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【84 天気予報】#100のシリーズ

天気予報と全く真逆の雨の中。
Fと僕は車の中で、じっとターゲットが来るのを待っていた。
一応ではあるが雨降りでのシチュエーションもシュミレートしている。
「多少、無理矢理だけど」
シュミレーションを終えた後、Fが渋い顔をしていたのを思い出す。
「最近ちっとも天気予報が当たらないなぁ」
助手席のFがぼやく。
「そうですねぇ。AIも予測間違えるんですね」
「プログラムミスだな」
聞くところによると、3ヶ月前から発表されている天気予報のほとんどはAIが過去のデータから推測しているのだという。
「僕、小さい頃、気象予報士に憧れていたんです」
「へぇ」
Fは目を丸くした。
「そんなに驚きます?」
「いやいや。おまえさんから昔の話が出るなんて、と思って」
「まぁ…」
昔のことはあまりいい思い出がない。
「なんで気象予報士?」
Fが訊ねる。
「あー。憧れていたのは学校に入る前ですよ」
「答えになってないが?」
「いや、本当に小さかった頃だということを踏まえてもらえたらという話です」
「なんだ?言い訳が必要な話なのか?」
そう言ってFがニヤリと笑う。
もう1時間近く車の中に閉じ込められていたので、かなり退屈していたらしい。
「気象予報士が天気を決めている。操っている。と思っていたんですよ」
Fは「おぉ」と声を上げた。
「なんですか?」
「おまえも随分と可愛い時代があったんだと思って」
そう言ってFはニヤニヤしていた。
予報士によって天気予報が違う時は、強い予報士の天気になる。そう思っていた。今思えば「強い予報士」とはなんぞや?である。おそらくその頃流行っていた魔法使いの話とごっちゃになっていたのだろう。魔法使いは雲を操り、雷を呼ぶ。
かつての気象予報士の仕事はほとんどAIが行っている。
現在の気象予報士はそのAIに対する学習係といったところだ。経験豊かなベテラン予報士は災害対策の業務についている。
AIだから100%正しく予報できるわけでもないという現状も、気象予報士が完全なる廃止に至らない理由の一つでもある。
「それにしても、ハズレ過ぎじゃね?」
Fが窓を叩く雨を見る。
僕は端末で雨の状況を調べる。
おそらく雨足が強いうちはターゲットは出てこないかもしれない。
「あと30分は今の勢いのまま雨は降りそうです」
雨雲レーダーを見て言う。
「やれやれ」
Fはシートを倒した。
車の屋根を叩く雨音が、また少し強くなったようだった。


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