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まさかかまぼこに泣かされるとは

仕事帰りのスーパーで買い物をしていた。最寄り駅にある大きめのスーパー。

暇さえあれば足が向いてしまうこのスーパーに来たときの僕には、お決まりのコースがある。
入り口入ってすぐにあるお酒のコーナーで、ビールをカゴに入れ、野菜コーナーをぐるりと見回す。

ベビーリーフが置いてあれば、それをサラダに。と思ったが、あいにく今日は残っていない。
それどころかなんだか売り場が少し寂しい。きっとまだお正月明けで十分に仕入れができていないのだろう。
にしては七草粥のための七草は豊富に陳列されている。依然としてサラダを作るのに適当な野菜が見当たらない。

レタス?大きすぎる。アボカド?硬いのばかり。
毎日なんとなくサラダは食べないといけない気がしているが、念のため急に外食したくなる気分に襲われることを考慮して、
大抵は、1日で食べきれる量の野菜しか買わない。今日は珍しくちょうどいい野菜がない。
止むを得ず少し大きめのサニーレタスを買うことにした。

プチトマトは小腹を満たしてくれるおやつ野菜とまで言える。これも買おう。


この後の僕は、大体鮮魚コーナー、お肉コーナーの順に店内を回り、
半額になっているお刺身があれば刺身をメインディッシュにする。
もちろんお買い得なお肉があれば、それをメインディッシュに献立を考えるパターンもありだ。

ただ、今日に関していえば、お餅も残っていることだし、お雑煮とサラダで十分だった。
なんせ今日はお正月休み明け初日の1月4日月曜日。21時に家につくとして、そこから料理をするほどの体力は残っていなかった。

鮮魚コーナー、お肉コーナーをスルーし、
漬物コーナー、麺類が陳列されたコーナーへと歩みを進める。
特にこれと言ってそそられるものは陳列されていない。

おでんなどの練り物が安売りしているコーナーへと、さらに足を進める。

今日はおでんセットが特売らしい。

その傍ら、やたらと半額のシールが貼られた商品の陳列するコーナーに自然と目がいってしまった。
お正月の余り物が、ちんまりと陳列されていた。


かまぼこだ。



かまぼこが6つばかり、半額になっておいてある。

僕はこの6つのかまぼこが妙に気になってしまった。

今年は母親から「無理して帰ってこなくていいから、また落ち着いたらね」と諭され、実家に帰ることができずにいた。当然、普段実家で食べていたおせち料理も、今年に関してはまともに食べていない。


いい機会だと思った。
三ヶ日も終わって、おせちは全部安くなっているはず。
僕は紅白の蒲鉾を一つずつ手にとった。
今日は予定を変更して、かまぼこをはじめとする安売りおせちで、遅めのお正月を満喫することにした。

そう思ったのも束の間。伊達巻がどこを探しても見当たらない。
おかしい。同じ練り物のコーナーにあるはずだ。
しかし、あるのはだし巻き卵か、ちくわぶのみ。
形状や色味が似ていても、伊達巻の代わりは務まらない。

いったん伊達巻は諦めよう。せめて、栗きんとんを…。
どれだけ店内探しても、栗きんとんはなかった。


買い物カゴの中に入ったビール、プチトマト、サニーレタス。
それに、かまぼこ。
なんだかここにかまぼこがいることがおかしなことに思えてきてしまった。

否めない場違い感。

僕はそっとかまぼこコーナーに戻り、白い方のかまぼこをもとの売り場に戻した。


かまぼこを戻す瞬間、僕の頬に一縷の涙が伝った。


かまぼこに感情移入してしまったのだ。


おせちとして並ぶはずだったかまぼこが、置いてけぼりでこのコーナーに陳列されている。
決しておせちという形で食卓に並ぶことのなかったかまぼこ。
本来望んでいた場所に辿り着けなかったかまぼこ、おせちという家族に会えなかったかまぼこを
帰省することができなかった自分と重ねてしまったのだ。

僕のお正月はもう終わってしまったが、
せめてこのかまぼこを救ってやりたいと思った。

再び僕はかまぼこをカゴに戻し、お正月っぽい食事をすることにした。
他のスーパーを回って伊達巻と栗きんとんは探すとして、せめて良さそうなお肉を適当に。
焼肉くらいだったらこの体力でも作れる。

僕は精一杯贅沢な食事をかまぼこに味合わせてあげたかった。

そうして一軒目のスーパーを後にした。

そこから僕は、3軒のスーパーを回った。
栗きんとんも、伊達巻も見つからない。
どこもかしこも七草ばかり。


それでもいい。お肉がある。
贅沢な食事と一緒にかまぼこを食すことが今は何よりも大切だ。

食事の支度をすませ、風呂も入り、ビールと共に食事を楽しんだ。

食後の今、記憶の新しいうちにとこのnoteを執筆している。



かまぼこはまだ、冷蔵庫にしまったままだ。

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