菊栽培の思い出 パチモンのトレーナーを着た二日酔いのGさん
10年以上前、沖縄県の八重瀬町で菊栽培していた頃の話だ。
当時、菊栽培の農業生産法人で働いていた。
大規模農業で各々が畑の責任者となって管理をしているので、毎朝ミーティングをするのが日課となっていた。
大きな鉄骨ハウスでミーティングをやるのだが共同経営者が4人もいるのでいつもピリピリモードだった。僕は経営者ではなく雇われ農家だ。
どの経営者の畑で作業をするのか、今日1日の作業の流れを聞きながら、話を聞いているときに経営者の1人Gさんと目が合った。
Gさんは年齢が50代前半で身長が170センチ以上のがっちりした体格をしている。目が充血しているな、今日も二日酔いか。Gさんはたまに酒が残っている状態で仕事に来るので話すと呂律がまわっていないのか、それともネイティブ方言すぎて何を言ってるのかさっぱり分からない時があった。
おお、アディダスのトレーナー着ているじゃん。Gさん、なかなかオシャレじゃないか、息子さんがチョイスしたのかな。トレーナーの胸のあたりにadidasとアルファベットで書かれていた。
ん、待てよ、adidasじゃないadimouseって書かれている。
なんだ?アディマウスって、新しいメーカーでも出たのかな。
ぼくは、Gさんのトレーナーをチラ見しながら他の人の話を聞いていた。気になるなぁアディマウス。アディマウスか、一体なんだろう?
あれ、adimouseの文字の下にロゴマークがあるぞ。よく見ると口元がやや斜め上に吊り上がったニヒルな笑みをしているミッキーマウスに似たキャラクターがいる。パクリじゃん!アディダスとミッキーマウスを混ぜたパチモンだ。
「…グフフ、アハハ」
やばい、真剣なミーティングで声を出して笑ってしまった。
Ⅿさん「金城くん、何がおかしいの?早く段取りを決めないといけないから一緒に考えてよ」
冷静なⅯさんがやや怒りぎみで注意してきた。
「すみません」とぼくは、軽くおじぎをした。
だめだ、絶対にGさんを見ないぞ。ミーティングでパチモンのトレーナー着てくるなよなぁ。たのむよGさん。
いかん、見ちゃだめと思ったら見てしまうのが人間の心理ではないか。このトレーナーの製造者は、なぜ堂々とパクリもんを世の中に出してこれたのだろうか。酔っ払いのおじさんにこんなトレーナーを着せちゃダメだよ。何をしでかすか分かったもんじゃねーぞ。
ああ、気になる、やばい見ちゃだめだ。
ぼくの苦悶な表情を察したのかGさんは口元を吊り上がらせてニヤニヤしながらじーっとこっちを見ている。Gさんもミッキーマウスも意味深でニヒルな笑みを浮かべていた。
「グフフ…」
やばい、またしても声を出してしまった。
Ⅿさん「金城くん、さっきからどうしたの?どこか調子でも悪いの?」
「違うんです。ちょっと…ああどうしたんだろう」
Gさん「金城、朝から考えてごとはいけないぞ!シャキッとしないとシャキッと」
シャキッとしないといけないのは、あんたなんだよ!
はぁ、負のループに入ってきた。なんだこの空間は?
その後、いったん冷静さを取り戻したぼくは深呼吸をしながら仕事の段取りを聞いていた。いつもの日常だ、何がおかしい?普段通りの一日じゃないか。
もう大丈夫だ。Gさんを見るとめっちゃ真剣に他の人の話を聞いていた。っていうか心ここにあらず状態だった。それもそのはず、だって二日酔いなのだから。
Ⅿさん「Gさん、お酒の臭いがするけど気をつけてね。最近、飲酒運転厳しくなっているよ」
Gさん「あぎじゃびょい(びっくり)だからよ、気をつけよーねー」
たまに朝から笑かしてくれるお茶目なGさんだった。
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