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【王来る】#妄想レビュー返答

僕らはカタッポスと呼ばれている存在。カタッポスはもともと「ふたつでひとつ」だったものが、その片割れと逸れてしまったものたちだ。
片割れと逸れ、且つ、持ち主にも忘れられている。それがカタッポスとしてこの世界にやってくる。
もしも相方が持ち主の手元にあって、ある日、部屋の隅--ソファの後ろや、引き出しの奥--にいるのを見つけて貰えると、カタッポスの世界から元いた世界に引き戻される。たまに忘れられたまま、相方が「片っぽだけになっちゃった」といって捨てられる時がある。相方もそれで生涯を終えることになるが、こっちはカタッポスとして延々とこの世界で生きることになる。
カタッポスの世界では元がどんなものであれカタッポスとしての姿が与えられる。でも、話すと元が「靴下だ」「手袋だ」と言わなくても、相手が何であったか判る。カタッポスは圧倒的に靴下が多い。イヤリングやピアスもいる。彼らはこっちにくると滅多に元の世界に帰ることはない。ある日突然いなくなっても元の世界に戻ったわけではなく、もうこの世からいなくなっている場合が多い。
カタッポスを長くしているとそういうことも判るようになる。悲しいけれど。
この世からいなくなるというのは、形を失うことだ。
そして自分は相当長くこのカタッポスの世界にいる。
カタッポスの世界は平穏な世界だ。
ある日住人が増えたり減ったりする以外には事件もなく、穏やかにのんびり暮らしている。
やらなくてはならないことというものもないし、この世界では死ぬこともない。
顔を合わせたもの同士でトランプゲームをする。ババ抜きだとか神経衰弱とかペアを作るゲームをみんな好んでする。しかし、ペアになれないカードが何枚も残る。
トランプまでカタッポス。

そんなカタッポスの世界に、ある日突然、王が現れた。

「俺が来たからにはカタッポスの世界から退屈の文字はなくなる!」
王はそれまでに見たことがないだった。
「あなたは本当に人なのですか?」
「何を言う。俺は王だ!」
「カタッポスの王?」
「俺はカタッポスではない。王だ」
誰もが王を理解できなかった。カタッポスではないと言うが、それならなぜここ・・にいるのか?
王はとにかくキラキラしていた。肌は透き通るように白く、ふわりとした服も全て白。瞳と頭に乗せている王冠は金色で全てがキラキラ輝いている。王冠というよりティアラと呼ぶべきかもしれない頭上の飾りは本当にキラキラしていた。
「カタッポス諸君!運命の番いに会いたいかぁ!」
華奢とも言える見た目に反した、低めのだけど響く声を張り上げて王は言う。
「元の世界に帰りたいかぁ!」
何人かが「おー!」と声を上げている。
「俺は、君たちが元の世界に帰る手助けをしてやる」
「どうやって?」
思わず声が出た。
「君たちを探している人間に君たちがどこにいるかを教えることができる」
王が答える。
「人間がここに来るのか?」
「王の城になら来れる。いや招く。そこで君たちがどこにいるかを俺が伝えてやる」
カタッポスたちが騒めいた。
「俺には人をここに招く力がある。そして、俺の運命の番い・法皇は君たちの元いた世界を覗くことができる」
「法皇?」
いったいそれは誰なのだろう。
騒つくカタッポスたちの様子を見ていた王がニヤリと笑う。
「心して会うがよい。滅多に拝める相手ではない。法皇だ」
いつの間にか王の後ろに黒い、いやよく見るととても深い青色のローブを纏った人がいた。頭からすっぽりフードを被っているので口元しか見えない。
「何を大袈裟な」
呆れかえったような口ぶりで法皇は言った。王よりも少し高めの柔らかい声。
「私はただカタッポスの世界の密度が日に日に高まっていくことに危機感を感じているだけです」
法皇はカタッポスの世界のことを以前から知っているというのだろうか?
カタッポスたちは再び騒めいた。
「諸君!今、その証拠を見せよう」
王はそう言うと、白い揺れる袖を大きく振り上げた。
するとそこにひとりの若い女性が現れた。
どこかで「あっ」という声が上がった。
王が「しー」と指を立てる。
「ようこそ。ここは忘れられた片方の国だ。君は何かを探しているね」
王がそう言って相手に微笑みかける。
最初は驚いていた相手の若い女性は王の顔を見てパチパチと音のしそうな瞬きをした。
「あ、えぇっと。そうです。彼からもらったピアスが片方いなくなっていて。彼から初めてもらったプレゼントだったのに、今までなくなっていたことにも気が付かなくて」
そう言うと女性は泣き出してしまった。
王はその様子を見て少し狼狽えたが、咳払いを小さくひとつして背筋を伸ばした。
「ピアスの居所を教えてやろう」
「え?」
女性は泣くのをやめて王を見た。
「あぁ、すまない。君にそれを教えることができるのは…」
王が自分の後ろにいた法皇を引き寄せた。
「この子の大切なピアスはどこにあるんだい?」
「ここにあります」
「え?」
さっきまで泣いていた女性はもちろん、王も、そしてその場にいた全てのカタッポスが「え?」と言った。
「ピアスの入っていたケースを持っていらっしゃいますね」
「えぇ。はい。初めてのプレゼントですから。片っ方だけ残ったピアスと一緒にいつも持っています」
「貸していただけますか?」
法皇は顔はフードでまったく見えないけれど、その声は優しく、物腰は丁寧だ。
女性はカーディガンのポケットから白いボックスを取り出すと法皇に差し出した。
「開けてみてください」
「え?はい」
女性は蓋を開けた。
「ピアスを取り出してください」
「はい」
女性はいわれるまま、片方だけ入ったピアスを取り出した。
「彼女から箱を受け取ってください」
王に言う。
王は「貸してもらえるかい?」と言って女性からボックスを受け取る。
「それはもともとリングケースなんです。王様、真ん中の窪みをそっと押し開けてくださいませんか?」
「おや?」
法皇に言われるま押し開けたであろう王は、そう言うと、今度は女性に向けて腕を伸ばした。
「君!見てくれ。ここにもうひとつピアスが」
「あっ!」
女性が箱ごと受け取り、中からもう片方のピアスを取り出した。
「あった!」
女性の声にカタッポスの誰もが「わぁ」と声を上げた。
その中で装飾品のカタッポスのエリアから「あっ」という小さな声が聞こえた。
見えなくてもわかる。
カタッポスになっていたピアスが、カタッポスとしての姿をなくしたのだ。

女性は「ありがとうございます」と頭を下げたまま姿を消した。
カタッポスの世界で人を見たのは初めてだった。

いつの間にかカタッポスの世界にできた王の宮殿に、今日もさまざまなカタッポスが訪れる。
王の宮殿にはカードの揃ったトランプだけではなく、さまざまなゲームがある。それらは全て駒の数が揃っている。きちんと完成されるジグソーパズルもある。カタッポスたちはみんな夢中になって楽しんだ。
王も一緒に楽しんだ。法皇は滅多に自分の部屋からは出てくることないが、法皇も王とゲームを楽しむこともあるようだった。
ある日僕は王に訊ねた。
「王は何のカタッポスなんです?」
「失礼だな、君は。俺の話を聞いていなかったのか?俺は最初っからひとつのものでカタッポスではない。唯一無二の王だ」
「はぁ」
「でもな。法皇と会って、あれが自分の半身、番いだとピンときた。あれと共にいるとそれはそれは幸せな気持ちになる」
王はキラキラしながら話を続けた。
「もともとひとつの自分でさえ、半身を得るとこんなに幸せなんだ。半身と共にいると君たちが今ひとりで、いや半分でいることがどんなに心細いだろうと法皇に話した」
法皇は「あなたは彼らを助けられますよ」と言った。
「あなたは失くしたものを探している人と繋がりを持つことができる」
「それがカタッポスの役にたつのかい?」
「私はその人と会うことで、失くしたものの在処を伝えることができる」
法皇は言った。
「法皇も俺と一緒にいることで幸せを感じているから、俺が君たちの力になりたいと思っていることを理解してくれたんだ」
王の笑顔は本当にキラキラ眩しい。
王たちが来てから、靴下のカタッポスたちが今までのように増える一方というわけではなくなった。元の世界に帰っていくカタッポスがかなりいた。
「君の持ち主も早く来るといいな」
王が言った。
何故かそれは遠くない気がした。
でも、カタッポスでいるのも悪くない。王が来てからそう思えるようにもなった。
「また新しいカタッポスが来たようだ。君が案内してあげるといい」
「承知いたしました」
恭しく頭を下げて、王の部屋を後にした。

【王きたる】 了

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たまたま自分がこういう話を書いていたので、カタッポスと強引にくっつけてみました。


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