【風を治す薬】#毎週ショートショートnote
「これ違います」
バイトの曽我さんが言う。
おそらくみんなが指摘するところだと思いつつも「どれどれ」とそっちを見る。
「風ではなく風邪を治す薬ですよね?」
少しくたびれた青い紙袋を手にしている。
「いや。それは風を治す薬でいいんだよ」
曽我さんは目を丸くする。
「ここの薬は半分もヒト向けではないからね」
「それはそうですが…風にお薬ですか?」
「それがねぇ。不思議と効くんだ。西風にだけなんだけどね」
季節外れに吹く西風に向かってこの薬を撒く。すると風はピタリと止む。
「北風に効く薬もあると助かるけど、見つかっていないんだ」
東風や南風は季節外れに吹くことはない。これもまた不思議な話だ。
「これから使うこともあるから出していたんだ」
季節外れの西風は奇妙なものを運んで来る。トイレットペーパーの芯や蝸牛の殻。そんなものを落とされる前にこの薬を撒いて風を治める。
「出番がないのが一番なんだけどね」
曽我さんは「はぁ」と言って風薬の袋をじっと見た。