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【92 ダリア】#100のシリーズ

ダリアの花を見ると、今はもうない花畑を思い出す。
去年、その花畑はあっという間に宅地になり10棟近くの家とアパートになった。
自分が幼い頃からずっとあった花畑。いや、生まれる前からその花畑はあった。
庭というより畑。
様々な花が雪の季節以外はずっと咲いていた。
その花畑は最初は年老いた夫婦ふたりが手入れしていたのを記憶する。
ふたりとも少し腰が曲がっていた。
手押し車に道具を積んで現れる。
花畑の真ん中に木があった。
自分の記憶だと最初は木陰を作るのがようやくの大きさだったと思う。
その木の下にデパートの屋上にありそうなベンチがあり、ふたりがそこで休んでいた記憶がある。
通りがかるだけの花畑。ふたりを遠くに見るだけの花畑。
やがて、そこに来るのがおじいさんひとりになり、別のおじいさんとふたりになり…というように半世紀の間、様々な、だけどひとりふたりのおじいさん・おばあさんがその花畑の世話をしていた。
季節によって花は変わった。
おそらくだが、その花畑は観賞用として花を植えてはいなかったろう。朝市や産直でいるための花だったもではないか?と勝手に思っていた。
というのも、花は枯れる前に姿を消すからだ。
だけど、その花が見えなくなっても次の花が咲き、決して花畑が寂しくなることはない。
秋の終わり近くも花が枯れて見窄らしい畑になることはない。
ある日、花が消えるのだ。
枯れる前に全て摘み取られるのだ。
夏の終わりに姿を見せるダリア。
畑のあちこちに赤や黄色や白、桃色と様々な花色で咲いている。
それら全てがダリアだと知ったのは中学の頃だったろうか?もっと経ってからだったろうか?
その頃はふたりのおじいさんが花畑の世話をしていた。
私は友人を待っていた。
通りがかった中年女性が片方のおじいさんに「こんなふうにダリアをうまく咲かせられない」というようなことを言っていた。
ダリアは赤い花だと思っていた私は、その女性が指差す白い花を見て驚いた。
「白いダリアもあるんだ」
単純にそう思った。
「ダリアはケンジがよく知ってる」
おじいさんはそう言うと、少し離れたところにいるもうひとりのおじいさんを呼んだ。
おじいさんふたりとその中年女性はしばらく話をしていた。
話をしながら、あちこちに咲く大ぶりの花をおじいさんたちは指差した。
指差すのは色だけでなく、形も違う花だった。
でもそれら全てが「ダリア」なのだとやり取りの中で理解した。
驚いた。
友人が来て、私たちは花畑を離れた。
最後に花畑を世話していたのはひとりのおばあさんだったような気がする。
学校を卒業してからはあまり花畑の近くを歩かなくなっていた。
それでもたまに車で通りがかった際、花畑を見るとホッとした。
畑の真ん中の木はだいぶ大きくなって、畑の主のように顔をしているのを見るのも好きだった。
去年、春になる前にその木がなくなった。
通りがかって驚いた。
だけどすぐに花畑の終わりを悟った。
木が切られるのを見なくて済んだことに安堵する自分に気づいた。
家に帰って妻にそれを言うと「おばあさん、亡くなったんだ」とポツリと言った。
ダリアが咲く季節にはもうそこにはいくつkの家が建っていた。
ここに住む人たちはここが花畑だったのを知っているのだろうか?
そんなことを考えた。


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