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警察官➖【感情の濃度】#青ブラ文学部

誘拐された若者たちはひとつの小屋に閉じ込められた。
その数100人。
全国から集められた若者だった。
「助かりました。死傷者が出る前に見つけていただいて」
警察署長が頭を下げた。
「いえいえ。わたくしの話を信じていただけて恐縮です」
「大呪術師で有名な黒紫こくし殿でいらっしゃいますから」
署長が言う。
「しかしながら、どうして彼らがあそこにいるとお分かりになったのです?」
「あそこだけ感情の濃度が濃かったんです」
「感情の濃度?」
「怒り。怯え。戸惑い。様々な負の感情が一箇所から感じられるたんです」
奇妙に思った黒紫はそれらを感じる場所に向かった。
そこには閉店したコンビニがあった。
「建物の中に誰もいない。だけど感情の濃度は桁違いに濃い。これは、地下室があると思ったんです」

警察でも最初は戸惑った。
「地下に誰かいるかもしれない。それもひとりやふたりという人数ではない。調べてほしい」
いきなりそう言われても動きようがない。
ただ、その場所が、最近不審な車を見かけると通報のあった場所だった。
今週に入って、元コンビニのその場所に真夜中に不審な小型バスが何度も来る。と近所の人たちから警察に通報があった。
「普段からちょっとしたことですぐ電話をしてくる人なんです」
黒紫と一緒に現場に向かった警官・緑山が言う。
緑山にとっては、通報の電話も、目の前の呪術師も同程度の存在で、とりあえず現場に行って「何も異常はありませんでした」で済ませておしまいにするつもりだった。
それなのに、警ら課課長が地下に空洞があるかどうかを調べる機械をわざわざ持たせた。緑山は軽く鑑識の同期からレクチャーを受けてやってきた。
建物の裏に付け足しのように建てられた小さなプレハブの辺りから、強く感情を感じるという黒紫の言葉に従い、緑山はその周辺から調査を開始した。すぐさま地下に四角く空洞、部屋があるということがわかった。
「ウソ…」
思わず言葉がもれた。
建物の管理をしている
その時点で緑山は署に連絡をして応援を呼んだ。
同時に管理会社に連絡をすると、プレハブなどない、という事実が判明した。
プレハブの扉をこじ開け中に入る。
中は何もなく、床すらなかった。ただ部屋の真ん中付近にマンホールがひとつある。
「この下ですね」
黒紫がその蓋を指差す。
マンホールの蓋は普段見かけるものより大きいような気がした。
緑山と黒紫でマンホールの蓋をずらした。
「え?」
竪穴と梯子を想定していた緑山は驚いた。
階段が見えた。
少し急な階段が下に伸びている。
黒紫はフルリと体を震わせた。
「かなりの人数がいます」
「え?」
緑山は黒紫の顔を見た。
黒紫は今にも階段を降りていきそうだった。
「待ってください」
緑山は黒紫を制し、再び署に連絡をした。
5分後、応援が到着した。
「黒紫さんはここで待っていてください」
緑山は応援と共に階段を降りた。
人ひとりが降りていく分には十分な幅だが、階段は急だった。しかも灯りがない。もしも怪我人とかがいたら運び出すのは大変だな。と緑山は思った。
階段を降り切るとそこにドアがあるのがわかった。
緑山がそっとドアノブを回す。
鍵がかかっているようだった。
拳銃発砲の許可を得ようと端末を手にしたが電波が届いていなかった。
「まさか」
今時こんなこともあるのか?と驚いた。
無線で黒紫と共に地上に残っている黄島に連絡をして、黄島経由で発砲許可を取り、ドアノブ付近を撃ってドアを開けた。
開けた瞬間、なんとも言えない匂いと湿度を感じた。
そして、たった今までざわついていたのがふと止んだ空気を感じた。
「誰かいますか?」緑山が叫ぶ。
「警察です。誰かいますか?」
もう一度奥に向かって叫んだ。
その瞬間、「おぉ」とも「わぁ」ともつかないどよめきがわき起こった。

応援の追加要請をして、中に閉じ込められて人々を救出した。
衰弱している者もいたが、基本的にみんな無事だった。
100人もの若い男性たちは、皆ほとんど同時にあの場所に閉じ込められた。
「最後のひとりになったら迎えにくる」
そう言われてドアが閉まった。
「話によると、あの場所に閉じ込められて丸2日といった程度です」
皆、何もわからず不意に拐われ連れてこられたと言っている。
「黒紫さんがこの町に来たから助かった。ってことか」
報告を得た署長が息を吐いた。
「最後のひとりになったら。って、監視カメラでもあったのか?」
「現在調査中です」
管理会社も定期的に元コンビニには行っていたがそう頻繁ではないと話していた。
「いったい何をする気だったんだ?」

「蠱毒を人で行おうとしていた…ってことですかね」黒紫が言った。
「タチが悪い」
黒紫は顔を顰めた。
救出された者たちだけではなく警官たちのケアもするようにと言って黒紫は警察署を出て行った。



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