ライター
ep.1
付き合い始めて、もう少しで2年。
今日も喧嘩した。
絶対私悪くないもん。
ep.2
同棲を始めて約4ヶ月。
最近あなたは帰って来なかったりする。
帰ってきたと思えば、何も言わずに即座にベランダでタバコを吸うあなた。
だから私の家のベランダにはあなたの使っているライターの定位置がある。
ep.3
最近あなたとの会話が減った。
朝のおはようも、1日頑張るための行ってきますも、あなたの笑顔を見るおかえりも、1日の終わりのおやすみの声も聞こえなくなった。
あなたが家を出るときのドアの音で起きる私。
ひとりぼっちは慣れっこ。
ep.4
私知ってるよ。
あなたは新しい女の人がいるってこと。
私より可愛く、背が小さめの私達より2つ下の女の子。
小柄で可愛くて、九州の方言を使う。そりゃ〜とよ?とか言われたら誰もが落ちる。
でもそんなやつ知らない。知りたくもない。
でも今日もあなたはその人のお家に行った。
私…知ってる。。
ep.5
今日も喧嘩した。
何を思ったか、身支度をしている。
別れよう。
身支度をしながら、目も合わせず告げられた言葉。
たった4文字。これで私達の関係は終わりを告げられた。
ep.6
あなたが持ってたキーチェーンから外された私の家の合鍵。
その合鍵は私の手元に。
瓜二つ、同じ鍵。
なんだかおかしいね。
ep.7
身支度が終わり、今日初めて目があった。
美波ありがとうね。お世話になりました。
告白の返事を貰った時と同じ目をしたあなた。
私は何も言えず、涙を我慢していた。
無情にもドアはパタンという音を残した。
ep.8
共に時間を過ごした2人の寝室。
初めての夜もあなたに捧げた。
悲しいことに、枕にはあなたのにおいがする。
いつの間にか、リビングにある棚に並んだCDや漫画や映画はあなたの趣味ばかり。
それもなんだか嬉しかったのに。
ep.9
あなたは知らない何処か、知らない女のベランダにいるんだよね。
そこで新しい火種をつけているんだよね。
火種つけるならライター必要だよね。
定位置にライター忘れているよ。
ep.10
朝一緒に朝焼けを見たベランダ。
ほんのわずか、バニラのような甘い香りがした。
あなたが吸っていたタバコの匂いだね。
ep.11
スマホを開いて、連絡先の1番最初に出てくるあなたの電話番号。
こんなやつの電話番号、消してやろうと何回消そうとしてもどうしても消せない。
もう別れたんだから、いらない。
いらないのに、、なんで消せないの、、、
ep.12
あなたは今頃、私の知らない顔で、私が聞いたことない知らない甘い言葉で、新しい身体を濡らしてる。
私にずっと言っていた、偽りの愛してるなんて比べ物にならないぐらいの愛を伝えてる。
ep.13
でも、、、でも、、、
私の左耳が疼くような、あの『愛してる』の言葉は私だけ、、、私だけに言ったって信じたい。。
ふとベランダに目を向けると、あなたが置いて行ったタバコの箱。
手に取ると、箱の中にはタバコ3本入っていた。
ep.14
私はあなたが置いて行ったライターを手に取り、一本火をつけた。
そう、この匂い。あなたの匂いだ。
火をつけたタバコを私は口にした。
美波:まずっ、、、
ベランダに置いてあった缶コーヒーの缶を灰皿
代わりにして、すぐ火を消した。
ep.15
大きく息を吸って吐いた。
美波:空気って、、こんな美味しいんだ。
朝焼けが見える。もう朝なのか、
深呼吸をした私。
ベランダに置いてあった、あなたのタバコを投げ捨てた。
ep.16
美波:はあ、スッキリした。
しかし、視界がかなりぼやけてくる。
美波:スッキリしたはずなのに、、なんで涙が止まらないの、、、
もう一度目をやると、定位置には切れかけのライター。
それを手に取り、投げ捨てようとした。
だけど、、だけど、、私は投げれなかった。
ep.17
もう2度と会いたくない。でも、、やっぱり私の隣に帰ってきてほしい。
願望は二律背反。。このことなのかな、、
あなたの帰りをまだ望んでいるのかもね。
ep.LAST
だから私は、ライターをベランダから投げ捨てられず、切れかけのライター、ベランダに残した。
叶いもしない、願いに邪魔されて。
END