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【90 高級路線】#100のシリーズ

「我が社も、高級路線の商品開発を考えてみる時ではないか?と思っているんだが」
副社長の声が響く。
町の小さい文具メーカーが何を言う?そんなことを思いながら、100円ショップから発注を受けて作っているノートにメモを取る。
正確には落書きだ。
今日の日付と曜日と天気。朝のうちは晴れ後曇り。
文具メーカーといっても紙ものの製造しかしていない。
ノート・メモ帳・シール。メインはこの3つだ。
これらのどれを高級路線に乗せるつもりなんだろう?
そこはやはりノートだろうか?
でも。これは個人的意見だが、書き捨て御免のノートって重要じゃないか?
何年も自分が書いたノートを取っておく必要がどこにある?取っておいている人はいるだろう。でも、それを見返す人は全体の何%だ?
かく言う自分もこうして書いたメモはデジタルでまとめ、一冊終わると捨ててしまう。
ほら、デジタル化したページは赤鉛筆で大きくバツをつけている。
今手にしている三色ボールペンではない。ノートをまとめる時は紙巻鉛筆の赤をチェック用に使っている。ノートにバツを書くためだけの赤の紙巻鉛筆。
なんてことなく2、3ページ前をめくってみる。
A5サイズのこのノートは100円で買える(正しくはプラス消費税だが)ものの中でも優秀だと思っている。
鉛筆だろうがボールペンだろうが書き味は一緒。この少し引っ掛かる感じが如何にも「書いてます」感があっていい。
両隣をチラリと見る。
右に座る葉山はバイブルサイズのシステム手帳を広げている。システム手帳のリフィルはうちの会社は作っていない。ちなみに自分も、よくよく確認んするものはシステム手帳にまとめてある。姉が買ってくれたシステム手帳はもう10年近く使っている。左隣の加藤はタブレットにタッチペン。同じタブレット端末は自分も持っている。でもそれはあくまでもプライベートで使うためのものだ。
1冊1000円近いノートを買い求める人は、どんなふうに使っているのだろう。
そんなことを考えながら、顔を上げ、副社長を見た。
「このエンボス加工のシールの展開について、大島部長に説明してもらう」
・・・シール?高級路線はシール?
それでもボールペンを持つ手は「エンボスシール」とノートに書き込んだ。


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