたくて今回はこのテーマで書きました。


勝手にエピソード公開した選手は申し訳ありません。

けどみんな人生、いや、命をかけて頑張っています。

そんな全ての選手をこれからも応援してください。

最後までお付き合いいただきありがとうございます。

試合前に痛み止め注射を打つ選手
注射は耐えられないらしく手を握ってます
果たして彼らは強いのか弱いのか

いいなと思ったら応援しよう!