小説の書き方メモ その2 心の力を開発する
前回の記事では効率よく小説を書くために、心技体のそれぞれの領域をバランスよく開発することが大事であると書いた。
今回は心という項目についてもう少し細かく説明したい。
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何かものを作るとき、作りたいもののイメージを心の中に想像することが役立つ。
心の中で想像するという作業により、心理的エネルギーをそのイメージに向けてチャージすることができる。やがてそれは目に見える文章という形に結晶化していく。
この想像という心の中での作業はできるだけ具体的思考を使わず、イメージや象徴、あるいは雰囲気といった抽象的な感覚のみを使って行うとよい。
なぜなら想像という作業は、具体的思考を使った作業よりも精妙な意識のレイヤー上で行われるものだからである。具体的思考を使うことは、その精妙な意識レイヤーに集中することの妨げとなる。
ちなみにその意識のレイヤーは中原中也が『名辞以前の世界』、坂口安吾が『芸術のふるさと』というワードで表した場である。
その場に意識を集中させるには、日常的な思考をいったん止め、創造したいもののイメージや雰囲気を心の中に思い浮かべ、それをじっと感じることで成し遂げられる。
このような心の力を開発する方法を以下にいくつか紹介させていただく。どれも小説執筆に実際に役立つ上、繰り返し実践することで心の力が少しずつ強まっていく。
心の力を開発する方法
1.自分が創造したい作品のハイライトを想像する。
この「ハイライト」はいくつか候補が考えられる。作品の出だしの盛り上がる部分、今書いている章のイメージしやすい箇所、作品のクライマックス、あるいは各種のターニングポイント。
これらの中でも特に想像して気持ちいい箇所をピックアップし、できるだけ思考を止めた状態でそのイメージを心に浮かべ、その際の感覚を味わう。
この作業により、そのイメージに心理的エネルギーがチャージされ、そこからストーリーやキャラに関するアイデアや執筆プラン、あるいは具体的な文章のアイデアやそれを書くための気力が自然に湧いてくる。
日々、この想像力を使った心理的作業を繰り返し行い、作品に心理的エネルギーをチャージしていくことが効率良い創作に役立つ。
2.自分の創作物が完成した状況を想像する。
この作業により小説執筆作業をスムーズに進めていけるようになる。例えば今手がけている、あるいは将来手がける作品が理想的に完成した状況を想像してみよう。
この想像により、その作品を完成させる心理的エネルギーがチャージされる。また、作品が完成した未来のその地点に向かうレールがセッティングされる。
3.自分の創作物が社会に受け入れられている状況を想像する。
完成した作品が、その後どのような運命を辿っていくのかについても想像してみよう。この想像に基づいて、実際に作品の運命がセッティングされていく。
これは言ってみれば「夢は信じれば現実になる」ということであるが、その「信じる」という心理的作業は他の物理的作業と同様、地道に手順を踏んで進めていく必要がある。
『自分が作りたいもののイメージを想像する』ということは簡単なことではない。特にそれが、未だこの世に存在していない何らかの創作物を創作しようというときには、文字通り空を掴むような作業となる。なぜなら想像すべきものは未だこの世に存在していないからである。
また、理想の将来を心に思い描くことも同様に難しい。なぜならそれはいまだ現実化されておらず、ただ朧げなイメージとして霞のように心の中に漂っているからである。
しかし人間の心は想像によって、無から新しいものを生み出すという機能がある。何かを創造しようというのなら、この心の機能を日々の心理的作業の中で意識的に用い、その力を日々、増幅させていくといいだろう。
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